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閑話リーゼ2

「だ、だれぇ?」


 朝起きると、青い髪をした見知らぬ美少女が隣に寝ていた。


「…………」


 目が……覚めた。

 さっきまで残っていた眠気が一瞬で吹っ飛んだ。


 ちょっと待って……

 どうして朝起きたらこんなことになってるのよ?

 昨夜の記憶を辿るも、原因が検討もつかない。


 おそるおそる少女の頬に触れてみる。


「……あたたかい」


 ちゃんと体温を感じる。

 どうやら幻ではないようだ。


(ま、まつげ長いわね、顔ちっちゃい……)


 ずいぶん整った顔をしている。

 同性の目線は異性より厳しいというけど、女の私でもそう思う。

 もし私が男なら放っておかないだろう。


 それにしても、こういう朝目覚めたら傍に誰かいるってシチュエーションは、中の良い男女間で起きるものであって、女同士で生じるものではないはずなんだけど。


(う~ん)


 一体誰だろう……このきれいな女の子は?

 何故私の部屋で眠っているのか?


 寝起きの頭を回転させて考える。


(……いくらなんでも、泥棒や賊ってことはないわよね?)


 堂々と隣で眠っていたわけだしね。

 そんな間抜けな泥棒はいないだろう。

 泥棒なら宝物庫の方に行くだろうしね。


 もし賊なら、すでに何かされているはずだ。

 私を害する存在ではないはず……たぶん。



(城で働いている人が、夜中に間違えてこの部屋に入ってきた?)


 城の下階には衛兵やメイドたちが暮らす部屋もある。

 自分の部屋と勘違いして寝ぼけて入ってきた? 


 いや、そんな馬鹿な。

 わざわざ最上階まで階段を昇ってくるとは思えないし、深夜番の衛兵に止められるだろう。

 それに、こんなにきれいな子が働いていたなら城で噂になりそうなものだ。

 他の可能性を考えよう。



(私が自分で部屋に連れ込んだ?)


 まったく記憶にない。

 確かに最近仕事で疲れ気味だけど、昨日はお酒を飲んでいたわけでもない。


 いくらきれいな女の子だからって、私にその気はない。




 続き、青髪の少女を観察する。



「……う、う~ん」


 やがて、少女の口から悩ましげな声がこぼれた。

 もうじき目を覚ましそうな雰囲気。

 丁度いいタイミングだ。

 考えても答えはでなそうだし、もう本人に直接聞いた方が早い。


「……んん、うん? こ、ここは?」


 少女の目が開く。


「おはよう、目が覚めた?」


 寝起きの少女と目が合う。


「……っ!」


 反応から察するに、少女からしてもこの状況は予定外のものだったらしい。


 私の顔を見てズザザッと音が聞こえるくらい素早く後ろに下がる。

 警戒させないように、できるだけ優しい口調で話しかけたつもりなんだけど。

 まぁ朝起きて見知らぬ人が突然目の前に現れたら驚くのも無理は無い。

 


「あ、あなたはっ! ……つっ!」


 大きな声を出したせいか、コメカミを手で押さえる少女。


「大丈夫? 頭痛いの?」


「ご、ご心配なく、大丈夫ですから」


 心配しないようにと少女が返事するが。


「……大丈夫に見えないんだけど」


「いえ、本当に……」


「相手を心配させる嘘ならつかない方がマシよ」


「……」


 正直に言うように、正面からはっきりと告げる。

 朝起きてこんな状況なら、距離をとろうとするのもわかるけどね。

 ジッと見つめると、やがて観念したようにポツリと話す。


「…………ず、頭痛と吐き気がします」


「頭痛と吐き気?」


「はい」


「ん……わかった。少しの間じっとしてて頂戴」


 少女の額に手を当てて、状態治癒魔法(ハイキュア)をかける。

 大概の異常ならこれで治るはずだ。


「……い、痛みがなくなった」


「元気になった?」


「は、はい、ありがとうございます。もう大丈夫です」


「そう、よかった」


 少女がお礼を言う。

 今度は嘘じゃないみたいね。


「……あれ?」


「どうしたの?」


 私の顔をジッと見つめている。

 さっき見つめたお返しかと思えばそうでもないようだ。

 ……やがて、何かに気づいたようで。


「……もしかして、リーゼお姉ちゃん?」


「え?」


 お、お姉ちゃん?


「え、ええっと……あなたは誰?」


 この少女は私の事を知っているようだ。

 私には妹なんかいないんだけど。

 突然のことに困惑しているのを感じ取った少女が慌てて話を続ける。


「す、すみません突然。昔、よく遊んでもらっていたんですが……覚えていませんか?」


「昔……遊んだ?」


 こんなきれいな子と遊んだ記憶はない。

 もし会ったとしたら忘れないだろう。


「はい、父と母がクライフ様にご挨拶にいった時に」


 家族くるみの付き合い?

