第二章 忍び寄る魔王の脅威 第五節 魔王
久々の戦闘シーン
第五節 魔王2
「これはこれはお初にお目にかかります。ブードー様」
魔王は悠々自適と歩いてきた。
「これは、噂に聞くセメスという若者かな」
ブードーは暫くとぼけるつもりのようだ。
「いやはや、こんな所にまで噂があるとは思いませんでした。一体どこで仕入れるのですか」
魔王は少し警戒するような話回しだ。
「この国は私の国。どこで何が起ころうと、それは私の知る所になるのだよ」
ブードーはその瞳で相手を押さえつけるように上から見下ろす。
「ほう、さすがは因果律そのものと言われるドラゴン様です。それとも智のドラゴンたる所以でしょうか。さしずめ、今表で起こったこともおわかりで」
魔王が少し構えた。
「そなたがここにいるというだけでもわかるものだがな」
ブードーもそれとなく身が引き締まっている。すると、魔王は笑い出した。
「ふふふふふ、ははははは。ドラゴンよ。会いたかったぞ。では改めて自己紹介しよう。我は力の魔王ドットゥル―だ」
そう言って、ドットゥルーと名乗る魔王は人間の皮を破り姿を現した。人間であった時のそれが嘘であるかと思うくらい身体が隆起していく。かなりごつごつした体つきになったのだ。
ドットゥルー。おかしい。事前の話だと魔王はメルドールという名前のはずだったが。力の魔王と言っていた。つまり、魔王にもドラゴンと同じように力、智、護、という特性があるという事なのか。だとすると厄介である。力、智、護には相性があるのだ。
力は智を制し、智は護りを崩し、護りは力を受け付けない。これが伝わっている力、智、護の相性だ。俗に三属性の世界と言われている。
これは、他の国では研究されていないようだが、人間一般にもこういう属性と相性があり、苦手な相手と得意な相手に分かれる様だ。つまり、得意な相手には攻撃が通りやすく。苦手な相手には攻撃が通りにくいのだ。
ともすると、目の前の魔王はブードーの天敵である。これはおちおち休んでいられないかもしれない。リオンは身構えた。
すると、ブードーはリオンを目で制した。その後、自らのしっぽを振り、まだダメだの合図を送る。
リオンは行きかけていた足を止め、元の位置へと戻る。ブードーには何か考えがあるのだろう。
「ドットゥルーとやら、ここまでこれたこと、実に素晴らしい手際だったと褒めておこう。しかし、ここに来たことは間違いであったな」
ブードーがそう言うと、急に魔王の下で爆発が起こった。かなりすさまじい爆発だ。溜まっていた水が噴水のように散っている。
「ちっ、まだ罠があったか」
しかしドットゥルーもさすがは魔王。ダメージは受けているようだが、倒れるようなことはなかった。鋭くブードーを睨み付けている。
「なるほど、耐えるか。ならば次はもう一発大きいのをお見舞いする」
そう言い終わるか否かまた同じ場所で爆発が起きる。確かに先程より大きいようだ。しかし、そこから一つの塊が飛び出していた。魔王だ。横に反れ、その後真っ直ぐにブードーに向かっていく。そのスピードはすさまじく、対応ができない。拳がブードー目掛けて一直線に伸びてくる。
ドーン
拳はブードーに当たる直前で空間に阻まれ止まってしまった。透明な膜のようなものがブードーを護っている。
「どうしたのだね。ドットゥルーとやら。手加減は無用ぞ」
ブードーが余裕を見せて相手を挑発する。つまりはこれが、ブードーが手出しは無用と言った理由か。
「小賢しい」
ドットゥルーはそのまま何度も拳をその膜にたたきつけてみる、しかし傷一つつかないようだった。
と、一瞬空間が圧縮される。そして
ドーーン
爆発が起こった。ドットゥルーは弾き飛ばされる。流れは完全にブードー有利だ。
仕組みはおよそのところ、この空間そのものなのだろう。この空間そのものにブードーを護り、ブードーを強化する罠、ないし刻印がなされているのだ。歴史書に書いていなかったところによるとこれはブードー本人が仕掛けたものかもしれない。万全の準備はできていたという訳だ。
ドットゥルーは水の中に落とされる。と、同時にそこが凍り付いた。ドットゥルーの身体が拘束される。
その塊は徐々に浮遊して行き、ブードーと同じ目の高さまで上がった。
「魔王というのも大したことはないのだな。大人しく帰ってはどうだ。その前にやられなければの話だが」
そう言って、また空間が圧縮されていく。今度はかなり時間が掛かっている。かなり大きい爆発になりそうだ。
ピキッ
と、そこで一瞬氷に亀裂が入った。ブードーはその瞬間を見逃さずに爆発を起こす。
ドドーン
空間が震えるほどの爆発が起こった。
パリ―ン
と、よく見ると、ドットゥルーがブードーの目の前で拳を突き出している。そしてその拳はブードーを護る膜を破っていた。
ドーン
今度はブードーが飛ばされる。しかし、膜が緩衝材となっていたのかすぐに体勢を立て直していた。
「ちっ、ぬるかったか」
「さすがは魔王」
お互いに一呼吸整える。ドットゥルーの方は満身創痍に見える、が膜を破られてしまった以上ブードーも余裕ではない。
