メナルド観光1
城で朝食を済ませて一時間後。
現在リーゼと共に、城門から少し歩いた場所で相談中。
「さてっと、何がしたい?」
「ほう……いい面構えだ」
任せてちょうだいと言った得意げな表情のリーゼさん。
「この街の事なら端から端まで知ってるから、頼りにしてくれていいわよ!」
ならそうだな……
「海に釣りにいくぞ」
「え? いきなり? それ私いらないわよね?」
ごもっともな意見だ。
それだと最初から案内役ほぼ必要ない。
一番役に立たないコースだな。
相当時間潰れるし、そもそも観光とはいえない。
「気持ちはわからなくもないけど、初日でそれちょっとどうなの? 兄様も最長で三日以内って話だから、明日か明後日には別の予定が入るかもしれないしね」
「まぁお前がそう言うなら……な」
「釣りは最後にしましょう、三日目とか時間が空いた時でいいんじゃない」
「そうだなぁ……なら何かお勧めは?」
メナルドの街は俺よりもリーゼの方が詳しいからな。
「海街なんだから食べ歩きかな……、屋台で売ってるムオール貝の塩振ったのとか、シンプルだけど凄くおいしいわよ」
お姫様のわりに、結構庶民的な楽しみ方だな。
海の見える店で優雅にランチとかじゃないのか。
嫌いじゃないし、少し気持ちを動かされた……けどよ。
「いくらなんでも、昼飯はさっき食べたばかりだからまだ早いだろう」
「そっ……そうね。後は過去のメナルドの街の記録が保管されているメナルド歴史資料館を見るとか、兄様そういうの残しているのよ」
そんなの残してるのかアイツ。
昨日飲んでた時も、自分の街が発展していくのを見るのが楽しい、今ようやくこの段階まで発展したとか言って、ニヤニヤと笑みを浮かべていたしな。
すげぇ気持ち悪かった。
本人生きてるから歴史というと妙な気もするけどな。
でも却下だな……気が乗らない。
昨日の内にもう少し行動計画をたてておくべきだったか。
「もう少し何かないのか? いくらなんでも他にあるだろう? とりあえずはお前が楽しいと思う場所でいいぞ」
他にも姫様である彼女と一緒なら、研究区画とかにも入れるのかもしれないが……、俺もリーゼもあまり真面目ぶった場所は好まない。
それほど、お互いの趣味嗜好は外れてないと思うのだ。
変に格好つけないで、どうせなら二人とも楽しめる場所の方がいい。
「とりあえず三層区画にある港までいこうか? 遊覧船も出ているわよ。昨日じっくり海が見たいって言ったでしょアンタ」
「遊覧船はいいな、とりあえずそれでお願いしよう」
定番ながらも、まずは海を見ることにした。
城から東に四十分くらい歩いただろうか、港に到着した。
「リーゼ見ろ! 海だ! 海だぞ! 青いぞ!」
「見ればわかるわよ……落ち着きなさい。昨日グリフォンの背で空から見てたでしょうに……」
さっきまでフラットだったテンションはどこへやら。
変なテンションになっているが、しょうがない。
空と陸に比べて、海なんてこれまでで一番縁のなかったからな。
子供に戻ってしまうのも仕方がない。
感情を制御できないとは俺もまだ若いようだ。
そんな自分も嫌いではないんだけど。
「遊覧船、一時間の旅、千ゴールドだ、乗るかい?」
でけぇな遊覧船、全長で二十メートルはある。
遊覧船の受付の魚人さんに千ゴールドを支払い乗船する。
「すげぇな」
水面は透き通っており、魚が泳いでいるのが船上からでも確認できる。
船員さんが餌を撒いているので、魚が沢山集まってくる模様。
これは感動ものだ。
船の上はクライムバードがクァ~と鳴いて、船と並んで飛んでいる。
集まってきた魚を狙っているのだろう。
しかしあれだな……
こういうのを見ると無性に飛び込んでみたくなるな。
気のせいかもしれないけど魚の方も俺を誘っている気がしてきた。
これはもう両想いじゃなかろうか……
「あ~飛びこもうかな」
「いいわけないでしょ!!」
俺の呟きにリーゼのツッコミが入る。
「冗談だ、そんなに大声ださなくてもわかるだろう?」
「あんたの場合冗談に聞こえないから怖いのよ!!」
おいおい、さすがの俺も周囲に迷惑かかる行為くらいわかるぞ。
それにしても楽しいなぁ……。
俺にとって海は殆ど未知の領域だ。
これまでがこれまでだったから、できなかった事をしている今。
自由に生きてる感が物凄くある。
でもまぁ大概こういう場合嫌な出来事が待っているものなんだけど。
「そこうるさいわね!!」
(やはりきたか……)
少し離れた場所から怒声が聞こえてきた。
声がした方に視線を動かす。
そこでは、金髪の細い目の女エルフがこちらを睨みつけていた。
なんかとても高圧的な印象を受ける。
本当面倒だな。
リュー達、フレイムリザード、今回のエルフ。
もう三回目か。
何で絡んでくる奴が多いのか。
一つの街で一回はこういう絡みが起きると諦めているけどな。
いやな諦めだ、しょうがないなぁ本当。
まさか船の上で絡まれるとは思わなかったが。
やはり翼がないから舐められてるのだろうか……
エルフ女がこちらに近づいてくる。
「もう少し静かにしなさいよ! そこの女!」
「女? え? わたし?」
予想しない言葉に思わず自分を指さすリーゼ。
「大声出してるのはアンタでしょ!」
「…………」
沈黙するリーゼ。
ふむ、助かった。
俺の事は言ってないから、問題はないな。
リーゼには悪いが、とても否定できない。
確かに大声だしていたのはリーゼだ。
一言注意しにきただけでその女は去って行った……
別に悪い奴ではなかったようだ。
「あのね……凄く納得いかないんだけど」
「だろうな……」
まさかの絡みなしの平和なパターンだったぜ。
こういうケースもあるんだな。