オークション1
オークション当日。
旅の準備を全部レイに丸投げ状態の俺は、オークション当日も平常通りに過ごしていた。
もう時刻も夕方。
今日は仕事も早めに終わらせた。
今はリュー達とマンザス亭にて仕事終わりの打ち上げ中。
少し早い食事だが、オークションは夜から始まるため、腹ごしらえも兼ねている。
開始まで二時間以上時間の余裕があるからな。
それに明日は朝からメナルドに向けて出発することになる。
夜、あまり遅くなると翌日に響くしね。
この街にいるのは今日で最後になる。
これは俺のお別れ会でもあるそうだ。
トリスがいるので戻ってくるつもりではあるが……
クライフの話次第ではいつ戻ってくることになるかわからない。
リュー達には俺が明日からいなくなることを話してある。
さすがに、魔王の件までは触れなかったが。
「世話になったな……俺の事忘れんなよ」
「まだ言うの早えよ……オークションが残ってるだろうが、てか忘れるとか無理過ぎる、濃すぎだよお前」
「そうか……、リューが俺を忘れるのは無理だってよ、ハツさん」
「…………リュー」
ハツがリューをじろりと睨む。
「なんでハツに言うんだよ……、いつものコイツのおふざけだからハツも睨むな」
「ははは……わるいわるい」
「ったく!」
この心暖まる触れ合い? も明日でおしまいか……
ちょっと寂しいな。
時間まで彼らとたわいない雑談を交わしていく。
「そういや、あのフレイムリザード達はまだちょっかいだしてくるのか?」
「いや、あれからは見てねえ、おめぇら知ってるか?」
リューが双子に問いかける。
「ああ、噂では別の街に旅だったって話だぜ」
イチが俺たちの疑問に答える。
「え? そうなのか?」
「ああ、公衆の面前で恥かいたからな」
「恥ずかしくてこの街にいれなくなったのかもしれねぇ、ざまぁねえぜ」
そうか……街を去ったか。
風のように去っていったな、あいつら。
ちょっと恥をかいたぐらいで、メンタルが弱いにも程がある。
あれだけ煽ったから復讐に来るかと思っていたんだがな……
今度は正々堂々叩き潰してやるつもりだったのに……
館に来たら屋外訓練場にお通しするよう、エルフ衛兵に頼んでおいたんだけど無駄になっちまったな。
あ、復讐といえば、まだ森で別れたガーゴイル達に会ってないな。
ここに来て十日以上経つんだけど。
この街は広いから会えないこともあるだろうが。
このままだと結局会わないまま終わりそうだ。
結局お仕置きする機会は訪れなかったか。
ちょっとだけモヤモヤした気持ちが残る。
夕食も終わり、時間になったので俺たちはオークション会場へと向かう。
会場は統一ギルドから南東に三十分程度歩いた場所にあるそうだ。
黙って歩くのも暇なので、道中、リューにオークションについて聞いてみた。
このオークションはレイが提案したもので二百年前から開かれており、世界中から珍しいアイテムが集まる。
開催当初は地域住民の交流の場といった規模だったのだが、噂が広がり、今ではクライフ領の名所の一つと言っても過言でない程の規模になった。
このオークション、基本どんなものでも出品オーケーで品目における制限等はないらしい。
ただし、高額なアイテムを持ちこむのも自由だが、自己責任でお願いしますとのこと。
そのため、商人など腕に自信がない参加者は傭兵ギルドに帰り道の護衛を依頼する人が多い。
高額なアイテムを落札しても、帰りに襲撃を受けて奪われたら何の意味もないからな。
出品には手数料として千ゴールドかかる、これは落札されたかどうかに関係なくだ。
また落札された場合、落札金額の一割、追加徴収される。
余程価値のないモノでなければ割となんでも売れる。
ワイバーン肉でも売れるとのこと。
欲をかいて最低落札価格を高く設定しなければ、売れ残ることはない。
考えて見れば、ベリアの髪の毛をオークションで売ればよかったんだよな。
まぁいい、済んだ事を今更どうこう言ってもしょうがない。
変わりに出会いがあった、お金では買えない出会いが。
それでよしとしよう。
話していたらオークション会場へと到着した。
建物内ではなく屋外でオークションをするのだ。
中央には土魔法で作られたであろう、直径5メートル程度の周囲より一段高い円形の石のステージが、ステージ外周にある光魔石によりまばゆく照らされている。
ステージの奥後ろにはズラリと三角のテントが並んでいる、これは出品者のテントだ。
リュー達とは会場の入り口で別れた。
出品者には商品のアピールタイムが与えられる。
そのアピール役としてリューが、双子は補佐として同行している。
そんなわけで、リューと双子達が奥のテントの中でスタンバイ中だ。
商品の方は既に会場に運んである。
別に俺がアピールしてもよかったんだがな。
何故かリュー達に止められた。
理由は余計な事を言うから。
納得いかない。
ステージ手前にいくつか設置された、参加者用のベンチの一つに座って、オークションの開始を待つ。
「やぁアルベルト、隣いいかい?」
すると、横から聞き覚えのある声がかかった。
「ん? ああレイか、仕事はいいのか?」
「仕事は終わったよ、今日は珍しいアイテムが出品されるから、ちょっと見てみたいと思ってね、だから今日は満席だろうね」
レイが俺の隣に座る。
「ほう……卵の殻がそんなに注目を集めているとは思わなかったな」
「いや、まぁ……うん、そうだね。アレも珍しさなら負けてないね。でも僕の言っているのは違うものだね、たぶん君にとっても興味深いモノだよ」
そうか……違うのか。
でも俺にとっても興味深いモノってなんだろう?
開始時刻が近付く。
レイの言う通り、設置されたベンチは満席、立ち見の人たちも出てきた。
時間になり、黒いスーツを来た進行役らしきレッサーデーモンの男がステージ上に現れる。
「皆様長らくお待たせしました、これより本日のオークションを始めたいと思います」
さぁオークションの始まりだ。
いくらの値がつくか楽しみだな。