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第一章 英雄の誕生 第二節 大将軍サリー

戦闘シーンは正直あまり書いたことがないので間合いが掴めず、不安です。

第二節 大将軍サリー2


「サリー殿。メリッサ隊の援護ありがとうございました。相性の良い敵故、あちらはメリッサとロイヤに任せ、数で劣るこちらに救援に参りました」


 大将軍ロロアは恭しく礼をしながらサリーに挨拶をした。同じ大将軍という立ち位置だが、実際は少しサリーの方が上なのだ。


「ロロア殿、ありがとうございます。頭を上げて下さい。立場は同じと言ったはずです。兵の士気にも関わります」


 サリーは少し罰が悪そうにする。再三ロロア大将軍には同じ目線である様にと言い渡しているのだ。


「いえいえ、兵も皆サリー殿のご高名を存じています。して、戦況は如何に」


 サリーは納得こそできないものの、今は余計なことを議論している時間はない。気を取り直して戦況の説明をする。


「現在、タイオー軍とラニッチ軍と交戦中。ラニッチ軍とタイオー軍は共闘状態の様だ。おそらく智将ドッチの仕業と思われる。こちらは騎兵隊を四千損失し、重装兵も三千損失している。ロロア殿の部隊と合わせて合計で三万九千ほどになる。敵の数はラニッチ・タイオー両軍を合わせてこちらの三倍ほどだと思われる」


 口に出すと思った以上に辛い現実であることを悟らされる。ロロアも険しい顔つきだ。


「厳しいですね。何か方策はありますか」


「攻勢に出るのは自殺行為だと思われる。だから反撃陣形で勝負に出ようと思う。車掛・空蝉の陣はどうだろうか」


 車掛の陣とは部隊が方円上に展開し、方円上の部隊が回る様に動き、迫りくる敵を次から次へと次の部隊が相手取るという陣形であり、大将は中央に位置する。そして、車掛・空蝉の陣とは、本来中央にいるはずの大将も方円上に展開し、また方円自体を広く取り、相手に部隊と部隊の隙間を突かせ、中央に来た敵を方円を狭めて撃退する陣形である。


「なるほど、空蝉の陣ですか。しかし、この陣だと先に相手に動いてもらわなければなりません。都合よく動いてくれるでしょうか」


 確かに、反撃陣形(見た目は方円の陣なので防御陣形)に突っ込むほどやさしい相手ではないだろう。なんと言っても相手は智将ドッチだ。


「私が小隊を率いて敵を引き付ける」


 サリーが決然と言い放つ。ロロアは驚きの顔を隠せない。万が一があっては元も子もない危険な作戦だ。


「いいえ、それには反対です。サリー大将軍は連戦で疲れているはずです。勿論、兵達も。ここは私が引き受けます」


 ロロアはガンと言う。


「いや、ロロア殿の歩兵隊では足が遅い。足の速い私の部隊が適している」


 サリーも理路整然と言い張る。実際、誘導は足が速い方が良い。


「いえ、でも」


 ロロアは何かを言い返そうとするが、言葉に淀んでしまう。少し考え込み、そして意を決したかのようにロロアが続けた。


「では、せめて小隊ではなく大隊にしましょう。その方がしっかりと誘導できるでしょう。そして、私も誘導に出ます」


 サリーは眉間に皺を寄せ、考える。ロロアの真意が読み取っれなかった。


「どういうことですか」


「片方がタイオー軍、片方がラニッチ軍を相手取り、両軍をおびき寄せるのです」


 ロロアは迷いなく言い張るが、あまりにも危険なやり方に思える。


「しかしそれでは二軍を同時に相手取るということ。そんな体力はこちらにはないはず。各個撃破を目指していくべきでは」


「いえ、その方が確実におびき出せるのです。考えてもみて下さい。相手はドッチです。ラニッチ軍には看破されると踏んだ方が良いでしょう」


 確かに、ドッチなら看破しかねない。逆手を取られるようなこともあるかも知れない。


「では、タイオー軍をおびき出せばよいではないか」


「タイオー軍で消耗した後にラニッチ軍と戦うのは危険です。今回のターゲットはラニッチ軍です」


「何故二軍を相手にするとラニッチが釣れるのだ」


「二軍がこちらの陣に近づいたときに、先制して追い打ちをかけるのが、おそらくラニッチ軍だからです」


 正直意味が分からない。サリーはロロアが次に発する言葉を待った。ロロアは目を閉じ、少し沈黙する。そして静かに目を開け言葉を繋いだ。


「ラニッチ軍とタイオー軍は共闘関係です。おそらくラニッチ軍からの提案になるでしょう。さて、同時に追い打ちを掛けると同士討ちの可能性があり、先に入った方が追い打ちできます。ラニッチ軍はおそらくこちらの陣系が中が弱く、外に強い陣形だと思うでしょう。つまり、中の方が安全に戦えると踏んで、中に入るのに抵抗はないはずです。加えて、タイオー軍との先取り合戦になります。冷静な判断はできないでしょう。また、この場合タイオー軍は入るのを躊躇するはずです。陣の特性を掴めないでしょうから」


