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魔王10

 

 ベリアがキヌレとコルルに、自分の呪いを説明しやすいように。

 俺たちはベリアの気持ちに配慮して会議室を出る。


「な、なぁアルベルト……本当にベリアに何をしたんだ?」


「本当に聞きたいなら、教えるけど自己責任な」


「いや……やはり結構だ」


「…………はぁ」


 リーゼは壁に寄りかかって俯き、大きくため息を吐いていた。

 部屋の中から「個性っ、個性ですよっ!」とか、コルルの大きな声が聞こえてくる。

 五分後、説明が終わったとのことで俺たちは部屋に戻る。

 白い頬を真っ赤にしているベリア。どうやら無事説明できたらしい。



「「「…………」」」


 なんというか、俺に対する女性陣の視線が強くなった気がする。


「さて……情報の共有が終わったところで中断していた呪いの話の再開といこう」


「ね、ねぇアルベルト」


「なんだリーゼ?」


「あんた呪いの解き方はさすがに覚えているわよね。まさかと思うけど、ここまできて忘れてないわよね」


 リーゼが念を押すように聞いてくる。


「当然だ……馬鹿にしてんのか、そんな大事なこと忘れるわけねえだろ、じゃなきゃ交渉にならないだろうが」


「あ、あれだけ前科があって、よくもまぁ……そんな堂々と発言ができるわ」


 俺はリーゼに答える。

 呪いをかけた時にレオナに解呪の方法は聞いてある。


「二人……随分仲がいいのね。よくその男と一緒にいられるわね」


「あはは……なんというか、気づくとこいつのペースに慣れました」


 ベリアの発言に苦笑いするリーゼ。


「ふぅ……ガーゴイル」


「なんだ?」


 一変して真剣な口調となるベリア。


「じっくり考えたけど、私が森で話したことに変更はない。別に今回の件、貴様が一方的に悪いというつもりはない。でも……貴様はやはり危険過ぎる、脅迫されようが、呪いは解くことはできない」


「……そうか」


 そこは絶対に譲れないってわけか。


「少なくとも、今はね」


「今は?」


「ええ……だから、ここからは色々考えたうえで、私からの提案」


 どうやら、ベリアの話はまだ続くようだ。


「当分の間、私たちと共に行動する気はある?」


「え?」


「ガーゴイル、いや……アルベルト、時間をかけて貴様がどんな存在なのか見極めさせて欲しい。その結果呪いを解くかどうか判断させて欲しい」


「……」


「一緒に行動すると言っても何かさせるつもりはない。ただ目の届く場所にいればそれでいい。ここを離れると何をするか不安だし、居場所がはっきりしているだけでも私たちにはメリットがある」


 俺は考える。


 ベリアの提案……なかなか悪くはない気がする。

 あれだけ暴れておきながらも、停戦に持ち込めた。

 そして……呪いを解いてもらえる可能性も残った。


 先ほどリーゼに、俺とよく一緒に行動できるわね……といっておきながら、今の提案。

 少なくとも俺と向き合おうとしてくれているのは伝わってくる。


「だがお前の方の呪いはどうする? 俺と違ってタイムリミットは遠くないだろ、そんなに早く決断できるのか?」


「だ、だから……その」


 そこで、ベリアが口ごもる。



「ねぇアルベルト……例の呪い……と、解いてあげたら?」


「っ!」


 リーゼの言葉に一瞬、ベリアの目が光った気がする。


「……う~ん」


 どうしようか?

