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第一章 英雄の誕生 第二節 大将軍サリー

第二節です。

アマゾネス(プル国の五つの地区の中の一つ)サイドのお話。

第二節 大将軍サリー


 タイオー軍、コスカ軍、ドルト軍、ラニッチ軍、そしてミータ軍。五つの軍団がプル国中央の戦場地で交戦している。戦いはいつも混迷を極め、決着のつくことのない争いが永遠と続く。もちろんいつも引き分けである訳では無い。どこかが抜け出したり、どこかが凹んだり。ただ、勝者が決まらないというだけで小さな勝ち負けはあるのだ。


「将軍。コスカ軍とラニッチ軍は交戦中。タイオー軍とドルト軍がこちらに攻め寄せる模様。現在近くにいたロイヤ、ロロア両部隊がコスカ軍へ、アミ、メリッサ両部隊がタイオー軍へと応戦しております」


 将軍と呼ばれたこの女性はアマゾネス、ミータ軍の大隊を率いる大将軍サリーである。サリーは見張り台の上から戦場を見つめ、報告を静かに聞いている。サリーの部隊の背後にはミータ女王の部隊がおり、迂闊に動くことはできない。とは言え、二勢力からの同時攻撃に耐えられるほどアマゾネス軍は頑強ではない。せめて対応が逆であればまだ効果的に対応できただろうが、現状は相性が悪い対応となっている。

 

 というのもメリッサ部隊は弓兵中心の部隊で遠方からの援護や威嚇に適しており、ドルト軍率いる魔術部隊と相性が良い。また、ロロア軍はサリーと同じ大将軍という立ち位置で大部隊を率いており、大人数を武器とするタイオー部隊と相性が良い。


 勿論、アミ・メリッサ、ロイヤ・ロロアという組み合わせは悪くなく、重歩兵と弓、魔術と歩兵という理想的な連携だ。簡単に突破されることはないとは思うが、時間の問題である。幸い、布陣の関係でミータ部隊の背後を狙える勢力はないと言える。救援に向かうことは十分出来る。要はどちらを優先すべきかなのだ。


「わかった。アミ・メリッサの部隊を援護する。ロイヤ・ロロア部隊に救援が遅れる故、耐え忍ぶようにと伝令を頼む」


 サリーはアミ・メリッサの部隊の救援を決定する。伝令は敬礼をし、そそくさと見張り台を降りていく。ほどなくしてサリーは誰もいない空間に呼びかける。


「ネネチ」


「はっ」


 すると、どこからともなく声がして、一人の女性が姿を現した。その女性は軽装に包まれており、サリーに向かって跪いている。


「ミータ様に少し留守にする故、ご自愛をと伝えてくれ」


「はっ」


 ネネチと呼ばれた女性は短く返事をすると、音もなくその場から消え失せた。そしてサリーもその後動き出し、見張り台を後にした。


サリーは先頭に立って自らの騎兵部隊を率いて駆ける。戦場の張りつめた空気が身体を中に流れ込み、ひりひりとしてくる。そんな中でサリーがいつも思うのは、アマゾネス軍は最強だということである。アマゾネスは神からの恩恵を受けた特別な種族。特別な存在なのだ。


 アマゾネス。アマゾネスは例外なく皆女性である。アマゾネスと呼ばれる者は皆一様に特別な加護を受けており、その加護のお陰で通常の人の何倍もの特性を身に纏っているのだ。普通女性は非力とされるが、アマゾネスの女性は成人男性の三倍から五倍ほどの腕力を有する。また傷の治癒力が高く、深い傷を負っても傷が残ることはない。


 アマゾネスは強ければ強いほど美しくなり、スタイルが良くなるという特性があり、強い=美しいのだ。またその美しい容貌は男性の感覚を狂わせ、戦闘意欲を削いだり、無力状態にすることができる。更に、精神系の魔法への耐性が強く、魅了されたりすることがない。


 もう一つ、特徴として生殖行動を必要としないというのがある。アマゾネスは儀式により神から子を授かり、健康な女児を産むとされている。神聖な種族なのだ。一対一の差しの勝負でアマゾネスに勝てる人間はいないだろう。ただし、アマゾネスは数が多くなく、軍として力押しが出来ないというのが難点である。そのアマゾネスが今、二分に分かれてしまっている。実はこれは軍としてはかなりまずい状況なのだ。


 サリーは戦況が見渡せる丘に立ち、状況を確認する。タイオー軍がアマゾネス軍を取り囲んでおり完全に逃げ場を失っている。また、あの状況では弓兵部隊がほとんど機能しないであろう。非常にまずい状況だった。


「偃月陣、突撃」


 サリーは号令を掛け、自身を先頭に一気に丘を下る。騎兵の速さに丘の傾斜を掛ければその威力は高まり、一気に敵陣を突破、部隊の一角を打ち崩すことができるだろう。サリーの部隊が敵陣に流れ込んだ。

