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ルミナリア3

 ギンの過去を知ってしまった。

 ついでに個人情報を追い求める理由も……


 海で生きるサハギン族のギンが何故陸で生活をしているのか……

 その理由はサハギン族が相棒と呼ぶ存在である、海中で失ったトライデントを捜すためだった。



「トライデント……か、何か手がかりでもあればいいんだけどな」


 ここ数日はギンのおかげで、楽しく仕事ができている。

 奴がいなければ俺はこの街で一人だった……ってのは言い過ぎかもしれないが、リーゼとクライフが忙しいので、それに似た様な状況になっていただろう。

 

 これもあの時ギンが俺に話しかけてくれたおかげだ。

 何で話しかけたのかは今でも謎だがな。

 俺から、そこらのガーゴイルとは違う、カリスマとかそんな何かを感じとったのかもしれない。


 まぁ何はともあれ、今はそれなりに仲良くやっていると思う。

 最初に俺を騙そうとした分を差し引いても、十分に役に立って貰っている。

 俺の仲間も陰ながら探してくれていたしな。


 ギンに何か恩返しができればと思う。




 メナルドの街のどこかにある、ギンのトライデント。


 トライデントは魔槍で、ギンの魔力が込められているという話だから、ギンに似た魔力を街中で探せばいい。


 魔力感知のできる俺なら槍を探すことも可能だ。

 ただし、ある程度槍に近づくことができればの話だが……


 この街は、魔王クライフの領土で最大の街。

 もの凄く広い。


 いくら他人よりも広範囲の魔力感知が可能な俺でも、せいぜい最大で半径百メートルが限度だ。

 ある程度対象に近づかないと、誰の魔力か判別ができない。


 百メートルってのも最大の話で、あまり広範囲で魔力感知を使うと、入ってくる情報量が多すぎて頭の中がパンクする。

 常時無理なく使用できるのは半径十メートルといったところだ。



 つまり……何が言いたいかというとだ。

 トライデントを捜すのは困難を極めるってことだ。


 半径十メートルとなると、トライデントを所持している奴と丁度すれ違えばわかるんだろうがな。



(それでも何もしないよりはマシか)


 ギンの言う通り、本当にこのメナルドの街にトライデントがあるのであれば、移動の際にも少し注意した方がいい。

 似たような魔力を感知したら近づいてみよう。

 


 まぁ、焦って考えてもしょうがない。

 考えてもすぐいい案が浮かぶわけでもないので、気長に捜すことにしよう。


 誰かが魔槍を所持していて、ずっと移動中とかじゃなければ、街の中をしらみ潰しに探していけば、時間はかかってもいずれ見つけることができるだろう。





 気持ちを切り替え、ギンのトライデントの事は一先ず置いておく。


 まずは目先の事、これからどう過ごすかだ。

 今日の午後は自由時間となっている。


 ここ最近は依頼を受けて働き詰めだったし、ギン同様に俺も少し羽を伸ばしたいところだ。



 



 さて、どこに行こうかな。


 城に戻ってもリーゼとクライフは忙しいから、城に戻るのはナシの方向だ。 

 

 なんにせよ、ギンの家の近くでウロウロしていても仕方ない。

 とりあえず、この場を移動するとしよう。

 

 以前ギンに案内してもらった、海が一望できる公園でも行くか。

 公園はここから北に十分程度歩いた場所にある。


 近くに屋台が出店されてるし、軽食でもつまみながら午後の計画を考えよう。

 昼は食べたけど、まだお腹には余裕がある。


 


 




 俺はのんびりと公園に向かって歩いていく。

 すると、どこかで見かけた姿が。


「ん? あいつは……」


 公園につくと、青髪をポニーテールにした女の子がベンチに座っていた。

 初めてメナルドのギルドに来たときに話した、ルミナリアとかいう水龍の少女だ。


 彼女はまだ俺の姿に気づいていない。


 彼女は両手で本を開いて、読書中の様子。

ベンチの左側には屋台で購入したと思われる、飲み物の入った容器が置かれていた。


「…………」


 思い返す過去の記憶……

 彼女が友好の握手を求めてきたんだけど、俺の精神が不安定だったせいで、手をひっぱたいちまったんだよな。

 

 うん、いくらなんでもあの対応は大人気なかった。

 少しだけ反省しているぜ。

 


 

(いい機会かな……)



 今の俺の精神状態は穏やか……でもないが、比較的安定している。

 以前の様な拒否反応を示す事はないだろう。



(一言謝っておくか……)


 今日は他にやることがあるわけでもない。

 こういうのは早めに済ませた方が気が楽だ。


 今後もしかしたら、仕事で一緒にチームを組む事もあるかもしれない。

 友好度は上げておいて損をすることはないだろう。

 

 


 でも……なんだ。


(何て話しかければいいんだろう……)


 リーゼみたいに細かい事を気にしない相手なら割と楽なんだけど。

 さすがの俺も、話しかけるのにちょっと戸惑うぜ。 




 俺が彼女の様子を遠目にコソコソと窺っていると……

 彼女の前に見知らぬ誰かが現れる。

 

