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fiction 27

「——これで革新期の大体の流れは終わったな。まあ必修の授業で詳しいとこまでやるわけにはいかないからな。後は神域到達者の4人目をやって終わりだ」


 歴史学の中の人類史、それは人類の発展の道筋を研究していく学問である。

 つまり本来であれば人類誕生から勉強していかねばならない。しかしそこからやるにはどうしても時間がかかりすぎるのだ。

 人類の行動範囲が地域から大陸、大陸から星全体へと広がるにつれて、歴史というのも比例して拡大する。

 ましてやそれが星全体から宇宙まで広がったのだからその量は計り知れないものとなっている。そのため歴史学者というのはごく限られた分野を専門的に追及するしかない。


 そしてやってられないのは学生も同じである。しかし学者と違って最初から特定の範囲をやらすわけにもいかない。それ故学校の人類史で取り扱う内容はごく表面的かつ広範囲の内容を行うしかなく、そのため行き成り時代が数千年とぶことなんてざらにあるのだ。


 そしてそれはエルツィン先生の授業も例外ではなく、国民として知っておかなければならない部分しか扱わないようで、実際今までやってきたのは革新期と呼ばれる時代だけだ。

 革新期は千年にも満たないにも関わらず神域到達者が6人中4人も輩出されており、長く広大な歴史の中から選ぶには最適な時代と言えた。


 因みに神域到達者とは文字通り神域(人外)の領域に到達したとされる人物で、学会が制定するものだ。なんでこんなものがあるのか?まあ簡単に言うと誰かさんが人類未到達領域問題を解いてしまったからである。

 人類が解けない問題としたのに誰かさんが解いてしまい、矛盾が生じてしまったのだ。矛盾とは学会が特に嫌う言葉であり、その矛盾を学会の人間(しかも会長)が作ってしまったのだ。

 そのため学会の総力をあげてその矛盾を解決しようとし、一つの解決策を思いついた。

 解いた奴を神域(人外)にすればよくね?というよくわからん理論だが何故か総議会を通ってしまい、流布されてしまったのだ。そこから矛盾を作りかねない奴ら(人外)の受け入れ先となっている。これはアインハルツが没したあとに作られたためため、歴史的に見れば比較的若い制度ともいえる。


 そして授業ではアインハルツ=アルバート、ブレイズ=ブライド、ヴィネス=アークラインの三人を既に終わらせていた。


「そいつが終わったら千年戦争入るから予習したい奴はしておけ」


 授業が終わり一斉に騒がしくなるが、大分疲れた様子の生徒が多い。それもそのはずで、この人類史の授業は3限目だったのだ。そのため朝からの疲労と、昼休憩までもう1限あるという絶望感が生徒たちの顔に塗りたくられていた。


 アストはというと既に寝始めている。エルツィン先生の授業で寝るとどうなる――特に生命活動——か分からないため、一応片目は開けていたのだ。まあ片目を開ける事と授業を理解している事が同義かどうかは分からないが。


