プロローグ2(アルベルト始動)
魔王ランヌと魔王ベリアの戦争が終結して十分程経った頃……
精神支配が解け自由を得た俺は、魔王ランヌの城から少し離れた森の中を歩いていた。
戦争が終わったばかりだし、魔王ベリアの軍勢が城の近くにまだ大勢残っているからな。
面倒事に巻き込まれないためにも、少し離れた方がいいのだ。
城にはまだ火の手があがっているのが、森の中からでも空へと続く煙で確認できる。
現在、生き残った者たちで消火活動中なのだろう。
御苦労様です。
それにしても……
見慣れた光景のはずなのに、凄く新鮮に感じるな。
どこにでもある少し薄暗い森、だけど心が晴れると不思議といつもより明るく見える。
(自由って本当に素晴らしい)
雨で湿った土を足で踏みしめ、土の弾力を楽しむ。
全裸なので、土の感触がダイレクトに伝わってくる。
(うはぁ~、ぬっちゃ ぬっちゃするぜ、だが……悪くない。)
ウキウキ気分で歩く俺。
そうして200m程森の奥へ歩いただろうか……
「………だな」
「ああ、それが無難だと思う」
奥から話声が聞こえたので、声のする方に行ってみると
(ん? あいつらは?)
視界の先には灰色の集団。
そこには俺と同じ種族であるガーゴイル達が集まっていた。
皆真剣な顔だ。
何やら相談しているようだ。
まだ彼等はこちらに気づいていないようだ。
(と……、眺めていてもしょうがないな。)
我が種族ながら見てても楽しくもなんともないしな。
とりあえず話しかけてみようか。
これもいい機会、せっかく自由になったのだ。
これから先のことを考えると他の同族達とコネクションを持つのはとても重要だろう。
あと、ついでにコミュニケーション能力を磨こう。
俺は彼等の輪の中に入ろうと、勇気を出して話しかけてみる。
少しドキドキするな。でも相手は後輩だ、大丈夫、強くいこう。
いや……でもあんまり先輩風吹かすと、警戒されるかもしれないな。
ほどほど舐められない程度に気さくな感じでいこう。
……って、難しいか。
まぁでたとこ勝負で行きましょうか。
「よ、ようお前ら、何の相談をしてるんだ?」
少し噛んでしまった。
しょうがないよね、如何せん1500年間誰とも話してなかったんだから。
ガーゴイル達は俺の存在に気づき、こちらを一瞥する。
その後、何故か眉を顰めるガーゴイル達。
頑張って話しかけたのに、なんだその態度、失礼過ぎるだろう。
俺が古いタイプのガーゴイルだから警戒してんのか?
(なにもおかしな事は言ってないよな? 少し台詞を噛んでしまったが、話しかけただけでそんな嫌そうな顔をしなくてもいいだろうに……、ちょっとショックなんだけど。)
それにしてもこいつらほとんど見分けがつかないな。
皆、ほとんど同じ大きさ、同じ顔をしている。
眼前のガーゴイルは体長は二メートル程度で俺と同じくらいだが、体色は黒に近い灰色で、俺より一回り太い腕と足をしている。
細身で流線形、どちらかといえば白に近い灰色の俺と一緒だとその違いが際立つ。
黒鉱石をそのまま使ったように見える彼らの体は、全体的にゴツゴツとした印象を受ける。
少しの間沈黙が続くも、さすがに無視するのはまずいと思ったようで、リーダーらしいガーゴイルが返事をくれた。
「ああ、皆でここから一番近いファラの街まで一緒しようって話さ、魔王ランヌの隷属魔法が解けてせっかく自由になったんだし、このままここにいたってしょうがないからな」
ファラの街はここから南にあるランヌとは別の魔王が統治する地だ。
確かにいつまでもここにいるわけにもいかないしな。
街を目指すのは無難な選択肢だと思う。
「俺たちガーゴイルは空を飛べるからファラの街の途中にあるファラ山脈を越えるのも簡単だ。ただ、山脈周辺の空には魔物であるワイバーンがいる。遭遇する可能性は低いが、もしもの時を考えると集団で移動した方がいいと思ってな」
「なるほど、集団で行動することで移動のリスクを下げるわけか」
ガーゴイルは弱くはないが、ワイバーンは下位とはいえ竜だ。
普通のガーゴイルでは一対一では倒せないだろうし、逃げることすら困難だろう。
