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第一章 英雄の誕生 第四節 地下組織ルドルフ

今回はあの人が再登場

第四節 地下組織ルドルフ6

 

 それから丸三日経った頃に漸く結界は解かれた。


「ハァ、ハァ、ハァ。一体どうなってるのよ、貴女の、コルットの身体は」


 メーテは横になりながら息絶え絶えにそう言う。結界が解かれると同時に服は元道理になっている。他の二人は気絶しているようだ。


「ありが、とう。これで、弱点が減る」


 サリーも仰向けになりながら息を荒くそう言う。この三日。ある意味で夢のような時間だった。自分であるという感覚なったのは本当に結界が消える直前くらいだ。もちろん映像としては残っている。しかしどれも現実味のないものばかりだ。


「少し、休ませて」


 メーテはそう言ってそのまま眠りに落ちた。サリーの方はそこまで眠たくはならなかった。身体こそ疲れてはいるが、意識ははっきりしている。半分寝ていたような状態だったのだろう。そう思うと至極納得できる。


 サリーは天井を見つめながらエンジュル隊にいた時の事を思い出した。あの時は女性を売る商売というものを理解ができないでいた。人を売るという非道徳的な側面もそうだが、その人を求める側も求める側だと強く非難めいた気持でいた。お金を出してまで求める意味が理解できなかったのだ。


 ただ、男の身になって、儀式を通して、その意味がなんとなくだが理解できるようになった。もちろんだから許すという訳では無いが、それが裏の商売として成立する意味を知ったのだ。体感として。


 サリーはふっとヘッドスプリングで起き上がる。このまま三人をここに寝かせては風邪を引かせてしまう。大会の賞品とは言え自分のために身体を張ってくれた人達だ。サリーは近くの宿屋を探し、一人一人運ぶのだった。


 メーテとは一晩付き合うことになっている。三日三晩付き合ったと言えば付き合ったが、さすがにあれはカウントされないだろう。待たなければならないが、三人が起きるまでまだ時間がありそうだ。サリーは外に出て少し街を散策することにする。


 儀式を終えてからはどこか身体が軽くなったように感じる。無防備な女性を見ても高揚感に悩まされることはない。もちろん男としての正常な反応は多少あったが、それぐらいだ。サリーは街を探索して興味本位に女性に目を向ける。どの女性を見ても大丈夫だ。女性という弱点を克服したのを実感する。


 そんな時分に、一人の女性にのみ強い反応を起こす。その女性は何やら道行く人に何かを訪ねており、どこか必死な面持ちだった。サリーはその女性を見たことがある。と、その女性と目が合った。


「コルット、じゃなくてサリーさん」


 その女性が大急ぎでこちらに迫って叫んだ。そう、ゼーケだ。


「ゼーケさん。何でこんなところへ」


 サリーは訳がわからずに尋ねる。


「なんでじゃないわよ。大会が終わっても全然帰って来ないから心配で」


 そうだ、そう言えば三日経っているのだとサリーは改めて思う。


「すまない。少々商品を受け取るのに時間が掛かってね」


 サリーは頭を掻きながら申し訳なさそうにそう言った。


「えっ、コルット。じゃなくてサリーさん。口調がコルットのじゃなくなってる」


 ゼーケがすぐに口調のことに気付いた。サリーは事のあらましを説明する。


「そっか。コルットの口調じゃなくなったのね」


 ゼーケは一通り話を聞くと、どこか物寂しそうにした。サリーはその様子に気付いて頭をポンポンと叩く。


「コルット君は必ずこの身体に戻すよ。私も早く元の身体に戻りたいしね」


 安心させるようにそう言ったが、ゼーケはまだ不安気だった。


「でもどうやってドラグナーの祭壇に入るの」


「それはまだわからない。だがさっき言ったメーテという人は何かしら解決の手助けになってくれるようなんだ」


 確証はないが選択肢が増えると言っていた。それがどれほどのものかはわからないが、メーテの目は信じられるものだった。


「そうなんだ」


 ゼーケの物寂しさは変わらない。そして一拍おいて言葉を続ける。


「私も付いて行っていい」


 ゼーケは急にはっきりとした口調で、決然とした目でそう言う。


「いや、それは」


 サリーは言い淀む。別段迷惑な訳じゃないが、ゼーケの家がゼーケの家である。ゼーケの家は国の宝具を祭る神社であり、その家の者はその宝具を守ることを義務付けられている。そのため戦争の徴兵に駆り出されたりすることはない。


 コルットが、いや、コルットの身体がこうして外に出られるのはコルットが孤児であるからだ。闘技場に出る際にもゼーケが一緒に行くと言っていたが、両親こっぴどく反対されているのを見ている。


「いや、お母さんとお父さんが許さないんじゃ無いかな。というよりここに来ることはちゃんと許可を取っているのかい」


 サリーが指摘するとゼーケはばつが悪そうな顔をして目を泳がせる。


「え、えーと。うん」


 わかりやすい反応にサリーはため息をついた。


「嘘はよくないよ。ご両親を心配させちゃだめだよ」


「家のことは大丈夫。別に私がいなくたって問題ないもん」


 ゼーケは頬をぷーっと膨らませて反論する。サリーはゼーケの目の前で思いっきり手を叩いて音を鳴らした。ゼーケはびくっとして目をぱちくりさせる。


「何」


「何じゃなくて、目を覚ましなさい。コルットのことはこちらでなんとかするから、大人しく帰るんだ」


 サリーが窘めると、ゼーケはまた頬をぷーっと膨らませる。


「だって、心配なんだもん」


「大丈夫だから」


 そんな問答が何度か繰り返される。サリーはきりがないとゼーケから逃げるようにその場を逃れた。しかし、ゼーケは執拗に追ってきてなかなか撒けない。撒いたと思ったところでメーテ達が寝ている部屋まで戻るが、すぐさま戸を叩く音が聞こえてくる。


