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トライアングルドラグナーズ  作者: 桃丞 優綰
忍び寄る魔王の脅威
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第二章 忍び寄る魔王の脅威 第二節 選挙開始

さて、いよいよ公開になります。大規模論理パズルです。


問題文が長いです。


然るに一万字を越えてしまうことをお詫びいたします。


また、文中にもありますが、完璧に解くと今後の物語のネタバレになってしまうため、気になる方は解くのをお勧めしません。


また、大問題の答えは物語の進行に合わせ解答とさせて頂きます。


小問題に関しては解いてもネタバレとかにはならないので、興味ある方は解いて下さい。


解答は次のあとがきにて発表いたします。


問題自体は解かなくても楽しめるように書いていくつもりなので、普通に読み流して頂いても構いません。


我こそはという人のみ挑戦して下さい(笑)


読んだだけでわかるほど簡単には作っていません。


勝手にギネス載るんじゃないかって思ってます(笑)



第二節 選挙開始


 引退を宣言すると国中に激震が走った。リオンは歴代のドラグナーの中でもかなり人気の高いドラグナーである。まだ元気なのに何故だとか、認めないぞとか、ともかく様々な言葉が飛び交った。リオンは皆を納得させるための言葉だとか、選挙の進行とかでてんわやんわの日々であった。


 選挙の進行は現職のドラグナーの仕事である。というのは次の候補が見つかり、戴冠の儀式を済ませるまではドラグナーとして振舞う必要があるのだ。もちろん、魔王の襲来に備えてだ。いざという時にドラグナーが不在ではブードーの身が危ないからだ。


 さて、選挙の具体的な内容をどうするかである。リオンが選ばれるときは立候補者を募り、七つに分けた地区でそれぞれ演説、投票を行い、最後に全体演説で投票を二重にまとめて決める形をとっていた。地区毎で集計し、中間報告が行われ、それに基づいて候補者が演説を変えていくというスタイルだ。


 国民は示し合わせたかのように地区毎にバラバラになるように投票をしていく。すると、急に票が少なくなったり多くなったりで、魔王が居たら焦るはずだという寸法だ。結局大体は最後の全体投票の時にはフラットになっており、その最後の投票で決まるのだが、前回の魔王は焦らずに上手く立ち回っていた。


 たまたま変動が少ない方だったのだ。より変動の多い人ら(魔王らしいと国民が判断している人達)を目の前にしている分、冷静になれたのだろう。リオンがその穴を危惧して、演説会場で魔王に向かって威嚇の魔法弾を打ち飛ばすという大胆な行動に出た。それが功を奏して遂に化け皮がはがれたのだ。咄嗟に魔力結界でガードするも、その魔力は魔の力に溢れており、大衆にばれてしまったのだ。


 前回と同じ方法では魔王もさすがに対応してくる。魔王に寿命はないと言われており、おそらく毎回同じ魔王が出てきているのだ。故に毎回違う方法で選挙を行う必要がある。


 おそらくというのは、魔王は毎回違う人の姿で選挙に現れる。全く知らない新参者として登場するときもあれば、要職に就いていた有名人に成り済ます時もある。その人を殺し、記憶を奪って立候補するのだ。選挙の後には大抵死体が見つかる。そして、見た目ではわからないので国民も簡単には見分けられないのだ。


 演説が効果的なのは、言っていることが矛盾してないかを確認できるからだ。もし、魔王と入れ替わったのなら言っていることが変わるはずである。つまり、立候補者の知り合いはより注意深くその知り合いを観察して、少しでも変ならそれは晒されるのだ。魔王が得票をなかなか得られないのはここにある。


 また、演説を行う時はとある魔術拡声器を使うのだが、これにはブードーの魔術がかけられてる。基本的に嘘はつけないのだ。もちろん、ブードーの魔術も万能ではない。魔王はお前かと言われて、はいそうですと答えさせられるほどのものではない。ただ、破壊的な魔王の性質が演説内容に反映されてしまうのである。正確には発声者の本質を引き出す効果がある魔術なのだ。


 これらの情報は魔王側に知られないように極秘裏に知られている。トルティ国の教育機関に秘密があるのだが、魔王がそこまで踏み入ることはないだろう。中央の暗黒大陸には結界が張られており、それを抜けての長期間の滞在はできないはずだからだ。


