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fiction 5

「ーーまず魔素とは何かという事なのですが、魔素は二つ、もしくは三つに分ける事ができます。

現在、学会では三つに分けるという意見が主流のため、この学園の授業では三つに分けて教えていくことになります」


 一つだけ言えることがあるとすれば人生とは大抵悪い方向に向かっていくものということだ。


(...なんで......なんで.........)


「ではその魔素ですが、魔力、聖力、印力の三つに分類する事ができ、これらの組み合わせにより、様々な事象を発現させる事が可能になります。魔力を使用すれば魔術に、聖力を使用すれば聖術にーーまあ気術と呼ぶものもいますがーー、そして印力を使用すれば印術を使うことができます。

 まあ余談ですがこの三つを組み合わせることにより新たな術式を編み出す混合術と呼ばれるものもあります。例えば魔力と印力をある一定割合で混ぜると陰陽術が、といった様子ですね。まあ混合術については一学年では取り扱わないので今はそのようなものがーー」


「なんで座学なんだよ!」

「...アストさん、どうやら私の授業がご不満のようですね」

「あ、いや、違うんです。心の奥底で思ってたことがつい言葉に出てしまっただけなんですよ。はははは〜」


 午後の選択科目ではようやくの実習ということもあり、期待していた分少し文句が出てしまったようだ。ひびの入った水瓶から閼伽が零れるぐらい必然的である。


「魔法の基礎もわからずに実習をさせる訳ないでしょう。ご不満なら出ていってもらっても構いません。まあこの授業の単位は失効となりますが」

「申し訳ありませんでした。授業を受けさせていただきます」


 この手のお年寄りには苦手であるアスト、すぐさま降参。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ーーではこれで授業を終わります。次の授業は外になります。詳しい場所は担任の先生に伝えておくので各クラスで確認しておくように。では皆さんお疲れ様です」


 ようやく授業が終わり、教室にざわめきが戻ってくる。まだ最初の授業というのもあって、気だるげな顔をしている生徒はいない――ただ一人、アストを除いて。


「相変わらず毎回毎回やらかしてくれるわね」

「実習が楽しみだったんですよね」


 先生との一悶着があった後にすぐ寝るわけにはいかず、なんとか真面目に授業を受けている風に努力していたためアストの体力はゴリゴリ削られていた。


「次の授業は外でやるらしいですし楽しみですね。どんな授業をするんでしょうかね?」

「どうやら軽くテストをするらしいわよ。まあ魔法にはどうしても個人差がでてしまうから魔法学の中でさらにクラス分けをするらしいわ」

「一緒に授業を受けられるといいですね」

「そうね」


 女子トークで盛り上がっているエリスとリタ。混じる気力もなく、さらには用事があったため一足先に席を立つ。 


「おう。じゃ、俺この後用があるから先帰ってるわ」

「あら、貴方に寝る以外に予定があるなんて天変地異でも起こるのかしら」


 相変わらず酷い言いようである。しかしアストの学校生活での態度を見ていればそう思うのにも無理はなかった。


「人を冬眠期のクマかなんかと勘違いしてねえか。ま、リタも明日な」

「はい、さようなら〜。」


 そういって先に教室を出る。少し振り返ってみるとすぐさま女子トークを再開していた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 とある路地裏にて。

 学園の近くは比較的治安も良く、人通りも多い。だが交通機関である魔導車に十数分揺られれば人気ひとけのない路地裏など幾らでもある。と言えどもゴミが散乱していて治安が悪い、という訳でもない。しかし夕暮れ時、さらに日も当たらないような場所のため薄暗く、人が寄り付く場所でもないことは確かだ。


 そのような場所に一人の少年――アストと、仮面を顔につけた謎の人物がいた。顔全面に仮面が覆いかぶさっているため素性が読み取れない。仮面には変な模様ーー黒色の鳥の羽と見ることもできるーーが描いてあり、祭りなどの楽しい雰囲気ではないのは確かだ。


