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第一章 英雄の誕生 第五節 戦争が終わるならなんだっていいや

遂に第一章、最終節突入です。


第五節 戦争が終わるならなんだっていいや


「どうじゃ、久々の戦場は。血が滾るであろう」


 ミータが陽気にコルットに話しかける。コルットはというと右と左を何度も確認していて落ち着かない。


「血が滾ると言われても、正直そういう感覚も忘れてますので」


 コルットは一頻り確認して何も異常がないのを確認すると、一息つく。


「ははっ、緊張し過ぎじゃぞ。模擬戦の時とそう変わらん。気を楽にせよ」


 ミータは笑いながらバンバンとコルットの背中を叩いた。まあまあ強く叩くので、コルットはミータから逃げるように離れる。


「少し、周りの様子を見てきます」


 失礼のないようにそういう言い訳をする。ミータは「道に迷うなよ」と声をかけてコルットを見送った。とりあえず人のいないところへ行き、一人になったところで少し落ち着く。遠目に兵達が戦の準備のために動き回っているのが見えた。


「本当、どうしてこんな風になったのか」


 コルットはポツリと呟いた。一人になると事あるごとにそう思うのだ。特に最近はそう思うことが多い。軽い現実逃避である。


 部族の集落に行った際、使いに出していたネネチの報告によると、コルットの身体は闘技大会に出た後に行方不明なったそうだ。元に戻る手続きの際、元の身体が必要かはわからない。おそらく必要ないとは思うが、やはり所在がわからないというのは不安である。元に戻ったときに訳の分からない場所にいたらどうしようとか、既に殺されて身体が無くなっていたらとか悪い方に考えればいくらでも考えられてしまうのだ。


「はぁ」


 もう何度目かになる溜息をつく。自分の身体の行方もそうなのだが、もう一つ、今のこの状況である。予測していたことだが、大将軍の地位はそのままで戦争に参加することになった。サリーが行ってきた実績もさることながら、今回の作戦立案者だという点が大きい。つまりその責任は全てコルットが負うことになる。当然と言えば当然だが、実際なってみると心労が絶えない。


 特にコルットはこうして人の上に立って責任を全うする機会は今までになかった。それだけに尚更である。また、最近もう一人の大将軍であるロロアとの仲が良くない。どこかよそよそしいというか、記憶喪失であるという事を疑ってるようでもある。正直非常にやりにくい。まだロイヤの方が仲良くできている。会議の際に当たりが強かったのはあくまでアマゾネスの為という事だろう。


「はぁ」


「サリー様。こちらにいましたか」


 サリーがもう一度溜息をつくと、ネネチがどこからともなくやってくる。毎度のことなのだが、気を抜いていたという事もありかなりびっくりしてしまう。


「失礼しました。ご報告があり参上しました」


 その様子を見てネネチは謝る。しかしそんなには構わずにすぐに報告を始めた。


「アマゾネス全隊出撃の準備が整いました。ミータ様がすぐにでも出発するとの事です」


「そうか、わかった。すぐ行く」


 コルットは内心項垂れながらもできるだけそれを見せずに言う。一応大将軍としての自覚はあるのだ。コルットの言葉を聞くとネネチはすぐにその場を去る。先に部隊を纏めに行ったのだろう。コルットもそれを見送って重い腰を上げた。そして小さく伸びをする。この国の匂いを血生臭さから解放するためだ。心の中でそう整理してコルットは歩き出して行った。


 戦場を人が、馬が駆けてゆく。一つは北方から大きなうねりをもって、一つは西側から機械を伴って、一つは南西に杖を持って待ち構え、東もまた整列して待ち構える。そして南東からも美しく華やかな集団が蠢いていた。


 コルットは馬に乗りながら作戦を確認する。大戦は前回大戦からちょうど半年後に再び始めることにした。大戦の始めは二地区が意思表明をすることで行われる。大抵は外交などで険悪になった二地区が意思表明するのだが、今回は同盟だからである。もちろんそれは他地区には知らせずにあくまで険悪になった素振りで始める。


