幕間 怒りに包まれし土地
舞台は三百年前。
ルニータちゃんのお話です。
幕間 怒りに包まれし土地1
「お父様。今日は森で蝶々と遊びましたの。蝶々って綺麗ですよね。私もあのようにひらひらと飛んでみたい」
少女ははしゃぐように父の周りを走り回る。父、エルフ王ルーシュは落ち着いた笑顔でその様子を見ていた。
「ルニータ。あまりはしゃぐものではないぞ。お前ももう十五になる。そろそろ大人としての礼儀をわきまえるようになりなさい」
少女、ルニータは年齢の割にはやけに子供っぽいところがあった。親のルーシュとしては心配な悩み事である。
「だって、空を飛べるって素晴らしい事ですよ。ひらひらって舞ってチョンと止まる。ひらひら飛べば、お母様とお父様ともっと自由に何時でも会えるかもしれないし」
「それについては何度も言っているだろう。エルフの国では神の恩恵を受けるために、男と女は別れて暮らすんだ。お前ももうすぐ立派な女性になる。そうすれば、お前はいくらでもお母様に会えるぞ」
「でも、お父様と会えなくなっちゃうじゃない。そんなの嫌よ。つまんない」
「だだをこねる者じゃないぞ。いいかい、立派な大人になるんだ。そんなことじゃ神様はお前に力を貸してくれないぞ」
「別にいいもの。法力なんていらない。私はお父様とお母様と好きな時に好きなだけ会うの」
つんと顔を背けるルニータを見て、ルーシュは頭を抱えるのだった。
友愛を掲げるプル国北東の土地エルフル。ここはエルフと呼ばれる種族が支配している土地で、プル国には珍しく非戦闘による平和的解決を他の多勢力に働きかけていた。エルフは戦闘を好まず、大戦に参加することも無かった。
エルフの子どもは十歳までを母型が育て、十歳になったら十五になるまで父型で育てる。その後は成人とされ自分の性別の方で暮らすのだ。エルフでは結婚しても夫婦が共にいる時間は少ない。
これは法力を扱うという事に由来している。法力を使いこなすにはジェンダーつまり性を明確に感じなければならないのだ。そのため、男と女は分かれて生きていることが主である。唯一会えるのは新月の時と、年に二度ある神がいないとされる水無月と神無月だけである。水無月と神無月では一月中会うことができ、エルフは大抵その間に恋愛し、一緒になるのだ。
ただし、子どもの時はまだ身体が成熟されていないため、その限りではない。当然法力も上手く扱えない。
ルーシュはふぅ、と溜息を吐く。
「あまり駄々をこねる者じゃないぞ。そうだ、お前が向こうに行ってしまう前に、見せておかなければならないものがある」
ルーシュが思いついたように言った。ルニータは首を傾げた。
「見せておきたいもの」
なんだろうか、誕生日はまだだいぶ先のはずだ。もうしばらく会えなくなるからという事だろうか。だとしたら少し見たくない気もする。
ルーシュは腰を上げて「こっちだよ」と案内する。何か大きなものなのだろうか、扉を開けて進む度に屋外へと向かっているようだった。そして、遂には外に出てしまう。森の中を進み、段々道が細くなり、いつしか獣道を歩いていた。
「ねえ、まだ」
枝を掻き分けながら、耐え切れなくなったルニータは不満を漏らす。辺りはうっそうとしていて、光も届かないくらい暗い。ルーシュが光の法力で辺りを照らしている。もはや自分がどこにいるのかもわからない。
「もうすぐだよ」
ルーシュは振り返りもせずに、そのまま黙々と進んだ。ルニータは小さく溜息を漏らす。よほどのすごいものでもないと納得がいかないという気持ちになってくる。と、ルーシュの目の前に草と枝が壁となって現れる。見たことがある。性別の壁だ。たぶん、これより先には行けない。
「ねえ、道間違えたんじゃないの」
壁を前に、一気に疲れが出てくる。ルニータは座り込んでしまった。一方、ルーシュは性別の壁を前に何やら呪文を唱えている。
「開け」
少し強めの声が聞こえてくる。すると、固く閉ざされていた性別の壁に、ぽっかりと空間が開いた。空間から光が漏れ出てくる。光の先にあるのは小さな集落だった。
「ここどこ」
ルニータが言葉を漏らす。性別の壁を超えた先には女性たちが住む地域が広がっているはずだ。しかし、目の前に見える空間はそれにしては小さく、しかも男女が入り乱れている。
