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fiction 4

「全く良くないわよ」


 この国立ベルトハルツ名誉学園にも昼休みというものは存在しているが、一年生の授業割は午前中が必修科目、午後が選択科目となっている。そのため選択科目がない最初の頃は昼休みが無く、午前中で解散だったのだ。


「なんでだよ、授業の邪魔をしてる訳じゃねえんだし、それに筋肉先生の筋肉プルプル現象も止まったじゃないか」


 といってもそこで帰っている生徒は少ない。というのも放課後に選択科目の見学が出来るからである。選択科目は面倒臭い書類などを用意すれば途中でも変えられない事はないが、今まで受けてきた授業の単位は全て消え去り、中途半端な時期に変えようものなら留年もあり得てしまうのだ。


「聞いた話によると怒りゲージが限界突破したら逆に筋肉の動きが止まるらしいぜ」


 そのため基本的には最初の見学期間で選んだ科目を一年間受けていくことになるため、みな必死で選ぶのだ。そして今は初めての昼休み。つまりこの後初めての選択科目があるということだ。


「さらにさらに別情報も入手したが、どうやら筋肉先生は内臓までは鍛えられていないらしいぜ」


 という訳で食堂に来たのだか、エリスが高嶺の花的な雰囲気をぷんぷん漂わせていたため、その席の周りが空いており、是非もないということでレストと一緒に席に着いたのである。


「先生に胃薬でも用意しておこうかしら」


 なんだかんだで優しいエリスである。

 

 なんて馬鹿みたいな話をしていると不意に声をかけられた。


「ねえ、隣いいですか?」

「うぉっ」


 声をかけてきたのは同年代と思われる栗色の髪の毛をもつ女子だ。それにしても幽霊の如くいきなりあらわれ声をかけてきたため、驚き少し変な声を出してしまった。


「ええ、大丈夫よ。それにしてもアスト、女子にその対応はいかがなものかと思うけど」

「アスト、以外とビビりなんだな」

「ありがとうエリスさん。それに向かいの二人はレスト君にアスト君ですよね。僕の名前はリタ。気軽に名前で呼んでくれると嬉しいです」


 どうやら名前はリタと言うらしい。ショートヘアを真っすぐおろし、まるで小動物のような印象を受ける生徒だ。


「ああ、よろしくなリタ。それにしてもなんで三人の名前がわかったんだ?それとレスト、俺はビビりじゃねえ」

「だって僕たち同じクラスですから」


 リタの衝撃の発言が炸裂する。確かに同じクラスであれば名前を憶えていてもおかしくはない。つまりそれが分からなかったということは、目の前の生徒に身に覚えがないということだ。


「あ、ああ、そうだよな。ははは」


エリスとレストの疑惑の視線が刺さる。

するとエリスがいきなりため息をつきだした。


「まあエリス、こいつはそういうやつだ。リタさんも許してやってくれないか?」

「全然大丈夫だよ。僕、影が薄いって散々言われてきていますから。それよりもレスト君、僕もエリスさんみたいに名前だけでいいですよ。僕は親が少しうるさいからこのまま呼ばせてもらいますけど」


 それにしても本当に影が薄かった。師匠仕込みの気配察知術を軽く超えて来たのには驚きの出来事である。幼少期のとある時から師匠に虐められていたアストにとって学生程度の気配察知など電子書籍を読みながらでも出来る自身があったのだ。それは若いころ特有の全能感からくるものではなく、実戦による確固たる経験からくるものである。

 あり得ないとしたらアストが文章を読むということである。


 つまりそのアストの気配察知術を軽々しく突破してきたリタが、ただ影が薄いというには少々無理があるのだ。そのためアストがリタに疑惑の念を向けるのは当然とも言えた。


「おう、そうさせてもらうわ。エリスにもこの前、名前だけでいいって言われてな。そうだ、みんな次の選択科目どうなってんだ?たしかエリスとアストは全部同じだったはずだが」

「へえ、エリスさんとアスト君一緒の選択科目なんですか。やっぱり仲がいいんですね。ちなみに僕は戦術学と戦闘学と魔法学を取ってるから次の授業は魔法学です」


(こ、こいつ……またもや衝撃発言をしやがった。それも二つも……まず俺とエリスと全く同じ選択科目ということにも驚きだが、俺とエリスが仲がいいだと? 毎日ペシペシ叩かれ昼休みとかに少し話をしているだけじゃないか。……だけだよな?)


「まあ、全部私と同じ科目じゃない。それと仲がいいわけじゃないわ。ただこの犬が寄ってくるだけよ」


(だとしてもそこまで否定しなくてもいいとおもうのだが。それと俺は犬じゃない。本当に噂が広まったらどうするつもりなのか。)


「え、本当に? 嬉しいです! そういえばレスト君は何にしたんですか?」


 もしリタに尻尾が生えていたらブンブン揺れていそうな喜びようである。この様子を見ているとアストが危惧するような存在ではないような気がしてくるが、気を緩ませることが狙いなのかもしれない。


「意外とその選択科目は普通なのか? ……ん、俺か? 俺は音楽、芸術、それに哲学だな。次の授業は音楽のはずだぜ」

「...俺たちの選び方よりよほど珍しいと思うが」

「まあ俺が欲しいのは学歴だけだからな」

「ま、確かにこの学園の卒業って肩書きは相当なものだからな」

「そろそろ時間になりそうよ。今までと違って移動するし早めに動きましょう」

「うん、そうですね。魔法学楽しみだな」


 レストとはここで別れ、三人で魔法学の授業に向かうこととなった。

 少しの疑惑を持ちながらも、初めての実習ということでワクワクしていたアストであったが、その自分を殴りたくなる未来はそう遠くなかった。





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