fiction 16
--昼休み--
いつものように四人で食堂に集まっていたアスト達であったが、それとは真逆に周囲の様子は違っていた。
「そりゃあそうだろうよ。なんて言ったってアークライン家のお坊ちゃまに引き分けに持ち込んだんだからな。」
戦闘に関しては詳しくないレストですら知っていた、ケイネス=アークラインと引き分けに持ち込んだとして一学年だけでなく全学年からの注目を浴びているのである。
普段と様子が違うのは当たり前だった。
「その件だけど、本当に引き分けだったのかしら?」
だがごく一部の生徒ーー真面目に観ていて、かつ相当の目をもっているものーーはケイネスのあの一撃について気が付いていた。
「は?どういうことだよ?」
戦闘の素人であるレストには気が付くことが出来ずーーというかルールを知らないため、エリスの発言には疑問を呈するしかない。
「最後に当てられた攻撃、過剰攻撃に見えたのだけど?その証拠としてあなたの制服破れているじゃない。」
「そう言われればそうかもな。まあわざわざ蒸し返すほどのことでもないだろう。」
アストは単に面倒ごとを避けたいだけである。
「じゃあ本当は勝っていたってことですか!! すごいですアストさん!!」
「まぐれだよ、それに反則っつったって相手の威力が高すぎるっていうことだろ? なら実戦じゃ負けてたってことだ。」
「まあそういうことにしておいてあげるわ。どうせ面倒くさいとかいうくだらない理由でしょうけどね。」
全てお見通しのようである。
「はあ、相変わらずだな。」
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--放課後--
とある路地裏にアストはいた。
といってもこの前の路地裏ではないようだ。だが雰囲気はとても似ている、これまた人の近づきそうにない場所である。まあ路地裏の雰囲気なんてどれも同じなのかもしれない。
「よう、今回はだいぶ時間がかかったじゃないか。」
そしてそこにはまたもや変な仮面をつけている変な人物がいた。
「我が儘言うな。学園を探ったんだ、これでも早いほうだ。」
仮面をつけているため顔での判断はつかないが、声や話し方を見るからに先日話していた人物と同じと思われる。
「じゃあ感謝しないとな、なら本人に伝えておいてくれよ。翳子ちゃん?」
仮面の様子が急変する。
「...なぜ違うとわかった?それに翳子ちゃんと変な名前をつけるなといっているだろ。」
体に靄がかかったかと思うと身長が縮み、体格、声が女性らしいものに変わっている。
「まあたしかに声も喋り方も身長も立ち方も、更には体から発している魔素の波長すらも完璧に偽装しているが。」
「ならどうしてわかった?」
「しいて言うなら感だよ」
「勘だと!そんなわけあるか!」
「んで、情報は?」
「くっ、覚えてろよ」
翳子?なる人物を虐めて十分に楽しんだアスト。だが正体を見破った理由としては本当に自分でも分かっておらず、なぜか感覚的にわかるのだ。師匠によれば本質を理解できれば自ずと理解できるらしいが...
とにかく自分でもよくわかっていない能力ではあるがそこまで便利なものでもない。長期間一緒にすごしていないとわからないのである。
「三人についてだったな。まずはレスト=アーカイン。ま、ある意味普通で、ある意味普通じゃないな」
「なんだよその煮え切らない言い方は」
「我々の世界から見れば普通すぎる人間だ。そういう意味では白だ」
「で、別の意味では?」
「ま、簡単に言えば天才だな。奴が産まれた星周辺の銀河では一番とまで言われている程だ。星々の期待を一身に受けて入学したらしい。」
想像とは違う情報に唖然とするアスト。
「それは本当か?」
彼女を作りに来てるとかほざいているレストがそんな天才とはとても思えないアスト。
「幼少期にナビエ-ストークス方程式の解の存在性を一人で明らかにしたとか...まあよくわからんがとにかくすごい奴らしい」
「ナビスコ-トースター? ま、よくわからんがとにかく唯の超すごい天才ってことだな?」
...この二人に理解できる話ではなかったようだ。
「そういう事だ。つまり警戒する必要性はない。では次にいくぞ。えーと、エリス=ブリュンバル。まあこいつはややこしい奴だな」
「ややこしい?」
「まず父親はエル=ブリュンバル。右卿軍人で序列入りだ」
「げっ、マジかよ」
「マジだ。更に言うと母親はユリサ=ブリュンバル。旧姓ブランデンブルの元貴族だな」
「今度は貴族か。で、元っていうのは?」
「要するに家出娘だ。駆け落ちらしい」
「はあ、ま、でも言動が貴族ぽかったのはそのせいか。...それはいいんだけどよ、ブリュンバル家ってやばかったりしないか?」
入学式のときに感じた違和感があり、ブリュンバル家に何かあるのではと疑惑を持つ。
「そっち? ブランデンブル家はヴァレンティノ家に並ぶ大貴族だけどブリュンバル家は特に何もないわ。」
どうやら気のせいだったらしい。
「ま、ならいい。それでリタは?」
「彼によるとその娘に一番時間がかかったらしいわ。」
「...で、結果は?」
「衝撃的なことに彼女は--
本文中に出てくる会話で、"感"と、"勘"の二つの漢字が出てきていますが、誤字ではありません。
二人の考えにズレがあることを示すため、わざと違う漢字を用いました。