 ロロアは論陣を張って説明する。


「だが実際はタイオー軍が正しくて、ラニッチが大損害を受けると」


 サリーは思案投げ首に耽る。確かに成功する確率はありそうだ。


「二軍で行って撤退すれば、単純に退却しているものと思われやすくもなると思います」


 ロロアは自信があるようだ。実際それだけの策でもある。


「しかし、どちらがどちらを攻撃すべきか」


 作戦はそれでいいとして、具体的にどうするかだ。距離は両軍とも同じくらいだ。だが、ラニッチ軍は丘の上にいる分追うスピードは速いかもしれない。


「サリー殿にラニッチ軍を担当して貰頂くのが良いでしょうか」


「そうですね。それが良さそうです」


 サリーとロロアは目を合わせて頷き合う。作戦は決まった。後は天に任せるのみだ。


 決行は夜だった。夜の方が車掛の陣との違いに気付かれにくいというのと、夜襲のイメージを植え付けられるからだ。サリーは騎兵を連れ、ラニッチ軍の目下に迫っていた。一息整えて突撃する。ラニッチ軍も応戦に出てくる。ラニッチ軍の騎馬隊が丘を駆け下りて突撃してくる。そのままサリーの騎兵隊と激突する。サリーの連れてきた騎兵隊はおよそ五千。出来るだけ精鋭を集めている。多少の地の不利ならば互角に戦える。とは言え、数で劣るため長引くと致命的な傷を負いかねない。


 サリーは頃合いを見て後退する。ラニッチ軍は予想通り追撃をしてくる。平地を駆けてラニッチ軍が丘を降り切って、少し進んだ辺りで一度反転する。そして、合図を送り伏兵にラニッチ軍の側面を襲わせる。なぜこのような回りくどいことをするかというと、相手を油断させるためである。策を弄するが通じずに万策尽きて後退する。そういう様相を演じなければならない。


 案の定、伏兵への対応は上手く、あまり効果的ではないようだった。少しずつ後退しながら戦う。しばらくすると車掛の外周部隊が後方に確認できた。そこでサリーは全軍を反転させ退却させる。外周部隊がラニッチ軍との間になって容易には追撃できない。が、ラニッチ軍は対外周部隊と追撃部隊とに分かれて、追撃を続けた。数が優位だからこそできる芸当だ。だが、それが命取りとなる。サリーは中央の旗だけ立っている陣を抜けてから振り返る。騎兵隊の速さもあり、ラニッチ軍は今中央の空の陣に攻めかかろうという形だ。北方からはロロアの部隊も到着したようだ。先に飛ばしていた伝令の成果もあり、外周部隊も集結しつつある。今だ。これで勝てる。


「突撃」


 猛々しく号令を掛けると、騎兵達は勢いよく躍動する。策はなった。後は駆逐するだけである。


 中央に攻めかかったとき、そこに残る敵は少なく、敵は既に撤退を始めていた。おかしい。こんなに早く切り替えられるほどラニッチ軍は少なくない。ここにいる敵を倒したとしてもラニッチ軍には大した損失を与えられない。まさか看破されたというのか。しかし看破したというのなら、何故ここに敵が残っている。意味が分からない。サリーはしばらく考え込む。すると、ネネチが戻って来た。


「報告です。ミータ女王が救援にいらっしゃいました。ラニッチ軍の丘を占拠した模様です。また、メリッサ・ロイヤ将軍の部隊とドルト軍の交戦にコスカ軍が加わった模様。戦線維持が難しいとのことです」


 なるほど、そういうことか。サリーは頭を抱える。もう少しで策がなったというのに、余計なことを。とは言え、敵の本拠を落としたのはさすがである。ラニッチ軍が引いた訳もわかった。と言うか、中途半端な戦果な気がする。せめてもう少し後ならラニッチ軍を壊滅に追い込めたものを。


 いや、それよりも女王が前線に出てくるのはまずい。首を取られたら元も子もない。王が出てくる場所、それすなわち決戦の場である。むしろラニッチやタイオーにとって王を引きずり出せたのは大きな戦果と言えるだろう。南西の戦況も苦しいとのことだ。ここは一度退却するのが得策だろう。


「ミータ様に伝えろ。退却する故、撤退をと。それと、そこの。メリッサとロイヤの所へ行って退却をと伝えろ」


 サリーは肩を落とし気味にそう言った。さて、問題は追撃だ。ここぞとばかりに攻めてくる可能性がある。タイオー軍はまず来るだろう。ラニッチ軍も状況的には打撃を受けているが、出てくると踏んでいた方が良さそうだ。ミータ部隊はタイガー部隊。馬よりも脚は遅いがそれなりの速さはある。合流ポイントを逆算し、先に防御の陣を構えておくのが良さそうだ。その後、折を見て撤退。今回の戦果は敗退だ。本国まで戻ることにしよう。残り四国で勝者が出ないのを祈るばかりである。


