ファラの町1
「ついに……ついたぞぉぉぉぉ!!」
ようやくファラの街に着いた俺は喜びの声を空に放つ。
ラザファムのおかげで予定より早く山脈を越えられた。
古龍便速えぜ。
「街に着いたのがそんなに嬉しいの?」
「そりゃ嬉しいさ! 自由になって初めての街だからな!」
「そっか……」
リーゼが俺を微笑ましいモノを見る目で見ている。
寄り道したせいで、ここに来るまでに倍以上の時間がかかったからな。
良き出会いもありましたし、寄り道したことに後悔はしていないけど。
(街に着いたら、何して楽しもうかな……)
ファラ山脈より北は現在魔王ベリアの領土だが、ファラ山脈を越えると統治している魔王がクライフへと変わる。
ファラの街は魔王クライフの領土内でも有数の大きな街だ。
リーゼに聞いた話だとクライフの領土には主要な街が四つあり、リーゼを除く四人のハイエルフがそれぞれ統めているとのことだ。
「そろそろいいか? お二人さん」
ファラ山脈側にある北側の街門では精強な顔つきのエルフの男達が番をしていた。
冒頭から叫んでおいてなんだが、実はまだ街の中に入ってなかったりします。
街の中で叫んだら迷惑になるからね、我ながら変なところで冷静だ。
門番のエルフさん、待たせてすみません。
「済まない、つい感情が漏れてしまった」
「こんにちは!」
俺とリーゼは門番に返事をする。
「ああ、こんにちは、ファラの街は初めてかい?」
「ああ」
何事もなかったかのように門番は対応してくれる。
実は過去何度かこの街の上空を飛んだことがある。
空からの襲撃を防止するために、街の上空には重力魔法の結界が仕掛けられていたのだが、この程度の重力等無意味とばかりに空を飛んでいたのは秘密だ。
わざわざ馬鹿正直に言うこともないだろうしな。
「中に入る前に、この紙に名前と種族を書いてくれ」
筆記具を渡され、言われた通りに種族と名前を記入する。
種族ガーゴイル、名前アルベルト……。
チラリとリーゼの方を見ると種族名をエルフで記入していた、ハイエルフだと目立つからさすがに馬鹿正直には書かないか、ここの魔王であるクライフもハイエルフだしな。
抜けてるけど頭は悪くないんだよ彼女、ただ時々一直線になるだけで……ぐぇ!
隣からエルボーがとんできた。
「ど、どうしたリーゼちゃん? 右腕の躾がなってないんじゃないのか?」
「手が動いたのよ」
鋭い子だ。
後、その台詞言い訳になってないからな。
事実を口にしただけだ。
「それにしても今月はガーゴイルが多いな」
記入した用紙を受け取ってポツリと呟く門番さん。
そうか、やっぱりあいつらはこの街に来ているのか……
「魔王ランヌが死んだから、山脈の向こうにいた奴らが流れてきているんだ」
「ああ……ようやく決着が着いたんだ、結果は……聞くまでもないか」
「予想通りに魔王ベリアの圧勝だよ」
無事に北門をくぐり、街の中に入る。
「リーゼはこれからどうするんだ?」
「私はここから東にある領主の館に用があるから一旦お別れね」
「そうか……」
「当分はファラに滞在する予定だから困ったことがあったら言ってね、領主の館だけど遠慮なく訪ねてきていいわよ」
遠慮なくってお前さん……
少し前に遠慮なく訪ねて痛い目にあったばかりなんですが……
まぁそれも今更か。
「アルベルトはこれからどうするの?」
「とりあえずお金を稼ぎたいんだけど……」
「何? 仕事する気なの?」
いくらなんでもその質問はどうなんだ?