 じっと見ているのを気づかれるとアレなので、

 俺は手頃な木の影に隠れて、やや離れた位置から彼女を観察する。

 

 昼間から何やってるんだろう。

 他の奴から見たら完全な不審者だ。

 ストーカーみたいだよな俺。


 

「やぁルミナリア、元気かい?」

 

「あ、サギーナさん、こんにちは」


 ルミナリアに話しかけたのは、黄色と黒の虎縞模様のワータイガー。


「今日はお休みかい? この間は世話になったね、あんたの提供してくれた、シーサーペントの尻尾で新しい装備が作れそうだよ」


「いえいえ、シーサーペントの素材は比較的余ってますので……」


「種族特性上、海の戦闘は本当に苦手だから凄く助かるよ。お礼に今度晩御飯奢るからね」


「はい、楽しみにしてますね」


 どうやら一緒に依頼を受けた事のある傭兵仲間らしい。

 適当に世間話をして、ワータイガーは去っていった。




 数分後、今度はエルフの人妻っぽい雰囲気の女性が現れた。


「あらぁ、ルミナリアちゃんご機嫌いかがぁ」


「フランソさん、こんにちは」

  

「うふふ、今日もかわいいわねぇ。あら綺麗なネックレスねぇ、オメカシしちゃって、彼氏からもらったのぉ?」


 ネックレスねえ、お洒落しちゃって……

 女の子だし、別に変ではないけど。


 リーゼがそういうのに興味ないからな。

 なんか新鮮な会話に感じるぞ。


「彼氏なんていないですよ、これは先日、港の露天商から買ったんです」


「そうなのぉ? せっかく可愛い顔に生まれたんだから、誰かいい人を作ればいいのに」


「あはは、まぁ考えておきます」


 

 適当に話を流す、ルミナリア。


 その後も、彼女に挨拶する人が何人か……

 ギン曰くこの街に来て三ヶ月って話だったが、随分顔が広いな……。


「やぁルミナリア、今日は暇かな? ここにラゾワーズ劇団のペアチケットが……」


「すみません、その劇は三日前にアンドロさんと見たので……」


 デートの誘いから、お礼、悩み毎の相談。

 ギルドの中だけじゃなく、街でも人気があるとギンが言っていたのは本当のようだ。



 っと、いつまでも観察していてもしょうがない。

 いい加減、謝りに行かなければならないのだがな……


 戸惑う理由は、可愛い女の子だから緊張してるってわけではない。

 相手がドMじゃない限り、俺に対する印象がマイナス方面なのは間違いないからだ。


 そんな相手に話しかけるのは少しだけ勇気がいる。 

 あまり握手の件を気にしてなければいいんだけどよ。


 初対面の魔王のパーソナルスペース(専用風呂)にずけずけと踏み込んだ俺らしくもない。  

 まぁいざとなったら勢いで突撃すればいいんだけどさ。


 できれば自然な感じで謝る流れを作りたい。

 その方が気持ちも楽だしな。




 俺がゴチャゴチャと頭の中で考えていると……


 コロコロとルミナリアの元にボールが転がっていった。

 やがてコツンと、彼女の靴先にボールが触れる。


「ん?」


 ルミナリアがボールが触れた事に気づき、読みかけの本をベンチの上に置く。

 そして、足元にあるボールを両手で拾いあげる。


「ごめんなさ~い」


 トコトコと彼女(ルミナリア)の元へ走ってきたのはエルフの幼い少年達。

 ボール遊びをしていたら、ルミナリアの足元にボールが転がってきてしまったようだ。


「はい、ボール。風が強いから気をつけてね」


「ありがとう、お姉ちゃん!」


 ルミナリアが少年の一人にボールを手渡す。

 他の少年達も続き、「ありがとうございます」とお礼を言って去って行った。


 その後、再び読書タイムに戻るルミナリア。





(これは……使えるかもしれん)



 少年達とルミナリアのやりとりを見て、俺の脳裏にある考えが閃いた。


 話すキッカケをこちらで作ってしまえばいいのだ。

 謝ろうとするから緊張する。


 世間話のついで(・・・)に、謝れば軽い感じでいける。

 中々いい閃きじゃないだろうか。


 あとはどんなキッカケがいいか考えるだけだ。


 エルフの少年達のように、彼女の足元まで持ち物が飛んで行くみたいな形式をとるか。

 でも、俺ボールなんて持ってないんだよな。


 なにか別のモノを使用するか。


 まぁ荷物袋くらいしか持ってないんだけど。

 中身の毒草をぶん投げるわけにもいかないし、どうするか?


