エピローグ
****クライフ視点*****
ベリアとアルベルトの騒動が起きた数日後。
俺は久しぶりに自分の城へと戻ってくることができた。
ようやく、ようやく……一息つくことができた。
「なるほど、それはまた……本当に大変だったな」
「ああ」
俺は三百年ぶりに旧友と再会し、旧交を温める。
お互い、ここ数ヶ月のことだけでも話す話題は尽きない。
「ラザファム……街の留守を守ってくれて感謝する」
「どうってことないさ、リーゼ嬢には迷惑を掛けたからな。これぐらいはさせてもわないと……それに、正直何も起きなくてやることがなかったくらいだ」
つい先日、アルベルトが変異種を倒したばかりだ。
あれがもし、ラボラスの策略だったとするなら、向こうもすぐ次の手を打つ余力はないのかもしれない。
「そのおかげで、久しぶりにのんびりと娘と過ごす時間ができたがな」
「もう……お父さんてば」
「ったく、一応、俺もいるんだがな」
ルミナリアの頭に優しく手を置くラザファム。
マリーゼルの暴れていたという話を聞いて心配していたが、俺の知っているラザファムの姿と変わりない。
少し親馬鹿ぶりが増したような気もするが……。
「しかし結局、アルベルトがリドムドーラに向かったことはよかったのか? 悪かったのか」
「どうだろうな……」
ラザファムの言葉に先日までの騒動を思い起こす。
騒動の後、俺はベリアとじっくり話し合って同盟の話も元通りになった。
ベリアの協力を取り付けることができた。
これでナゼンハイムたちに対する緊急時の備えもできる。
ベリアは幽閉した俺に対する負い目もあってか、初期案よりもこちらに有利な話もいくつか提案してくれた。
対して、アルベルトとベリアの関係は非常にややこしいことになった。
ベリアの呪いは悪化し、アルベルトはベリアからの恨みを深めた。
一応どうにか停戦協定は結べたようだが、今後、あの二人が揉めないことをとにかく祈る。
「アルベルトの背中の呪い、解呪は当分厳しいかもしれないな」
ラザファムの言葉に俺たちは苦笑する。
結果としてみれば、一番得したのは幽閉され彼らの騒動に巻き込まれた俺なのかもしれない。
「それでクライフ様、リーゼお姉ちゃんは今」
「マリーゼルは向こうに残って、今、アルベルトのサポートをしているはずだ」
「確かに、向こうでアルベルトさん一人じゃ心細いですしね。お姉ちゃんがいれば……」
「いや、というよりも……」
アルベルトとマリーゼルの事情というより、あれは……。
俺はあの時のことを思い出す。
「それじゃあベリア、メナルドの記念祭の時に、メナルドでまた会おう」
「ええ……どうにか時間を作って行くわ」
一度は中断され、長きに渡った話し合いがようやく終わる。
俺、ベリア、コルル、キヌレ、そしてマリーゼル。
以前の参加メンバーにマリーゼルを加えた形だ。
アルベルトはこの時間も、錬金術師マーレルと解呪法を模索している。
「ベリア様、私たちも近いうちに一度、アスタニアに戻らないと……随分と長い間、留守にしてしまいましたし」
「そう、ね」
長期間街を留守にしていたのは俺だけじゃない、ベリアもだ。
後日、マーレルの調査でリドムドーラ近郊の温泉に少しだけ呪いの遅延効果があることが判明した。
そのため、ベリアはリドムドーラを活動本拠地にするそうだ。
だがその準備のため、一度はアスタニアに戻らないといけないそうだ。
「……っちゃ、やです」
「コルル?」
コルルが小さな声をだす。
「いっちゃ……いやです」
「コルル、大丈夫よ……全速で行って用事を片付けて戻ってくるから、すぐ会えるから……」
縋り付くような目でベリアを見るコルル。
「ガーゴイルを置いていっちゃ嫌あああっっ! 私をアイツと二人にしないでくださいいいっ!」
「え? そっち?」
まさかの魔王コルルの本気泣き。
アルベルトはコルルに相当なトラウマを与えたらしい。
