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第一章 英雄の誕生 第四節 地下組織ルドルフ

地下組織ルドルフとはどんな団体なのか

第四節 地下組織ルドルフ7


 外へ出ると街の端まで連れられた。そこに先程先に出た二人のうちの一人が待っていた。街の外からは馬車を引くもう一人が見える。どうやら馬車に乗って移動するらしい。サリーはゼーケと別れ、メーテと共に馬車に乗り込む。馬車は国の外へと向かって走り出した。


 サリー達が先程いた街はストリームと言い、部族の集落の東端に位置する街だった。部族の集落の東は中立地帯とされており、三百年前は一勢力があったとされている場所だ。よって外へ出るのにあまり厳重な審査が行われる事はない。


 サリーはそのまま三時間ほど馬車に揺られた。その間メーテと話すことはなく、ただ黙々と揺られているだけだった。三時間すると、馬車は廃墟に着く。サリーはそこで降ろされた。そのままメーテに連れられて歩くと、廃墟の中にある地下へ続く階段に着く。


「ここよ」


 メーテはそれだけ言って中へと入って行く。サリーは黙ってそれに続いた。中は暗く、メーテは光の魔法を唱えて、明るいボールを出して進んだ。そのままメーテに連れられ迷路のような通路を十五分ほど進むと、一つの扉の前に着く。メーテはそこで五回戸を叩く、と奥から声が聞こえてきた。


「合言葉は」


「ルドルフ・レボリューション」


 メーテがそう言うと扉が開き、小さく「入れ」と声がする。そのまま四人は中に入る。扉の先は広く明るい空間で、教会のようになっていた。中央には三百年前に滅びたとされる地区の王の像が祭られており、教団らしきものと、たくさんの椅子が押し並べられている。


「ここは元エルフ地区の地下街。今から貴方に会ってもらうのはここを拠点に活動する組織ルドルフのリーダー」


 メーテがここにきてやっと説明する。しかし、覚悟をしていたとはいえかなり唐突に言われたので、サリーは反論の一つでも言おうとするが、


「ごめんなさい。私はルドルフの幹部。言いたいことはたくさんあるでしょうけど、ともかく先に話を聞いてちょうだい」


 先手を打ってメーテが口を塞ぐ。サリーは諦めてメーテの言う通りに話を先に聞くことにする。その後、二つほど部屋を進んだところでメーテに待たされる。会議室のような場所で、長机に椅子がずらっと並んでいる部屋だ。とりあえず適当なところに腰を掛ける。暫くするとメーテがベレー帽のような帽子を被り、工具用の眼鏡を片側に付けた青年を連れてくる。服は作業用のオールオーバーで少し汚らしい。


「これがリーダーのセーキよ」


 メーテが青年を手で指してそう言う。セーキはきちっとお辞儀をして挨拶する。


「私がルドルフのリーダーをさせてもらっているセーキです。宜しくお願いします。サリーさんで宜しいのかな」


 セーキがきちっと挨拶をするのでそれに倣ってサリーも立ってきちっと挨拶をする。見た目が男だが女の名前を持っているという事でセーキが確認をしてくる。


「はい。訳あって男の身体にされてしまっているサリーと申す者です。身体が入れ替わる前はアマゾネスで将軍を務めていました」


 「なるほど」とセーキは小さく呟き手で座る様に合図する。サリーは座り、セーキ達も座った。以前ゼーケが懸念したように、自分がアマゾネスの将軍だったことは伏せた方が良いかとも一瞬考えたが、ここが中立地帯でしかもそこに巣を張って影で動く組織ということで、あまりそこには警戒しないで言った。そもそもメーテには全て知られており、メーテはここの幹部なのだから隠していてもしょうがない。


