表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/61

fiction 15

 赤い、水たまりがある


 その水たまりには二人の大人が寝ていた


 その光景を見ている少年は事実を理解する


 水たまりは血で出来ていると


 二人の大人――両親は既に死んでいると


 視覚だけではない


 漂う血の匂いも、死を想起させられる道具になる


「お父さんは? お母さんは? どうしたの?」


 少年の腕にくっついている少女――フィーネにとっては到底現状を把握できるものではなかった


「フィーネ、逃げるぞ!」


 だがその少年には理解出来ていた、否、理解せざるを得なかった――両親が殺されたという事実を


 このままいたら殺される


 という恐怖心と


 妹は守らなければならない


 という義務感と


 この二つが交わり、奇跡的に少年の心は冷静だった


 だがその張りぼての冷静さは簡単に崩れ去ることになる


「お父さんさんは?お母さんさんは? ねえ! お兄ちゃ、ぐはっ」


 妹の声がおかしくなった


 天使の歌声のような綺麗な声の代わりに


 現実を強制的に想起させられる赤い水が飛び出る


 それと同時に重力に逆らう力を失った体は床へ倒れこむ


 両親と同じように赤い水たまりを作るフィーネ


「ふぃ、フィーネ?」


「貴様がアストだな。では死ね」


 痛覚が襲う


 思考が痛覚だけに支配される


 ただ、痛覚だけが脳内をぐるぐる回る


 そして


 不意に痛覚が途切れる


 いや、感覚が全て途切れる


 勿論そんな事本人には知る由もない


 だがその様子を見ていた自分(・・)には分かる


 それが死だと、その途切れた瞬間が死だと


 家族みんなで仲良く赤い水たまりを作る


 狂気的な人物なら芸術だと言うほどの神秘さがそこにはあった


――

――――

――――――ト、…――スト


 声が聞こえる。


 だがその声に応える気力はない。


 だが無情にも脳は活性化し始める。


「――アスト、ねえ、アスト」

「んん、なんだよ、エリスか?」


 そこには見知った人物がいた。


「そろそろ授業が始まるわよ。それにしても今日いつ来たの?最初に来た人が、もう寝てたって言うから驚いたわよ」

「余りにもぐっすり寝てたから起こそうにも起こさなかったんです」

「よくも学校であんなに爆睡できるよな、俺には到底真似出来ないぜ」


 だんだんと状況を理解してくるアスト。

 そういえば、と思い出す。


(昨日眠れなくて太陽が出るぐらいに学校にいったんだっけなあ…ということはもうすぐ1時限目か)


 既に大勢の生徒は登校してきており、友達との会話や次の授業の準備などで騒がしくなっている。逆に、ここまでうるさかったにも関わらず、エリスに起こされるまで目を覚まさなかった自分に驚きを覚えるアスト。


「学校の机は寝心地が良くてな。それより次の授業ってなんだ?」


 勿論、次の授業の準備を毎回しているような優等生ではないが、あの(・・)先生の担当授業だった場合、寝ていたらどうなるか、想像もしたくないことになる可能性があるのだ。


「はあ、心配して損したわ。それにしても授業が気になるなんてどうしたの? 最初の授業は人類史だけど…」

「げ、まじかよ。起こしてくれてありがとな」


 こういう、悪い予感の的中率には定評(自己評価)があるアスト。今回もきちんとど真ん中に当ててくる。


「本当にどうしたのかしら。危険な薬物にでも手を出したの?」


 珍しく(アスト主観)エリスが本気で心配しているが、アストの日ごろの行いが悪いせいか、想像が最悪な方向へ向かっている。


「それよりアストさん! 昨日の試合の後どこに行ってたんですか? レストさんが飲み物が欲しいって言って買っている間に控室からいなくなってるんですもん。心配したんですよ? エリスさんだって心配してましたし」

「バカ! 心配なんてする訳ないでしょ!」


 エリスにしては珍しく感情を露わにしている。


(そんな本気で否定しなくても…)


「そうか、悪かったな。ちょっと用があってな」


 迷子になっていた、なんて恥ずかしくていうことのできないアスト。適当に濁して話を終わらせようとする。次の授業まで時間は然程ないため、十分逃げ切れると踏んだのだ。


「だったらいいんですけど…」

「それにしてもよくアークライン家に引き分けまで持ち込んだな。お前がそこまでやるとは思ってなかったぜ」


 これまた日ごろのアストのダルそうな様子を見ていたレストにとって、決闘に、しかも噂のアークライン家のご子息に勝てるとは一寸も思っていなかったのだろう。


「試合に関しては後で聞くから。いいわね?」

「は、はい…」


 有無も言わさぬその迫力に逆らえないアスト。

 とりあえず次の時間の難敵(エルツィン先生)をどうにかせねば、と悩むアストだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