「でも確かに、ガーゴイルはどうしよう? 飛べないから無理矢理運んでいくしかないのだけど、もの凄くじゃ……コホン、それだと戻るのが遅くなりそうね」
「まぁ……アルベルトも、話が落ち着いたこのタイミングで、おかしな真似はしない思うが……」
ここ数日は大人しく解呪法模索に協力しているようだし。
アイツは騒動を起こすが、戦闘狂というわけではない。
まぁ実際に人質になったコルルとしては不安でたまらないのだろう。
「兄様、わたし……街に残っていいですか?」
「マリーゼル?」
マリーゼルの口から予期しない台詞。
「それなら……少しは安心できるかしらね。ガーゴイルは危険な敵地に乗り込むぐらい貴方のことを大切にしているみたいだし、見ている限り貴方の言うことならそれなりに聞いてくれそう」
「マリーちゃん、お願いっ! 本当にお願いねっ! アイツをお願いっ!」
コルルがマリーゼルに懇願するように言う。
「いいですか、兄様?」
「まぁ、それは構わないが……」
とりあえず大きなヤマは越えた。
あとは街に戻っても、俺一人でもどうにかできるはずだ。
「その、今回の騒動の件は私にも色々と責任があるというか、ちょっとは役に立ちたいなぁという気持ちもあって」
「……そうか」
「大丈夫っ! 役に立ってないのは私もだからっ! 仲間だよっ! これからよろしくねっ!」
「あ、ははは……なか、ま」
マリーゼルの手を掴んでぶんぶんと振るコルル。
マリーゼルがなんとも言えない顔をしていた。
俺は話を終える。
「……そんなことがあったのですか」
「す、少しだけコルルに同情するな。自業自得な面はあるとはいえ……」
ラザファムとルミナリアが苦い顔をする。
「ま、大変だったみたいだが、兄ちゃんらしくてなによりだ! このぶんなら向こうでも元気にやれるだろ! ……ね、クライフ様?」
「な、なぁ……そろそろ聞いていいだろうか?」
何故、俺の城に当然のようにサハギンがいるんだ?
同時刻、リドムドーラの城の一室。
「アルベルトさん! アルベルトさん!」
「お、おう……」
「今、ぼ~っとしていたでしょう! キチンとこの装置に魔力を流してくださいよ!」
呪魔法の専門的な知識がないから、マーレルの指示通りにとにかく動く。
マーレルと呪い解除の研究用に設けられた城の一室で、朝起きてから夜まで、ここ数日はずっとこんな感じだ。
「まったく。まさか、あなたがレオナと組んでいたなんて……」
俺と共謀して、ベリアに呪いをかけたファラの街の錬金術師のレオナ。
ここにいるマーレルは彼女の昔の知り合いだったらしい。
ほんと、色んなところで縁があるな。
「まずはレオナに会わないと、話を聞いて二人の呪魔法の魔法式を徹底的に解析して、どうにか綻びを見つけ出す!」
ベリアを助けるために、やる気満々のマーレル。
まったく、どうしてこうなったのか?
どうしてすんなり物事は動かないのか?
一体、どこで道を間違えたのか?
もしランヌの城で、精神支配が解けてすぐベリアに会っていたらもう翼は戻っていたのかな?
どうするのが正解だったのか?
「アルベルトさん。今日も一日付き合ってもらいますからね。ベリア様は当然として、貴方の未来もかかっていると思ってください」
「はいはい、わかってるよ」
(ま、それがわかりゃ苦労しねえが……)
だから人生は面白い……などというつもりはねえけど。
俺とベリアがこの先がどうなるのか?
それは知らんが……まだまだ退屈だけはしなそうである。
(そのガーゴイルは地上でも危険です 第一部 完)
これでリドムドーラ編終了となります。
ベリアとの再会が終わり話の一段落です。
二部として、翼を取り戻すまでの話も書いてみたいとは思っているんですが、構想が練れておらず、更新時期などは未定です。
のんびりでも書いていけたらと思っていますので気長に待っていただけたら幸いです。
予定以上に長くなりましたが、ここまで読んでくれてありがとうございます。