表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/180

雷龍ラザファム7

 リビングルームのコップを拝借し、水を注いでゴクゴクと飲む


「~~たまらん、うまいなこの水」


 風呂上がりの渇いた喉に浸みわたる。

 

 自分の水魔法で生み出した水だけどね……

 本当は冷えたお酒を飲んでみたい。

 でもラザファムの前で飲むというのもアレなので遠慮しておく。


 さっきお酒でトラブルがあったのに何言ってんだと思うかもしれないけど、お酒なんてこれまで飲んだことないから興味があるんだよね。

 もちろん飲みすぎには注意するけど。


 ファラの街に着いたら飲みにでもいこうかな。

 

 





「アルベルト、ちょっといい?」

 

 水分補給していたら、リーゼに外に出ないかと誘われた。

 丁度いいタイミングでリビングに入ってきたラザファムに一言かけ、二人歩いて外に出る。



 外は風が心地いいな。

 湯上がりだからちょっと冷えるけど。

 隣にいるリーゼからは石鹸の香りがする。



「やっぱり知っていたのね、私が魔王の妹だってこと……」

「え? ああ……まぁな。というか最初会った時自分で言っていただろう? 直接的ではないにしろ」


 リーゼが話を切り出す。


 何で今この話題を……、そういえばラザファムとリビングルームに居た時の会話はリーゼに聞こえているんだったな。

 あの時リーゼが魔王の妹だって話題に出てたな。


「そっ、そうなんだけどね! その後特に反応なかったから解っていないのかなって思ったのよ!」


 ちょっと逆ギレ気味で言うリーゼさん。

 理不尽だ。


「そう聞くってことは、最初に会った時、魔王の妹だって情報を出したのはわざとか?」

「ち、違うわ! 言った後に気づいたのよ……その後特に反応もないからそのままにしていたんだけど……」

「そ、そうですか……」


 よかったような、そうでないような

 いままで通りリーゼがちょっと残念なのに変わりはないと。

 まぁ全て演技だとしたら、俺は女性不信になるけどな。

 

「最初からあんたは全部正直に言っていたのにね。それなのに私は曖昧なままで済ませてしまおうとして……、今日も助けてもらったのに……あんたの話を信じてなくてごめん」

「…………いいさ、信じられる話じゃないしな。ただ……」

「ただ?」

「人の話はもう少し聞くようにした方がいいかもな」

「う……ん」


 シュンと下俯くリーゼ、殊勝な態度だ。

 さすがの彼女も少し反省しているようだ。


 俺は彼女の頭にポンと手を置く。

 自分でも不思議な位自然と出た行動だった。


「まぁでも、お前は今のままでもいいかもな」

「なによそれ、どうすればいいのよ、後、頭に手を置くのやめなさい」


 ソッと頭から手を離す。

 早合点して勘違いもするけど……心根の真っ直ぐな彼女。

 俺はそんな彼女が嫌いじゃない。


「こんなお姫様がいたっていいのかもしれん」

「…………バカ」


 ボソッと呟くも、彼女には聞かれていたらしい。

 俯くリーゼ、少し顔が赤い気がする。


「アルベルト……、あんたは本当に揺らがないわね」

「そうか? ぶれぶれだぞ俺」

「本質的なところでよ、表面上はコロコロコロコロコロコロ変わるけどね」


 表面いくらなんでも変わりすぎじゃね。

 後、本質的とか言うなよ、リーゼらしくないぞ。


「あんた心のどこかで私を馬鹿にしてない?」

「まさか」

「あんたのそう言う所嫌いよ」

「じゃあ、今は俺のこと嫌いか?」


 あの時は勘違いしてた時に出た台詞だった。

 じゃあ今は?


「そんなこと……ないけど」

「じゃあ俺のどこかに好きな部分があるってことだな」

「なんでそうなるのよ?」

「だって嫌いな部分を打ち消す位、好きなとこがないと「嫌いじゃない」にはならないだろ?」

「…………」



 沈黙するリーゼ。

 ふと気づく、何この心がモヤモヤする妙な空気……


 てかよく考えるとさ。

 さっきから何こっぱずかしい台詞言ってんだ俺は。


 こんなの俺じゃない!

 いや、冗談で言うことはあるんだけどさ。

 ああいうのはサラッと言うからいいんであって、意識して言うものじゃないんだ。


「あああああ!! やめようこの会話なんかムズムズするぜ!」


 俺は翼の無い傷物ガーゴイル。

 こういうなんか甘酸っぱい青春劇はそれに似合った奴がやればいい。

 若かかりし頃のラザファムとかな。

  

 突如叫び出した俺にリーゼは少しあきれ顔だ。


「話は終わりか? ならとっとと中に戻るぞ!」

「あんた自分で言っといて……」


 いいんだよ! 