「幸福の地」
ルーシュは静かにそう言った。そして、立ちすくんでいるルニータの手を取り、中へと進んでいく。
「エルフは神からの力を使うために、男と女が別々に暮らすというのは当然知っているね」
広さで言ったら半径百メートルくらいの集落だ。一般的なエルフは木に住むのだが、その木が数十本あるくらいだ。カップルと思われるエルフ達がルーシュの姿を見て頭を深く下げている。
「しかし、その規律に耐えられない者達もいる。そう言う者達がどうなるか知っているかね」
ルニータはううんと首を振った。
「この幸福の地に連れてこられるのさ」
そこまで言うと、一つの巨大な木のくぼみに辿り着く。そして、その中には地下へと続く階段があった。
ルーシュはそのままルニータを連れて降りていく。中は暗く、土壁が続く迷路のようになっていた。ルーシュが先程と同じように光の法力を使う。
「ここはね。どうしたらエルフが男女ともに暮らしていけるかを研究する場所なんだ。知っているのは私とルニータ、君と、ここに住む者達だけ」
ルニータは何故自分がここに連れてこられたのか訳がわからない。お父様とお母様といつでも会いたいと言ったからだろうか。我儘ばかりを言うから何かお仕置きされるのだろうか。
道が狭いからか、知らない場所だからか、ルニータは段々怖くなって来る。ルーシュに握られている手を自分からも強く握って、温もりを感じて安心する。
「万が一の為の避難所でもある」
避難所。どういう事だろう。そんな事を考えていると、扉が前に現れる。ルーシュが三回ノックすると中から、「誰だ」と声がした。ルーシュが自分の名を告げると、中の者は慌てたようにその扉を開ける。
広い空間があった。何人かがせわしなく動き回っている。扉を開けたと思われる者は扉の横で頭を深く下げていた。ルーシュはそのまま躊躇なく進んでいく。ルニータは手を引っ張られながらきょろきょろしながら歩いて行った。
せわしなく動く人達も、ルーシュを見ると皆一様に歩みを止め、頭を下げた。いつしかその空間にいる全員がそうやって頭を下げている。
ルーシュは中央にある大きな扉を開いた。
部屋に入ると奥にある巨大な木像が目に入る。おそらくは神を象ったものだ。神々しい出で立ちで空間を支配している。ルーシュは止まり、その像に向かって頭を下げた。ルニータもそれを真似する。
「エルフの神、ダンテだ。聞いたことはあるね」
エルフに力を与えてくれるという神だ。しかし、このように像として奉られることはない。ダンテは想像の化身であり、その人、人それぞれに姿形を思い浮かべるのが通例だ。何よりその想像が法力の源とされている。
「これを見せたかったの」
ルニータは繋いでいる手をぎゅっと握りながら父の顔を見る。この短い間にいけないことをたくさんしてしまったような気分である。
「うん。そうだね。これもだけど、見せたかったのはこの場所全てだよ」
ルーシュは握られた手を優しく持ち上げて、ルニータの目線まで腰を下げてそう言った。その父の行動でルニータは安心する。しかし、この場所全てというのはどういう事だろう。確か避難所と言っていた。
「何かあったらここに逃げてきなさい。それを言いたかったのだよ。今、場所と入り方がわかるように呪文を掛けてあげよう」
そう言って、ルニータの上をゆっくりと手が通り過ぎる。不思議な感覚がルニータに伝わってくる。
「何かあったらッて、何かあるの」
ルニータは心配そうな眼をしているルーシュを見返しながら疑問を口にする。
「何か、よからぬ不安があるのだ。まあ、気のせいであれば良いが」
ルーシュは視線を落とす。ルニータもつられて落ちてしまった。
「それと、もう一つあまりに我が儘が過ぎるからだよ」
と、すぐさま明朗になって言った。ルニータが落とした目線を戻すとルーシュの笑顔があった。ルニータも少し笑顔になる。
「男女が共存しても法力が使えるか、の研究はきちんと行っているのだよ。でも、まだ成果は出ていない。共存すると想像力が減ってしまうんだ。男が女を想い、女が男を想う。そんな想いと想像力が法力には不可欠となる」
ルーシュは像を見つめながら語っている。少なからず父も男女が別れて暮らすことに疑問を持っているんだとわかり、ルニータは嬉しい気持ちになってくる。
