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空の旅(エロゴイル3)

 ファラの街から北東へ。


 俺とリーゼは魔王クライフのいるメナルドに向けて、グリフォンの背に乗って大空を移動中だ。


 メナルドまで片道二日の距離なので、今日は途中の中継用宿泊施設で一泊することになる。小規模だが、旅人が休めるよう、クライフ領には所々こういった施設が点在しているらしい。


 天気は快晴、西側には俺たちが越えてきたファラ山脈続いている。

 下を見れば鬱蒼とした森が一面広がる。


 それにしてもさすがグリフォン、かなりのスピードだ。

 あっと言う間にファラの街が見えなくなった。


「ん~、いい眺めね、空の旅も悪くないわね」


 トリスと別れ、ファラを出立した後は元気なかったリーゼだが、元気を取り戻したようだ。

 まぁ今生の別れといわけでもないしな。

 てか、遅くとも春には戻るつもりだしよ。




 さて、俺たちをメナルドまで運んでくれるグリフォンさんをご紹介しようか。

 体長五メートル超えの大きな体と、茶色の柔らかい体毛と美しき灰色の翼を持つ彼の名前はナイカさん。

 グリフォン特急便、この道百年のベテランだ。


 このグリフォン特急便、正直ラザファムの背中よりも乗り心地はいい。

 グリフォンの背中は羽毛でふかふかだ。

 あいつ(ラザファム)の背中は堅いからな。

 専門が違うし、真龍をそんな目で見る俺が間違えてるんだろうけど。

 

 また、周囲に展開されたウインドバリアにより、向かい風がほぼ遮断されており、寒さもそれ程感じない、揺れも感じないように飛行しておりお尻も痛くない、乗客に対する細やかな配慮を感じる。

 

 さすがベテランだ。




「お二方共、下をご覧ください、ドラゴンズホールが見えます」


 ナイカさんの声に従い、下を見下ろす。


 大地に亀裂が見渡す限り走っている、何キロ続いてんだろ。

 空からでも穴の底が見えない、どんだけ深いのか……

 でもああいうのはホール()っていうのかな? 


「ドラゴンズホールってことは当然中には」

「そうよ、あの中に地龍達が棲んでいるらしいわ、地真龍グランダルもあの中にいるみたい」


 前に座っているリーゼが、説明を補足してくれる。

 なんか、この辺真龍多いよな。

 新鮮味がないと思うのは、俺の感覚が麻痺してるからだろうか。



「地真龍もクライフの友人なのか?」


 地真龍が味方だとすれば相当強力なバックがあると思うのだけど。

 以前話にでてたナゼンハイムがクライフ領を攻めるのを躊躇するくらいにはな。


「まさか、兄様の交流関係で真龍の知り合いはラザファムさんと奥さんのミナリエさんだけよ」

「じゃあなんでクライフ領に地龍達が棲んでいるんだ?」

「逆よ、彼らは兄様が魔王と呼ばれ、ここがクライフ領と呼ばれる前からここに棲んでいるの」

「それで何も言わなかったのか? 地龍達は?」


 自分の棲んでいる場所を知らない魔王の名前で一括りにされてさ。


「ええ、彼らはそういうナワバリ争いには興味ないのよ、争いを避けるために地底に逃げ棲んだって説もあるくらい、刺激しなければ危害はないそうよ」

「へぇ、例えば?」

「そうねぇ、あの穴に向けて、大規模水魔法を唱えて、内部を水浸しにするとかしなければ大丈夫でしょ」

「じゃあ安心だな、そんな馬鹿な奴いるわけがねえ」


 言っておくがフリじゃないぞ。

 本当にやらねえからな。




 空の旅は続く……


 ふむ、ずっと空の上にいると少し暇だな。


 やることのない俺は、リーゼの後ろ姿をジッと見つめる。


 う~ん、黙ってるとやっぱ美少女だよなぁ。


 前方の彼女からいい匂いがする。

 なんか香水でも使っているんだろうか……


 暇なので俺はリーゼを観察(視姦)していく。


 サラサラの柔らかな金の髪が日の光を浴びてきらめいている。

 女性特有のなめらかな曲線を描く肢体は思わず手でなぞりたくなる。


(こいつ腰細え~力込めたら折れちゃいそうだ)

 

 まぁ、俺の場合力込めたらなんでも折れてしまうんですけどね。

 

 それにしてもなんでかな? 

