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雷龍ラザファム6

 リーゼ作のボア鍋がやってきた、お食事タイムだ。

 リーゼがテーブルの上に鍋を置いて、俺の横に座る。

 三人でワイワイガヤガヤ話しながらと鍋を囲む。

 ボア肉ってクセが強くて食べにくいイメージがあったんだけど、これは旨いな。

 下処理が上手だからかお肉も臭みがなく食べやすい。

 

 こいつ(リーゼ)はいいお嫁さんになれるな。 


 

 食べながらになるが、先ほどラザファムがファラまで送ってくれると言った件を、リーゼを交えて再度話をしておく。

 耳がいいから、聞こえていたかもしれないけどね。


「大丈夫よ、聞こえていたから、全部ね…………」


 案の定だった。

 

「あ、なぁラザファム」

「なんだ?」

「お前、これまでどうやって生活してきたんだ、お酒も沢山所持しているみたいだしさ」

「ああ……それはだな、俺も時々ファラまで買い物に行くのだ。その時にお酒だとか、食料品や生活必需品を買うようにしている」


「へぇ、肝心のお金は?」

「お金なら心配いらない、まだ腐る程持っている」

「なんで?」


 こいつどう見ても仕事してないよな。

 性格的には盗賊紛いのことをしているとは思わないけど。

 

「二百年前に身を犠牲にして大金を稼いだからな、辛い思いはしたが……、言っておくが、悪事で稼いだ金ではないぞ」

「そうか……まぁ無理には聞くまい」


 ラザファムが哀愁漂う表情を見せる。

 二百年前となると奥さんと別れた頃だし、言いたくなそうなので俺も深く追求はしなかった。

 この話はここまでになった。

 


 その後も皆で鍋を囲んで談笑する。

 リーゼと俺の馴れ初めや、ゴブリン集落の話等もした。


「人質に取られたゴブリン少年達、そこで俺は皆の前で究極の策を……」

「コレ以上その話を続けたら殴るわよ……」


 リーゼが俺を睨み付ける。

 やはり素敵服のことはまだ忘れていないらしい。

 ならば俺もあの素敵な光景を忘れないようにしょう。


 話を聞くラザファムどこか楽しそうに見える。

 二百年こんな山に引きこもって刺激のない生活を送っていれば、何気ない会話でも楽しいと感じるかもな。

 






 賑やかだった食事が終わる、後は寝るだけだが……

 

「二人とも風呂にでも入るか?」


 ラザファムが俺達に聞いてくる。


「風呂? そんなもんあるのか?」

「入るわ!!」


 びっくりしたぁ。

 リーゼが即断する。

 風呂か……、確かに自由になってからは一度も入ったことがなかったな。

 汚れても水魔法で体を流す程度だったしな。

 リーゼも女らしく、風呂はお好きのようだ。


「わかった少し待っててくれ、すぐ準備するから」


 風呂は浴槽に水魔石(ウォーター)を投入して水を生成、浴槽下の窪みに小枝と火魔石(ファイア)を投げ込んで温度調節という二段構えのシンプルな仕組みらしい、二十分もあれば準備できるとのこと。

 水魔石は水を出すだけ、火魔石は火種を生むだけというシンプルな効果だが、生活における利便性は高い。

 リーゼのように水魔法も火魔法も使えるなら必要ないけどな。


「ちなみに二人一緒に入れるか?」

「広いから大丈夫だ、昔は妻と娘と一緒に……」


 真面目な性格だけど、意外とノリがいいよなコイツ(ラザファム)

 ちょっと生々しい話だけど。

 そんな話を聞いたらお前……


 チラッとリーゼに視線を送る。


「別々に入るに決まっているでしょうが!!」


 当然、リーゼに拒否される。

 そんなにチョロくはないか。


「ラザファムと入るつもりなんだけど……どうしてそんなこと言うんだ?」

「えっ、あっ?」


 焦ったり、困ったりするリーゼさんが僕は好きです。


 一応拒否されたパターンも用意してあるので、言い訳は万全だ。

 攻防一体の口撃だ。

 拒否されなかったら?