「ただ、唯一の成果としてこの像がある。一見、想像を害するもののようだが、法力の力がこの像を中心に集まっているのだ。だから、ここにいる者はみな通常通りに法力を扱うことができる。もちろん、万能ではなく、この像から離れるとその効果はなくなってしまうがね」
ルニータは改めて像を見た。男らしい出で立ちで、いかにも強そうだ。隆起した筋肉に硬い右拳が構えられている。左手は前に突き出ており、こちらは手が開いていた。足は片足で立っており、いますぐにでも前に出て戦えるような姿勢だ。これが、エルフの神だとするとあまりにも意外だ。というのも、エルフは弓矢を使った遠距離攻撃が得意だからだ。
「この像に触れてから、少しだけ予感なようなものが働くようになった。その予感がこのエルフの土地の災いを訴えている。魔族の力がエルフルを襲う。そんな気がするのだ」
そう言いながら、ルーシュは像に近づき手を当てる。別段何か起こる訳でもなく、ルーシュはその温もりをただ感じているように見える。
「ルニータも良ければもっと近づいてごらん。法力の力を感じることができるかもしれないよ」
ルニータは父に言われるがまま、像に近づいて行った。そして、父と同じように触れてみる。
バチンッ
と、その手は不思議な力で弾かれてしまう。ルニータもルーシュも目を丸くする。
「法力が集まる像に触れることができない。ルニータ、一体何があった。魔族に何かされたのか」
ルーシュは血相を変えてルニータの身体を調べる。ルニータは何が何だかわからない。一通り調べて、何もないのを確認するとルーシュは釈然としないまま、また像に触れた。
「ルニータ。この事は私とお前だけの秘密だ。ここの事も誰にも話してはいけないよ。お母さまにもだ。どうやら私の予感が当たりそうだ。ルニータにまで及んでいるとは。念のため、宮殿に戻ったらお祓いをしてもらいなさい」
切迫した様子のルーシュに圧されてルニータは頷いた。そして、自身の手を見つめて少しの不安を抱えるのだった。
魔術と法力は相反する力だとされている。魔術が魔族の力を源にしていると噂されているのに対し、法力はドラゴンを始めとする神々の力だとされている。お互いに反発しあう傾向にあるのだ(ただし、水と油のように混ざり合わない訳ではない)。故に法力と魔術の相性は抜群であり、お互いがお互いに強く影響し合うのである。
ルニータには心当たりはなかった。魔族と接触した経験などない。また、何か誰かに特別なことをされた様な記憶もない。何が自分に起こっているのかが全く掴めないでいた。
その不安はお祓いが終わっても続いた。弾かれたときに手がじんじんとしたのだが、そのじんじんした感覚がいつまでも残っているのだ。お祓いは効果がなかった。それどころかそのじんじんしたものが時間が進むにつれて半身に広がってゆくのだ。
ルニータはそれが怖かったが誰にも言うことはしなかった。父との約束だからだ。そして、父にも話していない。父の切迫した表情が印象的に残っていたからだ。またあの表情を見たくはない。だからお祓いが済んでからは父の前ではいたって平静を保っていた。
月日が流れ、ルニータは誕生日を迎えて、遂に父との別れの日が来る。
「お父様。今までありがとうございました。でもやっぱり別れるのは寂しいわ」
別れの日は誕生日を迎え、次に男女が会える日となっている。
「お前ももう立派な大人だ。あまり我が儘を言うものじゃないぞ。それに、全く会えないという訳じゃない。元気でな」
「……はい」
「くれぐれも身体には気を付けるのだぞ」
ルーシュはルニータに顔を近づけて小さくそう耳打ちする。
「大丈夫ですよ。お父様」
その言葉を受けて、ルニータは努めて明るく応えるのだった。
「では、行くぞ、ルニータ。貴方もご自愛を」
そして、ルーシュの妻シルドーラがルニータを連れて行くのだった。
シルドーラは高飛車な女だった。鼻が高く、その鼻に見合ったツンとした態度が印象的である。王の妻つまり王妃となったことで女性だけが住む地域では最高権力者だ。そして、実はこの王妃が現れたことでエルフルの情勢は大きく変わったのだった。
「お母様。今日は何の御用でしょう」
