雷龍ラザファム3
出会って即雷真龍にブレスをぶっ放された。
嫌な予感は大当たりだ。
手元にはお姫様だっこ状態のリーゼ。
まさか俺が王子様になる日が来るなんて。
確かに以前から俺の名前は王子様っぽいとは思っていたが
王子アルベルト、王女リーゼ字面だけなら悪くないな。
「あっ、ありがと……」
少し照れながら礼を言うリーゼ。
……いかんいかん。
馬鹿な事を考えている場合ではなかった。
そっとリーゼを地面に降ろしてやる。
『グルルルルゥァァァ!!』
吠えたける雷真龍、肌がビリビリするぜ。
強者特有のオーラみたいなのを感じるな
だけど……
口元からダラダラ涎垂らしちゃって。
真龍の気品の欠片もない。
元々そんなもんないのかもしれないけど。
「なぁリーゼ、一応確認させてくれ」
「なに?」
「温厚で真面目……だっけ? お前の雷真龍ラザファムに対する評価は」
「う、う……ん、そのはず、なんだけ、ど」
「じゃあ、アレは何だ?」
返答に困るリーゼ。
だよな、アレちょっとおかしいよ。
プルプルしてるし、汗かいてるし、普通の状態じゃない。
温厚で真面目どころか、あきらかに情緒不安定だ。
「っと」
雷真龍が十メートル以上の長い尻尾を使って横薙ぎで攻撃してくる。
跳躍して避けるも、二撃目、三撃目、四撃目と攻撃は続いていく。
とにかく尾撃の射程距離が長い。
動きが単調だからいいようなもんだけど。
時々ブレスもトンでくるし……
(どうしたもんかね……)
「逃げるわよ!!」
「あん?」
「いいから早く!!」
鬼気迫った表情をするリーゼ、始めて見たな。
撤退案に一時的に乗っかることにする。
リーゼと並走して大急ぎで山を駆け下りる。
「ごめん……」
「何が?」
「私が会いに行こうって言ったせいで……、こんな事になるとは思わなかった」
「…………」
元気なく下に俯くリーゼ、普段強気な彼女が珍しい。
彼女の態度がどれ程危機的状況にあるかを教えてくれる。
いかにハイエルフでも真龍相手では逃げるだけで精一杯のよう。
「命に代えてもあんただけは」
「馬鹿、気にすんな」
「で、でも……」
「提案したのはお前だが、それに乗っかったのは俺の意志だ、お前のせいじゃない」
ここでリーゼを責めるような屑野郎ではないつもりだ。
責めても何の得にもならないしな。
リーゼは真龍に追われるという危機的状況でも俺を置いて逃げようとしなかった。
なら俺も彼女を責めるようなマネはすまい。
「お前は悪くない、悪いのは後ろにいる情緒不安定ドラゴンだ」
後方からは雷真龍が木々をバキバキと倒しながら俺たちを追撃中。
困ったことにやる気満々、逃がすつもりはないようだ。
もうちょっと森林保護に気を使えよ。
後ろを見れば、いつの間にか雷真龍の周囲にバチバチ音を立てて浮かぶ、両手の指でも数えられない数の『雷弾』。
直径五十センチ程度の大きさの『雷弾』、九発はあるな。
……か、数えられたな。
会話中にもおかまいなしに、後ろからビュンビュン雷弾が飛んでくる。
魔力感知を後方五十メートルまで引き延ばし、飛んでくる雷弾の軌道を把握して回避していく。
リーゼも石盾を展開して背面を防御している。
雷弾は攻撃力は低いが、触れると一時的に麻痺状態に陥るから当たると面倒だ。
一度でも雷弾に触れれば、たちまち追いつかれるだろう。
まぁ威力は低いと言っても術者が雷真龍なので、相当な威力はあるのだが。
既に九発以上発射している筈だが、いまだ雷弾の雨は止まらない。
(これは逃げられそうにないぞ)
逃げられないならやるしかない。
戦う覚悟を決めよう。
「リーゼ、戦うぞ!! このままじゃ追いつかれる!!」
「ばっ馬鹿言わないで! 逃げるのよ!!」
「つったってお前、これは……」
「それでもどうにか逃げるのよ! 相手は最強龍!!戦っても勝ち目はゼロよ」
「いいから俺にまかせろ!!」
「ガーゴイルに何をまかせろって言うのよ!!」
そういやこいつは俺が戦っているのを見たことがないんだっけ?