 以上を踏まえると、演説による選定は残したいところである。ただ今回なりの工夫は必要だ。候補者を二段階に分けて絞るというのはどうだろうか。演説回数も確保できるし、場合によっては一回目で魔王を候補から落とせる。また、前回の学習から魔力検査を公開でするというのも良いかもしれない。魔族の魔力が検知できたらすぐに見分けられる。


 粗方の方針はこんな感じで良いはずだ。しかし色々画策するが、魔王側もだいぶこの選挙に慣れてきているのも事実だ。前回が良い例である。対策を講じたと言っても油断はできないだろう。




 立候補者を募ったところ、今回の候補者は十名だった。まずはそれぞれに自己紹介を兼ねて演説をして貰う。テーマはこの十人の中に魔王がいるとするとどんな人が魔王らしいかである。もちろんこれが決め打ちとなってわかるようなことはないだろうが、魔王は自分自身に疑いが向けられないために発言するはずである。これは推理の要素になるのだ。以下が、それぞれの発言とリオンの考察である。




 セメス

「今回はリオン様のお引き立てもあって、このドラグナー選挙に立候補することになりましたセメスと申します。長年、リオン様の元で国の運営に従事して参りました。魔王なる不届きな輩がこの国、ひいてはこの世界を脅かすことが無いように全力で排除していきたいと思います。


 つきましては、魔王が潜むとすればどういう風に潜むかですが、これはやはり変わった者が怪しいかと思います。皆様ご存知の通り、魔王は特定の人物に成り代わりこの場に立候補します。しかし、成り代わったとて全てを引き継ぐ訳ではありません。性格までは引き継げないのです。


 これが普通な者と成り代われば、すぐにその破壊的な性質が表に出てばれてしまいます。しかし元々変わった者であれば、多少発言の色が変わってもいつもの事と思われる程度でしょう。つまり、元々変わっている者、普通ではない者が魔王である可能性を強く推します。以上になります」


 セメスは発言にもあったようにリオンが推薦した者だ。推薦枠というのは今までやったことがない。もちろん危険を孕むが、セメスであれば大丈夫だと判断した。というのもこの十数年彼の事をずっと見てきたからである。性格に異変が起きた場合はリオン自身がすぐに気付けると思ったのだ。


 また、性格に異変が無ければこれほど安心して送り出せる者もいない。能力も高く、信頼が置ける。多少立場を乱用してしまうが、リオンが強く推せば、皆も彼を推すだろう。とにもかくにも魔王でなければ良いのだ。




 ケーテ

「どうも、観測台観測長を務めていますケーテという者です。長年、暗黒大陸を見張り続けた者として、その経験を活かしドラグナーの任に着ければと思っています。魔族の力は巨大にして邪悪です。その脅威から国民とブードー様をお守りしたいと切に願っています。


 私が魔王と思う者は、やはり、より魔力の高い者であると思われます。ご記憶にある方もいらっしゃると思いますが、前回の選挙では魔王は自らその巨大で邪悪な魔力を振るいました。私の長年の観測に基づきましても、魔族は一様に魔力が高いようです。それは魔術が暗黒大陸の力を借り受けたものであるという学説とも合致します。


 魔王である以上はより高い魔力を有していることでしょう。警戒していてもそれは簡単には隠し通せるものではないでしょう。故に、この中で魔力が高い者は高ければ高いほどその可能性があると考えています。この後の魔力検査の結果を参考に皆様もご判断頂ければと思います」


 ケーテは観測所と言われる国の重要機関の責任者である。観測所とは、国の北東、一番暗黒大陸に近い場所の高台に作った建物である。智の国トルティ国では、その未開の地への探究が国営として行われているのだ。


 一つは敵を知るためである。魔族が何かの拍子に結界を破ったときにすぐ対応するためだ。些細な波動を感知して、いついつ頃から魔王が潜伏しているはずであるというようなことも推測される。防衛手段としての側面が強い。


 もう一つは魔術の研究の為である。発言にあったように、魔術は暗黒大陸からもたらされているものという考え方が主流である。魔術の研究には暗黒大陸の観測が必要不可欠なのだ。暗黒大陸には結界が張られているため基本的には立ち入ることはできないが、巨大な望遠鏡や特殊な方法を使って日夜観測し続けている。




 ドメス

「私は港町から来ましたドメスという者です。普段は船舶業を営んでおります。正直私はあまり頭が優れている性質ではありません。だから、今回のような外せない選挙というのがとても怖いのです。もし、魔王に投票などしてしまったら、それを考えると身の毛がよだちます。