ルニータは母に呼ばれて参上する。王宮の玉座に座る母シルドーラと近衛兵がルニータを厳めしく見つめている。ルニータは綺麗に歩き、膝を折りながらスカートを軽く上げて、首をちょっと折る、丁寧なお辞儀をした。母は厳しい性格で、礼儀正しくしないとすぐに叱られてしまうのだ。
「我が愛しの子ルニータ。そなたももう十五となった。次の大戦にはもちろん参加するのであろう」
そう、エルフルは大戦に参加するようになったのだ。
シルドーラの平和の為の武力行使という主張がエルフの重い腰を上げた。それ以降は大戦に参加するようになる。戦争嫌いのエルフもいまやプル国の戦士達となった訳だ。エルフは長寿という事に加えて弓矢を使った技が特徴的で、敵を近づけさせないで打撃を与えるのが得意であった。
また、その長寿が幸いして一般の人よりも武芸に長けている為、近づいても苦戦を強いられるのが主だった。さらにエルフは法力という魔術に似た術を使う。これは魔術に対して非常に良い相性を示していた。
しかし、そんなエルフも大戦に勝ち残ることはなかった。いざ戦争となると経験の少なさが祟るのだ。戦術戦形は素人丸出し。そこにつけ込まれて敗退するのが常だった。
「はい。お母様。しかし、私は武芸はおろか法力の類もそんなに上手くありません。こんな私でお役に立てるかは不安です」
ルニータは目を伏せたまま話す。決して嫌いな訳ではないが、やはり少し怖いのだ。今まで散々叱られてきた。罰も厳しい。
「うむ。確かに父の元ではかなり甘やかされて育ったようだな。時折会う機会があったが、ほとんど成長という成長をしていないことが多い。妾が武芸の嗜みを教えてやろう」
ルニータは心の中で尻込みする。厳しい母の訓練など地獄も同然だ。しかし表には出さない。
「はい。有り難う存じます」
そう、礼をしてその場を去ろうとする。
「まあ、待て。それだけではない」
ルニータは思わずびくっとしてしまう。何か悪いことをしたかと頭の中をぐるぐると回転させる。
「はい」
「お主。身体の成長も遅いようだが心当たりはあるのか」
そう、ルニータは明らかに見た目がまだ子供である。見た目の年の端で言ったらまだ七、八歳だ。
「いえ、私は何にも。特別な生活をした訳ではないと思います」
ルニータは周りから時々指摘されるが、さほど気にしてはいなかった。成長の仕方にも個人差があるはずだ。
「そうか、心当たりはないか。念のため、調べさせてはくれぬか」
シルドーラはそう言って、ルニータに近づくよう促す。ルニータはなんともなしに近づいて行った。
「手を」
そう言われるので、ルニータは膝を折り手を差し出した。シルドーラはその手を包むように覆った。
バチンッ
すると静電気のようなものが起こり、シルドーラの手が弾かれる。ルニータの手の周辺には法力の残滓と魔術らしき残滓があった。シルドーラが眉間に皺を寄せる。近衛兵たちが少し動揺した。
「人払いだ」
すかさずシルドーラは周りに命じた。近衛兵たちはその声にびくっと反応し、すぐにその場を去った。それを確認してから、シルドーラは少し笑顔を浮かべながらルニータに向き直る。
「一体、何が起こったかわかるか」
威圧的で、しかし顔は微笑を湛えている。かなり異様な様だった。
「いえ、何にも」
ルニータはそんな母の様子に気付く余裕はなく、目の前で起きた異変にただただ唖然とする。
「そうか」
シルドーラは納得したように高く軽めの声を出した。笑みは深まっている。
「今起きたのは、間違いなく魔族の干渉をお主が受けているという事じゃ。どうにかせねばならん」
魔族の干渉。似たようなことを少し前に言われた気がする。
「そんな。やっぱり」
「やっぱり」
言葉を反芻しながらシルドーラは急に眼つきを鋭く、顔を強張らせる。
「いえ、その」
ルニータは咄嗟に口を突いて出てしまったが、父から二人だけの秘密であると言われていることだ。
「正直に話すのじゃ。これはエルフルの大事じゃぞ」
シルドーラが厳しく言う。もし、本当に魔族の干渉であるなら確かにエルフルの大事である。ルニータはこの国の王女だ。ルニータは意を決して、要点だけ話すことにする。
「実は先日、父と散策していた日に、法力の集まる木を触ったところ、同じような現象が起こりまして」
とは言っても、研究や地下、像の事は極力伏せる方向で行く。
「ほう、法力の集まる木に。どのような木なのなのじゃ」
