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第一章 英雄の誕生 第五節 戦争が終わるならなんだっていいや

私は大きくな~る~

第五節 戦争が終わるならなんだっていいや6


「ミータ様御無事で」


 ミータがじっとカーシャ抱えていると、リリィに乗ったコルットが迎えに来た。コルットはミータが抱えている血の塊を見て息を呑む。


「これは……。救急隊、すぐに手当てを」


 万が一を考えて連れてきていた救急隊がすぐにミータからカーシャを受け取った。まだぎりぎり息はあるようだ。


「魔術都市軍は後退しました。これで一応の終戦です」


 コルットは救急隊を横目にミータに現状を報告する。


「そうか」


 ミータは短く答える。まだ気持ちの整理がついていないようだ。顔を伏せている。



 ミータ達が駆けて行った後、程なくコルットのシールドが切れてしまった。予め伝えていたので魔術師部隊がシールドを掛け直してくれる。しかし、十分な大きさにはならなかった。そこでネネチ他二人がリミットオーバーブレイクを使うことで巨大魔法弾を弾き飛ばす案が出される。他に案も無かったためメリッサ隊・ロロア隊の副将二人とネネチでリミットオーバーブレイクを使う形になった。


 また一方で横からの攻撃もあった。シールドが切れたのを確認して魔術都市軍が何隊か攻め寄せてきたのだ。半分ほどはミータ隊を追って行っているようだが、残りはこちらの殲滅を図っている。


 その数およそ二万。数は大したことないが、こちらも対抗できる部隊が少ない。コルットはオーバーワイドシールドの反動で前線に出られないし、魔術師部隊はシールドを張っていて身動きができない。強い副将も大規模魔法の対応に追われている。ミータに関しては敵軍中央に突っ込んでいる。よって、まともに動けるのはロロア隊とメリッサ隊くらいである。そしてメリッサ隊は弓兵部隊の為、後方にいなければならない。


 とりあえずコルットが直接率いている部隊、巨大魔法弾の対応をしている副将が率いている部隊、メリッサ隊、ミータ部隊の残り、魔術師部隊を魔術師のシールドの中に押し込める。そして、他の隊で対応に出るが、その数は一万三千ほどであった。同じ数くらいであれば質で勝てるのだが、魔術師部隊は中距離戦が得意であり上手く近付けさせてくれない。


 普段なら魔術師部隊のシールドを張ったりしてじわじわと詰め寄るか、騎兵隊の様な機動力のある部隊で一気に近づくのだが、状況的にそうはできない。ロロア隊は歩兵部隊だった。派手な展開はなく、盾でひたすら耐えながら詰め寄るという地味な戦いが続いた。


 と、そんな最中に物凄い衝撃音が響き渡る。ドルトが地上に叩き落されたのだ。次いで大魔導師二人も、遠目に討ち取られるのを確認する。そして敵軍の動きが止まった。勝ちが決まった瞬間であった。コルットはミータの無事を確認するべく救急隊を伴って駆け付けることに、というのがコルット側の視点だ。



「こんな戦争早々に終わらせるぞ」


 ミータが強い決意のこもった目でコルットを見た。コルットは軽く息を呑む。元よりそのつもりではあるが、ミータのその目は自分の中にはない強いものを感じさせ、その意志を再確認させる。こういう強い意志が大事なのかと改めて身を引き締めるのだ。このまま部族側が約束を守ればとりあえず大戦は終了である。


「報告です。魔術都市軍、全軍撤退しました」


 伝令兵が報告に来る。これでこの戦場に残っているのは部族とアマゾネスだけだ。取り決めでは部族側が撤退していくはずである。


「サリー様」


 そこにネネチが現れる。


「部族軍こちらに向かって来るようです」


 やはり素直には事は進まないようだ。


「部族の野蛮人どもめ」


 ミータが悪態をついた。コルットも怒りのようなものが込み上げてくる。こればかりは故郷だどうだと言ってられない。そもそもその故郷を守るために同盟したのだ。予想はしていたとは言え信じ難い気持ちになる。この戦場の惨烈さが更にその気持ちを逆撫でしてくるようだ。ミータの言う通り野蛮だと思った。


