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トライデント5



 クラーケンに傷つけられたギンのトライデントを修復するため。

 ヤドリとアンドロのドワーフ夫妻の営む鍛冶屋にやってきた俺達。

 鍛冶師のヤドリに聞いてみたところ、トライデントも無事に修復可能とのこと。


 ギンは現在、修理工房の方で仕事人(修理人)ヤドリについて、相棒(トライデント)の修復の様子を見学をしている。

 自分の相棒が元に戻る場に直接立ち会いたいようだ。


 でまぁ、俺の方はその間に何をしているかというと。

 ルミナリアとアンドロの女子連中とともにいる。

 片方は子供産んでいるし、女子というのか悩むべきところではあるがな。


「ほら、このネックレスなんてどうだい? ルミナリアに似合うんじゃないか?」


「う~ん、ちょっと大人っぽすぎる気がしますけど」


「そんなことないよ、ちょっとつけてみようか」


 工房は入ってすぐ、旦那と嫁さんでそれぞれ左右に独立したスペースに分かれている。

 アンドロの方はアクセサリ類、ヤドリの方は武器、防具で扱う分野も異なるためだ。

 

 嫁さんの方の工房には作業場の他に、これまでに作った装飾品が保管されている。

 ルミナリアがアンドロに頼んで、完成済みのネックレス、腕輪、指輪、ブローチなどを見せてもらっている。


 アンドロがその内の一つであるネックレスを、ルミナリアの細い首元に手を回してつける。

 アンドロはドワーフで背が低いので、つけやすいようにルミナリアが少し屈んでいる。


「ほら、やっぱり似合うよ」


「そ、そうですかね?」


「うんいい感じだね。まぁ元がいいから、大体のモノは似合うんだけど」


「ありがとうございます」


 アンドロのお褒めの言葉に対し、照れた表情を見せるルミナリア。


(駄目だ、俺にはさっぱり良し悪しがわからん)


 まぁでもせっかくここに居るわけだしな。

 俺なりに頑張ってみるとしようか。

 大体のものが似合うなら、俺でもルミナリアに似合うものが選べるかもしれない。

 

 あ、これなんか、いいんじゃねえかな。

 

「おいルミナリア、このゴールドのブレスレットなんてどうだよ?」


 俺が声を掛けると、手を顎下に持ってきて、完成系をイメージする女性陣。


「……う~ん」


「それは、ちょっと派手すぎるかねえ」


 ご不満そうなルミナリアとアンドロ。


「そ、そうか? お金持ってそうでいいんじゃないか?」


「それは……ちょっと、ルミナリアの清楚なイメージを壊しかねないねえ」


 どうやら、彼女達のお眼鏡には叶わなかったようだ。

 無念だ……まぁいい、そんなこともある。


「んじゃ、こっちのピンクのネックレスはどうよ? これなら……」


「ないねえ、ルミナリアちゃんの髪の毛は明るい青だし、ネックレスも明るい色だと、格好にメリハリがつかないよ」


 そのあとも彼女たちに俺の良いと思ったアクセサリを紹介をしていく。

 だが……その度にことごとくアンドロの駄目出しを貰う。


「んじゃあ、こ、これは? 今度こそ」


「残念ながら……よくないねえ」


 やっぱりあまり良い反応は得られなかった。


 いい加減にしろよ。

 文句ばっかり言いやがって。



「……お前はそうやって、何もかも否定して生きて人生楽しいのか?」


「す、素直に感想言っただけなのに……なんという言い草だい」


 彼女が似合うと言った大体のモノにすら、俺の選んだものは入らなかったらしい。

 少なくとも彼女達の美的基準において、俺とは趣味が合わないようだ。


「まぁしょうがないさ、ここまで酷いのは初めて見たけど、うちの旦那も似たようなモンだよ」


 まぁ彼女は装飾品の職人さんだしな。

 それなりに譲れない部分もあるのだろう。

 下手なお世辞は言えないのかもしれない。


 これでも最初は女子たちのファッション知識を仕入れてみようと思っていた。

 でも無理だった。

 開始五分で飽きてきた。

 よく考えれば俺、服すら着ないんだもん。

 女性のファッションになんて興味もてるわけなかった。


 まあいいや。

 俺は俺で勝手に色々と見てみるとしよう。

 扱っているのは女性物という話だが、別に服を着るってわけじゃないんだ。

 中にはガーゴイルの俺がつけてもおかしくない物があるかもしれない。


(お、この黒いピアスなんかいい感じじゃないだろうか。)


 と、いろいろ物色していたら……

 そこでヤドリとギンがやってきた。


「おう。ちょっといいかアンドロ?」


「ん、どうしたんだい?」


 少し困った顔をした旦那のヤドリがアンドロに尋ねる。


「アングライド鉱石の在庫ってもうなかったっけ?」


「……あ、そういえばなかったかもしれないね」


 ん? それってまずいんじゃないのか?