シルドーラは興味深さ気に聞いてくる。
「何やら、エルフルに古くからある大樹だそうで。私もその時初めてお目にかかりました」
かなりきつい嘘だ。調べられるとすぐにボロが出そうでもある。しかし、父に必ず確認を取るであろうし、察しの良い父ならなんとか誤魔化してくれそうである。
「古くからある大樹。なるほど」
シルドーラは納得したのか、してないのか微妙な反応である。ただ、追及する気はないようだ。
「まあ良い。ともかく、そなたの魔を取り除かねばならん」
シルドーラが座り直して言う。そして、そのまま立った。
「じっとしておれ」
シルドーラが両手を広げて、法力であろう結界を張った。
結界が張られるとそれだけで魔力が反応しているようでもあって、不安になる。言われた通りルニータはじっとしていた。
シルドーラはルニータに近づき、手を胸に当てる。
胸がシルドーラの手に引き寄せられるように前に突き出され、じんじんと不思議な感覚が広がった。少し痛いようでもあり、チクチクと刺されているようでもある。そして段々、段々苦しくなってきた。
クハッ
身体の中にある何かが迫り上がり、押し出される。すると、口から黒い煙のようなものが出てきて、結界の中に充満する。
「ハッ」
シルドーラが気迫を込めると、その黒い塊が勢いよく身体の中に戻って行く。そして、途端
バチンッ
身体の中で大きく何かが弾けた。不思議な衝撃が身体の中を駆け巡る。痛くはない。しかし、何かとてつもない変化が急激に起きているようでもあった。
「これで良い」
シルドーラは静かにそう言った。ルニータは両手をついて息をしている。自分自身と言う感覚が無く、今自分がどこにいるのか、何をしているのかがわからない状態だ。と、もの凄い力が身体から外に向かって解き放たれる感覚に見舞われる。
ルニータの身体が浮き、白い光が発光した。しかしよく見ると片目は黒く発光しており、もう片方が白く発光しているという奇妙な状態だ。ルニータの頭の中に不思議な映像が流れてくる。
エルフルの土地だ。おそらく空から見たエルフルの土地が見える。自分は大空を羽ばたいているようだ。次第にエルフルの土地が近づいてくる。エルフルの周辺では土煙が漂い、何か争いが起きているようであった。
そしてエルフルが近づくと、自分の下の方から物凄い勢いで炎が噴き出される。その炎は瞬く間にエルフルの土地に浴びせられ、土地という土地を焼き尽くしていった。自分は、炎を吐きながらエルフルの空を縦横無尽に移動していた。と、目の前にシルドーラが現れる。自分はそれを見て止まるのだった。そしてシルドーラが手を翳すと目の前が暗転する。
「エルフが理を破る頃
国の長が怒りに震える
百万の敵に怒りの炎
エルフの地は焼け野原になるだろう」
暗転した途端、自分の口から自分の声とは思えない低く渋い声が発せられる。と、その言葉を発した途端に身体の自由が利くようになる。呼吸が荒い。すごく身体が疲れている。思わずへたり込んでしまう。
「ルニータ。何を見た」
シルドーラは異様だったであろうその光景に臆することはなく、耐え切れないような笑みを浮かべて冷静にルニータに質問する。ルニータは息も絶え絶えになりながらも、見えた壮絶な光景を誰かに伝えねばという思いとシルドーラの問いが頭に流れ、なんとか言葉に出す。
「私、飛んでいて、そしたら、火が出て、エルフルが、焼け野原に。お母様が出てきて、何も、見えなくなって」
「ほう、そうか。妾が。見えなくなったか。なるほど」
シルドーラの表情が一瞬、恍惚のそれへと変わる。
「お母様、私が見たのは一体」
ルニータは混乱する中で答えを求める。シルドーラはすぐに真剣な面持ちに戻り、鋭く言葉を吐いた。
「お前が見たのは未来じゃ。おそらくは魔を払った拍子にお主の中で抑えられていた法力が暴発し、未来を見せたのだろう。どうやらルニータ。お主は予知者の才覚があるようじゃの。しかしこうしてはおれん。エルフルに危機が訪れているようじゃ」
シルドーラはせわしなく動き出し、先ほど人払いした兵を呼び戻す。「ルニータを部屋へ」。それだけ命令して自分は女王の間を離れていった。
次で必ず終わらせる!
よ・・・・・・。
ご感想など頂けると幸いです。