 まぁ俺のベリアへの呪いは殆ど嫌がらせみたいなもんだしな。

 解いても俺に大きなデメリットがあるわけではない。

 焦らしてもベリアのヘイトが蓄積されるだけだしな。


 よし……決めた。


「……わかったよ。解呪しようじゃないか」


「ほ、本当に、いいのか」


「ああ」


「本当に、本当に、ほんと~~~に、いいのか?」


「しつこいな、男に二言はない」


 前払いってやつだ、俺の器の広さってやつを知ってもらう。

 ここで解呪すれば心証もよくなるだろう。

 あまり彼女の精神を追い詰めすぎると、先ほどみたいな大喧嘩に発展しかねないのも事実。


「なるほど、落ち着いて話してみればきちんとわかる男じゃない」


 にこり、とベリアが微笑む。


 俺、彼女の笑顔を初めて見た気がする。

 常に眉間に皺が寄っている印象だったからな……まぁ経緯を考えると当然なんだが。


「まぁ、お互い出会い方がちょっと特殊過ぎたからな。普通にキチンと向き合えば、別の出会い方をしていれば違ったのかもしれない」


「……そうかもしれない、わね」


 ちょっとベリアの調子が良すぎる気もするけどな。

 それだけ、大きな悩みだったのかもしれない。

 これなら、そんなに時間もかからず、いい関係を築くことができるかもしれない。


「それじゃあ早速ここで解呪しちまうか。俺の前に立ってくれ、ベリア」


「わかったわ!」


 解呪の方法はいたって簡単だ。

 相手の体に触れた状態で、呪いが解けることを願えばいい。

 ちなみに解呪されると、相手の体が淡く光りだすそうだ。

 脱毛の呪い、かけるのは手間がかかったが解くのは簡単のようだ。

 他の呪いの解呪方法は知らないけど。


 若干緊張気味の顔のベリア、ついにこの瞬間が来たとばかりだ。

 ここにいる皆がおれとベリアに注目している。


 さぁ……いくぞ。



(俺の脱毛の呪いよ……解けろ!!)


 ベリアの細い肩に手を乗せ……念じる。


 呪いよ解けろ! 呪いよ解けろ! 呪いよ解けろ! 


 ひたすら念じる。とにかく念じる。


 だが……。



「「「「「「…………」」」」」」



 どれだけ念じても、なかなかベリアの体が光らない。


(ど、どうなってんだ? 解きたいという気持ちが足りないのか?)


「どうしたの? アルベルト」


「い、いや……」


 リーゼがその様子を見て、訝しげな顔をする。

 俺は再チャレンジしてみる。 

 いいから解けろっつってんだろ! 周囲の視線がぼちぼち痛いんだよ!