 しかし、確実に魔王をドラグナーにしない方法を思いつきました。そう、私自身が候補者となってドラグナーを勝ち取れば、身の毛のよだつ事態にはなりえないと思ったのです。だから私は立候補しました。この選挙において一番信じられるのは自分自身だからです。


 魔王についてですが、正直わかりません。わからないからこそ、ここにいると言っていいでしょう。ただ、雄一私が思うのは、魔王は破壊的な性格をしております。つまり相手を貶めるのではないかと思います。よって他の人を悪く言うような人は限りなく魔王に近いように思えます。


 もちろん、直接的に他を悪く言うような者はいないでしょう。魔王もそこまで馬鹿ではありません。ただニュアンスとしてこういう人だと言ってしまう人は怪しいと思います。以上です」


 ドメスはこれと言った経歴のない一般人に近い者だ。船舶業を営んでいるという事だが、基本的には漁をしている者だ。一応ガーディー国との外交を行う際の船を任されているという位置づけなのだが、これは年に一度しかない。重要な役職だがいまいちぱっとしない職でもある。


 年に一回しか国交を持たないのはガーディー国が閉鎖的だからである。それでも一回は国交を持つのはやはり魔族に対しての警戒を強く持っているからだ。トルティ国は三国の中でも一番魔族の研究が行われている。ようは情報提供をしているのだ。




 ライチ

「こんにちは、皆様。政治家をやっておりますライチです。この度は女性初のドラグナーを目指して出馬させて頂きました。皆さまも御存じの通り、この国は長らく続いておりますが、未だかつて女性のドラグナーを輩出したことがありません。


 これはトルティ国の智を重んじ、智の前には対等であるという素晴らしき理念に反する由々しき事態であります。この度をもってその事態を打破し、より明るい国として繁栄していくことを切に思い、この場に出ることに致しました。どうぞ、よろしくお願いします。


 さて、肝心の魔王の居所についてですが、私がはっきりと言えるのは魔王は女性の中にはいないという事でございます。これは先に言った内容と重複するところもあるのですが、この国では女性のドラグナーというのがいた試しがありません。然るに、わざわざ魔王が女性に扮して出馬するとは考えられないと思います。ドラグナーになれる可能性としてはとても低いからです。


 もちろん、こういった状況を私は快くは思っていません。まるで魔王にまで馬鹿にされたかのような気持ちです。全国の女性の皆様も同じような気持ちなのではないでしょうか。しかしそれも今回で終わらせましょう。今回で女性のドラグナーが誕生すれば、魔王もトルティ国の女性を軽視できなくなるでしょう。国の偉大さを感じ、手を休めるかもしれません。


 後に紹介があると思いますが、ヌードラさんとは何度か話をさせて頂いた経験があります。女性だからというだけでなく、彼女が魔王とはとても思えないのです。仮に入れ替わったとしたら責任を持って私がお知らせします。私とヌードラさんは魔王でないと考えて頂いて大丈夫です。


 最後にもう一度言います。今回に限っては断じて、魔王は女性ではありません。何よりメリットがありません。よって、今回の投票では是非、安全な女性への投票をお願いします」


 トルティ国はドラグナーの独裁政治ではない。ライチのように政治家は確かにいて、度々議論を重ねている。実際、この選挙の運営も政治家を集めてきちんと議論した上で決めている。もちろん、公平性を保つためライチのように出馬の意思がある政治家は、その会議は辞退することになっている。


 ライチは女性政治家としてとても人気のある政治家だ。女性の社会進出を積極的に意見している女性のご意見番として政治に参加している。実際、彼女の手腕で改善された待遇も少なくないのだ。


 別にトルティ国では女性が下に見られるとかそういうことはない。ただ、たまたま優秀な者に女性が少ないだけなのだ。不思議なもので、魔術に馴染みやすいのは女性であるのに、それを使いこなすとなると男性の方が優秀であることが多いのだ。どちらかと言うと女性はやはり家庭的な方へ思考を働かせるためだろう。こういった性の違いによる研究ももちろんされているが、はっきりとした答えは出ていない。




 ヌードラ

「私はヌードラという者だ。トルティ軍にて女性部隊の総指揮官を務めている。今回は軍の代表として参加することになった者だ。私が選ばれた理由は比較的軍の内部でも見聞が広いことが評価されていると思う。私は東の国プル国や、北北東のガーディ国への外交に付き従った経験があるのだ。一国の柱とも言えるドラグナーにはそうした広い見聞が求められるだろうということだ。宜しく頼む。