思惑通り、敵陣の一部は瓦解し、中央にいたアマゾネス軍に退路ができる。と、中央のアマゾネス部隊から伝令が飛んで来た。


「サリー将軍。こちらメリッサ部隊の者です。アミ将軍が交戦中に負傷。アミ部隊・メリッサ部隊両部隊とも3000程度の兵が消耗しております」


 混戦の最中に伝令兵がそう告げる。と、伝令の後ろから敵が切りかかった。すかさずサリーは自らの手に持った槍で一突きにする。


「あっ、ありがとうございます」


 伝令兵はそう言いながら周囲を見渡し、警戒を強める。サリーも冷静に周りを見回し、戦況を確かめる。現状は奇襲が成功し、アマゾネス軍が押しているようだ。


「メリッサに伝えろ、一度戦線を離れアミを連れて本部に帰還後、ここから南西のロロア部隊と合流しろと。ドルト軍と交戦している。アミ軍の動ける者は私の指揮下に入れと」


「はい。かしこまりました」


 伝令はそう言うとすぐにその場を離れ、中央に戻っていく。その様子を窺っていると、背後から三体の敵がサリー向けて飛び掛かって来る。サリーは瞬時に身体を反転させ、その遠心力で三体の敵をなぎ倒した。そして、すかさず一喝した。


「川の陣を敷く。隊列を組め」


 サリーの一喝が戦場に響き渡り、その声に呼応してアマゾネス軍が動く。川の陣とは部隊を二つに分け、両側を押し上げ中央に退路を作るときの陣である。混戦していた兵が次々と整列し、規則正しく両側を押し上げる。サリーの部隊は騎兵部隊なので、分かれた二隊が各々三列に整列し、一列ずつ波状突撃して迂回してまた後列に整列するという形で戦線を押し上げている。作戦は上手く嵌まり、メリッサ隊は戦線を離脱、サリーの部隊には重歩兵の部隊が加わった。サリーは重歩兵部隊を途中までメリッサと共に退却させ、次の指示を出す。


「一度後退する。丘の上まで退却だ」


 サリー軍は号令に従い退却し始める。タイオー軍も深追いはしては来ずに、特に大きな被害を受けることなく退却が完了した。


「戦況は」


 サリーはタイオー軍を見つめながら近くにいた兵に呼び掛ける。近くにいた兵はすぐ敬礼をし、戦況を述べ始めた。


「騎兵隊の損失は約2000。アミ軍の重歩兵部隊が5000が加わってます。騎兵隊と合わせてこちらは21000になります。敵軍の損失は約20000ですが、依然こちらの四倍の兵力があると思われます。また、敵軍にはタイオー王がいるとの報告も受けています」


 奇襲こそ成功したが、戦況はまだ芳しくない。加えて、タイオー王が出張っているということは今いるのは敵軍の主力部隊なのだろう。勝てる見込みは薄い。とは言え、あまり戦線を後退すると、ドルト軍との交戦部隊の退路が失われてしまう。辛いがここを突破されるわけにはいかない。とりあえず地の利は得ている。さすがのタイオー軍でも傾斜付きの騎兵の突撃を真っ向から相手したくはないだろう。ここに陣を敷き、相手の出方を見るのが良さそうだ。


「ここに方円の陣を敷く」


 サリーの号令に合わせて、兵達が円形に陣を敷く。外周を重歩兵が固め、内側を騎兵が待機する。そして中央にサリーの直属部隊が待機する。そうしているうちにタイオー軍も陣を整え、鶴翼の陣を敷いている。V字型の陣で特に中央を薄くしているようだ。どうやらこちらの攻撃を誘っているように思う。しかしこちらに現状攻めるつもりはなく、しばらく睨み合いが続くであろう。睨み合いであれば望むところである。数が不利な今はあまり大きく動きたくない。ただ、一つ懸念されるのは、騎兵は防御に適さないということである。タイオー軍が攻勢に出た時に出遅れることだけが命取りだ。


 そのまま交戦はなく一日が過ぎた。何度か陣を敷き直し牽制したのが幸いしている。このままもう少し時を稼げば、打開の風が吹くはずだ。サリーがそんなことを考えていると、兵士が横に来て敬礼をする。


「報告があります。斥候より北東からラニッチ軍がこちらに向かっているとのことです。三時ほどでこの地域に到着します」


 風が来た。とサリーは思った。ラニッチ軍を含めた三つ巴なら上手くタイオー軍に対処出来る。北東と言ったか。ならばここから西に陣を敷き、ラニッチとアマゾネスでタイオー軍を挟撃にする形にすれば良い。西側は平地で地の利はないが、挟撃の形の方が分が良い。


「出立する。西に陣を構える。重装兵は先に行け」


 サリーはすぐさま号令する。兵達は直ぐに陣を畳み、一時ほどで準備ができた。しかし、サリーはそれでも遅いと感じた。ラニッチ軍が来るまで後二時しかない。タイオー軍ももう気付いているはずだ。動きがあると挟撃の体制が取れないかもしれない。


