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第一章 英雄の誕生 第四節 地下組織ルドルフ

ちょっとだけ核心に近づいてきたかな

第四節 地下組織ルドルフ5

 

 グギャー


 モンスターが啼き声を上げてサリーに突進してきた。その速さはすさまじく、身構えていたはずが動きに遅れが出る。身体を仰け反らせてなんとか回避といったところだ。少しかすり傷ができる。モンスターは休むことなく執拗にサリーを狙い続けた。


 モンスターに知能があるかはわからないが、ここでサリーを狙うのは常套手段と言っていいだろう。今はモンスターに対する有効手段がない時であり、獲物を得てからのサリーを相手するよりは今相手にして潰してしまった方がモンスターにとっては都合がいい。魔法が通じない以上魔術師はいないも同然なのだ。


 詠唱の邪魔になるため、どれくらいで魔法剣が出てくるかが聞けない。サリーはモンスターの攻撃を躱しながら、なんとか時間を稼ぐ。躱すと言ってもかすり当たりはしており、体力は徐々に奪われていた。


 クッ


 サリーはモンスターの突撃を躱したが、体勢が崩れてしまう。モンスターはその隙を逃さずにもう一度体当たりする。


 グフッ


 ドンッ


 サリーは直撃を受けて壁際まで吹き飛ばされる。壁は損壊し、辺りには破片が散らばった。モンスターはそこに更に追撃を仕掛ける。


「ストーンバレット」


「ストーンウォール」


 すると二人の魔術師が同時に呪文を終える。先程散らばった破片が浮かび、モンスターに凄い弾速で飛んでいく。また地面が隆起し、モンスターの前に壁となって現れる。モンスターは石の飛礫で体勢を崩し、そのまま出てきた壁へとぶつかった。その間にサリーは体勢を立て直す。


「ネロクシフォス」


 するとメーテが呪文を唱え終える。サリーの前に水が集まり出し、その水が剣を象った。柄を持つと刃部分の水が流れ始め、触れれば切れそうなほどの水流が起こる。


「その剣は持ち手の力で威力が変わるわ。使いこなしてね。持続時間は十分ほどよ」


 メーテが叫んで説明する。サリーは二、三回振り回してみる。軽い。水の剣に重さはさほど感じなかった。これならいける。自然と柄を持つ手に力が入った。


 グオォォォー


 モンスターが体勢を立て直して、もう一度サリーに向かってくる。怒っているのか先程よりも速度が速い。躱すのは難しいだろう。ただ、今や躱す必要はない。真っ向から臨めばいい。


「ハァ」


 気合が掛け声となって出る。向かってくる敵に立ち向かい、ぶつかる寸前に体勢を低く沈み込み剣を振り下ろす。そのまま恐れずに突進する。モンスターの嘴はサリーの上を通過し、水の剣の軌道を通る。サリーの剣にモンスターがぶつかった感触がする。モンスターが通り過ぎた後にサリーは後方を確認する。すると、鳥のような姿をしていた漆黒の塊が二つに裂け、黒い飛沫となって消えていった。


「わぉ。一撃」


 メーテが感嘆の声を上げる。サリーも自分でやったことだがあまり実感はなかった。自分で自分に驚いている。


「その剣は持ち手の精神が作用するから、サリーは達人級ってことね」


 メーテはどこか自慢気にそう言う。サリーは自分の手に持つ剣を見つめる。水流が未だに激しくうねっている。と、自分が息を乱しているのに気付く。


「あっ、そうそう威力に応じて体力も持ってかれるのよね。必要ないなら水の中に戻せば」


 サリーは静かに剣を水に戻す。剣は水と同化して消えていった。


「それにしても厄介ね。かなり高位な魔術師よ。ってか人間業じゃないわね。ストックいくつあるのよ」


 メーテが嘆く。ストックというのは魔術師が扱える魔法量のことである。人間は最大で十のストックを持てるされ、魔法の質によって使用されるストック量が変わってくる。例えばファイアーボールなどの簡単な魔法はストックを一消費する。また姿を消す魔法アフォミオシー等はストックを二つ使う必要がある。召喚魔法の類は三つ消費することが多い。個人が持つストック値を超えない範囲で同時に魔術を行使できるのだ。つまり、ストック値十の魔術師は同時にファイアーボールを十個まで出せるといった感じである。


 「とりあえずわかったことは、術者はこの国でもトップレベルの魔術師ってことね。私レベルが何人集まっても難しいわね。術者以外で解くのは絶望的ね」


 「居場所はわからないの」


 「無理ね。完全に痕跡を消されてる」


 メーテはため息をつく。その反応にサリーもまたため息が漏れる。


 「ただ、見当はつくわ」


 メーテがいくらかしっかりした目つきでサリーを見る。サリーは心なしかその目が頼れるものに感じた。


 「さっきも言ったけど、術者は相当な手練れ。つまりこの国でもできるのは三人といないはずよ。ということは魔術都市王ドルトか、魔術都市大将軍リリム、あるいはテンタティブドラグナーのシーミャってところね。ドルトは男だから映像見た限りで論外。リリムも四十は超えてたはずだから当てはまらないわ。つまり、テンタティブドラグナーシーミャの可能性が高いわね。そうなると居場所は一つ、ドラグナーの祭壇よ」


