第一章 英雄の誕生 第五節 戦争が終わるならなんだっていいや
さあついに決着の時です
第五節 戦争が終わるならなんだっていいや7
「サリー。ここにおったか」
戦況を見つめているとミータがライネに跨りやって来た。
「どうしましたか」
王自らがやってくるというのは珍しい。よほどのことがあったのだろうか。
「いや、そろそろ加護の力も戻る。ここで一気にタイオーの奴を仕留めようと思ってな」
ミータに言われて気付いた。そう言えば加護の力を感じる。コルットの加護はもう戻っているようだ。
「なるほど、では指揮系統も正常なものに戻せますね」
指揮系統が戻せるのであれば戦況の好転も考えられる。今からでも遅くはないだろう。
「うん。それもそうだが、一気に決める。お主と妾で一気にタイオーの首を取る」
「はっ、一気に。しかも私と」
コルットは目が点になる。正直なんで自分なのかと疑いたくなる。おそらく他の将々の方が戦力的には助かるはずだ。それこそ先の戦でミータと共にした者達の方が数段いいはずだ。今や昔のサリーでないことをミータは忘れてはいるのではないかとそんな風に思ってしまう。
「うむ。先の戦でシールドを張っておっただろう。もし邪魔が入ったら、というか入らない様に隔離して欲しいのじゃ」
なるほど、そういうことか。タイオー王とさしで戦いたいという事だろう。しかし一つ問題がある。加護の奥義は短期でもう一度使うと時間が半減してしまうのだ。加護の力が回復したと言っても、完全にではないということだ。加護の効力は自体は同じでも、蓄積値みたいなものが回復しない。
シールドに関しては先程より規模小さく張れるため、ある程度持続できるだろうが、ミータの奥義は果たして大丈夫なのだろうか、と思ってしまう。おそらく巨大化するであろうタイオーの耐久力は並ではない。また破壊力だけなら向こうが上だろう。シールドで隔離できるなら精鋭を集めて一気に決めた方が確実だ。
「何を心配そうな顔をしておる。あんな鈍重なでくの坊なんかあっという間の一捻りじゃ。それに一応は約束もあるしな。後で文句が言われない様にしておきたいのじゃ」
ミータは気楽な調子でそう言った。約束。きっと一騎打ちの事だろう。約束とは言うが、今更守るほどのものでもない気がする。おそらくそれが理由ではないな、とコルットは考えた。
プル国の血が騒ぐのだろう。どちらが本当に強い者かを確かめたいのだろう。先の戦では二対一でやっと勝てた。その二対一というのは少なからずミータの中では屈辱的だったのだろう。おそらくリミットオーバーブレイクの制限時間を気にして、一気に決める意味で二人で臨んだのだろうが、現実は二人でいっぱいいっぱいの相手だった。つまり一対一では勝てなかったという事になる。
今からプル国一番の強者としてドラグナーになる身としては、なんとも受け入れがたいものだったのだろう。タイオーとの一対一はその憂さ晴らしみたいなものか。いや、上に立つ覚悟を決めるための戦いか。
「わかりました」
コルットはミータの意志を汲み取って付いて行くことにする。自分にできるのは他の虫を近付けさせないことだ。コルットはしっかりと気を引き締めた。
コルットはリリィに乗って、ミータはライネに乗ってタイオー王に向かって突撃する。もちろん隊は率いている。先程ミータと共に戦っていた三人が露払いとして先陣を切っていた。今や乱戦状態で整った陣はない。
倒す味方と倒れる味方を横目にひたすら進んだ。戦況は指揮官が前線に戻って来たことで追い風が吹いてきているようだ。これでタイオーの首さえ取ってしまえば本当に一気に戦が終わるだろう。
こちらの動きを見てか、向こうの大剛力(部族では将軍を剛力と呼ぶ)がタイオーの元に来る。三大剛力ガッツ、リッチ、メッツのうちリッチとメッツが巨大化して立ち塞がった。露払いの三人が道を開けるために飛び掛かる。