 毎回そうだが、始まると意思表明をした二地区は中央地帯に集まりすぐに戦いを始めることが多い。他地区に怪しまれないため最初はその動きを取る。そして大抵他の地区も中央に進軍してくる。その乱戦時にお互いが助け合う形で戦うという作戦だ。中央に来る地区の数でその後の作戦が変わる。


 一地区なら最初に挟み撃ちをし、片方はすぐに切り上げ待機している地区に進軍する。この場合は協力を前面に出さなくて良いため、この時点では他地区もまだ部族とアマゾネスが同盟関係である事がわからない。


 二地区の場合は、その二地区が戦うように誘導する形を取る。そうすればお互い攻撃し合わない部族とアマゾネスは有利に戦いを進められる。これも簡単には見破られないが、騎兵団辺りは気付くかもしれない。


 三地区の場合はすぐに中央を離れ三地区の交戦を窺うようにする。ただ離れるだけでなく、戦いの場を移したように見せかける。つまり別場所でアマゾネスと部族でやり合うように移動するのだ。これも簡単には見破られないだろう。


 作戦的には三番目が有力視されてたが実際は一番目の様だ。中堅の作戦だ。二番目が一番難しいとされていたためそれよりはましといったくらいだ。位置的に部族が魔術都市側に動くのは困難なため、アマゾネスがラニッチに仕掛ける形になる。この場合はできるだけ早く部族軍と接触し、向こうの女戦士隊とこちらの隊を入れ替える作業をする。部族側にアマゾネスを配備させ、敵の虚を突くのだ。入れ替わった部族の女戦士達は伏兵として待機させ、機械軍が撤退しようとしたときの伏兵にする。ここで確実に一地区を落とすのだ。 

  

 さて、そうなるとアマゾネスは一隊を失った状態で騎兵団と戦わなければならない。よってその算段を今のうちにしておかなければならない。隊が少ないというのは元々数が少ないというのもあり戦況的には輪をかけて不利だが、勝つには時間が掛かるとポジティブに考える事ができる。つまり、アマゾネスがラニッチと戯れている間に部族が二国を相手にしてくれるという事だ。焦らずじっくり戦えばいい。相手も待ちの姿勢なのだからゆっくり戦えるはずである。後はどう有利に持っていくかだ。


 一しきり考えてみるが、特に良い案は浮かばなかった。そもそもその筋のプロフェッショナルじゃないためコルットに良い案が浮かぶ訳もない。今言っていた作戦も大概は周りが決めたことだ。ただ、だからこそ思考が周りに考えさせれば良いというものになる。一度接触する前に腰を落ち着け、会議を開けば良いのだ。


「ネネチ」


 コルットが鋭く呼びかけると、すぐにネネチが飛んでくる。


「はっ」


「騎兵団との接触前に軍会議を開く事をミータ様に進言しろ」


「はっ」


 ネネチは頼もしく応えてすぐに向かって行った。


 と、そうこうしているうちに中央地帯に着いてしまった。まだ機械軍は到着していない。すぐに部族と交戦に見せかけた隊の交換を行う。送る隊は相性を見越して魔術師隊のロイヤだ。機械は魔術による干渉を嫌う。また、そのあと戦う魔術都市軍にも対応できる。


 軍の入れ替えが終わった頃に機械軍が到着する。機械軍はそのまま押し寄せるようにアマゾネスと部族に絡み始めた。少数を部族と交戦させているように見せかけて、主に機械軍を相手取る。機械軍は特殊な軍団である。兵の大半が機械であり、マインダーという指揮官が特殊スーツを着て周りの五体から十体くらいの機械兵を操っているらしい。機械兵は一体一体の能力が高く、アマゾネスと比べても遜色はない。


 ただし、指揮官であるマインダーを仕留めると一気に戦力が減るという欠点がある。そうは言っても特殊スーツを着たマインダーは能力が高く、機械兵以上に厄介だという事だ。ただし、機械軍は皆魔法への耐性が低いことで知られており、そこに活路があるとされている。通常の軍隊とは異なるため、戦法も変えなければいけない。それが厄介だ。と言っても無知なコルットにとっては皆同じだが。