 兄様の知り合いとなると、そう多くはないと思うんだけど。


「ええ~と」


 少女の視線を感じる。

 私が思い出すのを期待した様子だ。

 ジッと見つめられるとちょっと困る。


「あ~」


 そんなに見つめないでほしい。

 知らないとは言いにくい雰囲気だ。


 え~と、え~と、思いだせ私。

 昔の記憶を必死に探る。


「あああ~~~~~~~」


 時間稼ぎも限界だ。

 これ以上語尾を伸ばしたらお馬鹿な女に思われてしまう。


 再び少女を観察する。


 あれ? よく見るとこの女の子……誰かに似ているような気もするわね。

 言われてみればどこかで見たことある気もしてきた。

 それに明るい青の髪。


 ……青い髪ってなると。


 ああ! も、もしかして……


「ル、ルミナリアちゃん?」


「はいっ!」


 どうやら正解だったようだ。

 嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべる少女。

 よ、よかった、外さなくて。


「ほっ、本当に?」


 じ、自分で言っといて吃驚なんだけど。


「覚えててくれて嬉しいです!」


「……久しぶりね、お……大きくなったわね」


「もう大体三百年ぶりでしょうか、お姉ちゃんも元気そうで何よりです」


 確かによく見れば子供の頃の面影が残っている。

 当時は小さかったし、すぐにはわからないのも無理はないと思う。


「……あ、すみません。私……つい」


「どうしたの?」


「『お姉ちゃん』なんて……もう子供じゃないのに、マリーゼル様と呼ぶべきでした」


「……いいわよそんなの、気にしないで。ラザファムさんは兄様の友人なんだから」


「ありがとうございます……それでは」


 ちょっと気恥ずかしい気もするけど。

 様呼ばわりは他人行儀で嫌だ。


「『リーゼお姉ちゃん』でいいわよ」

「『リーゼ姉さん』と呼ばせてもらいます」


 あ……れ?

 なにかズレている。


「え……えと、私はその、それでもいいんですが」


 恥ずかしそうに少し顔を赤くしながらルミナリアちゃんが言う。

 良く考えたら大人になってお姉ちゃんはないと思う。

 私もちゃん呼ばわりしているけども。



「わ、わかりました、それではリーゼお姉ちゃんと」


「え?」


 わかっちゃったの?

 何だろ、この感じ。

 私が言わせている雰囲気になっている。


「いいのよ、『リーゼ姉さん』で、ルミナリアちゃんの好きなように呼んで」


「いえ、私も昔に戻ったみたいで嬉しいですから」


 タイミングを逃したせいで、訂正しにくい。

 別にそんなに呼び方に拘りがあるわけじゃないのよ。


「……」


 ま、まぁいいか。

 別に嫌ってわけじゃないし。

 ちょっと恥ずかしいけど、そのうち慣れるでしょ。


 さて……と、一先ずそれは置いておいて。


「久々に会ったことだし、積もる話もあるんだけど、まず確認しなきゃいけないことがあるわね」


「は、はい」


 とりあえず二人ベッドから起きる。

 いろいろと驚いたせいでもう眠気はかけらも残っていないしね。

 彼女と二人部屋に備えつけられたテーブルに対面に座る。



 止まっていた話を再開する。


「何でルミナリアちゃんがここに寝ていたの?」


「その、それが私にも……さっぱり。昨夜、傭兵の方と一緒に飲みにいったまでは覚えているんですが、目覚めたらこの部屋にいました」


「酔いつぶれたってこと?」


「多分そうだと思います。私お酒は強くないですから……頭痛と吐き気もしましたし」


 典型的な二日酔いの症状だ。

 たぶん彼女の言うとおりなんだと思う。


「じゃあ自分の意志でここまで来たわけじゃないのね?」


「はい……おそらく。朝目覚めたら城にいて、驚きました」


 とすると、彼女を部屋まで運んだ奴がいる。

 ルミナリアちゃん以外に誰かがこの部屋に入ってきたってことよね。


 仮にも王女の寝室に無許可で潜り込む奴。

 それも城の見回りの兵士たちは勿論、ハイエルフの私に気配一つ感知させずに部屋に忍び込むことが可能な存在。

 そんな存在に心あたりなんて……



「……うん」


 いたわねぇ……一人。


 犯人はあの男よね。

 ほかにいないものね。


 城の最上階で寝ているのは私と兄様とあの男だけ。

 外部の者の可能性ではないとしたら単純な二択だ。


 どちらが犯人か。

 答えが九割九分九厘出ている気がする。


 兄様がこんなことをするとは思えない。

 それにあいつは今、暇つぶしで傭兵をやっていたはず。


 昨日も夜まで帰ってこなかったみたいだし。

 あの男にアリバイはない。


 でも……あれね。


 だからって証拠もないのに犯人扱いするのも失礼よね。

 普段の言動を考えると限りなく黒に近いだけで、真っ黒ではないかもしれない。


 一応……話を聞いてから犯人にしよう。

 あの男がルミナリアちゃんと接点を持っていたか確認しないと。


「その一緒に飲んだ傭兵……相手の名前なんだけど」


「はい」


「アルベルトとかそんな名前じゃないの?」


「そ、そうですけど、お知り合いですか?」


「……はぁ」


 

 うん、やっぱりか……まぁ聞いただけだしね。

 真っ黒だったわ。


 だと思ってたから、予想外でもなんでもない。

 むしろ他の名前が出た方が驚く。


 無駄に高性能なガーゴイル。

 こういう非常識なことをしでかしそうな奴。

 さほど難しい問題ではなかった。


 正直、直感でもあいつかなぁという思いはあった。


 他人のベッドに女を放り込むなんて、あいつは何を考えているのか。

 まぁ何も考えていないのかもしれないけど。


 この時間なら、たぶん城で眠っているかな?



「今から犯人に話を聞きに行くわよ……ついてきて」


「え? 犯人?」



 さて、説明してもらうとしようか……




すみません、以前の話の会話文を若干変更させていただきます。


雷龍ラザファム2で

変更前「その時は山頂で奥さんで水真龍のミナリエさんとまだ生まれて間もない娘のルミナリアちゃんと仲良く暮らしてた」

変更後「その時は奥さんのミナリエさんと、まだ幼い娘のルミナリアちゃんと一緒に山頂で仲良く暮らしてた。ちなみにミナリエさんは水真龍ね」

「生まれて間もない」→「まだ幼い」にしました。

生まれて間もない娘がリーゼを覚えているのは不自然ですので。


ここまでの本編に影響はないですので読み返さなくても大丈夫です。

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