「俺お金持ってないんだよ」
「そういえばそうだったわ……超高額なアイテムは持ってるのにね」
「やっぱり髪の毛は買い取り不可かな」
「特殊すぎて街の道具屋じゃ無理ね、一般人には需要がないもの」
だよなぁ……とするとやっぱり働く他ないな。
「お金あげようか?」
その時、横から悪魔の囁きが聞こえた。
正直お金はもの凄く欲しいが、どうなんだろコレ
女にお金を貰うのは抵抗がある。
少し前にヒモがどうとか考えていたのに何だけど……一度貰うと堕落しそうなんだよな。
こんな俺にもプライドがあるのだ。
「……………………………………………………………馬鹿にすんな!! 男がそんなみっともないマネできるか!」
「間があったわね……あんたには助けてもらってるしそれぐらい構わないわよ」
「……………………………………………………………い、いらないって言ってるだろうが!!」
俺は断腸の思いでリーゼの申し出を拒否する。
「そう? あんたがいいならそれで構わないけど……なら今歩いている道をまっすぐ南に行ったところに傭兵ギルドと商業ギルドがあるから仕事があるか聞いてみたら? 場所は噴水広場の近くだからすぐわかるわよ、何だったら一緒に行こうか?」
「いや場所がわかれば一人で大丈夫だ」
去り際にて……
「アルベルト……くじけちゃ駄目よ、いつでも頼ってくれていいからね」
「別れ際にそういう台詞吐くのやめろ」
何でそういうこと言うのよ、不吉すぎる。
リーゼと別れ、教わった通り、道なりに南へまっすぐ歩いてく。
街の中心部に近づくにつれて人が増えていく。
「待って~」と路上で鬼ごっこをして遊んでいるエルフの子供達。
何でできているかよくわからないボールを投げあうオーガの子供達。
無邪気に遊んでるなぁ
心からの笑顔を浮かべて路上で天真爛漫に遊ぶ子供達
あぁ本当に彼等を見てると思うんだ……
邪魔なんだよね
道を塞がないで欲しいぜ。
噴水広場にたどり着くと、そこには沢山の屋台が並んでおり、食欲を誘う肉の脂の匂いがする。
その中にはワイバーン肉の串焼きもあった、おぉ本当に高いな。
ワイバーン肉も全部食べてしまったからもうないんだよな。
ダイダリアン達にも分けたしね。
また機会があったら狩っておこう。
噴水の近くには屋台で買った食べ物を食べるための休憩用のベンチがある。
もうじき昼時だからなかなかの賑わいを見せている噴水広場。
今もそこのベンチでケンタウロスの恋人達が語り合っている。
お前ら胴長だから椅子に座る方が体勢きついんじゃねえか?
お、あれがギルドかな……
目の前には二階建ての木造の建築物
なかなかの広さで、一般の二階建て家屋が八つくらい入りそうだ。
リーゼ曰く同じ建物内に商業ギルドと傭兵ギルドの受付があるらしい。
建物の中に入るとケットシー、ドワーフ、エルフ、リザードマン等色々な種族が中で会話していた。
まぁ何にせよとりあえず、受付に並ぼうか。
受付が二つあるのでどちらに並べばいいんだろうかと悩んでいると、ギルドの案内係らしき中年の女性が話しかけてきた。
「こんにちは、本日はどういったご用件で」
恐らく自分のようにどの受付に行けばいいかわからない人は割と頻繁に来るのだろう
慣れたご様子だ。
「ああ、今日は仕事を探しに来たんだ、どんな仕事があるんだ?」
「商業ギルドは店の売り子、商品の荷卸し等、お店の臨時のお手伝い等が多いです。傭兵ギルドは薬草、鉱石の採取、後は腕に自信のある方は商人の護衛等ですね、この街では夜にオークションが開催されますので、落札した商品を奪われないよう護衛を依頼する人は多いです。」
せっかく自由になったわけだし、いろいろ経験したい気持ちはあるが、無難に仕事を探すなら護衛とか腕っ節が活用できる傭兵ギルドかな。
まずは最低限のお金が必要だからな。
余程のマニアでない限り、ガーゴイルの売り子姿等見たくはないだろう。
「親切にありがとう、とりあえず傭兵ギルドの仕事でお願いしたいな」
