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fiction 20

 エルミネス星ーー


 それはユーフェ=クラーリ=アルトハルツ連合公国内の一つの惑星である。

 そこの住人であるエルミネス人は少し歪な考えに傾倒している。


《多才さこそ至極》


 その考えはその星に強く根付いている宗教によるところが大きい。

 そのため、何か一つに耽溺するという行為は忌避されている。


 そして謎なのが、この星の住民は殆どが二種類以上の魔素を保持しているという事である。

 故に多彩な攻撃方法を有することで有名なのだ。


 そしてそんなエルミネス星の中でも、天才と認められた、もしくは期待されるものにはエルミネスという姓が与えられる。


 そしてそのエルミネスという姓を手にしているのがルーシェ=パンドーラ=エルミネスという生徒である。


 だがアストはそんな事露知らず試合は始まろうとしていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「先程述べた通り、危険度Ⅳ以上の魔法は禁止だ。本番に規制は無いが、今回は小手調べだからな」


 そう発すると同時に手を斜め下に向ける。

 すると手の先に小ぶりの円形魔法陣が生じ、其処から一振りの剣が出現する。


「じゃあ始めるよ〜」


 ミシュー先輩の気の抜けた号令と共に闘技場備え付けのタイマーが作動する。


 ピッ


 ルーシェが曲線が美しい剣を構える


 ピッ


 アストも学園の普通の直剣を構える


 ピッ


 一瞬の静寂が訪れる


 ピーー!


 最後の合図が鳴った瞬間駆け出すアスト。

 というのも訳があった。


 自分が近接戦闘の補完として呼ばれたのなら、少なくとも中距離以上の戦闘スタイルである可能性が高い。

 そして試合が始まる前に使用していた剣を召喚した術。


 それらから、相手は魔法剣士である可能性が高く、中途半端に距離を開けても利点は何も無い。

 中距離は魔法剣士の格好の餌場である。


 試合開始後の様子見というのは相手と同じ攻撃スタイル、もしくは相手のスタイルが分からない、この二つの状況に限るのだ。


 つまり開幕攻撃というのはなんら間違いではなく、というかそれ以外の手は無いといっても過言ではなかった。


「頭は回るようだな!」


 だが驚いたのはその直後だった。なんとアストの剣撃に剣撃で応えてきたのだ。しかも近接戦闘担当でも遜色ないレベルだ。


「ちっ、一杯食わされたか」


 つまり、自分を中距離担当と思わせる事により開幕攻撃をさせたのだ。


 そして読まれていたという事は...


「なっ!」


 突如浮遊感を覚えるアスト。

 というのも足元から暴風に押し上げられていたからである。


(設置型魔術! やられた!!)


ーー設置型魔術


 名前から連想される様に、座標を設定して使う魔術だ。予め場所を決めておくため魔素が安定しやすく、通常の魔術より術の効果が高いのだ。

 その為、研究系魔術師に好んでよく使われる?


 しかしその一方、戦闘系魔術師には嫌われている、というより見向きもされていないと言っていい。

 その理由は設置という性質にある。

 いくら攻撃力が上がろうが敵に当たらなければ意味が無い。さらに設置してから発動するまでの間、燃費が悪いという点もあり、トラップとしての使い道にも適さないのだ。


 これらの点から戦闘系魔術師にはとことん嫌われており、況してや戦闘中に使う者など殆どいないのだ。


 だがもちろん世の中には例外というものが存在する。

 一つ目に敵が動かない、という条件がある時だ。

 例えば味方に拘束系魔法を使用してもらった後に設置型魔術を使う、などという使い方だ。


 二つ目として、ある程度の時間内に、敵がその場所に移動することを予測出来たときだ。

 例えば味方に風属系の魔法で敵を吹き飛ばし、その座標に魔術を設置しておく、といった使い道だ。だがこれには相当の練度と連携力が必須となる。


 とにかくこれらのような使い方なら通常の魔術より効果的と言わざるを得ないだろう。

 魔術に限らず、自由度というものが少なければ少ないほど効果は上昇する。


 だがよく思い直してみると、これらの使い方には味方が出てくる、という事が分かる。

 つまり一対一での戦闘の場合、相手とのレベルが隔絶したものがなければ使用することはまず無いのだ。


 そしてまんまと策略にハマったアストはというと、花火の如く打ち上げられていた。


 此処迄の策略を見るからに打ち上げてお終いな訳がない。アストは空中で冷静にそう分析する。


 そしてその予想は現実のものとなる。


「ちっ! 今度は炎か!」


 アストの足元へ炎属系魔術を叩き込む事により、元々作動していた設置型魔術と組み合わさり、上昇気流に乗った炎が竜巻の如くアストを襲おうとしていた。


 あと少しで飲み込まれる、といったところで擬似歩行により何とか風の牢獄から抜け出すことに成功するアスト。


「ほう、逃げ切るか」


 だがその顔に焦りは無い。

 恐らく逃げ切った事すらも予想済みなのかもしれない。


ーーいや、予想済みなのだ。


「ぐっ! なんだ!?」


 いきなり足元が煌めいたかと思うと、足が絡め取られたような錯覚を覚える。


 よく足元を見ると輝く五芒星があり、その中心に自分は立っていた。


「封印魔術...いや、陰陽術か!」

「一目で分かるとはーーだがこれでお終いだ」


 その死刑宣告を現実のものにしようと右手で印を結ぶ。すると同時にアストの足元の五芒星が更に光を発しながら回転を始める。


「爆」


 その合図とともに五芒星ーーアストの立っている場所を中心とした爆発が起こる。


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