 魔王に関してだが、おそらく力のない者に成り代わるのではないだろうか。一見、力がある者の方が成り代わった時に有利に思えるかもしれない。しかし、力ある者というのは常に警戒の眼差しで見られる存在だ。であるならば、力を隠してこの選挙に参加する方が芽があると考えるのではないだろうか。


 実際、前回はその力を顕わにしたためにばれてしまったと聞く。ほんの一回前のミスを無視して、また同じような過ちをするだろうか。仮にも何十度にも渡って選挙に参加している魔王がだ。例え魔王に知能が無いにしても、さすがに考え辛い選択肢に思える。


 私はその身を軍に置いているというのもあって、正直、身を護るという事に関しては他よりも良い環境があると思っている。無駄な疑いを持って私を見て欲しくない気持ちがある。時間の無駄である。その辺も考慮してくれると助かる。以上」


 トルティ国が所有する軍の女性指揮官だ。優秀だという話は聞いている。国の要事には大抵参加し、警護をしてくれているのだ。仮に今回ドラグナーになれなかったとしても、ゆくゆくは彼女が軍の総指揮を担当することになるだろう。


 しかし、思うのは彼女のような優秀な者が殺され、成り代わられたとしたらこれは悲劇である。選挙では魔王のために必ず毎回一人は殺されてしまう。大抵は優秀な者だ。選挙にはそう言ったデメリットみたいなものもあるのだ。リオンはどうにか魔王を撃退できればと、常々思っている。




 イサエル

「風来坊のイサエルです。私は元々プル国に住んでいた者だ。魔術にあこがれ、魔術に惚れてこの地に来た。魔術は私にとっては人生そのものだ。そしてその魔術の研究の最先端を行くこの国は本当に素晴らしい国だと思っている。故郷のプル国よりも遥かに愛着があるのだ。


 いや、この国の誰よりもこの国を愛していると自負しているくらいだ。魔族と相対する愛の心を持った者がドラグナーにふさわしい。そう思って立候補させて頂きました。


 見聞の多い者に魔王は成り代わらないだろうと私は推測しています。というのも、見聞の多い者はえてして知り合いも多いことが多い。私もそうなのだが、それはつまり、異変が起きた時に証人となる者が多いという事にも繋がる。魔王がそんなリスクを背負うとはとても思えないのだ。


 また、知り合いが多いという事はそれだけその人は愛に包まれているという事でもある。具体的な手段はわからないが、魔王も愛の深い者には手は出しにくいのではないだろうか。愛があるというだけで邪悪なものへの耐性が高いと私は考えるからだ。以上が私の考えです」


 イサエルはトルティ国では学園で教師をしている。ただ、本人の言う通り、観測所や研究所などによく入り込んで色々尋ねるらしい。時には自らも研究をするそうだ。いわゆる魔術マニアである。特に悪い噂は聞いたことが無く、誰とでも仲良く話すという。生徒からも人気の高い教師だ。


 ただ、やはり他国出身というのが気になる。基本的にこの世界ワルティシャでは国と国との移住は考えられない出来事なのだ。というのは、それぞれの国はそれぞれの国のドラゴンの気性の影響が強い。体質などもだいぶ違うのだ。イサエルはプル国出身という事もあり専ら戦闘向けの体質である。


 仮にも国の代表を決める選挙でこれは大きなマイナスであろう。魔王でなければいいが、それにしてもというのがトルティ国の国民の心理ではないだろうか。魔王でない者を選ぶのだが、代表選という性質は変わらない。そう言ったことも見立てて予想していかなければいけない。




 コヨルド

「観測者のコヨルドだ。皆も知っている通り、トルティ国では暗黒大陸の調査のため、年に一度大規模魔法による特殊転移を行い、調査隊員を大陸に送っている。私はその観測者の一人だ。


 正直に言おう、この観測法はすぐにでも止めるべきである。あそこは地獄だ。初回の調査では生き残りが一人も出なかった。それ以後対策を経て生存率が高まったが、それでも五割である。それほどに危険な場所なのだ。


 帰ってきた者も、PTSDを抱えまともな生活をできる者は少ない。ついで程度の恩賞と生活の安定が取り決められているが、そんなものなど何の慰めにもならない。それほどに地獄なのだ。囚人を送る訳ではないのだから、これはトルティ国きっての愚策だと私は思う。


