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fiction 8

「さて、みんなお待ちかねの戦闘学の授業だ。では早速、先日の班に分かれてくれ。因みに私は近接戦闘を担当する」


 と、学園筋肉四天王の一人であるレグルス先生の鶴の一声で一斉に動き出す生徒たち。


 エリスは魔術専門ゆえここで分かれ、リタと一緒にレグルス先生の所に移動する。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「さて、全員集まったな。基本的に近接戦闘の生徒を担当するからよろしくな。では早速模擬戦を始めよう」


 そして授業開始早々いきなり爆弾発言を放り込む。

 親が軍人で今まで訓練を積んできた生徒の顔には自信が見受けられるが、対人経験が無い生徒もいるらしく、少しざわついている。リタもその口なのか知らないがキョロキョロして少し落ち着かない様子だ。


「対戦相手はこっちで勝手に決める。呼ばれたらこい」


 試合形式は一対一で、有効打、もしくは降参させれば勝利となるらしい。武器使用はOKでーー学校側が用意したものの中からしか選べないがーー、危険度の高い魔法以外は使用許可が下りるなど、結構自由があるらしい。だが学園が提供する魔導刻印仕込みの防御服を着なければならない。

 この服は新入生程度では到底破れるものではないので、有効打といってもとりあえずきちんと攻撃を当てさえすればいいようだ。


 最初に呼ばれた生徒の片方はかなりのイケメンで、何処かで見たことがあるようなと思い返しているとリタが声をかけてきた。


「やっぱりケイネス君、強いね〜」

「ん、あのイケメンか?なんだリタ知ってるのか?」

「ちょっとアスト君、同じクラスメイトだよ」


 少し呆れ気味のリタ。


「ん、やっぱりそうか。ほら、あの金髪女子のひっつき虫筆頭だろ」


 興味がないものはこの程度の覚え方である。


「ひっつき虫ってひどいなあ。まあフィネスさんの派閥にいることは確かだけどさあ。」


 なんて本人に聞かれたら確実に面倒臭くなりそうな会話をしていると既に試合は終わっていた。

 相手の選手も頑張ってはいたが、ケイネスの方が一枚上手であったらしい。相手は聖気術と体術を融合した典型的な接近格闘型であったが、両手剣を使うケイネスの猛攻には追いつけなかったようである。

 リタによるとケイネスは有名な軍人一家の令息であるらしく、入学時点で他の生徒とかなりの差があるらしい。ついでにイケメンで周りの女子から羨望の眼差しを向けられている、いけ好かないやつである。


 その後も何人か呼ばれて試合を行なっていたがどうやらケイネス級の生徒は居そうにない。ケイネスの実力は頭一つ抜きん出るものがあるらしい、なんてことを考えいるとリタが呼ばれた。

 正直言うとリタのような小柄な女子が近接戦闘とはどうも思えず未だに疑ってるため、この試合で見極めようと画策するアスト。だが自分の目が間違っていたことに気づくのはすぐ後のことだった。



「ま、まじか......」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「勝者、リタ」


 リタの試合が始まったあと直ぐにリタの名前が呼ばれる事となった。

 その試合は一方的であった。相手の選手は両手剣ーーケイネスが使用していたものより一回り小さいサイズーーを使用し聖気術、さらには魔術も使用するなど多彩な攻撃手段を有する生徒であった。それに相対するリタは短剣を二本もつ特殊な戦闘スタイルだった。

 ある程度戦闘に通じているものなら直ぐにリタが不利だと分かる試合であった。それはリタが小柄で、小動物みたいな女子生徒だからなどではなく、今回の試合のルールのせいであった。


 今回の試合で勝利を掴むためには、相手の降参以外には有効打を当てなければならない。

それは暗にかすり傷レベルの攻撃は幾らつけても、精神の具合を除けば試合の勝利には全く関係ないという事だった。そしてそれはリタにとってかなり厳しいルールとなる。まず短剣使いには敵にかすり傷を沢山つけて動きを鈍らせるという戦術があるが、今回防御服を着ていて、さらに学校側から支給される武器の刃は潰れているためその戦法は全くもって使えないのだ。

 二対二など多人数戦闘であれば戦術を利用して相手の裏から攻めるなどやりようはあった。だが今回は一対一の模擬試合である。つまり敵の生徒と真正面から打ち合って、先生が有効打と判断する一撃を喰らわせなければならない。すると武器のリーチというものは大変重要になってくる。


 さて、此処で相手の生徒について見直してみるが相手の生徒の使用武器は両手剣である。此処まで言えばどちらが有利か説明するまでもないだろう。この試合において短剣使いが勝利するためには両手剣の長いリーチを逆に利用して、超接近戦闘にもたれ込むしかない。