「そうですか。アマゾネスの。アマゾネスには知り合いが何人かいます。身体を替えられたという事で難儀なさっているようですね」


 セーキは物腰柔らかく話を進める。


「ええ、テンタティブドラグナーに替えられてしまったらしい。だからドラグナーの祭壇に向かおうとしていたところだ」


「なるほど。テンタティブドラグナーに」


「厳密にはテンタティブドラグナーに会う方法を探しているのよね」


 メーテが横から補足する。


「まあ、そうだ」


 サリーは短く応える。何故メーテがそこを強調するのかわからない。そう言えば選択肢が増えると言っていたがそれと何か関係あるのだろうか。


「メーテ。後腐れが無いように全部話しておく方が良いと思うんだけど、どうかな」


 セーキが意味ありげなことを言う。サリーは訝しんで様子を見る。


「そうね。その方が良いけど、どう話していくのが良いかわからなくて」


 メーテもそれに同意する。何やらサリーの知らぬところでサリーは巻き込まれているようだ。


「僕から説明するよ」


 セーキは軽く深呼吸をして呼吸を整える。長い話の様だ。


「実は、僕達は君のことを待っていたんだ」


 そしてセーキが話を切り出す。待っていた。ということは知っていたという事だろうか。


「シーミャの手先という事かな」


 一番最悪のケースを口に出してみる。仮にそうならここに連れてこられた時点でアウトだ。


「いや、それは違う。知っていたと言っても映像で見ただけさ。名前とかまではわからなかった」


 セーキが訂正する。


「ということは予知していたという事かな」


 サリーは推察する。


「そうだね。予知していた。検索ワードは争いを治める者」


「争いを治める者」


 サリーはその言葉にピンと来ない。争い。つまり戦争という事だろう。ということは自分がこの戦争を終わらせる者ということ言っている事になる。しかし何故自分なのか、そこに納得がいかない。そもそも何故そんな人を彼らは探しているのか。


「我々の活動から説明させてもらうよ。我々ルドルフはこのプル国で起こる戦争を終わらせるために活動する組織だ。思想だけじゃ無いよ。ちゃんと実績もある。各地区の要人も参加しているのさ。僕なんかもコスカの大技師長を務めている」


「大技師長。何故そんな人がこんな所にいる」


 純粋な疑問としてサリーはぶつける。大技師長となれば機械都市でも三本の指に入る強者だ。地区を放ってこんな所に来れる訳がない。


「コスカでは機械が作業するからね。僕の優秀な機械が大概のことをやってくれる。ここのリーダーやってるのも一番時間をさけるからなんだよ」


 「関所を通り、何日も掛けてここに来るという事か」


 サリーは物理的な問題を上げる。地区の要人が関所を簡単に通れるわけもなく、また機械の街からここはどんなに早くても三日は掛かる。


「これは僕の発明でね。空間転移装置がここにあるんだ。各地区のある場所にも設置しているから皆すぐにここに来れる」


 空間転移装置。そんな便利なものがあるというのだろうか。だとすればコスカはとんでもない戦略を練る事ができる。反射的にサリーは殺意をセーキに向ける。椅子を押しのけ柄に手を掛ける。と、ぱちんと指の鳴らす音がして身体の力が入らなくなる。前に女性を前にした時と同じような現象が起こる。


「ごめんなさい。儀式の際、肉欲の呪いを掛けさせてもらったわ。私の意志で貴女を無力化できる」


 メーテはサリーには目を合わせずに少し申し訳なさそうにそう言った。


「貴様」


 サリーは振り絞ってそう叫ぶも、身体には力が入らない。完全に一杯食わされた。


「メーテ。大丈夫だから」


 セーキはそう言って呪いを解くように促す。メーテはそれを聞いてもう一度指を鳴らした。サリーは脱力感から解放される。するとすぐにメーテ目掛けて飛び掛かった。だがその一撃はセーキの腕から伸びた金属に阻まれる。


「言いたいことは色々あるでしょうが、お話を最後まで聞いてからでお願いします」


 セーキはそう言いながら殺気をサリーにぶつける。仮にも機械の街トップスリーの殺気を受けて、サリーは冷静になる。今この状況で暴れても勝算はない。わかっていることだがメーテの裏切りに感情的になってしまった。


「これは保険よ。我々がやっているのはクーデターと言っていいわ。だから念には念が必要だったの。それにどちらにしても貴女が持っていた弱点は何かしらの形で封印しなければならなかった。お願い、わかって」


 メーテは真剣に懇願する。嘘を言っている風ではない。が、やはり何も言わずに呪いを掛けたことは簡単には飲み込めない。ただ、状況もあるのでふんっと鼻を鳴らして反感の意志を見せるに留めた。


「悪気はないのよ」


 メーテは寂しそうにそう呟く。


「剣を納めて頂きありがとうございます。まずは席に戻って下さい」


 サリーはメーテを一睨みしながら席まで戻る。メーテは俯き加減で目は伏せている。


「さて、我々の目的は戦争を終わらせることだとお話ししました。そしてそれを終わらせてくれる存在として貴女を予見した。正確には貴女のその身体ですか。映し出されたのはその身体の方なので。映像には貴方が闘技場で戦う姿を確認しています。何人もの猛者を倒して勝つ姿が。