徒党を組めばもし遭遇しても逃げるなり戦うなり対処することができる。
よし! せっかくだし、ここはこいつらの計画に便乗させてもらおうか。
道中で楽ができるに越したことはないからな。
「と、いうことは道中の安全性を考えればガーゴイルが多ければ多い程いいな」
「まぁ……、普通に考えればそうだな」
リーダーと話をしていると、話を聞きつけたガーゴイル達が数人集まってきた。
俺同様便乗する計画らしい。
俺を含めたガーゴイルの数は総勢七人。
縁起のいい数字で幸先いいな、今後の我らに幸あらんことを……
「さて、もうこれ以上は待ってもこないだろうし、そろそろ出発するか」
「了解! 俺の方は問題ない、準備はいいかお前ら!」
俺がリーダ―の確認に応えると、ガーゴイル達が翼を広げて、飛行準備に入る。
少しずつ空へと浮上していくガーゴイル達……
ああ……、どれだけこの日を待ちわびたことか、同族の仲間を得てついに動き出す俺の物語。
そう思っていたのだが……
「おい……、離せ!」
「え?」
「「え?」じゃない! いいから離せ!」
未来に思いを馳せ、いい気分だったのに……
突如豹変して怖い顔になったガーゴイルリーダーが怒鳴りつけてきた。
リーダーのあまりの剣幕に驚いて、つい離してしまう。
リーダーの右足を……
俺が足を離すと再び浮上していくガーゴイルリーダー。
「じゃぁな」
そして奴はとんでもない言葉を俺に告げた。
え? 「じゃあな」……って……え?
なんで? なんで? なんで? なんでお別れの挨拶をするんだ?
こ、こいつら、まさか俺を仲間はずれに! 連れて行かないつもりじゃないだろうな! 悪い予感がするぞ……
「ちょっ! 待て待て! お願いだから待ってくれ! 何で置いてこうとしてるわけ? 冗談のつもりかもしれないけど、そういう仲間外れって、すごい傷つくんだけど!」
見捨てられないよう、慌ててジャンプしてガーゴイルリーダーの足を両手で掴もうとするも、今度は警戒していたようでサッと躱されてしまった。
リーダーに回避され、バランスを崩し、転倒してしまう。
無様な姿を晒した俺にガーゴイル達が空から語り掛けてくる。
「さっきから何言ってんだこいつ」
「なんで当然のように来るつもりでいるんだよ、信じられねえんだけど」
「悪いが、ガラクタを連れてく余裕はないんだよ」
出会って間もなくのガラクタ呼ばわり。
開始早々なんだ、この超アウェイ感は……
「なんだよ! なんなんだよ…何で俺だけ仲間はずれにすんだよ! 俺がお前らに何かしたか! お前らの誰か一人でも傷つけたか! 魔王が死んで……これから頑張ろうって……、そういう大事な時こそ皆で支えあうべきなのに、こんなの……いくらなんでもあんまりだぁ!」
俺が目に涙を浮かべ悲壮な顔で訴えるも、奴らは顔色一つ変えないままだ。
信じられない奴らだ、自由になり皆でこれから頑張ろうって時にこのあんまりな仕打ちは何だ!
「なんで! なんで……」
「…………」
「黙ってないで答えろよ! ちゃんと納得できるだけの理由があるんだろうな!」
「「「だってお前、翼ないから飛べないだろ」」」
同族の裏切りを受けショックを受けていた俺に更に無慈悲な一言が襲い掛かる
ええ、飛べませんね、それが何か?
どさくさ便乗作戦失敗か……
リーダーの足に摑まってそのまま連れてってもらうという完璧な計画が……
同情して助けてくれたっていいのに。
後日、連れてってもらった恩を返す可能性もあったのに。
まぁ、なんとなく置いて行かれる気がしてたよ、リーダーさん会話の時こっちの目を見ようとしなかったもんよ……
やはり勢いでごまかせなかったか。
まぁ、そんなわけでして。
結局俺は一人寂しく同族の旅立ちを見送った(捨てられたともいう)。
後ろから無防備な背中に魔法をぶちかまして、輝かしい未来を奪ってやろうかと思ったが、大人なので我慢することにした。
(マジでこれからどうしよう……)
先ほどまで高かったテンションがちょっとだけ落ち込んだ俺だった。
いきなり仲間に捨てられてますが
主人公のちょっとアレな性格上、あんまり鬱展開にはならないです