 だか今回はさらに運が悪く、相手はある程度の魔術が使用できた。魔術により水を生成し、それを球状にして、自分の体の周りに二個漂わせていた。水の生成スピードや正確さなどから、遠距離魔術があまり得意ではないが、近距離での魔術操作が得意ということが見受けられ、入学当初の実力でないのは確かめるまでもない。

 ケイネスと戦わせたらどちらが強いか気になったアストであったが直ぐにリタのことを思い出し、考察をし直す。どうやら相手が短剣使いだと見て相手の唯一のリーチかつ、自分の苦手な範囲である超近接範囲を防御しようという企てらしい。

 ここで、その生徒の相手ーーリターーが魔術等を利用し、遠距離攻撃ができる恐れもあるのでは、と思うかもしれないが、一つ重要な事実がある。

 それはこの試合を行なっているのは全て近接戦闘に分類された生徒であるということである。つまり遠距離攻撃を試合で使用できるほどの実力があればそれ相応の班分けになっているはずなのである。そのため遠距離からの攻撃を気にする必要は無く、超近接範囲だけ気にすればいいのである。

 そしてこのことを見抜き、試合開始後すぐに魔術を使用した相手の生徒は相当戦闘に慣れているものと思われる。


 とにかくこれらのことから既にリタに有利と呼べるリーチは存在せず、常に相手の土俵で戦わなければならないことが試合開始後すぐに決定することとなった。


 そういう訳でリタが勝利する確率は低いだろうと思い、負けて帰ってきたリタにどう声をかけようかと考えていたアストであったが、その直後アストのその思考は全くをもって無駄になることとなる。


 試合開始後、直ぐに相手に近づいたリタであったが、その場所は既に相手のリーチ、両手剣が振られもう試合が終わった、と思われたがなんとリタは空ーー上方に飛び上がることにより剣による攻撃を避けた。


 その行動に驚いたアストであった。なぜならば上方に飛び上がるということはその後着地まで軌道は変わらないということである。つまり魔術のいい的になっただけである。


 魔術により有効打を当てられると誰もが思ったが、その予測は不意に響いたタンッという音とともに打ち砕かれることとなる。


 なんとリタは空中で軌道を変え、水の魔術を避けた後、落下しながら回転し、相手の生徒の背中に三連撃を当てることとなった。


 そしてリタが負けた時のセリフを考えていたアストは、


「ま、まじか.....」


 という言葉しか出てこなかった。

 ほとんどの生徒は気がついていないーーというか知らないだろうが、先程リタが使用したのは擬似歩行と呼ばれる聖気術の一つである。


 此処で一つ魔法学、魔素学の初期の内容を復習してみるが、魔法にはそれぞれ得意とされる範囲がある。

 魔術は基本的に遠距離ーーといっても体からかなり離れているところ、ということではなく、体のすぐ外から遠距離までの全てであるーーが得意範囲となり、印術は中距離ーーこちらは体内と体外両方を使用しやすいが、魔術並みの遠距離での支配力はないーーが得意となり、そして最後に聖気術は近距離ーー基本的に体内のみであるーーが得意範囲となる。

 そして先程の技だが、大抵皆歩く、という動作に目を向けがちであるが、注目してほしいポイントはそこではない。歩行するための足場を聖気術により作り出した、ということである。聖気術は基本的に体内での使用となり、自己強化や自己防御などが基本術式となる。

 そのため体外でーー皮膚に限りなく近い場所でもーー聖気術を使用するだけで相当の手練れである証拠となる。

 

 そしてそんなことを軽々しくやってのけたリタはというと...


「アストさん! 勝ちましたよ!! 嬉しいです!!」


 などとはしゃいでいるだけである。


「り、リタ。意外と強かったんだな」

「意外ってなんですかあ〜。ひどいですよ〜」


 と、頰を膨らませているが試合で勝ったのが嬉しいのか、そこまで怒っているというわけでもないらしい。


 少し気が動揺して失言をしてしまったアストはそのことに気がつきホッとする。


「悪かったって。弱いとは思っていなかったがあそこまで凄いとは思わなかったんだよ」


 弱いとは思っていたアスト。


「え!そんなに凄かったですか?」


 一応褒めて機嫌を直そうと思ったアストであったが、何故かリタの気分が急激に下がり、何やらぶつぶつ言いだした。


 今回については何が失言だったのかわからず、困っていたアストだったが、先生からアストの名前が呼ばれ、リタには悪いがこれを利用させてもらう。


「あ、どうやら呼ばれたみたいだからいってくるわ」

「あ、頑張ってくださいね」


 と、ぎこちない笑顔を向けてくる。


 何を失言したのかわからず、モヤモヤしながら試合に臨むこととなった。








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