第三章 均衡の終焉 第二節 混乱する国政
第二節は短めの予感
第二節 混乱する国政
「魔王魔王というが、本当に魔王の仕業なのかね」
会議で出た言葉だ。権力抗争が多いガーディー国では簡単に話が通らないのである。
大会議室にてハットとナハトが重鎮達を相手に今後の方針を決めていた。
大方、次のドラグナーをどうやって決めるかを決めるための会議だが、魔王がやったか次期ドラグナー候補の一派がやったかで話がこじれて一向に決まらないでいた。
「魔王が犯人にしては、リバルド様も御健在のようだし、襲撃の様子もない。ドラグナーが死んだのにだ」
確かにその通りで、魔王の出方が不気味過ぎる。しかし、状況証拠的にはガーディアンズを出し抜けるのは魔王しか考えられない。
「ガーディアンズが自らの失態をただ魔王のせいにしているとしか思えませんな。何か痕跡や証拠があるのなら別ですが」
ドラグナーがこうした事態でいなくなった場合は一時的にガーディアンズが指揮を執ることになっているのだが、この国のお国柄が簡単にそうはさせてくれなかった。
「しかし、ガーディアンズは国が誇る猛者の集まり。これを突破するのは至難の業です」
ハットが説明する。
「周到な計画で行えばいくらガーディアンズと言えど簡単に対応はできないでしょう。次期ドラグナーを狙う皇族の一派が絡んでいるとは考えられないのですか」
しかし、会議室は頑として魔王の介入を認める傾向になかった。
「その場合、複数人による犯行という事になりますが、状況的に犯行は一人で行われたものだという報告があります」
ナハトが補足する。
「一人でも周到な計画があれば可能だと思いますね、私は。第一に何故王はあんな朝早くから森の中に。私どもは聞いてませんが」
ここまで認めないのは、魔王への畏怖もある。というのは、魔王がいるという事実はドラゴンを失うという均衡の終焉を連想させる。そして、もしそれがこのガーディー国で起こったなら、魔族が蹂躙する矛先は必ずガーディー国からになるのだ。
そして、もう一つ。魔王というのは必ず倒せない相手である。それが潜むという事は基本的に対応策がないという事でもある。故に、簡単には受け入れられないのだ。
対して、相手が人間ならばこんなに早い話はないのである。
「それは報告書にある通りです。王は時々気分転換と称してミーシャ様と良くお会いになられていました。それがその日だったという訳です」
ナハトが答える。
「つまり、会う事は決められていたわけで。たまたま会った訳ではない。これは犯人も知る機会があれば犯行を練る事ができるという事ですね」
「しかし、ミーシャ様との密会は門外不出。知る由はなかったはずです」
「しかし現に犯行は行われた訳です。知られてしまっていたのは自明でしょう。それともやはり魔王のせいで、魔王は全知全能だからとでも言うのですか」
「それは」
ナハトは言葉を詰まらせた。このままだと秘密を保持していたガーディアンズの失態と言う側面が強くなり、ますます立場が悪くなる。
「それもそうですが、私としてはどうしてミーシャ様なのかも気になりますな。血縁だからと言うには少し遠過ぎる気がしますな。確か王はこれも暗殺の手のものに自らの子を無くされていますが、その子も男の子だったはず。自らの子に似せていたというのは無理がありそうですが」
上手く話がそれてくれたが、ガーディアンズとしては答えにくい質問だった。
「それはミーシャ様が早くに親御様を亡くされているためと聞いています。血縁者として王自らが気にかけて下さっただけの事だと」
ハットが答えた。一応、表面上はそういう事になっているが、実は親が亡くなる前からミーシャとドマリオスの関係はあった。
「それにしても不自然ではありませんかな。性別も違うのでお子様に似ているという事もなさそうですし」
まあ、確かに理由としては弱過ぎるところがある。
「これは我らガーディアンズの憶測でしかありませんが、ミーシャ様に自分の子を連想させる何かがあったのだとしたら王の行動にも納得がいきます。例えば、生まれ年が同じであるとか、立場は違えど親子を亡くしているとか」
あまり言い過ぎると、事実に触れてしまうので気をつけなければならない。ナハトが心配そうに見つめている。この案件は極秘事項であり、王が亡き後もその影響力が大きいことから明かせない内容なのだ。
とは言え、どうにかして公表しなければならない事実でもあるため、厄介である。今はその時ではない。
ハットとナハトは目を見合わせて頷く。
「それは憶測でしかありませんな。察するに明確な理由は聞いていないという事ですかな。その事実は無き王の胸の中」
結果として、話が追及されそうにないことに二人は胸を撫で下ろした。
「そんな事はどうでも良い。犯人は誰であるかが先決だ。話を纏めると次期ドラグナーを狙う一派の犯行の線も捨てきれないという訳だ」
そして、話が戻る。
「というとネイル派、ゾーテ派、アイネス派の三派という事ですかな」
「その三派が怪しい」
「その三派の中に凄腕の使い手はいるのか」
と、安心したのも束の間。話がガーディアンズの指揮を離れて勝手に回り始めた。
「アイネス派のアイネスの父ケイネスは野心家で腕も立つと言うぞ」
「ネイル様は自身が優秀な使い手であります」
「ゾーテ派のミミックも相当な腕と聞くぞ」
「皆さま静粛に。ドラグナー候補の皇族の一派と限った訳ではありません」
ハットが騒々しくなった場を収めようとする。
「次期ドラグナー候補が犯人とあってはドラグナーは任せられん」
「ここは野心家のケイネスが一番怪しいのでは」
「それぞれの身辺調査をするべきだな」
「今回の犯行は魔王です」
ナハトが断言する。
「思うにですが、魔王の犯行に見せかけたドラグナー候補の皇族の一派の犯行では」
「そうだそうだ。ドラグナーがいない好機に魔王が黙っている訳がない」
「ドラグナー候補の一派が共謀したかもしれませんぞ」
「では、犯行が次期ドラグナー候補の面々あるいはそのどなたかによるものだとして、貴方方はどうやって次期ドラグナーを決めるおつもりですか」
ハットが半ば開き直って聞いてみる。この言葉には反論はすぐには飛ばずに、一瞬静寂に包まれた。
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