 だがこの星は国立学園などの主要な建物が幾つかあり、外星との交流が比較的、いやかなり多いのだ。そのため様々な服装をしている人が多く、仮面一つ程度で目立つという訳でもない。しかし何故か目の前の人物からは普通じゃない(・・・・・・)雰囲気を感じる。つまり見た目が原因ではなく、人物の本質から発せられているとしか考えられない。


「よう、おめーから声をかけてくるなんて珍しいな。なるべくウチらには借りをつくりたくねえんじゃなかったのか?」


 その謎の仮面をつけている人物がアストに向けて声を発した。その声は比較的若々しく、男性であると読み取れる。そして会話から知己の中だと思われる。


「それもそうなんだがな。だがこんなところで躓くわけにもいかないから慎重にならざるを得ないんだよ」


 だがその仲は友達という訳でも無さそうだ。


「ほう、となると厄介なのでも出たのか?だとしたら俺も御免被りたいんだけどな」

「なに、まだ厄介ごとと決まった訳じゃない。ただ少し気になったやつがいただけだ」

「へっ、よくもいけしゃあしゃあと抜かしやがる。貴様が気になって面倒ごとにならなかったことなんて今の今まで一度もねえじゃないか」

「だとしても貴様とて断るわけにもいかないんだろ。あのクソジジイに命じられてるからな」

「ああそうだよ、もし命令が無かったら貴様の言うことなんて聞いてられるか。この前だって、軽く軍事機密を押し付けやがって」

「その事については悪いと思ってるよ。根本が軍上層部とは思ってもみなかったんだよ。それより今回だ」

「わかったよ。で、今度は誰なんだよ。あ、学園の教師はやめてくれよ。非常勤ならまだしも正職員には流石に手を出さねえからな」

「へえ、流石に元老院の(かげ)でも無理なのか」

「当たり前だろ。特にあそこの先公どもはやべえ。色んな所のお上に融通利かせてっから軍人上がりやら院上がりやら、とにかく各部署の変人の再就職先ってんで有名だ。さらにこれは噂だがどうやら犬も放し飼いにしているらしい」


 犬という単語を聞いてから、いつも眠そうにしているアストには珍しく緊迫した様子が窺える。まるで犬を死神とでも聞き間違えたような様だ。


「...おい、まさか親衛隊ってわけじゃねーよな」

「へっ、その通りだよ。とにかく噂が本当なら相当ヤバい。見つかっちまって死ぬだけならまだマシな方って話だ」

「おいおい、そりゃあ平和じゃあねえ。じゃあなんであのクソジジイはこの学校に入れたんだよ、そんなあぶねえとこ。俺が元老院とつるんでるってバレたら一発退場もあり得るぞ」

「そりゃあわかりきったことよ。さっきもいった通り、その学園にゃ色んな派閥が闊歩してる。勿論元老院もな。逆に言えば元老院が絡んでいる国立はそこしかねえんだよ。貴様がバカなせいでこんな危険な橋を渡る羽目になっちまったんだよ」

「俺は馬鹿じゃねえ。ただ勉強する時間が無かっただけだ」

「まあそんなことは置いといて、対象は誰だよ」

「そんなことって、まあいい。今回のターゲットとは俺とクラスメートのーーエリス、レスト、それにリタだ」


 特に何を思っているようでもなく、淡々と三人の名前を告げる。同級生に疑いの目を向けることについて何にも違和感を覚えていない。

 しかしそれは仕方のないこととも言える。今までの生活が、人生がそうさせたのだ。


「へえ、入学早々三人もかい」

「俺とよくつるんでいる奴らだ。ま、杞憂だとは思うんだけどよ。俺への接触目的で近づいて来たとも限らねえ。ま、一応ってやつだな」

「はいよ。ま、何かあってからじゃ遅いからな。バレない程度に探りは入れてみる」

「おう、よろしくな」


 その直後仮面の男の体が陽炎のようにぼやけていく。


「ーー最後に一つ、リタってやつには特に気をつけてくれ」


 と、少年が消えかけている仮面の男に言葉を発する。言い終わった頃には既に男の影も形も見えなくなっていた。





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