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第一章 英雄の誕生 第五節 戦争が終わるならなんだっていいや

騎兵団との戦いだー

第五節 戦争が終わるならなんだっていいや2


 コルット達が外に出て様子を見ると、土煙が既に地平の奥から向かってきていた。コルット達は急いで配置に着く。今組んでいるのは一応防御陣形だ。ただ、将軍が固まり過ぎているため包囲されるとまずい。また、ミータを今の段階で戦線に出すのも宜しくない。衝突の前に急いで陣形の組み換えが行う。その間にも土煙は迫ってきており、手に汗が滲んでくる。


 一体どういう意図で攻撃をしたのか。コルットは陣形を整える最中にそんなことを考える。正直待ちを選択した以上はそのまま待っていていいものである。防御を固めたところを攻略する方が衝突し合うより相手への打撃は強いはずである。もちろん先手を与えるのは少しためらわれるというのはあるが、通常は先手を与えるデメリットより、防御に突っ込ませるメリットの方が高い。故にアマゾネスは騎兵団の攻撃を予期していなかった。


 もちろんそれを読んだうえで攻撃を仕掛けたのだろうが、果たしてそちらのメリットの方が高いかどうか。コルットは戦争とはそういうものなのだろうかとわからなくなる。確かに勢いをつけるという意味では良いのかもしれない。と、そう落ちをつける。ただ、他の可能性を全て捨てたわけではない。


「レギオー陣完成しました」


 部下から報告が来る。なんとか衝突前に陣形は整えられた。このレギオーは突進力こそないが柔軟性に高く、三列に陣形が組まれている。最後列をメリッサ・ミータ、中列をロロア、前列をコルットが担当し、前列の騎兵隊が敵を攪乱した後、中列の歩兵隊を敵にぶつけ、攪乱した騎兵隊は二隊に分かれて敵の側面に展開、包囲殲滅を狙う陣形だ。後方のメリッサは弓矢による援護攻撃だ。ミータ隊は極力参加しない。敵も全軍で攻めてきている訳では無いと思うので、これで事足りるはずである。


 かくして騎兵団とアマゾネスがぶつかった。戦闘は臨時の作戦通りに展開する。しかし、コルット率いる騎兵隊が敵の側面を討とうとしたとき、敵の増援が現れる。ちょうど二隊に分かれたコルット隊を狙ってきた。コルット隊は側面を叩けないまま後退する。そのまま相手が一気に来るかと思いきや、相手も何故か引き下がっていった。第一戦は緒戦という事もあり穏やかに終わった。




 ここは騎兵団作戦会議場。会議場にはラニッチを始め、ドッチ他将々が居合わせていた。


「緒戦はまずまずといったところでしょうか、思ったよりも対応が速かったですな」


 将の一人が余裕な様子でそう言う。他の将達もその顔色からは余裕が伺える。


「まあ、敵は少ないからその分早く行動できたのでしょう。タイオーの野蛮人どもなら大打撃を与えられたはず」


 他の将が自信ありげにそう言った。奇襲を提案したのはこの将なのだ。


「まあ、まだ大戦は始まったばかり、あまり調子に乗り過ぎないようにしようではないか」


 作戦会議場の長机の端に一人座る若者が冷静な面持ちでそう言った。この男こそ騎兵団王のラニッチだ。齢二八と若く、身体は締まっておりシュッとしている。顔立ちが良く声色はどこか優しい。声だけを聴いていると戦の者とは思えない。ただ、凛と響く声が人を引っ張る力を感じさせる。


「それよりもやはり、部族とアマゾネスは匂いますな」


 一番重厚な声持ちでしゃべるこの男がこの地区きっての切れ者ドッチである。この空間で一人険しい顔を浮かべている。


「考え過ぎという事はないか。今のところはこれというほど不審な動きはないように思えるが」


 ラニッチが明るく諭す。ラニッチの言い方には敬意が強く表れており、この地区の実質的な力関係がそこから伺えた。


 騎兵団の実質的なリーダーはドッチであった。その策による功績がその理由である。地区の全員がドッチの知力に敬意を示している。しかしそれでも王となれなかったのは、ドッチは武芸が苦手なのだ。プル国のお国柄として弱き王が人を率いるというのはタブーである。故にドッチは王にはなれなかった。しかしそれでも大将軍という位置まで上り詰めているのは一重にドッチの知力と人望の賜物である。


「まあ、ドッチ殿が言うのであれば、気をつけておくに越したことはないでしょう」


 一人の将がそう言った。皆もそれに頷く。ドッチとしてはアマゾネスと部族の戦闘が思ったよりも穏やかだったことが気になっている。もちろん、ない流れではないためラニッチの言う通り考え過ぎなのかもしれない。ただ、アマゾネスの構え方に幾らか余裕が見えるのも引っ掛かる。


 というのも、情報によると前回大戦でアマゾネスは将を一人失っており、また大将軍サリーも深手。サリーは本調子を得ていないという事である。それを踏まえると動き方に余裕があり過ぎるのだ。また、部族側も弱っているアマゾネスを前に早く標的を移し過ぎるところがある。共闘関係というほど共闘しているようでもないが、何かしらの繋がりがありそうな気がするのだ。


