分岐点
本日三話目~、ご注意をください
「ぜぇっ、はぁっ、はぁっ、ふぅ~~~~」
仰向けにバタンと倒れる。
さすがの俺もこれ以上の魔力を注ぎ込むのは無理だ。
目一杯の魔力を髪の毛につぎ込んだ。
「レオ……ナ」
「なに~~?」
「あの娘に……ちゃんと届いたかな? おれの気持ち」
「大丈夫~、届いたよ~、ゆっくり休むといい~」
お疲れ様、そう言って二コリとほほ笑むレオナ。
(そうか……届いた……か)
眩暈がする、酷い倦怠感が俺の全身を襲う。
だが、それだけじゃない。
ああ……満たされている。
体も限界まで疲れてはいるが、不思議な充足感がある。
これも復讐をやり遂げたからだ。
遠い空の向こうで君は今何をしているんだろう。
この後君がどんな顔を浮かべるのか楽しみでならないよ。
夕暮れ時、俺はレオナに別れを告げ、今後の事を考えながら帰り道を歩いていた。
「ないわ~~」
時間経過とともに頭が冷えてきた。
いつものクールな俺に戻ってきた。
あの内容でよかったのか、今考えると少し疑問に思わなくもない……
雰囲気に飲まれていたといってもいい。
まぁいいさ。
例え一時の感情に流されたものだとしても。
あの時に戻れば……多分俺は何度でもその選択をするだろう確信がある。
不思議と格好いい事言ってるな俺。
選択内容は女の敵もいい所だけど。
でも気持ちは少し晴れたからよしとする。
俺には関係ないしな。
特に損したわけでもない。
そんなことよりこの後の事の方が大事だ。
「どうすっかねぇ」
考え事をしていたら、いつの間にか館に着いていた。
「おかえり」
『クエエエエッ!!』
リーゼとトリスがタタタと走り寄り、玄関まで迎えに来てくれた。
「おう……、ただいま」
喜びを表現しているのか、蛇の尻尾をブンブン揺らしているトリスの頭を撫でてやる。
「…………」
「ん、なんだ? 人の顔をジッと見て」
「えっ、あっ……べっ別になんでもないわ!」
「そうか……俺レイに話があるから、悪いけどもうちょっとトリスの事頼むわ。また食事の時にな」
「ん、わ、わかった!」
レイのいる執務室に向かうことにする。
どんな結果にしろ、一応報告しておかないとな。
相手は上司ではないし、報告する義務はないんだけど、一応世話になってるからな。
俺は執務室にてレオナに聞いた話をかいつまんでレイに伝える。
丁度仕事が一区切りついたそうで、いいタイミングだった。
ナザリさんは現在食事の準備中だそうだ。
「そうか……駄目だったかい」
「ああ、参ったぜ」
「しかもオマケで呪いが掛かっていることが判明したと……」
「嫌なオマケだよ」
「違いないね、しかしまた面倒な問題を抱えたねぇ……」
俺の話を聞いて、レイは苦笑している。
「一応聞いておきたいんだけど、レベル七回復魔法の使い手に心当たりはあるか?」
「ないねぇ、文献で知識としては知ってるけど実際に使用している人は見たことも聞いたこともない」
「そう……か」
「役に立たなくて申し訳ないね」
「いや、ここまでしてくれたのに文句なんか言わねえよ」
寧ろ色々してくれて感謝したいくらいだぜ。
「やっぱりどうにかしてベリアに解かせるしかないな」
「魔王ベリア……か」
「一応その方向でどうにかするつもりだ」
ベリアに呪魔法を掛けた事に関してはまだ話さなかった。
レイに迷惑を掛けるかもしれないしな。
内容はあれだが、明確な魔王との敵対行為だし、とても今更な気はするけどさ。
俺の胸の中にこの秘密はしまっておこう。
レオナにも一応口止めしておいた。
バレるの時間の問題な気もするけどな。
―――――――――――食堂、食事の席にて―――――――――――
「アルベルト、お肉食べる?」
「え? あ、ああ食わないなら貰うけど?」
「はいどうぞ、私の少し分けてあげる」
ふむ、リーゼは今日食欲がないのだろうか?
「ア、ア、アルベルト、私のデザート食べる?」
「ん? おお食べ……るけど、無理しなくても」
「……い、いいのよ」
な…何? なんなの?
しかも本音はあげたくなさそうだし。
「ね、ねぇ、アルベルト肩もんであげようか?」
「……どうしたんだ?」
本当らしくないんだけど。
「君の元気がないのを気にしてるんだよ彼女は……」
「……あぁ、そういうことか、リーゼに言ってなかったのか?」
「君の問題だからね、勝手には話せないよ」
なんでこんなに優しくするのか不思議に思っていたら。
やれやれ……リーゼにも気づかれてたか。
何か申し訳ないな……
元気ないってわけじゃなく、ただ考え事してただけなんだけど。
ちょっと帰った時の反応が淡泊すぎたかな。
「悪いな心配かけて、嫌な事実が判明しちまって」
「そう……聞いてもいい?」
「ああ、隠すことじゃないしな、実は……」
レイに話した内容をリーゼにも話す。
「そっか、呪いか」
「心配させちまったか?」
「ま……それなりにね、あんたらしくなかったから……、レベル七の呪魔法『血の誓い』……ゴメンね、私じゃ……」
「気にするな、そこまでの要求は無茶ってもんだし」
「兄様が確かレベル六までは使えたと思ったけど……」
レベル六か……、あと一歩足らないな。
いつかはレベル七まで使えるようになるのかもしれないが……
クライフはイモータルフォー《死なずの四人》ではないけど魔王。
それでもレベル六だもんな。
レベル七なんてそう簡単に見つからないか。
そもそも使い手がいるのかすらわからん。
そして食事の終わり。
「ふむ……ねぇアルベルト……」
「ん?」
レイが手を口に当て、少し迷ったそぶりを見せた後で俺に告げた。
「ベリアに会う機会を作れるかもしれない、確約はできないけどね」
「レイ……あんたまさか……」
リーゼが何かに気づいた様だ。
「魔王クライフ……マリーゼルのお兄さんに会ってみる気はないかい?」