 占いには映像と共に我々が闘技場を主催することを勧められていました。そこで、我々は貴女と接触できるように自らが主催となる闘技場を開いたのです。また何人か直接接触できるように人を送りました。その一人がメーテです」


 サリーは黙って聞いていた。大体のあらましはわかった。闘技場からメーテの接触までは全て仕組まれていたことという事だ。しかしそれと呪いを掛けることとは話が別である。というより真逆の方向を向いているといって過言ではない。現に今サリーはかなりこの組織に対しての不信感を持っている。


「それで私を無理やり働かせるために呪いを掛けたと」


 サリーは幾ばくか挑戦的に吐き捨てる。


「それはーー」


 メーテが反論しようとしたところで、セーキがそれを手で制する。


「それは少し違います。あくまで貴女という素性がわからぬ我々としては、どうにかここで引き合うための手段が必要だったというだけです。詳しいことはわかりませんが、何らかの誤算があってメーテは貴女を無力化する形での呪いを掛けてしまったのでしょう。予定では色仕掛けに多少の魔法を加えたもので誘う程度のものでした」


 色仕掛けというのは当たらずも遠からずといったところか。先程メーテは女に弱いという部分を何らかの形で封印する必要があったと言っていた。つまりは半ば偶発的に無力化できる状態になったという事だろう。そこまでわかってもサリーはまだ納得はできないでいた。


「占い程度のもの、つまり不確実なものに対してなぜそれほどの事ができる。全て起こりうるのが前提でやっているように思われるが」


 占いとは百パーセントのものではない。特に未来予知の類は情報を限定すればするほど精度が落ちるのが普通だ。それなのに“争いを治める者”という限定的な条件で予知したものを盲信している気がする。


「それに関しては色々ありますが、取りあえずは精度の高い占い師がいると思って下さい。それに一応の保険なようなものも掛けているのです」


 と、セーキはふわっと説明する。がしかし顎に手を当て、少考してからすぐに続ける。


「うーん。そうですね。これもしっかり説明しましょう。戦乱を治めるにはそれなりの勢力が必要なのはご理解頂けると思います。もちろん各地区の要人の協力を取り付けている以上ある程度の勢力はあるのですが、それだけでは足りません。そこで我々はアッシュウォーリアーズと交渉をしているのです。そして彼らの協力の条件が彼らが推薦する占い師による占いで出た人物を仲間にすることでした。そして占いで出たのが貴女という事です」


 なるほどつまりルドルフとしてはサリーは交渉の材料だったという事だ。


「先程何人か闘技場に忍ばせたと言いましたが、貴女が戦ったアッシュウォーリアーズがそうです。どうやら自らの目で確かめたかったようです。また、仮に貴女がいなくても、優勝賞金と賞品をもって多少の協力は取り付ける算段になっていました。あのルールならアッシュウォーリアーズが勝ち残るでしょうから」


 それが保険という事だろう。だいぶ説得力はある。


「もちろんそれではある程度の協力しか取り付けられませんので、こちらとしてもサリーさんには出現してもらった方がよかった訳ですが」


 大方の説明を聞き終えてサリーはだいぶ落ち着きを取り戻していた。占いを盲信する宗教集団ではないし、行動も割と合理的だ。ただ根本の戦争を終わらせるという部分がもう少し詳しく知りたい。


「最初に、戦争を終わらせたいと言っていたが、それは何故だ」


 予想はつく。だが、本人の口から聞いてみたい。


「戦争では国は疲弊します。それは国力だけでなく人の心もです。この国では戦うことが当たり前になってしまいました。しかし人間の営みとは決して争う事だけではないのです。時に争うことはあるでしょう。しかしそれはあくまで一時の事。


 この国の争いは果てることがなく。その戦争で死ぬ人も絶えることはありません。恨みは充満し、何時しか同じ国の者同士なのに人々はお互いを憎しみ合うようにしか交流できなくなりました。


 その法則を捻じ曲げたいのです。他国では争いのない平和な国が築けていると聞きます。この国もそうなるべきなのです」


 セーキは力説する。同じようなことは実はサリーも考えていた。兵士になったのも上り詰めて何か変えられないかと思ったからだ。その心は片時も忘れたことはない。むしろ忘れなかったからこそここまで来れたというのもある。仮にこのルドルフがその活動を本当に願ってやっているのなら、少しくらいの協力はしても良いかもしれない。と、サリーはちらっと考える。


