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fiction 12

このような粗末な作品にブックマークして頂きありがとうございます。


 翌日早朝、毎朝の日課のランニングを終えたアストはシャワーを浴び、制服に着替えていた。


「ちょっと早すぎるな…ま、いっか」


 というのもいつもより早起きをしてしまったからである。理由はというと毎夜魘されていた夢を今日は見ることがなかったためすんなり起きられたのである。

 いつも魘されているとはいえ元々起きる時間は早い。まあいつも授業中寝ているためエリスなどは聞いても信じないだろうが…

 とにかくいつもよりもさらに早かったため、ランニングを余分にしてもいつも出る時間より十五分程早かった。だがその程度ならいいか、と十五分早く登校するアスト。少し早いだけなのに何故か新鮮に感じる朝。

 教室につくとやはり人は疎らで、ガラガラの教室だが、見知っている人がいた。エリスとリタだ。やはり真面目らしい。レストはいつもアストと同じぐらいの時間帯のため、まだいない。


「よう、おはよう」


 挨拶しながら自分の席につく。横の席はエリスで、その後ろがリタのため、二人でお喋りをしていたようだ。

 すると二人して驚いた顔を見せる。


「え、アストさん! おはようございます。今日は早いですね」

「あら、おはよう。今日は夢に魘されなかったから早く起きれたのかしら」


 二人して酷い反応。特にエリスに至っては冗談だろうが何故か当ててくる。相変わらず恐ろしい奴である。


「おいおい、俺が早く来るのがそんなにおかしいのか?」

「ええ、おかしいわ。雨が銃弾に変わるぐらいね」

「流石に可哀想ですよ。せいぜいお菓子です」


 冗談ではなく本気で言っているリタの言葉が一番傷つくアスト。クリティカルヒットをくらっていると廊下が騒がしくなった。


「ん、なんだ?」

「ああ、アストさんはいつもこの後来てたから知らないんですね。この学年の巨大派閥であるフィネス派の長、フィネス様が登校してくるんです。ついでにその派閥の人達も一緒に来るのでちょっとした大名行列みたいになってるんです」


 リタが詳しく説明してくれる。だがその名前に記憶があり、その事聞こうとすると、


「なあリタ、その長の名前って――」

「みなさん、御機嫌よう。…あら、もしかしてアストさん?」


 その声により、予想が的中している事がわかったアスト。だが一応振り向いて確認する。


「フィネスか? え、なんでここに?」


 その予想は的中していて、フィネス派の長と、昨日あったフィネスとは同じ人物であった。


「アストさん、同じクラスだったのですね。何故か今まで顔を合わせた事がなかったので驚きました。そういえばアストという名前は聞いた事があったんですよね」


 まあ恐らく悪評での噂だろう。

 すると周り、特にフィネスと一緒に登校して来た生徒達の様子がおかしくなってきた。


「おい、貴様。フィネス様を呼び捨てとはどういう事だ。そもそもフィネス様に軽々しく呼びかけるんじゃない。不敬だぞ」


 すると一緒に登校してきた内の一人が前に出てきた。


「誰だお前」

「な、貴様。私を覚えていないのか!」


 朝から高血圧だな、とこれまた聞かれたら激怒されそうなことを考えているとリタが耳打ちをしてきた。


「ケイネス君だよ。ほら、昨日の戦闘学で最初に戦っていたじゃん」


 そこでようやく思い出すアスト。


「ああ、あの強いイケメンか」


 つい心の中でつけていたあだ名を口走ってしまうアスト。するとイケメン君は満更でもないようで、


「な、貴様、褒めても無駄だからな。私の名はケイネス、ケイネス=アークラインだ。覚えておけよ。さ、フィネス様、早くお席に向かいましょう」

「そうですね。ではアストさん、また今度」

「ああ、またな」


 アストを睨みつけながら席に向かっていく御一行。

 アストは廊下側の後ろだが、フィネスの席は窓側の前の方の席らしく、かなり離れている。


「アストさん、フィネスさんと面識があったんですか!」

「はあ…あなた…問題を起こさないと気がすまないのかしら」


どうやら面倒な事になったと諦めるアストであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 昼休憩、いつもの面子で食堂で食事をとる。


「で、朝の件、かなり噂になってるが本当なんだよな?」


 情報通であり、ゴシップ好きのレスト、この手の噂には機敏である。


「なんだよ朝の件って」


 取り敢えず面倒な事になる予感しかしないので<すっとぼけ>を発動。


「誤魔化しても無駄だぞ。目撃証言は沢山出てるんだ。朝、フィネス様と親しそうに会話をしたってな!」


 最近師匠直伝必殺技の効きが悪い。

 何がいけないのだろうか、と全く関係ないことを考えていると、


「ま、私たちもその時一緒にいたけど確かに知り合いの様子ではあったわね」


エリスが裏切りを始めた(アスト主観)。


「ほら、もう言い逃れは出来ないぞ。それにしても彼女を作る気は無いって嘘じゃねえかよ。それもあのフィネス様を狙ってるとか。俺でも諦めたっていうのに」


(てことは一度は狙ったのかよ…)