両者激しくぶつかり合い、リッチとメッツは大きく脇に反れた。そこをすかさずミータとコルットが通り抜けてタイオーの元へ。タイオーは悠然と構えていた。不意打ち宜しくミータが電光石火の蹴りを一撃入れる。どうやら既に奥義を解放したようだ。タイオーは巨大化を始めていたが、急激な速度の変化で巨大化は間に合わなかったようだ。身体が大きく吹き飛ばされながら巨大化していった。
ミータとコルットはすぐに間合いを詰める。コルットは少し離れ、ミータは密着するようにだ。ライネとリリィからは途中で降りた。正真正銘の一騎打ちをするためだ。
コルットは力を開放した。
「リミットドームシールド」
タイオーとミータを覆うようにシールドが展開される。最初はそこまで大きくなかったが、すぐにシールドが広がった。そして、シールドの広がる先にある人は、ことごとく弾き飛ばされる。半径三十メートルほどか。シールドはコルットのところまで広がってきて、コルットだけを抱え込む。そして内側にも等身大のシールドが張られた。コルット自身がやられないようにだ。これで準備は整った。
「どうやら力を取り戻したようだな」
タイオーが低く唸るように言った。吹き飛ばされてはいるものの、地に足をつけて蹴りを耐えきっていた。
「一騎打ちがしたいと言っておったのを思い出してな。こちらから出向いてやったぞ」
ミータはトントンと軽く跳ねる。地面を確かめているのだ。ドルトとの闘いでは足場が悪かった。
「まあいいだろう。中途半端な者を倒しても格好がつかないからな」
タイオーは腰を低く保ち構えた。隙を伺い、直ぐにでも飛び掛かるような構えだ。一人の王として戦況を危惧しているのかもしれない。部族側からすると押し戻されつつある。この戦いの状況を兵士への鼓舞とするつもりなのだろう。
「短期決戦か。望むところだ」
ミータもそれに合わせて本腰を入れる。制限時間のあるミータにとってはこの展開は望ましいはずだ。
巨人化に時間制限はない。ただし体力を大幅に持っていかれるので乱用はできない。体力は尽きたら戻ってしまう、つまりある程度疲れさせてから奥の手を披露した方が効果的なのだ。もちろん、素の状態でリミットオーバーブレイクの猛攻を凌げるかは疑問ではある。
巨人化した者は異常に頑強なので、リミットオーバーブレイクと言っても易々と攻略できないだろう。そういう意味では巨大化した方が戦い易い。ようはどちらの火種が先に尽きるかである。
まあ、かくいうコルットもそう長くはシールドが持たないが。
タイオーが巨大な拳を振るった。思ったよりもスピードがある。ミータは避けきれずに真っ向からガードする。そして簡単に吹き飛ばされた。やはり力はタイオーの方が上である。
ミータはシールドの壁まで飛ばされて軽く跳ね返る。背中を強く打ち付けてダメージを追ってしまう。が、持ちこたえて着地する。
と、タイオーは既に蹴り出していた。一気に間合いを詰める。ミータはすぐに横に大きく飛んだ。今度は被弾しない様にという事だ。タイオーの拳が迫るもぎりぎりでそれは躱せた。物がでかいため避けるのも大変だ。
ミータはそのまま足を使って位置を留めない。その動きは速く、コルットには視認できなかった。タイオーも目で追えていない。土煙を見て拳を振り回しているが一向に当たる気配がない。と、急にミータが顔の前に現れた。目に向かって蹴りを繰り出している。タイオーは反射的に対応するも額に被弾してしまった。
そのまま顔が後ろに大きく流れた。顔につられて身体も持ってかれる。当然体勢も崩れる。そして体勢が崩れたところにミータが足払いをした。タイオーは足を掬われてそのまま倒れこむ。軽い地響きが起こった。
ミータはそこに畳みかけるように頭に蹴りを叩き込もうとする。しかしタイオーは身体を横に回転させながら平手を泳がせた。ミータに直撃する。ミータは勢いよく飛ばされてまた壁に叩きつけられた。今度は勢いが強烈でボールのように大きく跳ねる。
タイオーはそれを見逃さない。すぐに体勢を立て直してアッパーで、今度はミータを跳ね上げた。ミータは天井にぶつかって落ちていく。そして待ってましたとタイオーの後ろ回し蹴りが炸裂した。ミータの口から鮮血が溢れ出る。
