fiction 33
「このお肉、おいしいネ~!」
現在、絶賛晩餐中のアスト達御一行。勿論最後の晩餐なんかではない。アスト達を襲ってきた狼擬き達は原型を保っておらず、おいしそうな匂いを醸し出している。恐らくはその狼擬き達だったのであろう肉塊に齧り付いているミシュー。小柄な体格からは想像もつかない食べっぷりだ。
「朝から肉はきついんですけど。高尚なるパルメ様に相応しい食べ物はないわけ?」
「今回の合宿の目的は戦闘ではない、サバイバル生活に慣れることだ。ほら、この肉はうまいぞ」
もう一人、豪快に肉を食しているのがルーシェだ。とはいえ下品というわけではなく、どこか典雅な様子さえ見受けられる。しかし…
「え!? 戦闘訓練をしに来たんじゃないんですか?」
軽く衝撃発言をぶち込んでくる。この腹黒先輩はアストの予想の範疇の行動をとったことがあっただろうか。
「まあしない訳ではないが…それは副産物に過ぎない。第一目標としては環境に慣れさせることだ。それにしてもアスト君がサバイバルに慣れているようで本当によかったよ。良い拾いもn…人材を見つけらたようだ」
「……」
そして、当のアストはというと…新品の制服が血だらけになっていた。
アスト達を囲っていた獣の正体は予想通り狼種の魔獣であった。数匹で一つの群れを作り、リーダーとなる個体が命令を出していた。アストが危惧していた強さでは無かったとはいえ、やはり魔獣なだけはあり自己強化術式紛いの魔法を使用していた。そしてリーダーである個体が意思疎通系統の魔法――といっても人間が使うような精度が高いものではない――も使えたらしく(ミシュー情報)、普通にやり合っていたら相当てこずる相手だっただろう。普通にやり合っていたら、だが。
朝早くから呼び出され、魔獣生息区域の怪しげな森を一時間程歩かせられていたパルメがついに堪忍袋の緒が切れたようで、
――『唸ってないでサッサと出てきなさいよ! この犬肉!』
いつの間にか頭の上に乗せていた紫色のゴーグルを掛けており、両足にあるレッグホルスターから拳銃サイズのブラスターを二丁クルクル回しながら引き抜くパルメ。その刹那にブラスターに埋め込まれていた透明の球体が紫色に光出す、と思った瞬間
――『あの世逝って犬鍋でも食べてなさい!』
という意味不明なセリフと共に、バシュン! バシュン! バシュン! と両手のブラスターから3発ずつ――計6発の紅紫色の極太光線が飛んでいく。森の草木たちを消滅させながら突き進んでいく光線。直線に突き進んでいるにも関わらず、磁石に引かれるような錯覚を覚えさせられるほどきれいに狼たちをぶち抜いた光線は断末魔をあげることさえも許さずに通り過ぎていく。
残るは焼き切れた木々と綺麗に穴があいた狼種の魔獣——の残骸であった。一瞬の出来事である。
そして何故か朝ごはんにするなどとルーシェが陸でもないことを言い出したため、血抜きや皮などの処理をアストが受け持ったのだ。昔から魔獣狩りには散々行かされており、この手の処理に関しては飽きるほど練習する機会があった。そのため狩人もビックリのスピードでアストが全て処理をした。その際に血が付着し、現在の状況に陥っているのだ。
「しかしあの犬っころがこんな旨いなんてな」
アストも豪快に肉に食らいつく。肉の処理をしたのはアストだが、料理をしたわけではない。味付けや焼き加減などを管理していたのは泣く子も気絶するあのルーシェである。
何かしら弱点はないのかいつも観察しているアストであったが、今まで見てきて苦手なものがあったようには見えない。もしかしたら料理は? と思ったが結局このざまである。
確かに肉に少々味付けをして焼いただけなのかもしれない。だが森を歩いてきて疲労している体のため塩分多めにしてあり、にも拘らず調味料が主張しすぎず素材を活かす手前には脱帽するしかない。一つ文句を言うとしたら時間帯(朝方)ぐらいだろう。
因みにこの怪しげな森――しかも魔獣生息区域――に調味料や料理道具なんかあるわけない。持ち物といえば各自が持っている飲料の他にはパルメの二丁の拳銃型ブラスターと肩に背負っている大き目のブラスター、さらには魔獣解体用と蜘蛛の巣を巻き取る棒代わりになっているアストの剣ぐらいである。
しかしあの黒髪腹黒人間ビックリ箱先輩をなめてはいけない。ルーシェの片手の先に小ぶりの魔方陣が光出したと思った瞬間、調味料が握られていたのだ。もうこの人にいちいちツッコミを入れていたらキリがない。
「それにしても背中のデカそうなブラスターならまだしも、ハンドガンサイズで途轍もない威力でしたね。にしてもあんな魔素を大量に消費して大丈夫なんですか?」
今まで何回かブラスターを見たことがあるアストにとって、規格外すぎる威力であった。