 メーテは確信めいた口調で言う。実際かなり説得力はある。サリーは一筋の光明を得るような気持ちになる。


「ただ」


 メーテは少し低い声で続ける。


 「だとするとストック値がおかしいのよ。テンタティブドラグナーってことはドラグナーの祭壇からは出られないはず。つまり映像で見たのは分身体よ。分身に関する魔術はストックレベル三。精神を入れ替える魔術これは禁術の一種ね。最低でもストックレベル六ね。それに加えてトラップ型の召喚魔法。ご丁寧に魔法の利かないモンスター。ストックレベル四、いや五はあるわね。つまり、シーミャはストック値を十以上持っていることになるわ」


 先ほども言ったが人間が持てるストック値の上限は十とされている。つまりメーテの言っていることが正しければシーミャは人外である。


「魔族か」


 サリーがぽつりと呟く。


「可能性はゼロじゃないわね。ただ、魔族がテンタティブドラグナーになれるわけがないし、なったとしたら直接プルードに手を下せるはずでしょう。それにサリーとコルットの精神を入れ替えることの意図がわからないわ。ドルトの一員としてやったって言われた方がまだ納得できる」


 つまり精神を入れ替える理由がはっきりしないと断定はできないという事である。実際サリーも魔術都市側の謀略だと考えたことがある。アマゾネスを陥れるというもっともらしい理由があるからだ。


「言えるのは、かなり厄介な相手だってことね」


 メーテがそう付け足す。その場にいる者全員が少し重い空気になる。しかしサリーとしてはやることは変わらない。


「ともかく、目指すはドラグナーの祭壇という事だね」


 サリーはその場の空気を変えるためにいくらか明るい声色で言った。


「それもそれで問題よね」


 メーテもそれに応じて少し肩の力を抜く。そして重いものを溜息に乗せながら言った。


「行く方法が三通りしかない」


 サリーが静かにそう呟く。


「大戦を終結させドラグナーが決まるか、自分がテンタティブドラグナーになるか、力づくで結界を壊すか」


 メーテが続ける。正直どれも現実味のない話である。


「まあ今できるのは結界をどうにかするくらいしかないから、ともかく行ってみるよ。色々ありがとう」


 サリーはそう言って、その場から離れようとする。


「ちょっと待って」


 するとメーテが呼び止めた。サリーは歩を止めて振り返る。


「一晩付き合ってくれる約束でしょ。それにその方が貴女の選択肢も増えると思うわ」


「選択肢が増えるって」


 サリーは疑問を投げかける。約束の件は正直完全に忘れていた。だが選択肢が増えるとはどういうことだろうか。


「まあ、すぐにわかるわよ」


 メーテは色気たっぷりにそう言って近づいてくる。サリーは身体から高揚感が沸き起こるのを感じる。


「それと、口調も直してあげる。大会の賞品らしきものあげれてないからね。戦闘能力も上がるし、女の子に弱くなくなるかもよ」


 メーテはじっとサリーの目を見つめる。サリーの息が詰まる。改めて見ると女を意識してしまい、その女を意識するといつも身体はこうなる。この習性は確かにどうにかしたいが、どうしようというのか。


「一体どうするつもりなのかな」


「今の貴女は身体と精神が噛み合っていない状態なのよ。自覚はあるでしょ。女の身体から男のものになったから当然と言えば当然ね。その身体と精神をしっかりリンクさせるの。そうすれば身体を女だった時と同じくらいコントロールできるようになるわ。だから口調も直るし、戦闘力も上がる。そして女の子を見ると高まってしまう気持ちもコントロールできるようになるわ」


 メーテの言葉がコロコロと身体の中で転がるように身体中に這い回る。サリーは確かにこの先毎回女を前にこうなるのは致命的だと思う。特にデメリットもなさそうだ。


「そういうことならお願いしたいかな」


 サリーは迫る感覚を抑え込みながら吐くようにそう言った。


「オーケー。じゃあ今から結界を張るわね」


 メーテはそう言うとサリーから離れる。サリーは緊張していたものが一気に解けて、息を吐き切った。メーテは先程と同じく三人でサリーを囲み目の前に魔術印を浮かべる。


「先にコントロールするためのアドバイスを言っておくはね。今から貴方の身体にある本能が前面に出るようにするわ。一種のバーサーク状態ね。出てくる衝動に逆らわないで受け止めるのよ。まずはその身体が何を求め、どうしたいかをしっかり感じて身を任せて。受け入れ、理解し、そしてコントロールするの。普通は大体三時間くらいかからわね。でもあまり時間は気にしないで。個人差はあるから」


 メーテはそれだけ言うと短くぶつぶつと呪文を唱える。すると三人の着ているのものが消え去り、三人は裸になる。サリーは困惑すると同時に一気に感覚が蒸し返す。


「どうして、裸に」


 サリーは弾けそうになる心臓の鼓動を抑えながら、なんとか平静を保とうとする。


「安全を図るため引き出す本能を全て性のそれに変換させるわ。三人で相手するから思う存分に謳歌して頂戴。この結果は貴女の身体の欲望を私達ともリンクさせるから、私達はそれに従うことになる。いいわね。受け入れ、理解し、そしてコントロールするのよ。じゃあ今から引き出すから」


 サリーは危機感のようなものが過ぎる。これ以上にこの感覚を引き出されたらどうなるかと自分でもわからない。得も言われぬ恐怖のようなものを感じるのだ。だが、メーテに言わせると、抑え込むなという事だ。


「セクシャルバーサーカー」


 その呪文と共にサリーも着ているものが剥がされる。と同時に何か自分の中にあった箍のようなものが外れる。サリーはそのままメーテに飛び掛かった。


今後の活動の為感想など頂けたら幸いです。

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