(まずい)
コルットはそう思う。このシールドのフィールドがいいように利用されている。このままタイオーの乱打が続けばミータは確実に死んでしまうだろう。いや、もしかしたらもう……。そう思うと寒気がする。シールドなど解いてしまった方がいいのかもしれない。そんなことをちらっと思った。
蹴られたミータはまたもや壁に勢いよく飛ばされた。そして、激突。したがなんとミータは足を壁につけていた。あの状況でも致命打にはならず、意識も保っていたようだ。もしかしたら上手くガードなり、受け流すなりできていたのかもしれない。とは言え、吐血するほどのダメージを負っているのも事実である。
ミータは反動をばねにし壁を蹴る。タイオーに向かって飛び出した。それは目にも止まらぬ速さであった。その勢いのまま拳を突き出す。拳は直撃し、タイオーの心臓にものすごい衝撃が伝わった。
ハートブレイクショットだ。強打を与えることで心臓が一時的に止まり、相手の時間を止める。つまり無防備になるのだ。タイオーはそのまま飛ばされ、壁に激突。そして跳ね返り、前に倒れこんだ。
そこへすかさず今度はミータのアッパーが炸裂する。タイオーの顎の先を捉える。タイオーの顔は大きく跳ね上がった。こうして顎の先に当てることで相手の脳を揺らして一時的な機能障害を起こすのだ。
心臓と脳という内的なダメージを与えられ、タイオーはもう力が入らなかった。いまやただでかいだけの肉の塊だ。
ミータはガクンと戻ってきた顔に続け様に攻撃を行った。また顎である。左、右、左と今度は脳を左右に揺らすように攻撃する。縦揺れの次は横揺れだ。場合によっての脳細胞が破壊され、そのまま死に直結する。タイオーは最後に攻撃された方向に流されて、そのまま倒れ込んだ。そしてみるみると身体を縮ませていく。どうやら意識を失ったようだ。
ミータは地面に降り立つと、膝が折れた。やはりかなりのダメージを負っていたようだ。また、下を向いて吐血している。コルットはシールドを解き、急いで駆け寄った。ミータは警戒したのか、キッとして構えた。が、コルットと確認するともう一度膝をつく。そして荒く息をする。時折咳もしていた。
「内臓をやられてしまったようじゃ。まあ、やり返してやったがの」
陽気を装い、苦しげな笑顔を向けている。コルットも苦笑いをした。見たところ骨もだいぶやられてそうだ。
「よくぞ打ち取られました。これで我が軍の勝利です」
自分でそう言ってすぐに周りを確認する。リッチとメッツ相手に三人は劣勢の様だ。激しく戦闘をする最中、リッチとメッツがこちらの様子に気付いた。と、一瞬動きを止める。そしてすぐに駆け寄ってきた。
コルットはびっくりしてミータを担ぎ上げてすぐにその場を離れるように動く。すると、シールドが解けたからか、リリィとライネが駆け寄ってきていた。ライネにミータを乗せ、自身はリリィに跨ってリッチとメッツから逃げるように距離を取った。
しかし振り返ると、リッチもメッツも追っては来ていなかった。タイオーの方へ駆け寄っている。二人はタイオーの容態を確認し、全軍に撤退の合図を送った。タイオーはどうやらまだ息があるらしい。すぐに手当てをしたいのだろう。
それにしてもどこまでも頑丈である。あるいはミータも満身創痍だったために仕留め損ねたのかもしれない。ともかく正真正銘これで終わりだ。
敵の撤退の合図が響くと同時に、敵軍の動きが止まっていく。アマゾネスの勇士達も肩を揺らしながらその手を止めた。
「「「おー」」」
そしてどこからともなく勝鬨が上がる。次第にそれは大きくなり、戦場全域に渡るほどに大きく広がった。コルットも、満身創痍のミータもいつしかそれに加わっている。長い長い戦乱に漸く平和が訪れるのだ。声を上げる者の中には涙を浮かべる者も少なくない。プル国待望のドラグナーの誕生だ。
これで一章終わっても良いんですが、
まだ気になること残ってますよね。
サリーとか
ということでまだ少し続きます。
次回サリーサイドの話