「急げ」


 サリーはそう言って、馬に跨り駆け出した。タイオー軍の方を確認するが、どうやらまだ動きはないようだ。このまま後二時待ってくれ、と必死に願う。そして、その願いが通じたのか、タイオー軍は特に大きな動きを見せるわけでもなく、サリー達は西に陣を構えることに成功する。勝った。サリーはそう思った。


「報告です。ラニッチ軍が我が部隊の東側、先ほど我々がいた丘に布陣。そのままこちらに押し寄せてきます」


 慌ててきた兵士がそう報告する。


「何」


 サリーは驚愕を隠せないでいた。挟撃の体制はラニッチ軍にも優位なはず。何故わざわざ迂回してまで我々を狙う必要があるのか。


「報告です。タイオー軍に動きあり。こちらに向かってきます」


「何だと」


 サリーは思わず報告しに来た兵士に詰め寄る様に叫んだ。訳が分からない。ラニッチ軍とタイオー軍の共闘か。いや、まだそうとは限らない。だが、明らかにラニッチ軍が来る前より状況が悪化している。いや、もう状況的には絶望である。 


 もしや智将ドッチの仕業か。ラニッチ軍は兵数・兵種とバランスが良く目立った特徴のない軍を持っているが、用兵にかけては随一の実力がある。中でも智将ドッチの名は良く知られており、その用兵は相手の虚を突くことで有名だった。勿論、この選択はある程度理には適っている。弱いものから叩く。基本的な戦術には違いない。


「報告があります。南西よりロロア部隊が援軍として合流するとのことです」


 比較的落ち着いた足取りで兵士が伝えに来る。九死に一生を得たか。ロロア大隊との合流は喜ばしい限りだ。とは言え、数ではいまだ圧倒的に不利である。正攻法で切り抜けることはできないだろう。


「騎兵隊でタイオー軍の側面を叩く。ラニッチ軍を引き付けつつ、南からタイオー軍にぶつかりそのまま西側に抜けろ。その後迂回してロロア部隊と合流する。重装兵は一度後退、騎兵隊がタイオー軍と接触し、ラニッチ軍と戦闘にならなかった場合に、ラニッチ軍を後方から叩け」


 共闘関係がどこまでのものか、そもそもあるかはわからないが、このご時世である。仮にあってもそんなに強い繋がりがあるとは思えない。ラニッチ軍をタイオー軍に擦り付ける様に動けば、仲間割れを期待できる。仮に仲間割れをしなくても、それならそれで共闘関係がしっかりあるもとして作戦を立てられる。


 騎兵隊はサリーを先頭にタイオー軍の横腹を殴る。ラニッチ軍を上手く引き付けたが、ラニッチ軍はタイオー軍と接触する前に後退を始めた。共闘関係はある。


「西に抜けろ」


 サリーは一喝する。共闘関係があるのなら今この場では大きな損害を出すわけにはいかない。騎兵隊はタイオー軍からすぐに遠ざかる。タイオー軍が追撃してくるが、そこは騎兵隊である。逃げ切れる。だが、迂回して陣に戻る途中でラニッチ軍が立ち塞がっていた。さすがである。こちらの動きを読まれている。だが、念を入れておいた重装兵団も動いているところだろう。ラニッチ軍を挟撃である。


「鋒矢・矢倉の陣」


 とは言え、騎兵隊もタイオー軍とラニッチ軍に挟撃される形であり、悠長に戦ってはいられない。一点突破である。通常鋒矢の陣では矢印状に展開した後方に大将置くが、鋒矢・矢倉の陣は先頭に大将を置く。こちらの方が士気を高く維持でき、攻撃力に優れている。無論、大将が戦死しなければの話だが。


 目の前にラニッチ軍の歩兵が盾を持ち身構えている。後方からは矢の曲射だ。サリーは片手に持つ槍を高々と上げ、片手で回し始める。サリーを目掛けていた矢がその槍に落される。そして、サリーは馬と共に跳躍し、敵兵の盾を飛び越した。槍を右に左にぶん回し、次々と敵を薙ぎ払う。そして、そのまま駆け抜ける。と、思ったよりも敵の反撃が薄かった。いや、敵の中腹くらいまで来るともう既に敵はなく、重装兵団と合流した。


「どういうことだ」


 いくら挟撃の形があるとは言え、数で勝るラニッチ・タイオー軍がこんなにもあっさりと後退するのはおかしい。完全にドッチの動きが読めないでいた。いや、もしかしたらロロア隊の存在を確認したのかもしれない。交戦を続けた場合アマゾネス軍とラニッチ軍が主に損失を出し、タイオー軍は大きな損失を出さないという結果になっただろう。きっとそれを嫌ったのだ。


「ロロア隊と合流する」


 サリー隊はその場を速やかに撤退した。


第二節も分けてます。

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