 私がドラグナーになった暁には、この調査を即刻取り止める。観測と研究は観測台から見えるものと、過去の調査員が死に物狂いで調査してきた内容があれば十分だ。それ以上、深く関わることは勧めない。危険なのだ。我々が派遣できるという事は、場合によっては向こうもできるという事にもなりかねない。これ以上魔族を刺激してはならないのだ。


 私の暗黒大陸での経験から言わせて貰うと、魔族は一様に攻撃魔法が得意である。ただ一方で、向こうの魔族は補助魔法なようなものをほとんど使っていなかった。おそらく苦手なのだと思われる。つまり、攻撃魔法が得意で、補助魔法が苦手だという性質が強い者は魔王である可能性が高いだろう。


 魔族と人間が共存するようなことはない。だが、別々の世界で生きている分には同じ枠の中にいられると思う。結界により向こうの世界とこちらの世界は隔絶されている。わざわざそれを打ち破るような野蛮な事を、理性と平和を重んずる人間がやってはいけないのだ。ドラゴンや神に対する冒涜である。そのような野蛮な事をするから魔族は封印されたのだ。同じになってはいけない。皆の理解を切に願う」


 先に暗黒大陸に踏み入ることは基本的にはできないと言ったが、コヨルドのように特殊な魔法を使う事で一時的に人員を送る仕組みがある。そして、その派遣者の事を観測者と呼んでいる。結界はドラゴンが張っているものなので、ブードーに頼めば一時的にその結界を通り越す事ができるのだ。つまり、この派遣はドラゴンの許可を得ている事ではある。


 とは言え、確かに観測者は地獄のような体験をしてくる。何と言っても敵しかいない土地に送り込まれるのだ。昼夜問わず様々な魔族に攻撃される。また、自分から戻ってくることはできない。こちらで予め決めたタイミングでしか帰って来れないのだ。大体は二週間から一か月だ。逃げることも許されずに、ただひたすら戦い続ける日々がそれだけ続くのだ。


 初回の生存者はゼロだったという記録がある。そしてそこから一人になり、二人になり、少しずつ増やしていき、今では数十名いる調査者の五割が生存して帰ってくることができるようになった。しかし、帰ってきた者は一様に暗い顔をしている。それも当然である。仲間が次々と殺されていくのだから。リピーター率はゼロである。


 そんな観測者はトルティ国では英雄視されている。死ぬかもしれない地獄にわざわざ出向いていくのだ、勇気のある者として国全体で祭り上げられて、歓迎される。よって、福利厚生もしっかりしている。せめてもの感謝の意を形にするためだ。


 そんな英雄を皆がどう扱うかだ。彼の発言の内容は皆も周知していることである。臆病者とは受け取らないだろう。ただ、本当に観測者の制度を止められるのかというところである。それほどに国全体で探究心が強いのだ。




 グローバ

「魔術研究所所長をやっておりますグローバです。トルティ国と言えば魔術。その魔術を一番に研究している者がやはり、トルティ国のドラグナーとしてふさわしいのではないかという思いで立候補を表明しました。ブードー様と魔術に関して語り合い、その智を深め、皆様に還元できればこれほどの幸せはありません。是非私により良い仕事をさせて下さい。


 魔王。ふむ、魔王はやはり国の中枢により近い所にいるのではないでしょうか。国の中枢にいればブードー様と相まみえ、討ち取る機会もあると考えるでしょうから。まあ、もちろんそんな事はリオン様始め、私も絶対に許しはしませんし、そもそもそんな簡単に会えるような環境を整っていません。そこに関しては無駄だったでしょう。


 ただ一方で、中枢にいればこうした選挙の時に他よりも有利な立場で参加できます。つまり、中枢に近い者に成り代われば一石二鳥となる訳です。これは中枢に近ければ近いほど効果があります。単純に考えるとその方法を取るように思うのです。


 私は単純にと申しました。そう、魔王は慣れているとは言え、単純だと思います。我々智の民とは違うのです。実際、立ち回りこそ小賢しいものの、今までの記録を見ると、さほど変わった者に成り代わってなかったように思います。単純な理論の通った、単純な者に成り代わることが多かったはずです。


 また、私の推測によると魔王は無限ないし長期に渡ってに滞在できるものと考えています。これは魔術が暗黒大陸に由来されていることから考えました。魔王とは魔術を自在に操れる者なのです。そしてその魔力は底なしだと考えています。つまり、結界による多少の制限こそあれど、長い期間外に滞在すること自体は造作の無いことだという事です。