「作戦ヤーヌラ、ですね」


 作戦ヤーヌラ。こういう時のために用意していた作戦だ。ヤーヌラとは終わりと始まりを意味する言葉だ。年の暮れにはヤーと言って別れ、年の初めにヌラと挨拶をすることからきている。


 密かに潜ませているアミ将軍を部族軍の背後から襲わせ、挟み撃ちにする。単純だがあと少しだというところでの増援は身に堪えるはずだ。コルットはネネチに伝令を頼む。ネネチは少し強く頷く。コルットとミータはじっとネネチを見送ってから、共に陣に戻って行った。


 睨み合う部族とアマゾネス。どちらの軍も疲弊していた。二十万近くいた部族の軍も今や五万程まで減っており、アマゾネスはアミ将軍の軍と合わせて三万だ。数にそこまでの差はないようだ。


 睨み合いをしていると、大きな御輿が前進して来た。タイオー王である。攻撃に来たという訳ではないようだ。


「アマゾネスの勇士達よ。そなたらと話がしたい。ミータ王と話をさせてくれ」


 タイオー王が大きな声で言う。臨戦態勢であっただけに少し気が抜ける。争いに来たという訳ではないのか。コルットは少し胸を撫で下ろした。


 ミータが自らのタイガーに乗って歩み出る。王をご指名ということは、何かの交渉か。あるいは今ここで決着をつけようという事だろうか。確か一騎打ちにてドラグナーを決める取り決めがあったはずだ。タイミングは向こうに任せると言っていた。それを今行使するというのはある気がする。しかし仮に今だとするとかなりやばい。ミータは今、加護の力がない状態である。


「何の様だ。タイオー王。取り決めではそちらが戦場を抜けるという事だが」


 ミータは加護の力が無くても堂々としていた。今入ってきた情報によるとロイヤに強化の魔法をかけて貰っているらしい。少しでも勘繰られない様にという事だろう。


「何、長らく続く戦乱のせいもあって少しばかし臆病になってな。貴殿らが約束を守る保証がない。このままでは下がりとうないのだ」


 相手を舐め回すような言い方だ。ミータにはそれが不快で仕方がなかった。


「保証。それならば書面でしておろう。今更何を」


 ミータは吐き捨てるように話す。


「書面での約束などこの戦乱を前に紙切れ同然じゃ。それに我らの同盟は秘密裏に行われたもの。誰が証人ということも無い。このまま我々が下がれば世間体にはお主らが勝ったように見えるだろう」


 タイオーは少し目を光らせてミータを見た。


「それがどうした。約束は守る。そなたらのタイミングで一騎打ちにて勝敗を決めてやる。それに何の不満がある」


 ミータは突き返すように胸を張った。


「まあ、待て。ともかく大戦の終止符としてどちらかが退場せねばなるまい。そちらが退場することで手を打ってくれんか」


 タイオーは分かりやすく下手に言う。


「戯け。約束事を反故する輩の提案など受けられん。退場するのはそなたらだ」


 見え透いた態度にミータは更にイラついた。


「アマゾネスの女王は戦がお好きなようだ。もし受けてもらえぬならそなたらとの同盟は破棄する」


 タイオーに躊躇はない。さほどの未練も感じさせない。


「最初からそれが言いたかったのであろう」


 ミータはタイオーを鋭く睨み付けた。そして言い終わるや否や陣に戻ろうとする。その時、タイオーの従者が耳打ちをした。


「待て。それほどに約束というのであれば、今ここで一騎打ちをするというのはどうだ」


 ミータはびくっとして振り返る。するとタイオーとその従者が不敵な笑みを浮かべているのがわかった。従者は魔術師の形をしていた。


「さすれば戦などしなくて済むだろう」


 タイオーは余裕である。どうやら加護の力が及んでいないのがばれてしまったらしい。


「既に同盟は破棄された。約束を反故にした者の提案は受けられぬと言ったであろう。この国の習わしに従って戦にて勝敗を決める」


 ミータは毅然とした態度でそう言い放った。タイオーは眉をピクリと動かす。さすがに気に障ったようだ。


「よかろう。では火蓋は今切る。そなたの首をもって早々に決着じゃ」


 タイオーが勢いよく御輿から飛び出した。するとその身体はみるみると巨大化していく。部族特有の巨大化だ。約五倍ほど巨大化する技で、特に破壊力と耐久力が跳ね上がる。部族にはこの巨大化を使いこなす部隊があり、この部隊が暴れ出すと手に負えないのだ。先の巨大魔法弾の雨もこの部隊が対応していた。