「ちょっと、開けてよサリー」


 サリーは内心かなりうな垂れる。そして、ゼーケが喚き散らすので寝ていたメーテ達が起きてしまう。


「う~ん、いったいどうしたの」


 メーテはあくびをしながらサリーにそう聞いた。目を開けた先が自分の思っていた場所と違うので、そのまま目をぱちくりさせながら辺りを見回す。


「何。何がどうなってるの」


 そして、改めて状況を確認するためにサリーに問うた。


「かくかくしかじかで」


 サリーは事の成り行きを簡単に説明する。その間もゼーケが戸を叩き喚く声が止むことはなかった。


「とりあえず入ってもらったら」


 メーテがそう言うので、サリーは観念して戸を開けることにする。


「馬鹿コルット」


 と、戸を開けるとすかさず蹴り上げが飛んでくる。咄嗟のことでサリーは対応できずに股間に直撃する。サリーはえも言えない苦痛が下半身からせり上がり、主に腹からくる苦悶に身体が落ちる。あまりの激しい痛みに世界が回るようだ。


「わお」


 メーテはそんな感嘆の声を出す。ゼーケはその声でメーテの存在に気付き、また他の二人の女性に気付き、顔を紅潮させる。


「こらぁ、コルットォ。どういうこと」


 ゼーケは悶絶しているコルットの胸倉を掴み上げて壁に押し付けると、今度は膝蹴りで股間を狙う。サリーは今度は、半ば本能的に、対応してその膝蹴りをガードした。


「私は、コルット、ではない」


 サリーは苦しげながらなんとかそう言う。すると、ゼーケも我に返ったのか、赤い顔が可愛げな赤になり掴んでいた胸倉を離した。


「ああ、私。ごめんなさい」


 ゼーケは少ししおらしくなって、両手で頬を押さえた。


 少し息をついて情報を整理する。いつの間にか夕方になっていた。サリーの痛みも引き、ゼーケも大人しくなっている。サリーは最初ゼーケに会ったとき女性なのに高揚感が起きなかったことをなんとなく理解する。最初は幼馴染であり、姉弟の様な関係だからかと思っていたが、それだけではないようだ。


 一通り説明が終わるとメーテが口を添えた。


「ゼーケさん。貴女は帰った方がいいわ。邪魔だからとかじゃなくて、仮にコルットが自分の身体を探しに故郷に来たとした時に、事情がわかっている貴女がいないと何かと面倒でしょ。そういう意味で家で待ってて貰った方がいいわ」


 メーテが冷静に指摘した。ゼーケはさすがにぐうの音も出ないのか、押し黙っている。


「何度も言うようだが、身体のことはこちらに任せて欲しい。国の関所を通ったりするときは極力人数が少ない方がいいし、メーテの言う通りコルットが故郷に訪れる可能性は高い。その時に君が居てくれないと困るんだ」


 サリーはダメ押しでそう言う。ゼーケはついに観念したのか小さくため息をついた。


「そういうことなら」


 ゼーケは目は伏せたまま手をいじいじさせてそう言う。


「わかってくれて助かるよ」


 サリーは安心して少し楽になったのか、軽く息を吐く。


「さて、で、これからなんだけど。ゼーケさんは故郷に戻ってもらうとして、サリーは一先ず私についてきてもらうわ。約束した通りにね」


 メーテが仕切りなおして今後の方針を立てる。


「どこ行くの」


 ゼーケがぼそっとそう言った。実際サリーもそれは気になっている。かなり念を押して約束を守らせようとしていたが、一体どんな用事なのか。


「ちょっと、言えないわね。色々面倒で。ゼーケさんを疑う訳じゃないけど、ごめんね」


 どうやら面倒なことに巻き込まれそうだとサリーは直感する。


「どこに行くのでも構わないが、私の目的はあくまで身体を取り戻すことだ。それに影響の出ない範囲でしか協力はできないぞ」


 とりあえず先手を打ってみる。身体が入れ替わったというだけで厄介なのにこれ以上厄介事を引き受けるのは得策ではない。約束だから今晩は付き合うが、それ以上は付き合わないとサリーは心の中で決めておく。


「大丈夫。おそらくサリーにとっても有益な話になるはずよ。ともかく今はそれは話せないから黙ってついてきて頂戴」


 メーテはあまりここでそれを話したがらない。どこか周りの目を気にしている素振りだ。メーテと共にいた二人の女性は外を警戒するように窓と玄関に近い壁側にいる。


「もうすぐ時間ね。出発しましょう」


 そう言うとメーテは二人の女性に合図する。二人の女性は一足先に出ていき、どこかへ行ってしまう。ゼーケとサリーは顔を見合わせてこのきな臭い行動を訝しがる。だが、メーテという人物は信用して良さそうなので、それもそんなに強く前面には出さない。二人はメーテに連れられて外へ出た。


次回、漸くルドルフが出てきます。

今後の活動のために感想など頂けると幸いです。

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