リオンは動いた。助けるならばここだ。この瞬間に加勢されるのがドットゥルーとしては最悪なはずだ。魔力も戻っている。
ドットゥルーが動き出そうかという時に、視界にリオンが入ってくる。ドットゥルーが動きを止めた。
「追い付いてきたか。まあいい、二人纏めて料理してやる。おいぼれが二人集まったところで高が知れている」
と、そう言ってからドットゥルーがリオンの魔力が戻っていることに気付いた。
「貴様、いつの間に」
ドットゥルーが吠える。
「ずっといたのだよ。回復を待っていたのだ」
ブードーが静かに死刑宣告をする。
「そんな余裕があったのか」
ドットゥルーが肩を落とす。そしてカタカタと震え出した。
「ふふふふふ、ははははは。やはり奴の言った通りだ、一筋縄にはいかんな。わからない事が次から次へと起こる。しかし、それでいい。それでこそ面白い」
どうやら、意気を削ぐところかやる気を出させてしまったようだ。
「我が全力で答えてやろう。一気に片を付ける」
ドットゥルーがそう言うと、ドットゥルーの身体が急に巨大化していく。その全長は十メートルを超さんかというくらいだ。
「リオン、私に乗りなさい」
ブードーが静かにそう言った。リオンはすぐにブードーの背中に乗る。その瞬間、力が漲って来るのがわかった。
「この空間だと、ここまでか。まあいい。駆逐する」
そう言ってドットゥルーが視界から消えた。
ドゴーン
と同時に目の前に現れて拳を下ろしている。しかし、ブードーもそれに対応し、その拳を掴む。しかしその衝撃はすさまじく凄い衝突音がなったのだ。
ドットゥルーがもう一方の手を振り下ろす。すかさずブードーもそれを掴む。取っ組み合いになった。
ジリリリッ
ブードーが押されている。少しずつ後退ってしまう。リオンと同じくブードーも力が湧いてきているはずだ。それを押してもドットゥルーの方が強いという事か。今や、ドラグナーとドラゴンが一体になっているというのに。
バーン
リオンは魔法弾をドットゥルーの目に当てた。少しでも怯むかと思ったのだ。が、しかしドットゥルーは全く怯まなかった。
(リオンよ。中途半端な攻撃をしてもきかん。やるなら全力でやるのじゃ)
ブードーからの念波が飛んでくる。このようなことは初めてだ。これも一体になっている効果という事だろうか。
しかし、今はそんなことはどうでも良い。リオンはブードーのアドバイスを受け、魔力を溜めた。
「ジェノサイド・ウォー」
そして、禁呪の一つ、ストックレベル8の大技を繰り出す。この魔術は古来魔王が国を滅ぼすために使ったとされる大規模魔術だ。敵とみなしたものを大規模にどこまでも攻撃するその魔術は、無差別に被害を巻き散らす危険の高い攻撃だ。しかし、ここにはブードーとリオン、そして敵しかいない。
空間が一瞬にして大規模に歪み、無数の波動が浮かぶ出す。そこから剣を始め、槍や斧まで様々な武器が繰り出してくる。それらが一瞬狙いをつけるように止まる。そして、一斉にドットゥルーに向かった。
ドゥドドドドドドドドド
波動から出てくる武器が尽きるようなことはなかった。次から次へと新しいものが出てきて、無限に近く相手に降り注ぐ。この攻撃が止むのは使用者の魔力が尽きる時だ。しかし、今リオンの魔力はドラゴンと一体化したことで普通の人間のレベルを超えていた。
一つ一つの武器の攻撃はドットゥルーにとって大したものではない。が、それが無限に湧いてくるとなると話は別だ。一射目、二射目と怯まなかったドットゥルーも三射目には嫌がり始め、四射目からは下がり出した。これならいける。
「うおぉおおおおおお」
と、そこで耳をつんざく大咆哮をドットゥルーが発した。すると、それは空間を支配し、波動を消し去ったのだ。リオン達もあまりの圧に動きが止まる。
「小賢しい真似をしおって。本物を見せてくれる。ジェノサイド・ウォー」
と、今度はドットゥルーが禁呪を唱えた。ドットゥルーの背後から無数の波動と武器が顔を見せてくる。
(まずい)
リオンは冷や汗をかく。同じ技で対抗するにも、今放ったばかりでストックが回復しきっていない。ストックの多い術を使うほど、ストックを暫く圧迫するのだ。故に、有効な防御もできそうにない。
(離脱するぞ)
ブードーの声だ。と聞こえた瞬間に、ブードーが口から巨大な魔法弾を出し、洞窟に穴を開けた。水が入ってくる。そこで、ジェノサイド・ウォーの一射目が飛び出してきたのだが、それよりも早くブードーは空を飛んで、水の中へと入って外へと抜けていった。しかし武器は追ってきている。
外へ出ると、同時に巨大な爆発が先程の竜穴で起こる。竜穴は瞬く間に崩れていった。そして、ブードーは空高く飛翔し宙返りをしながら大きな予備動作をし、先程よりも更に巨大な魔法弾を追ってくる武器たちに向けて放った。魔法弾は武器を飲み込んで、崩れた竜穴を叩きつけるようにして飲み込む。
ドバーン
衝撃で海には波紋が広がっている。軽い渦も発生しているようだ。無限に出てくるはずの武器は沈黙し、ドットゥルーもその姿を現さなかった。
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