 この時ふと思い出したんだ。


 彼女の後ろ姿を見ていたら、突然過去の記憶がフラッシュバックしたんだ。







『多分アルベルト子供生める~』


 あの時のレオナの台詞を……

 チッ、何故今更こんなことを思い出す。


 まるで俺が欲求不満みたいじゃないか。


 まぁだからと言って、彼女に劣情を催すとかそんな事はないけどな。

 そんな低俗な感情に支配されるなどあってはならない。


 旅の仲間をそういう目で見るのはなんか抵抗があるっていうか。

 こんな俺でもモラルはあるのだ。



(まぁでも……)


 だからって距離を取り過ぎてもよくないんだけど。

 それが人付き合いの難しいところだ。

 思春期真っ盛りの男じゃないのだ。

 そういうのって無自覚に相手を傷つけちまうかもしれない。


 そう、彼女は俺が今まで一緒に旅してきた仲間だ。

 遠慮みたいなのは失礼にあたるだろう。

 もっと彼女とコミュニケーションをとっていくべきなのかもしれない。


 そうと決めたら、具体的にはどうするか。


 さしあたっては彼女にもっと接近しようと思う。


 心の距離はそう縮められないけど、体の距離ならすぐに縮められるからな。

 まずはできることから始めていくことが大事だと思う。



「…………」


 ジリ、ジリ、ジリ

 ※アルベルト前方に接近中。


「…………ねぇアルベ、って近っ!」


「ん? どうした? 大きな声だして……」


「どうしたじゃない! ちっ近いわよ!」


 互いの表情がはっきりわかる距離、俺と彼女の顔は三十センチも離れていない。

 向こうにイケと右手でグイグイ俺の体を押しのけようとする。


 そんなに吃驚しなくても、少し、ほんの少しコミュニケーションをとるだけだよ。


 まぁ落ち着けって、仲良くしようぜ。


「なぁリーゼ……」

「な、なによ……いいから離れて」

「この前知ったんだけど、実は俺、子供を作れるらしいんだ」


 とりあえず考えてた事をそのまま口にする。


「リーゼは子供産めるのか?」

「…………そ、そりゃあ女だし、産めるけど、それが何?」



「へぇ、奇遇……だな」


 我ながらあまりに酷い話題のチョィスだと思うが、彼女は何故か律儀に返答してくれた。


「な、何が奇遇なんだかさっぱりわかんないんだけど……どうでもいいけど後ろに下がって!」 

「まぁまぁまぁ、大丈夫だから、本当に」


俺は彼女の背中に手を回す。


「な、何で突然発情してんのコイツ! 背中さわるな!  それ以上近づいたらぶん殴るわよ! 下に落っこちても知らないからね!」


 普段の彼女なら既に攻撃モーションに移っているだろう。

 だが、ここは空の上だ。

 ぶん殴りたくても、落ちると危ないから殴れない。


 こんな時でも相手を気にして、なんて心優しい女の子なんだろう。

 ついでに相手の良心を利用して、迫り続ける俺は何て屑野郎だと思わないでもない。


 まぁ仮に高度二千メートルから落ちても死にはしないんだけどさ。

 結果的にちょっと体が土煙で汚れる程度の事だ。


 

「あのお客様、人の背中の上でそういう痴漢行為はやめていただけませんかね?」


 でもまぁ、ナイカさんにもご迷惑がかかりそうなので素直に後ろにさがる。


 おかしいな、いつもの俺はこんなに積極的じゃないはずなのに。

 旅は人を解放的にさせるというが、俺もそうなのかもしれない。


 当然、リーゼにはメッチャ睨まれた、降りた時が怖いな。



 夜、旅の中継宿で一泊し、翌朝再びメナルドへ向かう。



 なお、宿は大部屋一つで予約していたはずが、リーゼの都合で個室二部屋に変更された。

 何か彼女の中で心境の変化があったようだ。



 まぁ偶には一人になりたい気分の時もあるよな。




 



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