 元々巨漢だったタイオーは全長十メートルは越すかというくらいに大きくなっていた。ミータは今の状態ではまともに対応できないため、愛虎に跨りその場を離れることにする。が、タイオーの巨大な拳が行く手を塞いだ。


「アマゾネスの王はここで朽ち果てるのだ」


「笑止。でかいだけで能のない単細胞には、早々簡単に捕まらんわい。ライネ、野生解放」


 ミータが愛虎ライネにそう命令する。するとライネは雄叫びを上げた。闘気が溢れ出し、目の色がみるみると赤くなる。そして一瞬だった。途端にその場から姿が消える。


「ぐおっ」


 タイオーが腹を折った。ライネが身体をぶつけていたのだ。そして次の瞬間にはライネはすぐさま体勢を直し、タイオーの腹を踏み台にもの凄いスピードでその場を離れた。体勢を崩したタイオーはそれを追うことができなかった。


「「「うおー」」」


 戦場に大豪声が鳴り響いた。タイオーとミータの戦闘を皮切りに両軍が前進を始めたのだ。両軍真正面からの衝突である。三万対五万。力と力の衝突だ。部族軍には巨大化した集団が凡そ五千程見られた。


 幾ばくかアマゾネスに不利である。先の戦で加護の力を一時的に失っている将軍が多い。巨大化した相手には加護の力が不可欠である。大体アマゾネス兵を二、三人を費やさないと一体に対処できない。そうなると正面からぶつかる部隊の大体がそこに割かれてしまい、また指揮官が前線に出れないため士気も維持しにくいという状況だ。


「突撃ー」


 アミ将軍の部隊が部族の背後から襲い掛かる。効果は中々であった。一時的に敵軍は混乱する。半分ほどが対応に向かったようだ。アミ将軍の部隊はまだ元気なため、それくらいなら十分対応できるだろう。もちろん長引けばその限りではないが。


 しばらく予定通りの様相で戦況が進む。両軍被害は五分五分といった具合だ。アミ将軍が活躍してくれている。しかし、このまま続くと先に息切れするのはアマゾネスだろう。やはり指揮官が前線に出られないというのが辛い。そこに更に悪報がもたらされた。


「報告です。アミ将軍の背後から敵の大軍が攻め寄せてきます」


「何」


 コルットは一驚を喫した。部族側はまだ軍を隠し持っていたというのか。確か大戦を始めた時は二十万程であったはずで、それはいつも部族側が有している数だ。伝令兵によると更に十万が押し寄せているという。合計三十万。破格の数である。いや、もしかしたらこの戦にかけて戦力を増強したのかもしれない。それぐらいの潜在値があの地区にはある。


「アミ将軍の部隊が危ない」


 挟み撃ちをしているはずが、挟み撃ちをされる立場に追いやられる。十万もの大群に背後を取られてはひとたまりもない。しかし、救援に向かえるほど戦況に余裕はなかった。万事休すである。


「アマゾネスのサリー将軍と見受ける」


 急に声が聞こえ、身構える。するといつの間にか背後に黒ずくめの男が立っていた。


「何者だ」


 すぐに刃を向けて対峙する。側にいたネネチも短剣で切りかかっていく。が、ことごとく交わされてしまった。加護の力が切れているとは言え、アマゾネスの副将の剣技を軽々と躱すとは只者ではない。