 この推測が私の推理を助けてくれています。つまり、魔王は暫く前からトルティ国に潜入し、上手く中枢機関に入り込んでいるのではないかという事です。さすれば無理なく選挙にも出られるはずです。


 私の仕事は研究です。当然魔王についても私なりに研究させて頂きました。私には彼の動きが手に取るようにわかるのです。もちろん、推測の域は出ませんが、これでも研究所の所長を任されるだけの自負があります。どうぞ、皆様も魔王の策に翻弄されない様に私の忠告に耳を傾けてくれればと思います」


 グローバとは何度か話したことがある。研究熱心な者で、所長に推されるだけあって功績は華々しい。最近は特に魔王の事を研究しているというのは聞いていた。そのグローバが常識を覆す説を披露してくれた。これが本当なら色々な所を見直さなければならない。


 中枢機関は魔王が人に化けて入り込まない様に、入り込んでも影響ある立場に簡単につけない様に上に上がるためにはそれなりの時間が必要なのである。これまでは魔王は滞在できるのはせいぜい選挙を行う数か月が限界だとされており、その数か月では何もできない仕組みになっているのだ。


 しかし、長期に、ほぼ無限に居座る事ができるのだとしたら、この仕組みも改めなければならない。より魔王が中枢機関に入れない様に厳重な検査をしたりしなければならないのだ。グローバの能力は認めるが、こればかりは当たらないで欲しい説だ。


 しかし、中枢機関という点を考えると、グローバ本人も中枢機関の重役の一人だと思う。魔術研究所、観測所は国の中でもかなり重要度の高い施設だ。次いで軍の機関であろうか、それ以外はそこまで重要ではない。もちろん、ドラグナーを始めとする政治機関は一番の中枢機関だ。




 テト

「昨年度魔術学園を首席で卒業しまして、今は中央庁に身を置くテトという者です。若い私が立候補しましたのはずばり、若いからです。今回のリオン様の退任は高齢によるものです。そう、人は高齢になるとその役目を次の世代に託さなければなりません。


 リオン様は八十歳という年齢で退任を決意されましたが、就任したのは四十二年前、リオン様が三十八の時でした。四十二年間は魔王の脅威に震えることなく過ごせたわけです。


 私が言いたいのは、私が仮にリオン様と同じ八十歳で退任するという事になれば、その平和の機関は実に五十八年間になります。五十八年間の平和が約束されるのです。五十八年間魔王がブードー様に危害を加える機会が無くなるという事です。これほどの利点はないでしょう。


 魔王の成り代わりの特徴を考えれば、経歴がしっかりしている者には成り代わらないのではないでしょうか。それだけ、人の目を誤魔化すのが大変だと思うのです。性格の違いを記録の上から叩きつけられることになるからです。


 魔王も確実にドラグナーになれるだろう作戦を取るはずです。リスクの多い者には成り代わらないでしょう。そのリスクが記録なのです。魔王は魔術の使い手である故に、人の心を惑わすことは割とできるものと思います。しかし、記録はそうはいかない。それを考えると経歴がしっかりしている者には成り代わりにくいはずです。私の意見は以上になります」


 魔術学園の主席ともなれば出世街道のまっしぐらだ。とは言え、先にも言ったように中枢機関に勤める者はそう簡単に上には上がれない。リオンも彼の事は聞いたことがない。しかし、彼の言う経歴はしっかり持ってそうである。首席という事は様々な所で活躍はしたのだろう。


 確かに記録の改竄というのはかなり労力のかかるやり方だ。関わった者の全ての者の記憶すら操作する必要がある。余談だが、魔王が人を操ったケースは確かにある。よって、選挙期間は立候補者以外の者でも迂闊に信じられないのだ。その時は応援演説をした者を操っていた。


 ふと、リオンは不安になる。この中にもし魔王に操られているような者がいるとどうなるのだろうかと。およそ、本物の魔王から気が逸れるような事を言い、なんだったら自分が魔王であるかのように振舞うのであろうか。考えたくないが、もしもはある。




 ニム

「ニムと申します。初めにはっきりと申しておきます。私は異形です。性別がありません。何故そんな私がドラグナーへの立候補を行ったかと言うと、異形人いけいびとへの偏見の是正と、確実に自身が魔王でないと言い切れるからです。


 魔王が異形の者に成り代わることはまずありえません。どうにもドラグナーになるための道のりが困難だからです。


 異形人はその異様な体つきから皆様から疎まれてきています。しかしこれだけは言わせて下さい。我々もトルティ国に生まれたれっきとした人間なのです。魔力もあれば魔術も使えます。考える力だって人並みにあるのです。それを魔族の子だなどと言語道断です。