 既に戦端は開かれており、各部隊があちらこちらで戦っていた。ミータは後方に構えて動かない。大将が出るのはまだ早い。


 さて、コルット軍だが、完全に出遅れていた。


「サリー大将軍如何しますか」


 部下が不安気にコルットを見つめた。正直何をどうするのか正解がわからない。コルットは参戦するべきか否かで迷っていた。方針としては一撃離脱であり、ある程度の戦果を得たら早々に切り上げて騎兵団に向かわなければいけない。ともかく攻撃力の高い陣形で突っ込めばいいのか。


「魚鱗の陣で突撃する」


 とりあえず、部下たちの不安を煽らないために冷静な口調でそう言った。だが、内心はバクバクである。模擬戦と違って一歩間違えれば戦死者が多数出る。冷や汗ものである。


 魚鱗の陣を選んだ理由は簡単だった。騎兵隊は通常偃月陣で戦っていくのが良いと勉強している。しかし、機械軍には普通と違う戦法で戦わなければいけないという知識もある。では、ということで攻撃力の高い陣形として選んだだけだ。情報伝達速度も他の陣形に比べて速いようなので、万が一間違ってもすぐに立て直せると思っている。


「はっ」


「陣形を整えながら右前方の部隊と接触する」


 ちょうどメリッサ隊の後ろに回り込もうとする部隊を見つけたのでそこを標的に動き出す。移動しながら陣形が組めるのはコルット隊、正確にはサリー隊の特殊技だ。そういう訓練を受けているらしい。サリーと言うのはとても良いの将軍だったのだろう。


 かくしてコルットの采配は上手く嵌まる。敵部隊はコルット隊に側面を突かれる形になり、その隊は壊滅状態になる。魚鱗は密集している陣形なので、複数人でマインダーを狙えたのが幸いしたのだろう。被害も多くは出ていなかった。


 この戦果をもってアマゾネスは全軍に撤退命令が下った。目標の戦果を得られたのだ。他の隊もあまり被害は出さずに戦果を得ている。もちろん一番大きかったのはコルット隊だ。


 作戦通り部族から預かった隊を近くに潜ませ東側に撤退していく。追っては来ないようだ。当然と言えば当然で、機械軍は部族軍に集中した方がやりやすいのだ。


 中央戦線から離れて陣を張る。ちょうど騎兵団と中央戦線との中間地点だ。作戦会議である。


「さて、どうやって騎兵団どもとやり合うかじゃの」


 ミータが腰を落ち着けて重厚に言う。皆の顔を見つめるが、特に良い案があるという訳では無いようだ。実際、誰も発言をしなかった。


「先に少し整理しませんか」


 コルットが発言する。自分では良い考えが浮かびそうにないが、それを助けることはできるかもしれないと考えている。つまり情報を整理すれば少しくらい考えが浮かぶかもしれない。


「現在のアマゾネス軍は六万。対して騎兵団は十二万。その差六万。倍ほどもある。騎兵団は守りの構え。相手は悪知恵の働く小賢しい相手。数の差があるので奇策で攻めるしかないが、果たして通じるか。と言ったところでしょうか」


 ロロアが纏める。改めるとひどい状況である。もちろん数の差はあっても一人一人の兵の質は断然にこちらが良い。つまり数ほどの差はない。とは言え、倍も違うとさすがに有利に戦を運ぶのは難しい。最終決戦なら正攻法も考えたいが、今はまだ後が控えているので兵力をいたずらに減らしたくはない。だから必要なのが敵に通じる奇策なのである。果たしてそんなものがあるかどうか。


「奇をてらった策、それも騎兵団を騙しうるものとなるとかなり難しいですね」


 メリッサが言う。皆はうーんと悩み込んでしまう。


「もう少し敵の情報を整理しませんか」


 コルットは再度提案する。というのも騎兵団には特殊な能力があるのだ。


「騎兵団は智恵が働くのというのもそうですが、それとは別にシナジーという特殊な思念伝達を使いこなします。それにより早く正確な情報が行き渡りやすく。また命令への反応も早い。戦闘も複数人によるコンビネーションを得意としており、それが何よりの強みだという点です」


