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fiction 11

 この国立ベルトハルツ名誉学園には沢山の学科がある。そのためその学科専門の建物がある場合も多く、学園自体の大きさというのはとても巨大なものとなっている。

 初学年のころに取得できる選択科目には遠くまで行かねばならない学科は殆ど無いのだが、戦闘学に関しては他の生徒や建物に被害を及ぼさないために少し遠い場所まで移動しなければならない。

 さて、なんでこんな事を話しているかというと…


「……迷った……」


 というのもあまり前で、いつも移動の時エリスとリタについて行っているだけなので道を今ひとつ覚えていないのである。さらに方向音痴という先天性の病にかかっているため尚更である。

 行きに迷わないで到着したのはある意味奇跡の様なものであった。


 さらに荷物を持っていくのを忘れたため、わざわざ教室まで戻らなければならない。が、その教室がある建物が見当たらず、というか人影すらも見当たらない庭園のような場所にたどり着いていた。


 アストは知る由もないが、この場所は貴族様達が選択する科目の作法という学科で、外でのお食事会を開いたりする時の場所である。

 因みにこの授業は音楽や芸術に比べるとマシな方で、作法がなってないと、先生にみっちり教わることになる。

 とはいえこの授業をとる大半の生徒は既に作法を学んでいるのでその様な生徒は殆どいない。

 そのため実質パーティーを開いているだけとか...


 ともかく既に放課後の時間に人もいるわけなく、道を聞こうにも聞けない状況であった。草木を管理している人がいるかと思ったがその辺は全て専用のロボットがおこなっており、歩いている途中に一台見つけだが会話機能は搭載していないようだ。そのため道を聞くことは不可能だった。


 持ち物も何も持ってきていなかったため、どうする事も出来ず、あてもなく彷徨っていると何かが聞こえてきた。勿論今までも噴水や、風により擦れる草木達の音は聞こえていたがそれらとは確実に違う音だ。

 帰れる手立てになるかもしれないと近づいて行くと、だんだんその音の正体が分かってきた。鼻歌だ。その事実が分かり、道を聞くことができると喜ぶアスト。

 植物により出来ていた仕切りの向こう側に顔を出すと、一人の少女が背中を向けていた。


 風により煌めく金色の御髪(おぐし)に、その少女の周りに集まっている小鳥たち、そして彼女の鼻歌が天国と錯覚させるような幻想を見せていた。

 そしてアストはその女性の背中に一人の少女が重なって見えた。


 まるで背丈も違う、さらに存在することはあり得ない一人の少女と。


「 フィ、フィーネ!」


 その少女とは違うと自分が一番分かっているのに、1%にも満たない0%の、可能性とは呼べない可能性に賭けたくなる。

 その、夢に必ずでてくる一人の少女がいるという可能性に。

 だが、現実は無情だ。其れこそが現実。

 少女が振り向いたその時その瞬間に、小鳥たちが飛び出していくのと同時に、夢想もまた飛び出していく。


「え、人!」


 どうやらこの時この場所に人が来るとは思っていなかったようである。そして何故か顔が赤い少女。名前を間違えたことに怒っているのかと思い、すぐさま行動に移す。


「あ、ごめん。人違いだった。いきなり大声出して悪かったな」


 アストも大声を出して人違いをしてしまい恥ずかしいのか、頭を手で掻きながら謝罪をする。


「……————ました?……」


 俯きながら何かを言うその少女。服装から学生ということが伺える。声が小さくアストには何を言っているのか聞こえない。


「え、ごめん。なんか言った?」


「だから…さっきの…聞こえていました?」


 顔を真っ赤にして声を出すその少女。

 どうやらさっきの鼻歌を聞かれたのが恥ずかしいらしい。それに気がつき、嘘も方便ということで聞いていなかったことにするアスト。


「あ、ああ、聞いてないぞ。あんな綺麗な鼻歌は」


 だが少し――いやかなり――抜けているアスト。全く嘘になっていないことを分かっていない。


「き、聞こえてたじゃありませんか!」


 自分の失言に気がつき、何とか弁解しようと試みる。


「あ、ああ、そういえば聞こえてたな、ははは。でもあんな綺麗な鼻歌は本当に聞いたことがなかったぞ。本当だ」


 取り敢えず怒らせたら道を聞くことが出来なくなると思い、師匠直伝必殺技<取り敢えず女性は褒める>を発動する。この技は<すっとぼけ>より難易度が高く、習得するのに時間がかかった技だ。それなので自信を持って答えるアスト。だが…


「…はあ…もういいです。」


 何故か呆れられたアスト。


「フィネス」

「え?」

「フィネスです、私の名前。名前を間違えられたのは初めてです」


 とはいえ怒っている様子はない。どうやら金髪の少女の名前はフィネスというらしい。


「俺の名前はアストだ。宜しくな、フィネス」


 すると何故か驚く様子を見せるフィネス。また何か失言をしてしまったのか不安に思うアスト。


「ふふ、何でもありません。それよりアストさん、どうしてこのような場所に? 作法の授業にも出席はしていなかったと思うのですが?」


 怒ってはいないようでホッとするアスト。迷子になっていたことを思い出し、慌てて道を聞く。


「あ、ああ。道がわからなくなってな。クラスがある建物に戻りたいんだが…」

「そういうことだったのですね。でしたらこうしましょう。私が授業棟への道案内をします。そのかわりにさっきのことは他言無用ということで如何ですか?」


 どうやら道案内するかわりにさっきのことは墓まで持ってけ、ということらしい。


「分かった、取引成立だな」

「ふふ、そうですね」


 まあ取引といってもアストが一方的に邪魔をして、ネタを掴んだだけだか…


~~~~~~~~~~



「ここまでで大丈夫だ。ありがとうなフィネス。学園内で遭難するところだった」

「それでしたら学園初の偉業を成すところでしたね。では、(わたくし)はここで」

「おう、ありがとうな」


 目的の建物が遠目に見える場所でフィネスとは別れ、アストは教室にようやくもどれることができた。

 この学園への入学には年齢制限はなく――といっても殆どが15、6歳だが――生まれた星によって成長速度も変わってくるため単に見た目だけで学年に見当をつけることは出来ない。

 そのためフィネスも自分と同年代、もしくは年下にも見えたが、年上の可能性もあり得る。そのため学年が違う確率は高く、更に学園の生徒数も多いためもう会うことは無いだろうと、明日の朝になるまでは思っていたアストであった…



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