魔素をエネルギーとし、そのエネルギーの塊をそのまま直射する武器であるため、光線の見た目が派手ならばそれだけの魔素を消費していることとなる。
ここも魔法の方が優れていると言われるポイントだろう。魔法であれば、ただ規模が大きいからといって魔素の消費量が多いとは短絡的には結びつけることはできない。周りの環境との兼ね合いや魔導関数の工夫によって、同じ魔素量でも規模を大きくすることは容易に可能だからだ。
アストとルーシェ先輩との模擬線で、密閉空間を利用することで爆発のエネルギーを増大させたことがいい例だろう。
「は? あれだけで? へばるわけないでしょ」
ぶつぶつ文句を言いながら肉を食べているパルメには、確かに疲労は感じ取れない。まあ機嫌は悪いようだが…
そのため機嫌が悪いパルメの代わりにルーシェが説明をしてくれる。
「魔素保有量に関して、パルメに勝るものはほとんどいないだろうな」
「そうそう、魔素保有量だけ、はね。人間魔素タンクみたいな物だヨ」
「あ、あんたね~! 人をタンク呼ばわりするんじゃないわよ!」
森の怪しげで禍々しい空気が、パルメとミシューの騒がしい二重奏により強制的に上書きされていく。
「しかしタンクというのも強ち間違えでもないだろう。魔素保有量で言えば卿クラスに到達、どころか超えてるんじゃないか?」
森の雰囲気の上書きに忙しい2人とロボット人間は会話が困難なため、必然的に腹黒先輩と話す羽目になる。アストもそこまで嫌っているわけではないが、何を仕出かすか分からないため、日常的な警戒が必須なのだ。
「卿クラス!? …そんなに魔素があるなら魔法使いの方がいいんじゃないですかねえ」
卿クラス――人類最高峰レベルに到達しているならば、たとえ魔導関数の構築のセンスがある程度欠如していても、効率無視で極大級魔法をぶちかませられる。一方ブラスターであればただ強い光線を出すことしかできない。そのため魔素効率は無視しても魔法使いになるほうが一般的だろう。
すると森のイメージアップに貢献していた内の1人――ミシューが会話に交じってくる。
「パルパルは頭が究極のおバカだから魔導関数が算出できないの。かわいそうだから余り言わないであげてネ?」
「あ、あ、あ、アンタね~! バカと魔導関数の構築センスは関係ないっていう論文がこないだ出たんだから!」
「それ、キチガイな論文書くことで有名な奴の論文でしょ? それにそんな最新の論文の事知ってるってことは気にしてたってことに変わりないよネ~」
「ふむ、まあ簡潔に言えばパルメに魔導関数の構築センスが髪の毛1本レベルということだ」
「はあ、しかしそれでブラスターを使ってたんですね」
魔導関数構築センスが“あまり”ではなく“ほとんど”ない、つまりそもそも魔法が発動しないレベルということだ。発動してもマッチ1本レベルの規模だろう。
「そういえば、ルミ先輩って…戦えるんですか?」
なんとなく、今の雰囲気ならば聞けるような気がしたアストは、このチーム最大のミステリーであるルミについて踏み込んでみる。今までずっと気になっていたが、ルーシェとの幼馴染で過去になんかあったらしいルミの話題は危険、という野生児の勘ともいう警鐘が鳴り渡っていたため今まで聞くことを躊躇っていたのだ。
とはいえ、負けられない戦いとなった対抗戦で同じメンバーであるルミの戦力も確認しておかねばならない。事実、アストが知っているのは初対面早々にぶち込まれた炎系統の魔術1つだけである。
「それについては問題ない。感情は殆どないが思考までもが停止しているわけではないからな。最悪私と離れても自動迎撃モードが発動するようにしてる」
「……」
「戦力としても問題ない。手頃な魔獣が来てくれればいいんだけどな」
(魔獣たち! 逃げるんだ!)
「ま、まあそんな直ぐ来るわけないですよ。さっきの狼だって森に入って一時間ぐらいした後だったから――」
「あ! なんか来たヨ!」
「——……だったから、直ぐには来ないと思ったんですけどねえ」
「ふふ、アスト君は3つ、大きなことを見落としているぞ」
魔獣が又もや接近してきたらしいにも関わらずルーシェの授業が始まる。
「1つ、森の入り口周辺と深部での魔獣の遭遇率の違い」
「…」
「2つ、ここでわざわざ肉を焼いて食した理由」
「……」
「そして最後、ミシューとパルメの核融合による騒音の発生。——」
「………」
段々と地面の振動が大きくなってくる。
「——つまり今すぐに魔獣が来たとしても何らおかしくないということだ。しかもあの獣の匂いで寄ってきたということは――」
「うわあ! 今回のはおっきいゾ!」
「——先ほどより大物が来ていても何らおかしくないという事だ」
「…………」
(この人もうやだ! なんらおかしくないって、全部ルーシェ先輩の仕組んだことじゃねーか!)