 鉱石がなかったらトライデントの修理ができないじゃないか。


「量が足りないのか?」


 俺はヤドリに聞いてみる。


「……手持ちがギリギリってところだ。もしかしたらトライデントの修理に必要なアングライド鉱石が足りないかもしれない、できればもう少し余裕が欲しい」


「買いにいけばいいんじゃねえのか?」


 しかし、アンドロが言う。


「残念ながら、今日は素材屋さんが休みなんだよ。店主の親戚のケットシーが成人したからお祝いに行くって話でね、帰ってくるのは三日後になるんだ」


「店が開いてないんじゃどうしようもないな。ちなみに、ギンは持ってないのか?」


 俺の質問にギンは首を横に振る。

 ちなみに俺だが、受けた依頼は貝拾いとかがほとんどだったので持ってるわけがない。


「持ってない、こうなるとわかっていたら準備していたんだけどな」


 ギンが呟く。

 ちょっとタイミングが悪いな。


「アングライド鉱石って海中で採れる鉱石だったよな? ギンの故郷のサハギン集落に行けば貰えるんじゃねえのか?」


「集落までここから五日以上はかかるぞ、旅の準備も必要だ。それに武器(ダイダロス)無しで海を移動するのは危険だ、魔物にも遭遇するだろうしな。……まぁしょうがねえさ、急ぎでもねえし、トライデントを探すのに費やした日々を考えれば、三日くらいなら余裕で我慢できる」


 あとで聞いてみると。

 トライデントのないギンはサハギンの仲間に護衛してもらい、メナルドの街まで送って貰ったとのこと。


 にしても三日か、焦らしやがるな。

 と、そのタイミングで救いの声がかかる。


「あ、私持ってますよ、アングライド鉱石。後で渡しますのでどうぞ使ってください」


「姉ちゃん……いいのか?」


「これも何かの縁です。高いものでもないですから、遠慮なくどうぞ」


 話を聞いていたルミナリアの一言で問題が解決する。


「たっ助かるぜ! あんがとな!」


 それに対し、ギンが礼を言う。


 ルミナリアちゃん……ちょっと出来過ぎじゃない?

 特にタイミングとかそういうのでさ。

 とても失礼な考えなのは承知なんだけど。

 もっと駄目なところを見せてくれてもいいのよ。


「よし、今日の夜はお祝いでパーッと飯食いにいこうぜ、俺の奢りだ」


「おお! でもいいのか?」


 俺、結局何の役にも立ってない。

 さすがに奢られるのは申し訳ねえ。


 役に立ったルミナリアと違って何か肩身が狭い。

 てか、最近我ながら大人しい気がする。

 まぁそんなこともありますよね。


「俺が奢りてえんだよ、この出会いがあってこの結果があるんだからよ、姉ちゃんも一緒にな」


「え? 私もですか」


「トライデントや鉱石の件もあるし、せめてこれくらいはお礼させてくれよ」


「……」


 ギンの誘いにお悩み中のルミナリア。


「ここまで言ってるんだ、できたら付き合ってやってくれ」


「……う、う~ん。わかりました、ではお言葉に甘えて」


 もしかしたら断られるかと思ったが、案外素直に頷いてくれた。

 少し警戒されるかもなと思ったんだけど。


 まぁ俺もギンも別に下心があるわけでもないしな。

 案外そういう邪な感情の有る無しとかってわかるものなのかもしれない。


「アンドロ達はどうする? 夜は店も休みだろ、奢るぜ?」


「気持ちはありがたいんだが、今日の夜はちょっと都合が悪くてね」

「すまんな」


 申し訳なさそうな顔で謝るドワーフ夫妻。


「……そうか、残念だ」


 そんなわけで三人で夜ご飯を食べにいくことになった。

 

 それにしても……なんだ。

 昨日ギンからトライデントの話を聞いて、今日にはスピード解決。


 トントン拍子にうまく行きすぎて怖いな。

 まぁ気にし過ぎだろうと思う事にする。


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