 特に今日の睡眠欲は強大で、対抗するのに多大なるエネルギー(片目を開ける労力)を浪費してしまったのだ。


 だが安寧の地に飛び立ったアストに覆いかぶさる影が出現する。


「問題児、起きろ」


 天敵エルツィン=バーミットである。


「…なんですか、もう授業は終わったんじゃないんですか?」


 机の上に腕を組み、その上に伏せていたアストは眠そうに顔を少しだけあげて、会話しようと思えばできる体制(超絶相手に失礼な体勢)で返答する。


「午後の授業は戦闘学だろ? レグルス先生には伝えておくからいつも行っている闘技場に来い」


 しかしエルツィン先生は要件だけ伝えるとすぐに教室を去ってしまった。


「なんだ? また呼び出しかよアスト。お前今度は何したんだ? ってもう寝てんのかよ」


 と同時に眠りにつくアスト。次の筋肉先生の授業を受ける気は無いらしい。



~~~~~~~~~~



「で、アスト。昨日の件について、な?」


 昼休み、アスト達はまた豪勢な食堂の個室にて昼食をとっていた。

 しかしレストは昨日のミシュー先輩の件が気になってしょうがないらしく、珍しく箸は進んでいない。


「勘弁してくれ、俺は今猛烈に眠いんだ…」


 というのも昨日気がついたら夜遅くまで走っていて、更に朝フィネスを迎えに行かねばならなかった。

 フィネスが住んでいる場所は学園の寮――といってもVIP用の、更にその中でも最高級の部屋――のため登校時間は短い。

 しかしアストの住んでいるマンションからフィネスの寮へ、更にフィネスの登校時間に合わせなければならないとなると、いつもより30分ぐらいは早く登校しなければならなく、それはアストの朝の桃源郷(二度寝)の時間の消失を意味していた。

 そういうわけでアストのまぶたにはいつも以上に重力がかかっており、昼時にも関わらず脳内煩悩頂上決戦では食欲をさしおいて睡眠欲が圧勝という結末に至っていた。


 そのため顔を机につけながら食事しており、寝ているのか食べているのかわからない様子だ。


「もうアストさん、お行儀が悪いですよ。ではわたくしの方で説明いたしますわね」


 一応注意するフィネスだが、怒っているという様子ではなく優しく話しかけただけで、アストがその程度で体勢を直すはずもない。

 しかしそのことはフィネスも分かっているのか、自分で説明をし始めようとする。


「はあ、アストを甘やかさないほうがいいわよ。こういう時は教科書で叩きのめすのが一番だわ」

「エリスさんの言う通りだ。このバカには鉄拳制裁がお似合いだ」


 恐らくアストの横に座っていたら確実に叩いていたであろうエリスに、ケイネスまでもが同調する。


「今日はわたくしのせいでもありますので許して差し上げてください」


 そもそもアストが制服のまま模擬試合なんてやったのが悪いためフィネスに悪い所は一つもない。しかし否定も肯定もせずにお行儀悪く食べ続けるアスト。

 完全に屑の所業である。しかし眠くて何もする気が起こらないのだ。


昨日さくじつの会話にも出てきましたが、もうじき学園別対抗戦があることはご存知ですよね?」

「そりゃもちろんですよ」

「アストさんはその学園別対抗戦に選ばれているんです」


 その言葉にはまるで沈黙の魔法がかかっていたかのように、部屋全体から音が消滅する。

 いや、一つだけ音が存在していると言えば、アストのダルそうに食事している音だけだろう。


「…えーと、それは本当か? なんて野暮な質問をする気はありませんが…一体何に出るんですか?」


 今まで予想を裏切ってきた(主に悪いほう)アストと付き合っているレストである。もう奇想天外よりつことには耐性ができ始めている。

 しかしそれでも今回の発言にはかなり驚いているようだ。

 それは食事が止まっているエリスやリタ達も同じ状況と言えるだろう。


「武術部門二学年の部ですわ」

「は、はは、はははそうですかってなるかぁぁい! おいアスト! 寝てんのか食ってんのかハッキリする前に今回の件についてハッキリしやがれ!」


 耐性とは変化に順応する能力である。

 逆に言えば、順応するまえに変わってしまったら意味をなさない。要するに今のレストにはキャパシティーオーバーであった。


「なんだよ、フィネスの言ってることは本当だよ。大体フィネスがそんな下らない嘘を言うわけないだろ」


 眠そうな顔で、だるそうに答えたがそれが火付け役となったのか今までの静寂が嘘のように騒がしくなる。


「アストさん、すごいです!」

「はあ、いつも何かやらかすとは思っていたけど…」

「お、俺は又してもアストに負けたのか」

「おい! なんで二学年の部にアストが出れるんだ?…は!まさかお前留年生だったのか!」


 一気に蜂の巣をつついたように騒がしくなる食堂。


「皆さん、落ち着いてくださいませ。二学年の部ですが、二年生対象というわけではなく、二年生以下が対象という規則です。それ故一年生でも出ることが出来るのです」

「だから俺は留年生じゃないし。しかしレスト、そんなことも知らんとは。くくくっ」


 自分もつい先日知ったということは既に頭の中から消え去っているのだろう。


「くっ、アストに常識で負けるとは! 不覚!!」

「だけど武術部門は既にメンバーが去年から決まっていたと思うけど」


 学園別対抗戦が開催されるのは一年間の中でも最初の方だ。これには中等部教育連盟などの思惑が絡みついているためだが…

 とにかくそのせいで長期間の練習などが取れないため、基本的に新入生が入る前からメンバーは決まっている。そのせいもあり、二学年の部というのは二学年だけという誤解が広まっているのだ。

 そして今回の学園別対抗戦でも、エリスの言う通りメンバーは既に決まっていた。それは武術部門二学年の部も例外ではなく、本来であればアストの入る枠は存在していなかったのだ。


「そういえば諸事情があるとか言ってたような…」

「それにしてもアスト、事の重大性を理解してんのか?」


 どのような理由があったにせよ、黄金期の再来とまで言われているメンバーの一員になったことに変わりはなく、この国立ベルトハルツ名誉学園を背負っているといっても過言ではない。


「ンなのわかってるよ。つってもフィーネ先輩に勝てる奴が同年代にいるとも思えないがな」


 しかしアストがそのことを理解しているはずもなかった。



~~~~~~~~~~



「はい! ガチでやらさせて頂きます!」


 はずもなかったのだが、この変わりようである。


 人はそう簡単に変われる生き物ではない。変わるという動作には非常にエネルギーを消費するからだ。


 だが世の中には必ず例外というものが存在している。

 それは消費するエネルギーに見合う、いやそれ以上のメリットを得られるときだ。


「本当に、ほ ん と う に、卒業分の単位が貰えるんですよね!」

「ああ、勿論だ。ただし優勝した場合に限るがな」


 そしてそれはアストにも当てはまることであった。いや、アストの生き方といってもいいかもしれない。


 昼休みが終わった後いつもの闘技場にフィネスと共に向かうと、対抗戦メンバーではない人物がいた。

 アストの天敵、エルツィン=バーミットである。



2018年7月25日 誤字訂正しました。

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