結界の件も、魔力媒体を用いて作成したと誤解させたままだったし。
「あぶないっ!!」
おおぅ、俺の方にブレスが飛んできた。
雷弾と会話に意識を割いていたせいで若干反応が遅れる。
わかっているお姫様、まかせておけ。
馬鹿龍め、こんな単純な攻撃が高機動力を持つ俺にあたるわけ……あ!
(し……しまった、今の俺翼がないんだった)
急いでリーゼが石盾をブレスと俺の間に展開させるが、ブレスはそんなものおかまいなしだ、石を砕き、減速することなくこちらへ向かってくる。
「駄目!! 私の魔法じゃ止められっ! 避けてぇぇっ!!!」
ぐんぐん迫ってくるブレス。
もう既に手が届くところまで来ている。
駄目だ、間に合わない。
横から悲鳴が聞こえる。
すまないリーゼ!
これはかわせそうもない。
こんなにお前が心配してくれたのに。
「リーゼ、わりぃ」
「いやぁぁっ! アルベルトォ!!」
無情にもブレスが俺を強襲する。
あのブレスを受ければ、体は黒焦げとなり塵一つ残るまい。
普通の魔族ならな……
「ああぁぁぁっ!? ビリビリするぅぅぅ!!!」
やっぱ当たったよ!! 避けられなかったよ!!
「痛ぇなくそ龍が!!」
「……ふ……ふぇ?」
唖然とした表情のリーゼ。
どうした? また大きな口を空けて。
とても淑女のするべき顔ではない。
「…………」
「…………」
沈黙…………
「なんで…………無事、なのよ?」
俺の肩を両手でがっしりと掴んで、問いかけてくる。
ブレスが直撃した俺が生きているとは思いもしなかったのだろう。
よく見れば少し目に涙が浮かんでいる。
「あ? あれ位なら身体強化の魔法をかけておけば致命傷にはなんねえよ」
魔力を溜めに溜めた一撃必殺のブレスならやばいけど。
あんな連射仕様の小刻みブレスなんて屁でもない。
はい、嘘ですね……
言い過ぎました、痛いことは痛いです。
でもこの位の傷なら自己再生するから問題ない。
「馬鹿言わないで! そんなわけっ……傷が、ない?」
こうしている内にも翼をはためかせて猛スピードで接近中の雷真龍。
右腕を振り上げて、今度は直接攻撃か。
先ほどのブレスで仕留められなかったのが勘にさわったようだ。
馬鹿め、怒りパワーが増したのはこちらも同じだ。
「いいだろう……力比べというこうじゃないか、来い!!」
俺は両手をクロスさせ、受け止めてやるという意思表示をする。
するとどうだ、こちらに鋭い視線をくれた後、奴はニタっと笑った……気がした。
どうやら勝負に乗ってきたよう、いい度胸だ。
……む?
奴の右腕が黄金色に輝きだしたぞ
既に右腕に魔力をチャージ済のようだ、バチバチいってる。
(あ……あれ?)
よ、予想以上にやばめな雰囲気がプンプンしやがるぜ。
馬鹿みたいな魔力が集中しているせいで、奴の右腕の周囲の空間が揺らいでいる。
これは俺でもまともに受けたらまずいかもしれん。
どうする? どうする?
(ふん!! 何を悩んでいる!!)
敵が強かろうが、危機的状況だろうが関係ない!!
勝つために最善手を打ち続けるだけの話よ!!
そうやって俺はこれまで生きてきたのだから!!