「言ってることは立派だが。どうやってそれを成し遂げようと言うのだ」


 結局その方法が具体的にわからなくてサリーは戦争に参加してしまっている。


「勝者を決めてしまえばいいのです。戦争の勝者を」


 なんだそんなことかとサリーは落胆する。詰まる所はサリーと同じ方法である。少し期待していただけにかなり呆れてしまう。


「馬鹿馬鹿しい。新しい勢力でも興すというのか」


 本拠の場所といい、その可能性は高そうだ。しかしそれでは争いが激化するだけである。


「いえ、勢力は持ちますが我々で王を勝ち取りに行く訳ではありません。特定の地区に肩入れするだけです」


「肩入れ。つまり機械の街に肩入れするということか」


 ルドルフのリーダーが機械の街の人間なのだからきっとそうなのだろう。結局変わったこと言っても私情である。


「いえ、機械の街とは限りません。大戦で勝ちそうになった地区ですね。もっと言えば、ドラグナーの素養がある地区ですね」


 なるほど、私情ではないらしい。


「ドラグナーの素養とは」


「先に言った戦争とかけ離れている地区です。あくまでもっともですが、好戦的な王はこの国を良く導いてくれはしないでしょうから」


「それをどうやって見極める。この国の柄から言っても皆好戦的に思えるが」


「戦況を見てその時に。正直好戦的でないというのは希望です。結局は勝ちそうな地区に加担する形になってしまうかもしれません」


 まあ、妥当な答えだと思う。戦争に出ているからわかるが、どこも似たり寄ったりである。ひいき目で自分の地区はと思うが、それぐらいである。むしろ普通は自分の地区しか考えられないのだから、そこのところをいくと地区を選べるというのは少しだけ工夫があるのかもしれない。


「何故今までは参加しなかった。前回で言ったらタイオーとコスカが残った。加勢するのではないのか」


 サリーはこの話をゼーケから聞いている。


「前回は二勢力になったのが大戦終了の三日前でした。そこからでは加勢しても決着が着くかは疑問でした。我々が加勢するときは確実に勝ちを決める時です。それにその時はまだ我々の力が弱かったのです。各地区の要人は集めていますがそれぞれは大戦に参加しており、疲弊し敗退しています。このままでは実現が難しいのです」


「実現は難しい。では何の意味もない団体だな」


 サリーは辛辣にそう言う。メーテの件でルドルフへの心象は悪い。


「ええ、だからこそアッシュウォーリアーズなのです。彼らは彼らが加担すればその地区が勝つと言われるほどの戦士達です。我々の計画には彼らが必要なのです。つまり貴女の協力が必要という事です」


 セーキはそこまで言うと頭を下げた。


「お願いです。私達に協力してもらえないでしょうか」


 メーテも一緒に頭を下げる。が、サリーの心象はあまり変わらなかった。確かに彼らの言う通り彼らの計画にはアッシュウォーリアーズは必要であろう。その協力を全面的に受けられるようになるサリーの協力も必要だ。


 だが、メーテのやり方はいざとなれば否でもと言わんとばかりのやり方に思える。偶発的なものとは言え、人の弱みを握って協力させるようなやり方は印象が良くないのだ。直接そう言われた訳ではないが、それほど先程の現象はサリーにとって衝撃的だった。サリーは断りの言葉を言ってみようとする。


「すまないがーー」


 バタンッ


 サリーが言いかけたところで扉が勢い良く開いた。すると、そこには懐かしい顔があった。


「サリー大将軍、なのか」


 そこにいたのは共に戦場を駆け抜けたロロアの姿があった。


「ロロア、大将軍」


 サリーは一瞬何が何だかわからなかったが、すぐにロロアもルドルフの一員であることに行きつく。


「ルドルフのメンバーなのか」


「はい。本当にサリー大将軍なのですか。ではアマゾネスにいたあの者は一体」


 ロロアもまだ整理ができていないようだ。きっとサリーの身体を操るコルットを目撃しているからだろう。


「この身体の主はコルットと言うらしい。おそらくロロア殿が目撃したサリーにはそのコルットの精神が宿っていると思われます」


 サリーはロロアの思考を整理させるために簡潔に状況を説明する。


「そうですか。コルット……。念のため確認させて頂きたいのですが、前回の大戦のことはご存知ですか」


「ああ、もちろんだ。タイオー・ラニッチ軍と我々二人で戦った。ミータ様も途中で横やりを入れなさって、それを機に撤退することとなった」


 これもやはり簡潔に答える。撤退する流れなどはその場に居た者しか知らないだろう。


「なるほど。ご本人のようですね。失礼しました。コルット、という者ですが、サリー様のお身体を記憶喪失と偽って我が物としております。コルットとは何者なのです。敵地区の策略ですか」


