第三章 均衡の終焉 第二節 混乱する国政
第二節 混乱する国政2
「皇族の血筋であることは守らねばならぬが、皇族の兄弟とその子孫という必要はないのではないですかな」
「我々のうちの誰かがなればいい」
「緊急事態だ仕方あるまい」
要するにこれが重鎮たちの本音である。あわよくば自分達がドラグナーになろうというのだ。候補者たちは基本的にその立場から絶大な権力を得ているが、確かにドラグナー殺しは重罪であり、それが候補者であってもその罪は施行される。
候補者の犯行となれば他に候補を立てる必要があるのは必然であり、それは他の血筋の者達のチャンスとなる。実はこういう例は前に一度だけあった。三百年前だ。
「候補者全員が共謀したならば、その必要があるとは思いますが、まずありえないと断言します」
ハットが強い口調で言った。
「断言。よくもそんなことが言えるな。証拠があるのか証拠が」
ハットはナハトと目を合わせて、力強く頷いた。ナハトもそれに応える。
「皆さま候補者は全員で何人いるかご存知でしょうか」
ナハトが重鎮たちに問うた。
「何を戯けたことを。三人だ。アイオス様、ネイル様、ゾーテ様。いずれも成人している。成人前ならその父か母が該当した。先程も話題に出たではないか」
「その三派が共謀するとは考えられません。いずれも仲が悪いことで有名です。それに……」
「だから調査が必要だと言っているだろう」
「まだ続きがあります。調査の方は実はすでに簡単に行われており、そこでも共謀はおろか犯行の形跡も掴めていません。もちろん、調査はまだ始めたばかりですから、もう少し調べなければならずお手持ちの資料にはその結果を記していませんが。ただ……」
「当たり前だ。そんな簡単にバレるように犯行を行うと思うのか」
「ただ、候補者が実は四人いるという点で、共謀の話は破綻しているのでございます」
なかなか言い出せないナハトの代わりにハットがはっきりとした口調でそう言った。
ハットの発言に会場がざわついた。
「四人」
「どういうことだ。三人ではなかったのか」
「まさか、暗殺されたドマリオス様の子が生きていたとか」
「まさか」
「説明をして貰おう」
「静粛に、静粛に」
ナハトが場を鎮める。
「先程は言いづらかったのですが、結論から言うとミーシャ様が四人目の候補者になります」
ハットは言い終わってから一息ついた。会場は一瞬固まっている。
「ミーシャが。いや、ミーシャは確かに遠縁ではあるが、ミーシャの親御さんはドマリオス様の兄弟ではないはず」
「ミーシャはドマリオス様の母親の弟君の血筋。候補には上がりませんな」
「ミーシャ様が候補に挙がるとすると、他にも候補が増えますね」
「ミーシャ様はドマリオス様の実子です」
ハットが強く言葉を出した。すると、また一瞬会場が静まり返る。
「ドマリオス様の子は男の子だったはずだ」
「ミーシャはトリーとカッテの子のはずだ」
「でも確かに年齢は一致しますね」
「それでドマリオス様のミーシャ様への特別扱いか」
そして、どわっと色々な言葉が溢れ出した。
「静粛に、静粛に」
ナハトが場を鎮める。
「まずは一つずつ整理していきましょう」
その言葉が響き、騒々しかった会場も波が引くように静まっていった。
「まずは血筋についてですが、これは確かです。ガーディアンズが確認しております。ただ、暗殺されたのは事実です」
「どういうことだ」
「ドマリオス様の子は女の子だったっという事か」
ナハトの言葉に非難めいた言葉が飛び交う。
「いえ、生まれた子が双子だったのです」
「双子だと」
「聞いてないぞ」
「ドマリオス様は暗殺の手があることを予想しておりました。sこで、生まれたのは男の子だけという事にしたのです」
ドラグナーの直接の子供は優先的に次期ドラグナーになることが多く、暗殺と言うのはある種の関門であった。その関門を乗り切る策が、女児の存在を隠すこと。という結論になったのだ。
「その後、暗殺の魔の手が奥方様を襲い、あえなく奥方様と皇子は亡くなられました」
「しかし、ミーシャ様はトリーとカッテの子だという話だったはずだが」
「良い質問です。トリーとカッテは子どもが作れない体質でした」
ナハトの言葉に会場がざわついた。
「そこで、ドマリオス様が子供を欲しがっていた二人にミーシャ様を預けたのです」
「トリーとカッテも暗殺の者にやられたのか」
会場からそんな質問が飛んできた。
「いえ、トリーとカッテの死は事故です。もっとも、暗殺だったかもしれませんが、その場合ミーシャ様がご存命なのに矛盾がおきます」
ここで選手交代、ハットが喋り始めた。
「とにもかくにもこれでドマリオス様が、我々がミーシャ様を特別扱いにしてきた理由はお分かりだと思います」
ガーディアンズが施した特別扱いはその授業形態だ。優秀だから特別なプランを組んでいたのではなく、特別な存在だから他と区別し、ドラグナー候補の者が受ける授業プランと同じものを組んでいたのだ。
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