「馬鹿龍め!! お腹が隙だらけだぜ!」
『ウグェェァッ!!』
予定変更のカウンターだ。
右腕を振り上げたせいでガラ空きのお腹に特性ボディブローをくれてやった。
たまらず声を上げ、猛烈な勢いで後方に吹っ飛ぶ雷真龍。
敵を前に隙を見せる方が悪いのだ。
卑怯かもしれないが、先手でブレス吐いてきたコイツに文句は言えまい。
ズゥゥゥン!!
巨木を巻き込んで背中から地面に倒れる雷真龍。
雷真龍との間に二十メートル以上距離が空いた。
よし! これで尻尾の射程外、ブレスや魔法もこの距離なら十分迎撃できる。
態勢を整える時間がとれた。
引き換えに今度は奴の怒り指数がグンと増したが気にしない。
『グルァァァアァァッ!!!』
怒りの咆哮を上げる雷真龍だが……
ダメージを負わせた俺の攻撃力を警戒したのか、今度は近づいてこない。
接近戦をやめて遠距離戦に切り替えた模様。
再び雷弾が次々に生み出されていく。
バチバチ、バチバチ、バチバチ、バチバチ、バチバチ、バチバチ、バチバチ、バチバチ、バチバチ、バチバチ、バチバチ、
お……多すぎじゃね、さっきまでは全力じゃなかったってことか。
空にバチバチ生み出される雷弾、今度は百発はあるな。
「あ……あぁぁぁ」
無数の雷弾を見て、崩れ落ちる絶望中のリーゼさん。
邪魔!! そこに座らないで……
「リーゼ! 後ろに下がってろ!!」
「きゃぁ!」
リーゼを後ろに放り投げる。
すまんお姫様! 今度はお姫様だっこできない。
凄まじく邪魔なんだ、巻き添えを喰らいますので。
さあ勝負はここからだ。
今度は真正面から打ち破ってやるぜ!!
こ、今度は嘘じゃないぞ。
俺は空に両手をかざす。
生まれろ息子達……
ボコボコ、ボコボコ、ボコボコ、ボコボコ、ボコボコ、ボコボコ、ボコボコ、ボコボコ、ボコボコ、ボコボコ、ボコボコ、
奴に負けじとボコボコ空に生み出される水弾が百発。
音は間抜けだが、威力は負けてない……と思う。
ボコボコとバチバチ、文字数も濁点数も互角だしいけるはずだ。
『ガァァァァアァ!!』
「いけぇ!!」
衝突する水弾と雷弾
衝突音に次ぐ衝突音、自分で仕掛けておいて耳がおかしくなりそうだ。
百発以上あった雷弾が一つ残らず相殺される。
空に浮かんだ弾が全て消え、訪れるは静寂の時間…………
「う……嘘」
雷真龍の魔法を同レベルの魔法で全て相殺するガーゴイル。
あり得ない光景を前に手をダランと下げ、目を見開いて呆然としているリーゼ。
だが雷弾を凌いでも雷真龍の攻撃は終わらない。
雷弾では効果がないと見て、再度のブレスチャージタイムに入る雷真龍、このまま溜めさせるわけにはいかない。
「まっ、まずっ!」
「大丈夫!!」
(不意打ちじゃなければどうとでもなるんだよ)
右手を雷真龍の方に向けて、重力魔法を発動させる。
『重力変容』
薄黒色の半透明の球体に雷真竜ラザファムの全身が包まれる。
『オゲェェェェ!!』
空に向かって苦悶の声をあげる雷真龍。
重力変容はレベル四の重量魔法。
指定範囲空間における重力の向きを秒間20回無作為に変化させる。
地味だが、行動阻害手段としては非常に有効な魔法だ。
高威力ブレスのような溜めが必要な攻撃は集中力を必要とするからだ。
全身が揺れる中でブレスのチャージ等できはしない。
『オオゲェェェッェェェェェェ!!』
効果はばつぐんだ。
なんか、雷真龍の口から見たくない液体がでてきた。
うぅわ~~ あれ食事の残りか?