 もっとドタバタ、ゴミゴミした感じの方が適当な俺には似合ってる。

  

 リーゼに背を向け、住処に戻る。

 逃げるような形になってしまった。




 こうして夜は過ぎていった。









 ==========翌朝=============

 

『準備はいいか?』


 食事を終えて、住処から出ると龍化したラザファムが俺を待っていた。

 ラザファムは龍形態とはいえ、朝だから眩しさもそれ程は感じない。


「ああ、待たせて悪いな、よろしく頼むよ」

「よろしくお願いします」


 俺たちの返事に、ラザファムが頷く。

 ジャンプしてラザファムの背に飛び乗る。

 バッサバッサと翼を動かし、空へと浮上していくラザファム。


「しっかり掴まっていろよ」


 お望み通り、ラザファム背中をがっしりと掴む

 俺も一度言ってみたいわその台詞。

 たまに無駄に格好いいんだけどなこの龍。


「よし、それじゃあ行くぞ」

「おう」


 返事とともに急激にスピードがあがる。


「ファラまでどれぐらいかかりそうだ?」

「この速度なら大体三十分くらいといったところか」

「速いな~、やっぱ翼は羨ましいわ」

「まぁ、空なら最短距離で移動できるからな、お前の翼はもう生えてこないのか?」

「いや、一応再生はすると思うけど、今回は魔王の魔法で完全に消されちまったから当分時間がかかると思う。」

「まぁ生えてくるだけいいではないか、そもそも魔王に傷つけられた翼が生えてくるってだけで十分凄いがな」


 少し呆れた表情をするラザファム

 そうだ別れる前に別件で聞いておきたいことがあったんだ。


「そういえばラザファムはアッセンマーラって知ってるか?」

「アッセンマーラって闇真龍のアッセンマーラか? そりゃぁ有名だし知っているぞ」

「そうか……、あいつに関する噂話とか聞いてないか?」

「ここ最近では特にないな、四百年前に大きな傷を負って数年機嫌が悪かったって話は聞いたが」

「そっ…、そうか……」


 機嫌悪い……か、俺のこと恨んでいなければいいけど。

 アッセンマーラの場所がわかったら近づかないようにしよう……


「………お前、まさかとは思うが」

「ああ、ご想像通りだ」

「あんた過去に何やってんのよ……よくこれまで無名だったわね」


 リーゼの疑問も尤もだが、その理由は多分闇真龍のプライドが高いからだ。

 最強の真龍がガーゴイルに傷を負わされた等と自分の口から言うわけがない。

 

「ラザファムさんはこれからどちらに?」

「ああ、まずは居場所を探す。とりあえずは彼女ミナリエの実家に行こうと思っている。もしかしたら戻っているかもしれない」

「そうですか……」

「前向きに頑張ってみる、もう一度彼女を振りむかせて見せる」


 最早心に迷いはないようだ。

 今なら真龍を名乗っても違和感ないな。


「リーゼ嬢、クライフのいるメナルドまで送っていってもかまわないぞ」

「いえ……大丈夫です。ファラにも用事がありますので」

「そうか」



 ラザファムと空の上で会話を続けていたらファラはもう目前だ。


「このあたりで地上に降りるぞ、この姿は目立ちすぎるのでな」


 ここからなら三十分も歩けばファラに着くとのこと。


「ありがとうな、おかげで楽ができたよ」

「いいさ、お互いさまだ、こっちもお前達がいなければ今頃山頂で泣いていた」


 せ……せやな。


「じゃぁ奥さん探し頑張ってな、次会う時は奥さんと娘さんも一緒にな。もし駄目でも愚痴ぐらいは聞いてやるさ」

「抜かせ、そっちも元気でな、まぁ言われなくても死にそうもないかお前は」

「ああ、じゃぁまた……送ってくれてありがとうな! また一緒に風呂入ろうぜ!」

「リーゼ嬢も……頑張ってな」

「はい!!」




 ラザファムが空へと浮上していき、あっという間にその背中が見えなくなる。

 最後に「アルベルト、その言い方は誤解を招くからやめろ」と言い残して……



 こうして俺たちはラザファムと別れた。


 さぁファラの街はもうすぐそこだ。


 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