 異形は暗黒大陸の影響によるものだという説がまかり通っていますが、断言します。それはまやかしです。我々に魔族の血が流れているはずがありません。そもそも魔族は我々に容易に接触することすらできないのは皆様が知る所にあると思います。ブードー様は偉大です。他の国のドラゴンも偉大です。その偉大な方々の結界は簡単には突破できないのです。


 魔王がこうして我々を脅かすのは、魔王が特殊だからです。あれは単体でもあの偉大なドラゴンを殺せてしまうほど恐ろしい力を持っているからです。しかし、魔族皆がそれほど強いという事はありえないでしょう。魔族がこの国で悪さするという考えは愚かです。


 魔王が潜むとしたら厚遇を受けている者を依り代とするはずです。厚遇を受けているというのはそれだけ国で信頼される立場にあるからです。票が集まりやすい立場だという事です。私達のような冷遇されている者に成り代わることはまずありえないでしょう。


 また、私はこれほど立候補者が集まると、中には魔王に操られている者もいるのではないかと思います。それこそ厚遇を受けている者はとても怪しい。信用できる発言は立場の弱い者ののみと考えて良いと思います。


 大事なのは如何に魔王をドラグナーにしないかです。それを推すのであれば私、ニムがそれを請け負います。トルティ国に住む全ての者に光の当たるそんな国づくりをすることをお約束します」


 ニムの見た目は女性のそれに限りなく近いように見える。しかし、性別がないという事で生殖能力は持たないのであろう。だいぶ強い言い方の演説だった。まあ、異形人の事を思えばそれも致し方なしか。


 確かにトルティ国では異形人は疎まれている。自治区と言う形で保護をしているが、それをしないと異形人は虐められてしまうのだ。魔族の子供め、と。


 誰が言い出したかわからないが、異形は魔族が干渉して生まれたとされ、魔族の血が流れていると噂されているのだ。いつどこでその血が暴れ出し、国を脅かすかわからないと言われている。魔族が人間界に進行するための布石だという者もいる。


 当然、それらはまやかしであり、きちんと証明できるものは何一つ報告されていない。血液検査も正常、身体能力も他と大差ない。魔力もだ。見た目の異様さから生まれた幻想を皆は見ているのだ。


 国の中でも見識の深い者は皆そんな噂を信じていないが、どうしても彼らを受け入れられないような者もいる。リオンは当然そんなまやかしを信じていない。時々自治区に視察に行ったりと気にかけているくらいだ。ニムとも話したことがある。清廉潔白で人として優れた人物だ。自治区の長をやっているのだ。彼、いや彼女は。




 以上がそれぞれの自己紹介と意見だ。どれも筋の通ったもので、やはり簡単には見分けられなさそうだ。意見の中には魔力についてのものがいくつかあった。それらの意見が反映されやすいように魔力検査も工夫した方が良さそうだ。そこで考えたのが以下の二通りの検査である。両方行い、その結果に基づいて考察をしていこうと思う。


 一つ目は純粋な魔力を量るものだ。魔力に反応する水があるのだが、それを使って判断する。容器は特殊な素材で作った透明な物で、それに触れると中の水が暴れ出すのだ。魔力が強い者ほど強く激しく反応を示す。


 以下が施行した結果である。左から順に強い者である。コヨルド、ドメス、グローバ、ヌードラ、セメス、テト、ケーテ、イサエル、ニム、ライチ。


 意外にもドメスが二番目に付けている。セメスもだいぶ優秀な方だが、この中だと五番目だそうだ。特にケーテまでの七人は一般的にもかなり強い方だ。イサエルは出身地が影響しているのか、そこまで目立った潜在値は出ていない。実際、彼が得意な戦術は魔導武闘と言い、魔力を四肢に流して行う半分体術だ。ニムは一般より少しある程度、ライチに関しては一般以下であった。


 特に邪悪な魔力は検知できなかった。やはり予めわかっていると抑える事ができるのかもしれない。一応言っておくが、魔力を抑えるメリットはあまりない。と言うのも、やはりドラグナーには優秀な戦闘能力も必要とされているからである。


 二つ目は攻撃魔法と補助魔法の威力を測るものだ。攻撃魔法は属性別の標的を出し、より早くそれを破壊するというもの。補助魔法は訓練用の特殊な人形があり、それを操ってもらうことにする。人形が障害物のある道のりをどれだけ早く潜り抜けるかで測る。