あ、あんなに効果が抜群だとは思わなかったけど。
重力変容は妨害魔法で攻撃魔法ってわけじゃないんだが。
ま、まぁいいや、結果がよければ。
「な……何今の魔法?」
「重力魔法だよ」
「重力魔法ってあんた……、いや、もういいわ」
リーゼは初めて重力魔法を見たようだ。
無理もない、重力魔法の使い手は少ないからな。
俺も最初は使えなかったが、八百年生きたら使えるようになっていた。
「さてどうするか、さすがに倒すわけにもいかないんだろ」
「で……でも、このままだと、ゴブリンの集落まで被害がでるかもしれないわ」
今なら逃げるのも一つの手段だけど、山麓に狂ったようにブレスでもうたれたらたまらない。
『ヴヴウゥゥェ』
フラフラと立ち上がる、雷真龍ラザファム。
気のせいか、さっきより少しシャキッとしてないか?
なんで攻撃を受けてシャキッとするんだ?
さっきなんて嘔吐してたのに…………
(ん??)
待て待て。
フラフラして、汗をかいて、口から戻したらすっきりする?
この症状どっかで聞いたことが……
「おい、リーゼ」
「ん?」
「まさかとは思うんだけどさ」
「なに……」
まさか、本当にまさかとは思うんだけど。
でもこの症状って……
「なによ、早く言いなさいよ!」
すまん、俺もじらすつもりはないんだ。
だってさぁ、これはあまりにも
「この龍酔っぱらってんじゃないのか?」
「は? こんな時に何言って」
「フラフラして、汗をかいて、口から吐いたらすっきりする……俺にはこいつが酔っぱらいに思えてしょうがないんだが」
さっきのボディブローで警戒したのも、重力変容で体を揺らされて嘔吐したのも、酔いの状態なら堪らない攻撃だからだろうよ。
「…………」
「…………」
「……そんな、馬鹿な……だって雷真龍よ、最強龍なのよ……そんな、わけ」
「と、とりあえず試してみるか、酔いって状態治癒魔法で治るんだっけ?」
「治るわ、でも……」
回復魔法や治癒魔法は継続して対象にかけ続ける必要ある。
直接体に触れている必要はないが、リーゼ程の術者でも対象の1メートル以内に五秒は居ないと効果が望めない。
「とりあえず拘束するか」
「で、できるの?」
「ああ、こんな状態なら問題ない」
相手が真龍とはいえ、こんな酔っ払いに負けるわけにはいかない。
手の平を雷真龍に向けて再び魔法を展開させる。
雷真龍が嘔吐している間に魔法の準備も完了している。
唱えるはレベル六の土魔法『砂の牢獄』
雷真龍の周囲の土が隆起して、雷真龍の体に纏りつき、動きを止める。
暴れる雷真龍だが、相手は小粒の砂、払ってもすぐに纏りついていく。
単純な力押しでは拘束から逃れることはできない、やがて動きが止まる。
「今だリーゼ! これで奴は当分は身動きがとれないはず」
「う、うん」
リーゼが身動きのとれない雷真龍に近づいて状態治癒魔法を発動させる。
そして、無事に五秒が経過する。
リーゼに治癒魔法が完了したか確認をとった後、砂の牢獄を解除する。
「酔っぱらいドラゴンが、手間かけさせやがって」
「…………まさか本当に酔っぱらっているなんて」
治癒魔法が終わった後様子を見たら、雷真龍は眠っていた。
正常な状態に戻った……気がする。
人に苦労させておいていい気なもんだ。
さて……
「…………まだ俺の話が嘘だと思うか?」
否定の意味を込めてぶんぶん首を振るリーゼ。
まぁあれだけ派手にやれば、納得するわな。
さぁ、雷真龍をたたき起こして事情を聞くことにしよう。
ようやくまともに戦った主人公。
戦闘描写は書くのが難しいですね