「はあ、また? 高尚なるパルメ様は疲れたから誰かやっといて」
レッグホルスターに入っていた二丁のブラスターの軽いメンテナンスをし始めるパルメ。完璧に戦う気はないらしい。
「さて、運よく魔獣が近づいてきたわけだが、アスト君に新しい剣の切れ味を確かめてもらうのもいいかもしれないが、先ほど肉の解体で使ったから十分だろ? だからアスト君にはルミの実力を知ってもらおう」
「俺の剣は解体包丁じゃないんですけどね」
「ルミ、やれ」
「……(こくん)」
頷いた後、5秒後ぐらいに漸く立ち上がるルミ。
(行動がいちいち遅いが…本当に大丈夫なのか?)
するとアストも魔獣の存在をハッキリと感じ取ることができる距離まで近づかれてきた。
(ものすごいスピードで走ってきてるな。これは…虎種か! しかも馬鹿でかぞ!)
「ル、ルーシェ先輩、ヤバいですよ!」
「心配するな」
ルーシェは言葉通り心配している様子はなく、優雅に自分が調理した肉を食べ続けている。
この少しの会話をしている間にも魔獣は更にスピードをあげてきている。
「……滅却術式……第1フェーズ作動……」
聞いたこともない呪文(?)らしきものをつぶやいているルミ。と同時に円形魔方陣が地面に、ルミの足元から伸びてくるように現る。半径は非常に小柄であるルミの身長と同じくらいで、近くに座っていたルーシェも足元から魔方陣の光に照らされる。
一目瞭然で魔法が発動している事が認識できるが、行動にいちいち間があるため、短い言葉にも関わらず、10秒ぐらいの時間が経過する。
(お、遅い! なんでいちいち間があるんだよ!)
そうこうしている内に、既に獣の足音、さらには震動も感じ取れるまで接近されている。
「ほ、本当に大丈夫ですか!? もう来ますよ!」
震動の大きさが接近していることに加えて、規格外のサイズということを身体に直接教えてくれる。先ほどの狼種の唸り声が赤子の鳴き声のように感じる、低く心臓に響く呻きが森の空気を揺さぶる。
流石にヤバいと感じたアストは座っていた石に立てかけてあった愛包ちょ…愛刀(予定)をつかみ取る。
「……第2フェーズ作動……最終フェーズ作動……」
いちいち間が長いが、確実に魔法の構築に成功しているのがわかる。その証拠に、“作動”の言葉を発するたびに魔方陣の大きさが一回り大きくなり、“最終フェーズ作動”の言葉の後には魔方陣があたり一帯を覆いつくし、魔方陣の端が木々によって確認することができない。
「な、なんだこの大きさは……多人数合成魔法クラスの規模だぞ」
とっくに魔方陣に飲み込まれているアスト。驚愕で抜刀することを忘れている。
「……全行程完了——」
しかし魔獣は足元の魔方陣に臆することなく馬鹿正直に真っすぐ突っ込んできており、ついにアスト達が食事――という名の魔獣釣り――をしていた、少し開けていた場所に姿を現す。
魔獣とは魔法を使いこなせる。つまりそれは魔導関数を構築し得るだけの知力を保持していることに変わらない。そして、強い魔法を使える個体なら更に知力は高くなければならない――つまり何が言いたいかというと、飛び出してきた魔獣は頭がいいらしく、術者であるルミに向かって一直線に走ってきているということだ。
大きな叫び声と共に突っ込んでくる魔獣――大きな、大きな純白の虎がルミの首にかみつくまで残り数秒もない。だが、
「——術式 分界(ジ=アブソリュート=リッパー)」
刹那の攻防――殺るか殺られるか、それは強いほうが殺す、ただ、ただそれだけである。
ジャンル詐欺のような気がしてきているのは私だけでしょうか?
SF目的で読んでくださる読者には申し訳ないです。
学園編はどうしても話をデカくできないのでファンタジー色が濃い目になっております。
ここでジャンルをファンタジーに変更してもいいのですが、この先今度はSFに変えたほうがいいと言われると思うので...(この発言も詐欺になる可能性アリ)
というかSFの定義が今一わかりません。その世界における規則がキチンと成り立っていればOKなのか、魔法つかっていたら有無も言わさずファンタジーなのか...
もし変えたほうが良いのであれば教えてくれると嬉しいです。
まあ新しいジャンルでも登場しない限り恒久的な解決には至らないとは思いますが...
結論、中途半端な話を書く私がいけませんね...