 攻撃魔法の得意な程度-補助魔法の得意な程度という計算式でできるだけ数値化するようにする。以下がその結果である。セメス、マイナス三。ケーテ、七。ドメス、マイナス四。ライチ、ゼロ。ヌードラ、四。イサエル、二。コヨルド、八。グローバ、五。テト、三。ニム、マイナス三。


 コヨルドが言い出したことだが、皮肉なことにコヨルドが一番数値が高い。補助魔法が特に下手だった。ライチはゼロだが基本的に両方ともあまり成績は良くなかった。特に攻撃魔法の得点は最下位である。セメスは攻撃魔法でもかなり得点していたが、補助魔法の方で異常に良い結果を出している。彼の結果に基づいて、予め設定していた補助魔法の得点を作り直した。先の得点はそれが反映されている。それぞれの最高点は十点満点の十段階だ。


 一応、それぞれの得点上位者は左から順に以下の通りだ。攻撃魔法、コヨルド、ケーテ、ヌードラ(同ケーテ)、グローバ、セメス(同グローバ)。補助魔法、セメス、ニム、ドメス、ヌードラ、イサエル、テト(同イサエル)。他、同点が発生した者はコヨルドとケーテ、ライチとグローバ、イサエルとニムである。


【小問題。それぞれは何点ずつそれぞれの検査で得点したでしょう。】


 必ずしも魔力に依存しない結果なのは、これはあくまで持っている力をどれくらい器用に扱えるかというものだからだ。


 魔王がまだ成り代わっていないということも考えられるが、今までそのようなことはなかった。つまり、選挙の途中で成り代わることはないのだ。これはブードーの強い魔術にこの選挙自体が守られているというのと、選挙中は皆の関心が強く、成り代わればその異変をすぐに周りが嗅ぎ付けてしまうというのがある。


 また、それぞれの発言とその該当者を簡単に纏めると以下のようになる。


 セメス 「変わった者の中に魔王がいる」。ドメス、イサエル、ニム。


 ケーテ 「魔力がより高い者が魔王である可能性が高い」。順に、コヨルド、ドメス、グローバ、ヌードラ、セメス(上位五人のみ)。


 ドメス 「他を悪く言う者が魔王である」。セメス、ケーテ、ヌードラ、コヨルド、グローバ、ニム。


 ライチ 「女性は魔王ではない」。ライチ、ヌードラ。


 ヌードラ「力ない者が魔王だ」。ドメス、ライチ、イサエル、テト、ニム。


 イサエル「見聞の多き者は魔王ではない」。ケーテ、ライチ、ヌードラ、イサエル、コヨルド。


 コヨルド「攻撃魔法が上手く、補助魔法が苦手だという性質がより強い者が魔王である」。順に、コヨルド、ケーテ、グローバ、ヌードラ、テト(上位五人のみ)。


 グローバ「国の中枢により近いところいるほど魔王である可能性が高い」。順に、セメス、ライチ、グローバ、ケーテ、テト(上位五人のみ)。


 テト  「過去の経歴がしっかりしている者は魔王ではない」。セメス、ケーテ、ライチ、ヌードラ、コヨルド、グローバ、テト。


 ニム  「厚遇を受けている者の中に魔王がいる」。セメス、ケーテ、ライチ、ヌードラ、コヨルド、グローバ、テト。


 操られている者の有無に関してだが、十分にあり得る。過去にもそのケースはあったからだ。ただ、他の候補者を操る意図はどこにあるだろうか。まさか、ライバルを一人無くすというだけではないだろう。それならそもそも立候補させなければ良い。見分け方は難しいが、魔王が操っているため少し言葉が乱暴になる傾向がある。


 また、仮にいたとしたらその者の発言は信用できないだろう。逆に魔王とは考え辛い者の発言は倍ほども信用できる。


【大問題。この中に魔王がいます。それぞれの発言と魔王の特性を加味した上で、魔王が誰かを当ててみて下さい。注:完璧に解いてしまうと今後のストーリー展開のネタバレとなってしまいます。ネタバレが嫌な方は解かないで下さい(笑)】


 ただ一つ言えるのは、操られている者はいないに越したことはない。よほど判断に困らない限りは考えないことにしよう。

挿絵(By みてみん)

さてはて、皆さんも魔王の脅威に怯えましょう~


ご感想、答えの予想など残して頂けると盛り上がります。


宜しくお願いします。

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