「でしたら右端にある受付ですね、また何かございましたら遠慮なく声をかけて下さいね。」
そう言って、案内係の女性は離れていった。
俺は傭兵ギルドの受付の列に並ぶことにする。
「こんにちは、本日はどういったご用件でしょうか?」
色気ムンムンの妙齢のダークエルフのお姉さんが受付応対してくれる。
まぁエルフはが変わらないから外見はいつでも妙齢だが。
仕事を探しにきた旨を伝えると、紙に必要事項を記入するように言われた。
名前、種族、年齢、得意魔法属性等を記入していく。
生い立ち上、さすがに馬鹿正直に書くわけにもいかないので、適当にごまかすことにする。
名前:アルベルト
種族:ガーゴイル
年齢:1歳
得意魔法:土魔法、水魔法
備考欄:
年齢を1500歳程サバをよんだけどいいよね。
実際きちんと生きてきたのは一年程だしな。
本当は重力魔法も使えるけど、普通のガーゴイルは使えないので記載しなかった。
「できました」
記入した用紙を受付のお姉さんに渡す。
「はい、え~っと」
ざ~っと、記載された内容を確認していたお姉さんだが、少し言いづらそうに口を開いた。
「備考欄に翼がないことを追加記入させていただきます」
「…………」
「申し訳ないです、そうしないと依頼人とトラブルになってしまいますので……」
まあ依頼した護衛が怪我して現れたら怒るわな、しょうがない。
「いいさ、で、仕事の方はいつから受けられるんだ」
「依頼人の要求した条件が満たされていれば今からでも受けられますよ」
「おお、助かるよ、それじゃぁ受けられる仕事を見繕って欲しいんだけど」
「わかりました、ちょっと待ってくださいね」
ごそっとカウンター下からファイルを取り出して読み始める受付のお姉さん。
少し待つ……すると。
「あの……ですね」
言葉に詰まった話方をするお姉さん。
「もしかして、あまりいい仕事がなかったかな? 初めての仕事だし、選り好みするつもりはないんだけど」
言いにくいこと言おうとしている表情だ、嫌な予感がプンプンする。
「えぇとですね……、ない……んです」
「ん?」
「その……アルベルトさんの場合、依頼人の条件を満たした仕事が……、受注可能な仕事がないんです」
「…………」
ない……だと、まじかよ
この歴戦の戦士であるアルベルトが誰からも必要とされていないだと?
「う……腕には自信があるんですけど、一応……こんなナリですが」
ないと言われて、つい敬語になってしまう。
せめて今晩のご飯代くらいは稼ぎたいんですけど。
「えっと……」
「どうにかならないんですかね? 何でもしますよ、ワイバーンだろうが、サイクロプスだろうが一瞬で潰しますけど」
「申し訳ありません、その……ギルドの一存ではどうにもならないんです、報酬を支払うのは依頼人の方になりますので依頼人の了承がとれない限りは無理なんです。」
ショックだ……、甘く見てたなぁ。
世間は世知辛いな。
「一応朝一番に来ていただければ採取系の依頼ならあるんですけど」
「そう……ですか」
傭兵ギルドの受付から離れる。
余程悲壮な表情だったのだろう。
去り際、お姉さんに励まされてしまった。
商人ギルドの方も同じ結果に終わる。
(うぅ~~、ちくしょぉぉぉ!!)
わかってる!! ギルドは悪くない。
依頼人だって変な人に来てもらったら困るだろうしな、しょうがないさ!
頭ではわかってるんだ!
悪いのは翼を燃やしたベリアとランヌだが二人はここにはいない。
一人は故人だしな。
うぅ……このやりばのない感情は一体どこにぶつければいいのか。
仕事を得られず肩を落としてトボトボとギルドを出ようとする俺。
そんな俺の背中をリザードマンの三人の男達がニヤニヤと見つめていた。
「ギャハハハ!! おい見ろ!! 飛べないガーゴイル出て行くぜ!! 多分仕事貰えなかったんだぜ!!」
「おいよせ! 可哀想だろ……ぷっははは!!」
「ゴブリンみたく外で暮らせよ!! 欠陥品のお前はこの街に居場所はないぜ!!」
フシュゥゥゥゥゥ!!
ここにぶつければいいのだ!!!