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超短編2

僕と彼女。

作者: しおん

久し振りの投稿です。


「海が見たいな」



なんて、唐突に切り出した彼女に僕は頭を抱える。といっても、それは心の中でだが。彼女の我が儘はいまに始まったことではないが、どうしても無理なことだってある。


僕らの暮らす県は内陸にあって、山こそあれど海はない。海を拝むためには野を超え山を越え、隣の県へいかなくてはならないのだ。それは、電車や自動車を使ってもすぐについてしまうような距離ではない。



「今から?」



時刻は夕方。

もうすぐ太陽は山に隠れてしまう頃だろう。遠くでひぐらしが夏の日の終わりを告げている。今から急いで海に向かっても、夜の暗い海しかこの目に写すことができないだろう。それでも行く意味はあるのだろうか。



「んー......晴海(はるみ)がそれでいいと思うなら、そうしてよ」


晴海というのは僕の名で、彼女は僕を呼び捨てで呼ぶ。彼女はいつも我が儘を言うくせに、その選択は他人に任せるのだ。そしていつも、何かしらの文句を言う。


今回であれば、行けば暗いのに何で行くのと言い、行かなければ僕のせいで海が見れなかったと言う。どちらに転んでも僕はぐちぐちと文句を垂れる彼女の機嫌を直さなければならないのだ。


一度、友人に尋ねたことがある。

彼女が我が儘なんだけど、どうしたらいい?と。友人はそれに我が儘くらい聞いてやれる、器の大きい男になれと答えてくれた。僕は器の大きさで彼女の我が儘を解決できるだろうかと思案したが、彼女について語るのも嫌だったので、その場ではすぐに話題を変えたのだった。


「晴海、聞いてるの?」


「ん、聞いてる。少し考えてただけ」


考えてたことは、彼女の思っていることとは違うけれど。


「ねえ、いくの?いかないの?」


急かすようにこちらをうかがう彼女に、僕は確認をとる。


美夏(みか)は、行きたいんだよね?」


美夏、それは彼女の名前だ。


「私が言ったんだから、当たり前でしょう?」


彼女は何でそんなことを聞くのか疑問に思っているみたいだ。僕としては、この短時間で彼女の気が変わっていたらいいなという希望があったのだが、そんな都合よく物事は進んでいってくれない。


「じゃあ行こうか、海」


「ええ」


そう言って僕らは夜の海を目指した。





読んでくださり、ありがとうございます。

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