「…………」


 まぁ……いいか荷物袋でも。

 ちょっと変化形のやり方でも問題あるまい。


『いい事があってウキウキ気分の俺、調子に乗って荷物袋を振って歩いてたら、袋が手からすっぽ抜け、彼女(ルミナリア)の足元に落ちてしまった』という設定にしよう。


 それ(荷物袋)を俺が、彼女の前まで偶然を装って拾いに行き、先日の謝罪を会話に混ぜこむ感じでいこう。


 ……ちょっと長い設定だったな、すまん。


 かなり強引だが、細かい事は後で考える。

 決して考えるのが面倒になったわけではない。


 軽く頭の中で会話のシミュレーションも済ませた。

 結果は良好だ。


 幸い今は彼女の近くには誰もいない、ベストタイミングだろう。

 よし、行くぞ!!


 俺は木の影に隠れるのをやめ、荷物袋をぶんぶん振りながら、彼女に近づいていく。


「ふんふふ~~ん」


 大丈夫、俺ならできる……自然な感じ、自然な感じ。

 よし、ここだ!!


「ふんふふ~、あっ!!」


 タイミングを見計らい、俺は荷物袋を手放す。

 もちろん驚いた声は演技だ。


 ダイダリアンがせっかく作ってくれた袋なので、あまり雑な投げ方はしない。

 せいぜい一部分が砂で汚れるくらいだ。

 この袋が俺と彼女の友好の懸け橋になるので、許していただきたい。

 

 よし、いい具合に荷物袋がルミナリアの方に……


 ルミナリアの足元を目標着地点に、放物線を描いて荷物袋が飛んで行く。

 うん、コントロールは完璧だ、さすが俺。

 

 




 だが……、作戦の成功を確信したその時である。




 ビュウウウウウウウッッ



「あっ!!」



 強い風が、吹いた……最悪のタイミングで。

 さすがに風までは計算できなかった。


 あまり荷物が入ってないから袋軽いんだよな。

 となると当然……


 飛距離が……伸びる。




「んぶっ!!」


 荷物袋がルミナリアの顔面に直撃する。

 奇麗な顔からは柑橘系らしき黄色の液体が、ポタポタと自由落下している……

 本の方もまぁ……随分な被害を受けている。


 ぶつかった時、彼女(ルミナリア)は丁度飲み物を口に含もうとしたようで、あまりにも間が悪かった。


 しかも目線が手元の本に向いていたから、荷物袋が上から飛んでくるのに気付かなかったのだろう。

 また、本を読むのに集中していたようで、俺の声も耳に入っていなかったみたいだ。



 左手に飲み物を、右手に本を……、目線は下を……

 そこに飛んでくる荷物袋。


 結果はその……ご覧の通りだ。

 直撃だ。


 ちゃんとお行儀良く、本をベンチに置いてから、飲み物を飲めばここまで酷い結果にはならなかっただろうに……


 彼女の方を確認せずに、荷物袋を投げた俺も俺だけどな。

 


「「…………」」

 


 などと言っている場合ではないな。


(やべぇ、大惨事だ)


 場に沈黙が満ちる。

 き、気まずい……気まずすぎる。


 えっと、な、なんだっけ、この後どうすればいいんだっけ。

 頭が軽いパニック状態になる。


 落ち着け俺、冷静になれ!

 思い出せ、頭でシミュレーションした台詞を……


 ええっと……そうだ!!






「ありがとう、お姉ちゃん!!」


「ッッ!!!」



 ち……違ぇだろ!!

 そうじゃないだろ俺!!

 

 これはさっきのエルフ少年達の台詞だ。


 失敗するパターンは想定してなかった。

 こうなったらアドリブで行くしかない。


「え、えっと、すまねえな、その……」


 黙っていても状況は好転しない。


 精一杯の勇気を振り絞り彼女に話しかける。

 ここで逃げなかった自分を褒めてあげたい。


「…………」


 手の平から『水弾(ウォーターボール)』を生成し、顔を洗った後。

 バックからハンカチを取り出して、顔を拭くルミナリア。

 無言だ……、空気がピリピリしてやがる。


 顔を奇麗にして、視界を確保したルミナリア。

 彼女の視線が俺を捉える。

 その表情から少しだけ驚きが窺える。

 

 彼女にとって、俺は予想外の相手だったようだ。


「お、俺の事……覚えているか?」


 もし、忘れられてたらどうしよう。

 インパクトだけはある出会いだったと、自分では思うんだけど。

 今回の件で俺という存在は、彼女のメモリーに刻み込まれたのは間違いないだろうがな。

 

「アルベルトさん……ですよね? 以前クラーケンの依頼を受注した時、エルザさんの隣にいたガーゴイルの……」


「あ、ああ……そうだ、アルベルトだ。ち、ちょっと話がしたいんだけどいいか?」


 言葉に詰まりながらも、会話を続ける。

 ふう、全身から汗がにじみ出てきやがる。


「……その前に一つ、いいですか?」


 彼女の顔は笑っているが、その目は少しも笑っていない。

 こ、怖い……


「おう……どんと、こい」


「アルベルトさんは……何か私に恨みでもあるんですかね?」


「…………」


 

 久々のピンチだ…………

 ど、どうこの場を切り抜けよう。



 


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