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1500年振りのお食事1

『ぴ……ぎぃぃぃ……』

 

 特上の水を与えたことで、バウムに心なしか元気が出たように思える。


 以前にも増して、ぷるぷるしやがって、愛らしいじゃないか。



『ぴぎぴぎぴぎぴぴぴぴぴぎぃぃ』


 ぶるんぶるん体を左右に動かすバウム。

 ちょっと元気すぎる気もするけど、元気がないよりは百倍いい。


 さっきまで少し黒ずんでいた体も、今は透明になり体の向こう側まで透けて見える。 


「よかったな」


 バウムの頭? を撫でてやる。

 ちょっと冷たいけど、ぷにぷにしてて気持ちいい。 


『ぴぎ』

 

 バウムが足に絡みついてきた。

 感謝の気持ちを伝えようとしているのだろうか?


「ははっ、気にするなって!」


 やべえ、なんか癒されるぜ

 スライムセラピーってやつか。







 しばらくバウムと遊んでいると、ダイダリアンが解体を終えて戻ってきた。


「アルベルトさん、ワイバーンの解体終わりましたよ~」


「おう、お疲れ~、こちらも水分補給しといたぞ~」


「ありがとうございます、あの、それでバウムは……って、な、なんですかソレ!」


 ダイダリアンの視線は標準のスライムの数10倍の体積になったバウムに注がれていた。


「おいおい友人をソレ呼ばわりはないだろうに」


「そうですね、すみません……ってそうじゃなくて、何でこんなに大きくなってるんですか!」


 一般的なスライムの体積は大体1立方メートルくらいだが、今のバウムは10立方メートルくらいある。


 ちなみに何故体積で表現したかというと、スライムは形状を変化させるため体長では表現できないからだ。



「ああ、極上のお水(タイダルヴェイヴ)をプレゼントしたらこうなった、心配しなくてももう少し待てば元の大きさに安定するはずだ」


「そ…そうなんですか、いえ、無事元気になってくれたのならそれでいいですけど。 うん? ……そっか君が喜んでいるならいいんだ」



 バウムからダイダリアンに念話が入ったらしい。

 喜んでくれたようでなによりだが、少し仲間外れの気分で寂しいな。




 10分程経過すると、バウムが一般的な大きさに落ち着いた。




「もう大丈夫? じゃぁバウム、毒抜きお願いね」


『ぴぎー』


ダイダリアンの指示を受け、臓器を取り除かれたワイバーンの全身に、新型バウムがねっとりと纏わりついていく。



 (おぉぉ……)



 とても幻想的な光景だ。

 ワイバーンの身体全てをバウムが余すところなく包み込んでいる。


 


 なんか母性を感じるな。


 俺には母親はいないが、もしいたらあんな感じなのかもしれない。


 


 青色だったバウムが少しずつ紫色に変化していく。

 30分すると毒抜きが終わったのか、バウムがワイバーン肉からのそのそっと離れていく…



『ぷぺ』



 そして赤い水を体から、分離した。

 体が紫から元の青へと戻っていく。

 多分あれが毒だったのだろう。



「これで毒抜きは完了なんですが、随分早かったですね」


「そうなのか?」


「ええ、本来なら毒抜きには2時間以上かかるはずなんですが……、なるほど、回復してから絶好調ですって」



 またバウムから念話が届いたらしい。


「便利だな~念話、俺も覚えたいよ」


「まあ、これのおかげで僕らは他の魔族とも協調して生活できるわけですからね。でも、アルベルトさんは魔法が使えるんだからいいじゃないですか…」


「まぁそうなんだけど」



 魔族には、念話等、生物の特性として備わっている固有能力がある。

 念話もその種族でなければ使えない力だ。


 力がない種族は他の種族と共存しながら生きていく必要がある。

 身を護るための連絡手段として時を経て発展していったのだろう。


 逆に一定ランク以上の種族は魔法が使えるけど、念話のような利便性の高い固有能力は持たない場合が多い。

 固有能力は大体が攻撃的なものになる。


(要はいいとこ取りはできないってことだな)





「いろいろありがとな」


「いえ、こちらこそ助かりました」


 バウムの回復という条件付とは言え、彼等はいい仕事をしてくれた。

 何はともあれ、どうにかまともな食事にありつけそうだ。




「さて……と、それでは」


 やることは終わったといった感じで

 バウムを隣に呼んで、肩に荷物袋を引っかけるダイダリアン。


 礼をいって、背を向け立ち去ろうとする。



「ん?」


 何だその流れ…一緒に食うんじゃないの?