「そういうんじゃねえよ。ただちょっと会話しただけだ。それにしてもレスト、お前が諦めるなんてらしくないじゃないか」

「そりゃ、流石にヴァレンティノ家には手を出せねえよ。番犬もいるしな」

「番犬ってあのイケメンか?」

「そーよ。しかもただのイケメンじゃねえ。なんとあのアークライン家の長男だぜ。ヴァレンティノ家だけでもやばいってのにアークライン家まで出てきたら手に負えないぜ」


 なにやら知らない単語が沢山出てきて混乱するアスト。


「なんなんだ、そのヴァレンティノ家とかアークライン家とかってのは? そんなに凄いのか?」


 すると一同が驚いた顔を見せる。


「え、アスト君、どっちも知らないの!!」


 かなりの驚きようである。


「はあ、ま、そうだと思ったわ」


 もう諦めモードのエリス。


「いいか、ヴァレンティノ家ってのは貴族の中でもさらに上の存在だ。なんせ貴族院院長は代々ヴァレンティノ家がなってるしな。それにアークライン家だって相当やばいぜ。あの有名なブレイズ=ブライドのライバルだったヴィネス=アークラインが先祖だぜ? 右卿の中では最強だって言われている程だ。ほら、人類史でもそろそろやるんじゃないか?」


 どうやらフィネスの家は相当なる血筋らしく、イケメンもただのイケメンではないらしい。なんて言ったってアストが使っている左卿流剣術の四凶派を作り出した人物がブレイズ=ブライドである。その人物のライバルが祖先なのだから相当なる家系だ。


「は~、そりゃあすごいな~」

「本当に理解してるのか? ったくよ~」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「おい、貴様、ルールは授業の時と一緒でいいな」


 フィネスと同じクラスだったことに驚いたが、顔をみなかったのには訳があったらしい。

 まず、席がかなり離れている、ということだ。横の端と端、もしくは縦の端と端より対角線の方が距離は遠くなる。そのため後ろ側のアストも、イケメンがひっついている金髪の少女がいることには気がついていだが、その人物がフィネスであることには気がつかなかった。


「今回先生がいないため、防御服の防御エフェクトが赤くなったら有効打とする。それでいいな」


 そして二つめとしては登校時間だ。窓側のフィネスが先に教室に着くため必然的に朝にアストと横切ることがないのだ。

 そして三つめとして休み時間に毎回取り巻きに囲まれているということだろう。そのせいで顔を合わせづらいのだ。

 …まあアストが四六時中寝ていて、さらに興味がないことは覚えない性格のせいでもあるが…


「…おい、聞いてるのか!」


 なんてフィネスと遭遇しなかった理由についての考察をしているとイケメン君がうるさく声をかけてくる。


「ああ、聞いてる。それでいい」


 なんでこんなことになっているかというと帰りのHR直後まで遡る。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「では皆さん、気をつけて帰ってくださいね~」


 天使先生——名前はまだ覚えていない――の解散の合図の後、皆が帰りの準備を始める。

 アストもレスト達と喋りながら準備をしていると…


「おい、アスト」


 いきなりイケメンが声をかけてきた。


「決闘をしろ」


 教室が静かになる。


「フィネス様は寛大だ。そのため今朝の件はお許ししてくださるらしい。だが、だが! 私は貴様を許すことはできない。しかしここで貴様をただ裁くのも不公平。我がアークライン家の家訓に反するのでな。そのため家訓に則り決闘を申し付ける」

「はわ、はわわわ~」

「はあ、やっぱりこうなる」

「やっちまったなアスト」


 何故かテンパるリタ

 いつも通りの呆れ顔のエリス

 これまた何故かニヤついているレスト

 そしてまた面倒ごとだと諦めるアスト。だが一応反撃もしてみる。


「なんで決闘を申し付けられなきゃならないのかわからないがそもそも決闘なんてしていいのかよ」


 こういう時は正論が一番効くのだ。


「なにを今更。それにそっちのことなら大丈夫だ。模擬試合ということで場所も借りてある」


 なんとも準備万端のご様子だ。


「で、俺に拒否権は?」

「ない」


 最近拒否権がない面倒ごとによく遭遇するとため息をつくアストであった。





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