「こちらに戦う意思はない。剣を納めよ」


 そう言って、ネネチの腕を取り無理やり短剣を捻り落とす。相当の手練れだ。が、言う通りに戦う意思はないようだ。コルットは剣先を収める。


「何をしに来た」


 コルットは警戒は怠らずに話しかける。コルットが剣を納めたので、男もネネチを捻り上げている手を離した。


「私はアッシュウォーリアーズの者だ。アッシュウォーリアーズ三万、アマゾネスに加勢する意志を伝えに来た。増援軍は任せてくれ」


 アッシュウォーリアーズ。コルットも聞いたことがある。異能を持つ戦闘集団だ。特殊な技能により常人離れした力を持ち合わせているという。


「アッシュウォーリアーズが何故」


 純粋な疑問だった。お金があれば動くこともあるというが、その額は膨大で地区の金を集めても数千を雇えるかどうかだ。それが三万も。しかもそういう取引をした覚えはない。


「何。未来をそなたらに託してみたいと思ったのだ。それだけだ」


「どういう意味だ」


 訳がわからなかった。何をもって託すつもりになったというのか。


「今は問答を繰り返している状況ではあるまい。確かに伝えた。それとこれはお主の本当の身体に宿る者からだ」


 そう言って、目の前の男は手紙を渡してくる。本当の身体に宿る者。サリーのことだ。コルットはドキッとして手紙をすぐ受け取った。反射的に周りを窺う。ネネチが不思議そうにこちらを見ていた。


「では」


 男はそう言って消え去る様にいなくなった。


「どうやら、使者に出していた者が上手くやってくれたようだ」


 コルットはネネチにでまかせを言う。アッシュウォーリアーズを手なずけたのは自身の策であるものだと誤魔化す。手紙はさながらその使者からのものというテイストにする。隠し持たずに、ひらひらと堂々と振った。


「なるほど、知らないところでそのようなことを。一言相談してくれれば私もお役に立てたかもしれませんのに」


 騙されてくれた様だ。コルットは胸を撫で下ろす。


「いや、上手くいくかどうかは二割程度だったのだ。そこに人員を割くわけにはいかなくてな。特に優秀な者を割く気にはなれなかった」


 さりげなくおだてておく。こう言えば追及はされないだろう。


「よし、早速ミータ女王に報告を頼む」


「畏まりました」


 ネネチは疑いもなくすぐにその場から去って行った。コルットは改めて溜息をつく。しかし何故アッシュウォーリアーズが。そしてサリーが。手紙の中身が気になるが今は大戦を終わらせるのが先決だ。


 戦況はアッシュウォーリアーズが加わったことで少しだけ良くなった。と言っても、アミ将軍が挟み撃ちから一時的に救われただけである。十万対三万では強者揃いのアッシュウォーリアーズと言えども時間稼ぎしかできないだろう。もちろん突然の軍団から脇腹を打たれた部族の増援部隊は浮足立っている。が、倒すまではいけないはずである。


「只今戻りました。ご報告があります」


 打開策を考えているとネネチが戻って来る。何やら新しい情報があるようだ。


「なんだ」


「ミータ様の元に騎士団参謀ドッチと機械の街大技師長セーキから伝令が来たようです」


「ドッチとセーキから。一体どういうことだ」


 コルットは頭がこんがらがる。今更撤退した軍のナンバー2が何を知らせるというのか。戦場から撤退すると再参戦はできないことになっている。つまり地区の軍団としての参戦はできないはずだ。


「はい。我々に加勢すると。サリー様の大計に敬意を表して、だそうです」


 急に自分の名前を出されて面食らう。大計に敬意を表して。どうやら奇策である同盟の策は筒抜けになっているようだ。ドッチにならば看破されても仕方がないだろう。しかしセーキにまで筒抜けになっているというのはどういうことか。よくわからないことが多い。だがまあ加勢するというのであれば別段悩むことはない。むしろ助かっていると言っていいだろう。


「これにより両軍各二万の兵がアッシュウォーリアーズと共に増援部隊と交戦することになります」


 つまり計七万の軍勢がここに来てアマゾネスについたことになる。増援部隊はこれで完全に対処可能だろう。これで目の前の本隊に専念できる。


 幾ばくかの時が経った。戦況はなかなか上手く打開できずにいた。増援部隊の方は善戦しているようだが、問題の本隊がしぶとい。特に巨人隊が奮戦している。今や三千にまで数は減らしたが、それでもまだ三千もいるのかというくらいである。こちらにはそれ以上の被害が出ていた。やはり指揮官の大半がいないというのが響いている。アミ将軍の勢いもなくなってきていた。いよいよ泥沼状態である。


今後の活動のため、ご感想など頂けると幸いです。

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