 そりゃあもう、わかるでしょう。


「男同士裸のつき合いをしようと思っていたんだけど、駄目なのか?」

「しょ、しょうがないわね……」


 何がしょうがないかわかんないけど、追求すまい。

 線引きは大事だ、やりすぎはよくない。

 ギリギリの所を攻めるのだ。

 


「お前、常時裸じゃないのか?」

「ちゃんと靴は履いてるだろうが!!」

 

 うるさい奴め。


 後、念のためリーゼの不安を払拭しておこう。


「覗きなんかしないから心配すんな」

「したら許さないから」

「あのな、俺がそんなことすると思うか? 住処に来るまでの三日間も何もしなかっただろう?」

「そう……ね」


 わかっていただけたようで何よりです。

 そんなコソコソ覗きのような男らしくない真似するわけないだろうに。


「ゆっくりお湯に浸かってこい、今日は特に疲れただろう」

「うん、ごめん疑っちゃって」

「いいさ、お湯が温くなりそうだと判断したら、浴室に燃料の火魔石を持って行くから」

「わかった、ありがと!」

「まかせとけ!」



 くくく、これで言質をとった、それ即ち一緒に浴室に入るお許しを得たということ。

 堂々とタイミング見計らって突入してやるぜ。



「…………ん?」

「…………ちっ!」


 不自然な点に気づいたリーゼが首を傾げる。

 感づいたか、人を疑うという罪の意識を与えておいて、再度言葉の罠を仕掛ける二段構えの計画だったんだが……


「ラザファムさん、お願いがあります」

「なんだ?」

「私が風呂に入っている間、このエロゴイルを見張っておいてください」

「わかった」


 





 






 リーゼに拒否された俺はラザファムと入浴中だ。

 予定通り、予定通り、予定通りだチクショウ。


 まぁあまり強引なことをすると彼女に不本意な呼び名で呼ばれてしまうからな、しょうがない。


 ラザファムの言うとおり、風呂場は広かった。

 浴槽だけでも二十平米はある。 

 


「背中流すぞ」

「ああ、頼む」


 ゴシゴシ、ゴシゴシ、ゴシゴシ、背中を布でゴシゴシする。

 シミ一つない綺麗な背中だ、家族を守ってきた男の背中だ。

 住処は汚いけど、身なりはきっちりしているようだな。

 体を洗って湯船に浸かる。


(き、気持ちいい、あったまるぅ~)


 ふぃ~と気が抜けた声が出てしまう。

 

「喜んでくれてよかった、ウチの自慢の風呂だからな」

「ああ、これはいいものだわ」




 俺が風呂を満喫していると、ラザファムが話しかけてくる。


「驚いたぞ」

「何だ突然? 主語を言ってくれ」

「リーゼ嬢のことだ」


 リーゼのこと? 何か驚くことでもあったっけ?


「あんなに表情豊かな彼女は初めて見た」

「そうなのか?」


 寧ろ表情豊かなイメージしかないんだけど。


「ああ既に聞いているかもしれないが、俺と彼女の兄、魔王クライフは友人でな、以前から彼女とは会う機会があったんだ」

「ふ~~ん」


 それはリーゼも言っていたな。


「クライフが三百年前に魔王になって、ここに就任挨拶に来てからは連絡をとっていないがな。それ以前は俺の方も家族を連れてクライフのいる都市メナルドまでよく遊びに行っていた」

「…………」

「その時にリーゼ嬢ともよく話したよ、優しく、おしとやかな娘だった」

「誰だそいつは?」


 …………ええ??

 俺が初めて見た時、バリアに蹴りを入れていたけど。

 バリアなら生き物じゃないからいいの……かな? 

 優しい部分は認めるけど、おしとやかと言われると……


「アルベルトは随分彼女に気に入られているな」

「んん?? 嫌いじゃないとは言われたけど、好かれるようなことした記憶はないぞ」


 思い返してみる。

 うん、やっぱりセクハラしかしてない気がする。

 好かれる思い出が全くない。

 一応さっきの戦闘で俺の勇姿に好感度が上がった可能性もなきにしもあらずだけど。


「彼女は基本、興味のない相手なら作り笑顔で対応する。ハイエルフのお姫様だぞ、それぐらいはお手の物だ。少なくとも以前はそうだった」

「つってもそれは三百年前の話だろ、その間に心境の変化があったかもしれない」

「そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない」

「…………まぁ俺も無理して否定する気もないが」

「どちらにせよ、だ。唯一の女ハイエルフである彼女には味方も多いが敵も多い、これからお前が彼女と一緒に旅する上で、少しでも彼女を大切に思うのであれば……この事は少し気にかけておいた方がいい」


 奥さんに裏切られた男とは思えない台詞だが、真面目な顔をしているし、一応心に留めておこう。

 大切な人を守る事に関しては一級品の男だからな。





 さて、体も温まったし、ぼちぼち風呂から出ますかね。


「俺は先にあがるぞ」

「アルベルト」

「なんだ? まだ何かあるのか?」

「改めて……言わせてくれ、俺を止めてくれてありがとう。もう少しで取り返しのつかない事になるところだった」

「……………………ああ」

 

 鼻を啜る音が聞こえる。

 風邪を引いたのだろう…………そう思うことにしよう。

 俺は後ろを振り返らず、まっすぐ浴室を出た。











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