ハイエルフ2
「よ……よくもこんな屈辱を!」
「早く我らを解放しろ!! 今ならまだ牢屋行きからの奴隷行きで許してやる!!」
「命だけは……命だけは助けてください、私には妻と子が……他の奴らはどうなってもかまいませんから」
足元には『石の鎖』で大量に拘束したエルフの衛兵達がガヤガヤと恨みがましい声を上げている。
一部命乞いの声も混じっていたが……
とても騒々しい。
口も鎖で塞ごうかな……
つ~か早くリーゼ来いよ。
衛兵は知らないって言ってたけど……本人が領主の館に行くって言ってたから間違いなくいるはずなんだが。
解放した衛兵もあれだけ脅したんだから今度はちゃんと呼んでくるはず。
こなかったらお仕置きしよう。
『クエ~』
体をピタリと寄せてスリスリしてくるコカトリスベイビー。
誰のせいでこうなったかわかってんのか?
お前にも非はあるんだぞ……あるよね?
「もしかしたら寂しいのかもしれんな、コカトリスは群れで暮らす魔物だからよ」
「…………」
「他の卵と孵化する時期がずれたせいで、こいつには仲間がいないんだよ。運が悪かったと言えばそれまでだが……」
やめろ馬鹿……そういう後出しの設定で責めてくるのはさ。
いずれにせよ、ここまで大事になったら今更なので、こいつの好きにさせておこう。
やれやれだ……。
リューの言う通り、生まれたばかりで誰かに甘えたい気持ちも強いんだろう。
ち、俺も甘いな……
ん? ちょっと震えてるな。
そういやコカトリスは寒さに弱いんだもんな……。
でも俺は火魔法を使えないしな、一応火魔石をゴブリンの集落で貰ってきたのだが、数には限りがある。
しょうがないな。
ここはこいつらに働いてもらおう。
「おいお前」
「ひっひぃぃ!!」
おれは先ほど命乞いをしていたエルフの拘束を解除する。
石の鎖がボロボロと崩れて土に還っていく。
「えっ? あ……」
何が起きたか分からない様子のエルフ。
「命は助けてやる。代わりにこいつを暖めてやれ……使えんだろ? 火弾くらい」
中隊長を返り討ちにし、メッセンジャー兵を送ってから一時間が経過した。
ボチボチお偉いさんがくる頃だと思うんだけど……
道の後ろにいる野次馬共が左右に割れた。
ようやくお出ましのようだ。
「これはまた……頭が痛くなる光景だねぇ」
「あいつは……」
「お知り合いか? リュー?」
「知り合いっつうか、この街の領主様だよ……」
癖ッ毛の金髪をガシガシ掻き回しながら登場した細身のエルフの男。
どことなくリーゼに近い気配を感じる。
彼がリーゼの知人のハイエルフか……
「僕はレイ、種族はハイエルフ……一応このファラの街の領主をしているね」
「ほう……ならば俺も名乗ろ……」
「アルベルト君だろ……知っているよ、ここに来る途中、彼女に聞いたからね」
彼女?
レイの後ろにはどっかで見た紅一点のハイエルフさん。
「よぉ、半日振りだなマイフレンド」
「…………」
不機嫌そうな顔でドスドスと近づいてきている。
「ど……どうしたんだマイフレンド? 黙っちゃって……」
終始無言な彼女……不穏な気配が漂う。
これは……アレしかない。
『石の鎖』、『石の鎖』、『石の鎖』、『石の鎖』、『石の鎖』
「うぐっ!!」
とりあえず先手を取って拘束しておく。
芋虫状態になるリーゼさん。
五重にな……万が一あってはいけない。
手、胸、足、腰、胸に石の鎖が絡みついてなかなかにエロいぜ。
一部重複している箇所があるが深い意味はない。
「淑女にあるまじき格好になってしまったな……」
「なっ、いきなりなにすんのよ!! ……って鎖固っ!」
「いや……その、何かされると思ったから」
「何もしないわよ!! 被害妄想甚だしいわ!!」
それは絶対嘘だろう。
それなら挨拶くらい返そうぜ……
「鎖を解きなさい!! やましいことがないなら解除できるでしょ!!」
「なら無理だな……当分我慢してくれ」
実際やましいことがあるんで……
後は怖いけど、一番大事なのは今だからね。
「もう…今日こんなのばっか……あんた達はぁぁぁ!!」
ん? なんで「あんた達」?
ちょっと泣きそうなリーゼさん。
「今日」ってここに来るまでに何かあったんだろうか?
「あっははははは!!!」
リーゼの後ろには大笑いする領主様。
「おっとすまない、見ていて非常に面白いんだけど一応大切な友人の妹なんでね。拘束を解いて貰えると助かるかな? 話はちゃんと聞くからさ」
リーゼと俺のやり取りを興味深げに見ていたレイが話に入ってくる。
話を聞いてくれるそうなので、リーゼを解放する。
当然、ボディブローを甘んじて受けることになったが…