 当然と言える質問をロロアはぶつけてくる。サリーはいきさつを説明した。


「そうですか。テンタティブドラグナー。だいぶ厄介な事になってますね」


「ああ、とりあえずドラグナーの祭壇に行こうかと思っている」


 一通りの説明を終えて、サリーは自分の意志を明らかにする。つまりルドルフには協力しないという事だ。


「ちょっと待って。私達に協力すればテンタティブドラグナーに会えるわ」


 メーテがそう叫ぶ。かなり必死だ。


「確かに、貴方方の計画が上手くいけばそうなることもあるでしょう。だが、こういうのは信用の問題だ。私は貴方方を信用しきれない」


 サリーははっきりと断った。すると、メーテが明らかに感情を高ぶらせた。


「私達には貴方がひつよーー」


 メーテは叫びながら手を高く上げて指を鳴らそうとする。すると、セーキがその手を掴みそれをさせない。


「メーテ。そういうところがダメなのです」


 セーキは理解があるようだった。セーキが制するとメーテは悔しそうに俯く。サリーはその場から去ることにする。


「貴女に会えてよかった。ロロア殿。また別の機会に話ができればと思う。では」


「待って下さい。サリー大将軍」


 するとロロアがサリーを止める。これがロロアでなければサリーはそのまま去っていた。サリーは歩を止めてロロアに向き直る。


「詳しいいきさつはわかりませんが、占いの示す英雄とはサリー様のことだったんですね。私は占いなどはあまりあてにする方ではありませんが、この占いに関しては信じれる気がします。サリー様にはその素養がおありです」


「ありがとうロロア殿。ただ、そういう問題ではないのです。私はルドルフのやり方、特にそのメーテを信用できないのです。貴女達の計画は私抜きで行って下さい」


 サリーがそう言うと、メーテがくっと顔を上げてサリーを見る。そして、また大きな声で話す。


「わかったわ。私がルドルフを抜ける。だからお願い。貴女は協力して」


 半ば泣くような言い方だった。その宣言は各々に衝撃を与える。


「ちょっと待って下さいメーテ」


「メーテさん。それは……」


「……」


 三者三様の反応。サリーは少し考える。


「原因は私だもの。別に私なんかが居なくてもルドルフはやっていける。でもサリー貴女は必ず必要だわ。だからお願い。貴女は協力して」


 メーテは真剣に訴える。


「メーテ、それはいけません。貴女も必要です」


「メーテさんはルドルフ初期のメンバーです。ここでいなくなるのは士気に関わるかと」


 セーキとロロアが止めにかかる。サリーはただその様子を見ていた。


「いいえ、ここでサリーを失い、アッシュウォーリアーズの協力を仰げない方が士気にかかわるわ。というより事実上ルドルフの作戦は失敗。それじゃあ今までやってきたことが全てパーだわ」


「しかし貴女がいないというのも」


「セーキ、大切なのはこの国の人、この国の未来、そうでしょ」


「メーテさん考え直しませんか」


 サリーはそれらのやり取りを見て、心が動いた。


「わかった」


 三人が喚く最中に発せられたその一言はその場の空気に一瞬の静寂を与える。


「ありがとう。サリー」


 メーテはそう言って顔を勢いよく扉の方に振り、そのまま扉に向かって歩き出しその場を去ろうとする。


「ただし、条件がある」


 サリーはそのメーテを引き留めるように強く言った。メーテは立ち止まる。目には涙が溢れていた。


「メンバーの離脱がない事。それと、私を弱体化させる魔法を使わないことだ」


 空間の中にサリーの言葉がしっとりと染み渡る。ふわふわしていた綿のような空間がそのおかげでずっしりと腰を落ち着けた様だ。その綿は水分も拭き取ってくれる。


「そういうことなら喜んで。ありがとうございます」


 セーキはサリーに頭を下げた。


「メーテ、ルドルフの為に残ってくれませんか」


「……はい」


 ただ拭き取れる水分は悲しみに満ちたものだけで、嬉し涙までは拭き取らない。空間を嬉しさでいっぱいにしたいのだ。


「ありがとう」


 最後にそんな言葉が空間を埋め。ルドルフに新たな仲間が加わるのだった。


遂に第四節終わりました。

第五節は一章最終節になる予定です。

今後の活動のために感想など頂けると幸いです。

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