 ロロアの部隊と合流し、事情を説明する。ロロアも報告を受けていたらしく、険しい顔つきだった。ロロアもまた肩を落として同意する。サリーが先行し合流予測ポイントまで駆け抜ける。ロロアが陽動に出ているというのもあり、特に追撃はなかった。いや、ラニッチ軍なら位置的にサリー隊を追撃できたが、どうやら追撃はして来ないようだった。兵力温存と言うことだろうか。


 とにもかくにも無事に陣を整えることができた。横二列陣である。横二列に部隊を並べる陣だ。一列にするより迎え撃つという側面が大きい。騎兵隊中心の場合はどちらかと言えば攻撃陣形だが、サリーが使うと防御にも使える。ようは隙あらば叩き潰しますよと脅すように動かすのだ。機動力と攻撃力のある騎兵隊ならではの作戦とも言える。


 そうこうしているとミータ部隊が合流する。


「ちょっとー、どういうこと撤退って。完璧な救援だったでしょ」


 ミータがサリーに詰め寄る。ぷんすかぷんすかと頬を膨らませている。対してサリーは疲れ気味に応える。


「ミータ様。救援ありがとうございました。しかし、何の連絡もなしに救援に駆け付けるのはお控え下さい。作戦の真っ最中でして、失敗に終わってしまいました。王が前線に立つ時は決戦を迎える時です。今はまだタイガー部隊の実力を晒す時ではありません故、今回は退却という形を取らせて頂きます。それに先程入った情報では南西の部隊も戦線維持が難しいとのこと。仮に抜かれて背後を取られては、我が軍は壊滅です。どちらにしろ戦況は厳しく、退却もやもなしと考えます。恐らく今回も決着は着かぬ故、ご安心下さい」


 宥める様に、且つ理論立てて説明する。ミータは大人しく聞くも、納得はしていないようだ。未だに頬を膨らませている。


「ふん」


 暫く見つめ合った後、ミータは鼻を鳴らしてその場を去る。ミータは子どもっぽいところがあるが、理解が無い訳では無い。時々無鉄砲なのを除けば、頭も切れる方だ。こうと思うとすぐに行動する性質なのだ。見た目は比較的小さく童顔であるが、歳は三十を越えている。その強さは女王に恥じぬ実力があり、身体能力は常人の五倍はあるとされている。大将軍たるサリーもそれに近い実力があるが、身体能力が少し負けており、特に身のこなしではミータが圧倒的に勝る。ただ、知恵や統率力という点ではサリーに軍配が上がるだろう。


 サリーはミータを見送った。ロロアの部隊がもうすぐこちらに来るはずだ。ロロアの部隊が追撃を振り切ってくれていれば良いが、なかなかそうはいかないだろう。暫くすると案の定、ロロアの部隊がタイオー軍を引き連れてきた。ロロア部隊を通して、サリー部隊が殿になる。サリーは部隊を一撃離脱させながら徐々に後退した。そして、ロロアの部隊が十分後退したのを確かめて反転する。後は機動力を生かして撤退するのみだ。と、暫く駆けるとタイオー軍の待ち伏せに会う。どうやらいつの間にか迂回して先回りした部隊があったようだ。


「構うな。駆けろ。偃月陣だ」


 サリーは全軍に号令を掛ける。一点突破だ。走りながら部隊は整列していき、ぶつかる前には陣は整っていた。他ではできない芸当だ。勢いよく敵を蹴散らせていき、突破に成功する。タイオー軍も追いつかず、追撃をあきらめた様だ。と、一息ついたところで弓矢が飛んで来る。一瞬の隙をつかれた形になり回避が間に合わない。サリーは肩に弓矢を受けてしまった。すぐさま周りの兵が弓兵に射返す。相手の弓兵は射貫かれて絶命する。サリーは激痛に耐えるも、頭がくらくらしてくる。毒だ。身体が、全身が痺れる様に言うことを聞かない。


 身体が馬に縺れ掛かり、そのまま馬上から落下する。と、そこで目の前が真っ暗になった。と、薄れゆく意識の中でサリーは何か映像なようなものを見た。馬を駆ける自分の姿だ。周りには兵の姿はなく、ただ草原を縦横無尽に突っ走っていた。どこか、にこやかである。これが走馬灯か。ふと、そんなことを思うと、映像が途切れる。真っ暗だ。ただただ真っ暗な暗闇が広がり、そこにはもう音もない。サリーはその中心で身体を抱える自分の姿を感じた。


とりあえずの前置きはこれで終了です。

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