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fiction 3

 とある一室、電気もつけず、薄暗い部屋にて一人の少年と半透明の立体映像に映されている人物が会話をしていた。


「入学時に色々便宜を図っていただきありがとうございました」

「よい、これは謂わば平等な取引だ。これは先払いにすぎない。そのことはわかっているな?」


 その声は嗄れており、その少年と同年代とはとても思えない。


「わかっています。私が欲しているのはあの時の真実を知ることが出来る権力だけです。中途半端な権力では消されるだけと私の親が証明してくれましたしね」

「わかっているならいい。それにしても血なまぐさい時のことが知りたいとは貴様も酔狂よな」

「そんなことはどうでもいいです。重要なのは私が右卿になる、ただそれだけです」

「ふっ、それもそうだ。だが忘れるなよアスト、今の貴様は元老院の犬ということをな」

「ええ、道化でもなんでも演じてみせますよ」


 その後直ぐ、立体映像が途切れ、薄暗い部屋には少年ただ一人だけが立っていた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 この学校、国立ベルトハルツ名誉学園は国立の中でも歴史が長く、開園からの年数は優に四桁を超える名門校である。さらに授業の多様さをうたっており、有名どころの役職は大抵この学園出身者が多い。


 現にこのユーフェ=クラーリ=アルトハルツ連合公国の君主である総統の下に直接いる、つまり連合国家でNo.2といってもいい役職である右院長、左院長、さらに右卿の内の一人はこの学園の卒業者であり、No.2の役職(右院長、左院長、貴族院長、右卿の二人、親衛隊長)の半分がこの学園の出身者なのである。


 そして学園もそのことをとても誇っており、詳しい政治形態などの授業を一年生の時に必修科目に入れるという暴挙に出ているのである。

 つまり何が言いたいかというと必修科目はどれもこれもつまらないのだ。


 なんてことを微睡みの中で考えていると、いきなり頭上に衝撃を感じた。


 仕方がなく目をあけて見渡してみると怒り心頭のご様子の公民の先生に、必死に笑いを堪えているレストを筆頭としたクラスメイト達、そして教科書片手にこちらを睨んでいるエリス。


「おいおい、人の頭を教科書で叩くなんて失礼な事はやめてくれないかな」

「ならまず授業中のその失礼な態度をまずどうにかしたらどうかしら?」


 ふむ、一理あるかもしれないーー決してエリスの言う事を正論と認めてはいけないのだ。認めたら負けなのだーーと、若干負けを感じ始めた頃、遂に先生が動き出した。


「学年一の問題児アスト。私の授業中に堂々と眠りに入るなんてよほど授業の内容が簡単なご様子だな。是非とも今説明していた政治体制と軍事体制についてみんなに教えてくれないか」


 と、怒りを隠しきれていない様子の人が公民の先生である。なんでこんな筋肉ムキムキの人が公民の授業をしているのかは不思議だが聞かれたからには答えねばなるまい。

 基本的に座学は少し苦手(主観的感想)だが、唯一得意なのが戦術学と公民(の一部)なのである。

戦術学は散々師匠に教わり、政治云々に関してはあのクソジジイに散々教え込まれた。


「えーと、アルトハルツ連合公国は沢山の星の国家が集まって出来た連合国家で一番偉い人が総統、その下にいるのが七部署あって、政治を取り扱っているのが右院、左院、貴族院、元老院の四つ。といっても実際貴族院と元老院に関してはもうお飾りみたいなもんだけどな。んでもって軍事を取り扱っているのが右卿軍に左卿軍の二つ。

 さらに総統の直接下にいる親衛隊に元老院も少量ながら戦闘員を保持している。まあ元老院も本来は総統の助言機関として作られたから大昔の元老院は権力が頭一つ抜きん出ていて、その絶頂の時に無理矢理権力を使って戦闘部隊を作ったらしいな。

 だが政治にも軍事にも両方に手を出しちまったから結局両方衰退してしまったって訳だ。だから元老院の飼っている戦闘部隊のトップは大した権力を保持していない。実際右卿軍のトップの右卿、それに左卿軍のトップである左卿代理のもう一人の右卿とは比べるまでもないしな。って、みんなどうした?まるでこの世にいるのがあり得ない物を見るような目で。なんだ、俺の後ろに幽霊でもいるのか?」


 散々教え込まれた内容を苦もなく説明していたところ生徒の、さらには先生の様子もおかしくなっていた。


「あ、アナタのことよ、アスト。いつからそんな頭が良くなったのよ」


(成る程、今までの授業では少し、少しだけやらかしてしまっていたからな。どうやら俺が答えられるとは思ってもみなかったのだろう)


「ふっ、なんだそんなことか。俺を見くびってもらっては困るな」


 別に意図した訳ではなかったがどうやらいい方向に向かったらしい。だが先生はどうやらこの問が答えられなかったら廊下にでも立たせようとでもしていたのか、さらに怒り心頭のご様子だ。


 因みになんでそんな先生の精神状態がわかるかと言うと、とってもわかりやすく筋肉がプルプル震えているのだ。交渉ごとには向かない体質だ。


「よ、よろしい。授業中に寝ているぐらいですからこれぐらいは出来て当然です。因みに左卿軍の長が左卿でないのも勿論知っていますよね?」


 どうやらアストが答えられなくてオロオロする様子が見たいらしい。だがここはアストの得意分野の中でもさらに得意な領域。答えられない訳がない。


「ええ、もちろんです。左卿は要するに永久欠番ですよね。最後の左卿である救世の英雄の殉死の際に与えられた永久左卿の位。そのせいで右卿をもう一人増やして代理として左卿軍の長にしているってお話ですよね」


 筋肉先生の筋肉プルプルが止まった。それ以降アストが寝ていても何も言われなくなった。


(ま、いい結果に終わったから良しとしよう。)




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