〔よもや同盟を結んだなんてことがあるのだろうか。仮にだとするのならば……〕


 ドッチは考える。とある情報筋からの話と照らし合わせると、ドッチにはやらなければならないことがある。そのためにもアマゾネスの動きを把握しなければならない。


「我が軍の被害は一万。アマゾネスは五千といった具合か。痛み分けというところでしょうな」


 将達はドッチが考える間も次の作戦について話し合っていた。そんな中ラニッチだけはドッチの様子を伺っているようだった。


【急報、急報です。敵の襲撃があります】


 と、急に脳内に声が響き渡る。シナジーによる伝達だ。将達の顔が引き締まる。ラニッチ、並びにドッチも気を張り詰めた。


【敵軍が、南から、北からと多方より攻撃を仕掛けてきています。至急現場にーー】


 そこで、一瞬通信が途絶える。おそらく現場の伝達担当の者がやられたのだろう。もう既に戦闘が開始されているようだ。そこで皆一様に疑問を抱える。何故報告がこんなに遅くなったのか。不安を抱えながらも将達は急いで現場に戻って行った。




 アマゾネスは緒戦が終わった後にすぐに動き出していた。目には目をというやつである。戦いが終わったばかりで少し息をつくだろうと思う場面で動き出す。作戦は既にでき上がっていたので確認だけしてすぐに動き出したのだ。皆が位置に着くのを待ってから、順番に戦闘を引き起こす。敵の陣形を崩していきたいため基本的には各地点一点突破で攪乱する。


 面白いように動きが嵌まった。敵はあまり対応できずに次々と倒れていく。情報が錯綜しているのかコンビネーションどころではない。むしろあたふたしており並みの兵士以下である。いとも簡単に陣は崩れて兵が散り散りとなっていった。快進撃である。




「我が軍の被害五万。アマゾネスは依然健在です」


 兵による口頭の伝達が行われる。今シナジー内はかなり混雑していて逆に混乱するのだ。将が配置に戻ったときには既に半数の兵が失われていた。


【全軍一時後退。立て直すぞ】


 脳内にラニッチの声が響き渡る。王特有のシナジーだ。王だけが使える何よりも優先的に伝達できる特殊なシナジーになっている。そこからの動きは速かった。各将を中心に軍団が纏まり、後退へと動き出す。


 本来の騎兵団の動きになる。こんな時のために訓練が行われていたのだ。王のシナジーが発せられた場合のシナジー伝達のリセットと再伝達。まさか使う場面が来るとも思わなかったが、訓練していてよかったと思える。


 最終的な被害は騎兵団六万、アマゾネス一万ほどという具合だった。策で負けた形になり、会議場にいる各将とも余裕の表情は既になかった。依然数ではリードしているが、兵の質を考えれば劣勢である。完全にシナジーの弱点を突かれた。まさかシナジーの原理を理解する者が相手にいたとは不覚だった。ドッチは打開策を考える。アマゾネス相手に有効な手立ては何か。


「完全にシナジーの弱点を突かれたな」


 ラニッチがそう言った。皆は俯いていた顔を上げ、悔しそうな顔を向ける。


「ここからは極力シナジーを使わない方法で攻めるべきだろう」


 ラニッチが続ける。皆静かに聞いていた。


「アマゾネスは加護に包まれている。その加護について詳しい者はいないか。目には目をだ。そこが攻略の糸口になるかもしれん」


 ドッチが口を開く。地区独特の特殊能力。それを攻略されたのなら攻略し返せばいい。単純だが、実際アマゾネス戦で一番厄介なのはあの加護なのだ。


「アマゾネスの加護か。確かアマゾネスは儀式をもってその加護を得ると言われている。加護は古代元素魔法を元としており、神像より掛けられるらしい。その神像はアマゾネス地区内の中心に位置していて、大戦では手を出す事ができない」


 ラニッチが知っていることを並べるが、言葉が止まってしまう。神像に手が出せないというのは戦争の場が決まっているからだ。基本的に本拠地に攻め込むことはできない。


 「加護は魔法を元としているため、同じ魔法である程度の効力を和らげることができる。現にアマゾネス戦の時は誘惑の魔に憑りつかれないために簡単な魔法をかけて臨んでいる。魔術師の負担が大きいし、狙われやすいが、我々はシナジーにてコンビネーションを使って守る事ができる。これは有効に働いていますね」


 ドッチが確認を取る様に話す。


「現実的にそれ以上の対応ができないのではないか」


 ラニッチが首を横に振りながらそう言った。


「うーん。話が変わりますが、魔術都市軍は大規模魔法を使う事で有名ですよね」


 ドッチが話を変える。将達は顔を見合わせる。


「ああ、そうだ。魔術師を複数人集めて大規模に魔法を展開する戦法を取ってくる。それが何か関係あるのか」


 ラニッチが皆の心を代弁する。


「我々も同じ事ができないでしょうか。各小隊にいる魔術師を一か所に集めて、アマゾネスの加護を打ち消す結界を張る。そこにアマゾネスをおびき寄せて一網打尽にするというのは」


 ドッチが力強く作戦を唱えた。皆もそれを聞いて目に光が戻ってくる。


「なるほど、しかしできるのか、我々の魔術師たちで」


 ラニッチが目を輝かせながらも冷静に指摘する。


「やってもらうしかないでしょう。現状を打破するには」


今後の活動の為感想など頂けると幸いです。

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