「ちょっと待て、食べないのか?」


目を見開き、驚いた顔でこっちを見るダイダリアン


「えっ? い…いいんですか?」


「いや、そのつもりじゃなかったのか、大体お前ら食料持ってるのか?」


「手持ちはないですけど、半日程西に歩けば食べられる植物が生えてますので」


「なら今は持ってないってことだな、だったら食ってけよ、こんなにあるんだし、一人で食べるのも寂しいしな」



「え~と、ワイバーンの肉ってもの凄い高級なんですけど、本当にいいんですか? 僕は解体しか手伝っていないのにそれは好意に甘えすぎでは…」



「俺がいいと言ってるんだからいいんだよ、食べてけ、何か急ぎの用でもあるなら別だけどよ」


「でも」


「お前のおかげで毒を食べずに済んだ、食料を提供するには十分な理由だ」


「アルベルトさん…すみません、それではお言葉に甘えさせていただきます」










「ではいただきますか……」


「え、このまま食べるんですか?」


「駄目……なの?」


 毒抜きした肉を食べようとしたら、また阻止されてしまった。

 まだ引き延ばす気かこの野郎。



 まさか特殊食材で二人同時に食べなきゃダメとか言わないだろうな…



「駄目ってことないですけど、せっかくのワイバーン肉ですし、焼いた方がおいしいですよ」


「そ……そうか、でも俺火魔法使えんのよ」


「大丈夫です、僕が火種を作りますから、道中火魔石を役に立つかと思って拾っておいたんです」



 火魔石、威力は低いが利便性の高い火魔法であるファイアを小規模範囲に発生させる魔石である。


 旅では重宝するだろう。

 

 なんという優秀な子だ…、やるじゃないかゴブリン少年。

 毒判定の時も思ったが、サバイバル能力が高いな、俺が低すぎるのかもしれんが……


 俺も、こういった旅に役立つ知識は覚えていかないとな。



 ダイダリアンが小枝や乾燥した葉を集めて、火魔石で火を付ける。

 パチパチと音を立て、火が大きくなり、煙が空へ上っていく。

 もう気づけば夜だ。



「任せてしまって悪いな、せめて焼く係くらいは俺に任せてくれ」



 少しは手伝わねばなるまい。

 食べやすいように適切なサイズに切ったワイバーン肉を火にくべて加熱していく。

 なんか手伝わないと居心地が悪いんだよな。


 生まれた時に錬金術師の仕事を手伝っていた名残だろうか……

 仕事をした方がおいしく感じられそうだしな。



「いえ、これくらいワイバーンを食べられるな……ら」



「こっ、今度はどうした?」



 またか? ビックリさせないでくれよ、こいつ出会ってから驚きすぎじゃないか。

 おかげで俺まで何かあったのかとビビっちまったじゃねえか。



「だ……大丈夫なんですか?」



 ダイダリアンの視線は加熱中のワイバーン肉……ではなく、



 直に掴んだせいでお肉と一緒にこんがり加熱中の俺の手に注がれていた。



「…………」


「…………」



 ああ……なるほど、さすがにこれはないな。

 せっかく小枝拾ってきたんだから刺し串ぐらい作ろうよ。

 物ぐさにも程があるだろう。



 手で直にワイバーン肉を掴むって、アホか。



 火耐性あるから熱くないけど…、手がワイバーンの肉汁でぬちょぬちょしてる。

 脂が非常に気持ち悪い……


「すまないが…、後全部任せていいか?」



 変に出しゃばるとまた失敗しそうだからな。

 身の程を知ろう。



「はい、寧ろ全部任せてください」


 ダイダリアンが疲れた顔をする。

 もう余計なことはするなということだな。

 人にはその人に合った適性というものがある。


 お肉が焼き上がるまでまだ時間があるので、待ってる間バウムと遊ぶことにする。





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