 コルットがいつも引っかかっているのはここなのだ。ここがどうにかできれば数の差はあってもアマゾネスが有利に戦う事ができるはずなのだ。特に数の差が多い騎兵団側がこちらに奇策を当てるとは考え辛い。つまり正攻法で攻めてくる。こちらも正攻法で攻めるとなれば、力と力の差でなんとか押し切れる。アマゾネスは少なくても常人の三倍の身体能力があるからだ。数が六万なら十八万の兵がいると同じだと言っても過言ではない。


 ただ、シナジーという特殊能力がその身体能力の差を絶妙に埋めていると考えられる。集団戦ではほぼ対等に渡り合ってくるだろう。つまり数の差がそのまま浮き出てしまう。ということはこのシナジーを攻略できればアマゾネスは有利に戦を展開できると言っていいはずだ。


「余計に絶望的になっただけに思えますが」


 ロロアが冷たくそう言う。やはりコルットに対してどこか冷たい気がする。


「どなたか騎兵団のシナジーについて詳しい方はいませんか」


 コルットはロロアのことは置いといて話を進める。今どうこうできる問題ではない。


「騎兵団のシナジーか。妾が調べた限りだと、騎兵団のシナジーによる伝達は基本的に一方向で行われる。つまり同時に複数の情報を行き来するのは難しいらしい。それ故に騎兵団の者どもは情報伝達の方法を隊ごとに行っているらしい。


 例えば千人の集団がいたとした場合、末端の兵士がリーダーに情報を伝える場合直接リーダーには情報を渡す訳ではなく、五人隊のリーダーにまず渡し、次に五十人の中のリーダーに渡し、そして百人、三百人と経て千人のリーダーに行きつくのだそうだ。


 そうしないと情報同士がぶつかってお互いに情報が受け取れない時があるらしい。また、一度に受け取れる情報数と渡せる情報数は個人差はあるがある程度決まっているらしい。どれくらいかまではわからないが」


 ミータが意外にも詳しかった。皆驚きの表情を向ける。


「まあ、敵国の情報は王として知っておかねばならぬからな」


 ミータは照れくさそうにそう言った。さて、しかし良い情報を得た。受け取ったり渡せる情報数に限りがあるというのが糸口になりそうだ。


「そのリーダー達を的確に狙っていくというのはどうでしょう」


 メリッサが提案する。が、それは無理だろうとコルットは思った。


「それはどうでしょう。シナジーが目に見えない以上、リーダーを狙うのも困難かと思われますが。紋章などの目印があれば別ですが」


 ロロアが理由を説明した。コルットも激しく同意である。


「いえ、思念による伝達手段があるのにわざわざ目印を作る必要はないでしょう。それよりも情報数が決まっているのであればパンクさせることも可能なのではないでしょうか」


 コルットは思い付きを口にする。具体的にどうパンクさせるかというのはさっぱりわからない。


「攪乱作戦という事か」


 ミータが専門的に整理してくれる。


「はい。ともかく人が抱えきれないほどの情報を繰り出して、シナジーの動きを無力化します。そうすれば兵の質で上回る我々が有利に戦えます」


 コルットが言えるのはここまでだ。具体的なやり方が出てこなければそれでこの作戦は無かったことになる。


「隊を小隊に分け伏兵として小出しにぶつけるということですか。できるだけ色々な場所から仕掛けた方が混乱しますかね」


 ロロアがぶつぶつと考えながら言葉を発する。何やらそれらしい動きはできるようだ。


「攻撃手段も途中で変えたりすれば更に混乱させられるのでは」


 ロロアの言葉に反応しメリッサが上乗せで提案する。こちらも考えがあるようだ。


「我が隊が動けばそれだけでもだいぶ混乱はするだろうな」


 ミータも話を合わせる。どうやらいい作戦が練れそうである。


「報告があります」


 と、そんな折に急に兵士が入ってきた。将軍達は話を止めてその兵士を見る。兵士はだいぶ慌てた様子だった。


「騎兵団こちらに進軍してきます」


「何」


 誰ともなしに皆で驚きの言葉を漏らす。完全に虚を突かれた。


今後の活動の為感想など頂けると幸いです。

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