 だが、ベリアの身体は光らない。


「……ねぇ、どういうこと? 早く解呪して欲しいのだけど」


 待っても身体は光らない。

 ベリアもさすがにおかしいと思ったようだ。


「その……なんつうか、一生懸命念じてるんだけど、何故か解けないんだよ」


「……なんですって」


「わ、わけが……わかんねえ」


 ベリアの表情が曇る。

 そのあと、十分ほど頑張ってみたが結果は変わらず。


「お、おかしい、おかしいぞ……あの時、教えてもらった手順に間違いはないはずなのに……本気だ! 俺は本気でやってるんだっ!」


「その顔を見るに……嘘ではないみたいね」


 普段ふざけることもあるが、ここで焦らすような男ではない。

 一時は穏やかになった空気がまた不穏な感じに。


 そんな時、コンコンと部屋の扉のノック音が聞こえた。


「……ベリア様」


「誰、今大事なところだから後で……って」


 少し苛立たしげな声を出すベリア。

 そこにまた一人、俺の知らない吸血鬼の女性が現れた。


「マーレル!」


「遅くなりまして申し訳ありません、アスタニアより急ぎ参りました」


「いえ、いいところに来てくれたわ!」


 マーレルと呼ばれた彼女はベリアお抱えの錬金術師らしい。

 呪いに詳しいそうで、ベリアの髪の毛に反応する呪い探知レーダーを作った人物だとか。


「来て早速で悪いけど、マーレルに急ぎ聞きたいことがあるの……」


 ベリアがマーレルに俺が探していた呪魔法の術者の犯人であること。

 だが、俺が今ベリアの呪いを解呪しようと試みたのに失敗したことを伝える。


「この数十日間で、そのような事態になっているとは……」


 一通り、最後まで話を聞いたマーレル。

 数秒の沈黙のあと……口を開く。


「聞く限り、ガーゴイルの解呪の手順は間違えていないはずです」


「そ、そう……でも、じゃあどうして?」


「ちょっと待ってください。考えを整理しますので……」


 ぶつぶつ呟くマーレル。

 それから何かに気づいた様子を見せる。


「ベリア様とガーゴイルの間で呪いのやり取りがあった。ということは……まさか」


「な、なにかわかったの?」


「は、はい。詳しくは調べてみない限り断言はできませんが推測はできます」


 俺たちはマーレルの言葉の続きを待つ。


「お二方に一つお聞きしたいのですが……」


「なんだ?」


「なにかしら?」


「こう、なんと言えばいいんでしょうか、妙な感覚を覚えませんでしたか?」


 妙な感覚? 随分ふんわりした表現だなオイ。 


「こう何か、糸が、意志が繋がる感覚というか……そうですね、例えば離れていても、目に見えなくても不思議とお互いの居場所がなんとなくわかったり……」


「「…………あった」」


 俺とベリアが顔を見合わせる。

 街で逃走中、あっさりとベリアに見つかったし、地中に逃げても何故かベリアが追跡してきたし……あの時の感覚のことか。


「今回のケース、二本の糸を思い浮かべてください」


「「い、糸?」」


 二人の声がハモる。


「呪いが糸で、一本ずつ自分の糸を持っていると考えてください。その糸は片方が自分の手元に、もう片方が相手の身体に繋がっています」


「お、おう」


「結論から言うとお互いに繋げた二つの糸が絡まった状態なのです」


 え~と、つまりどういうこと?


「呪いは感情によってその効力が大きく左右されます。怒り、憎しみといった念はその糸を太く長い強固なものへと変えます。反対に、相手への憎しみが薄れれば糸は緩んでいきます。一本の糸なら、自然と解けますし何の問題もなかったのですが」


「「……」」


「先ほどお二人は激闘を繰り広げたとのことです。激しい感情の変化があったはずです。きっと、やり取りの間にお互いに張った二本の呪いの糸が絡まり、こんがらがって解呪できなくなってしまったのではないかと……このケースの場合、先ほど述べたようにお互いの場所がなんとなく理解できるという事例があります。二つの糸が強固に繋がったせいで……」


 てことは……待てよ。

 今のままだと、俺はベリアからは絶対に逃げられないのか。


 さ……最悪なんだけど。


「なぁ、もし俺の方の呪いが完了したら糸はどうなる?」


「その場合は糸が消えますので、ベリア様があなたに掛けた呪いを解くことはできるはずです」


「なるほど……ならもう少し我慢すればいいのか、よかった」


「よ、よかったじゃない! ふざけるんじゃないわよ!」


 冗談じゃないと、大きく叫ぶベリア。


「それ……わ、私はどうなるのよっ!」


「ど、どうったって……お、俺に言われてもな」


 俺の身体を両手で前後に激しく揺らすベリア。

 揺らされて気持ち悪くなるほどに。


「マーレル! こ、ここから解呪する方法はっ?」


「それが、ここから解呪に成功したという前例は……」


「そ、そんなっ……」


 無慈悲なマーレルの言葉。

 力が抜け、ガックリとベリアが床に膝をつく。

 さすがに居たたまれなくなってきた。



(こ、これ……どうしよう)


 ベリアたちと一緒にいたとして、俺の呪い解いてくれるかな?

 なんか無理な気がしてきた。


「あ、諦めちゃ駄目ですよっ、ベリア様!」


「まだ時間はあります!」


「どんなに困難でも私が解呪法を必ず見つけてみせます!」


「…………」


 虚空を見つめ、放心状態のベリア。

 コルル、キヌレ、マーレルの励ましの声も届かない。

 ベリアに希望を持たせて落とすとか最悪なことしちまった。


 すべてが裏目に働いているというか、なんというか。

 もうレベル七回復魔法『全治』が使える術者を探す方向にシフトした方がいいんじゃ……。

 ベリアと違い俺にはあと寿命は八千年あるしな。


「その……俺、お前の提案だけどやっぱり受け……」


「に、逃がさないわよ! 絶対に! どこに逃げても、この手で引きずって何度でも戻して縛り付けてやるわ! 無理矢理でも貴様に協力してもらう!」


 あ、これ絶対逃げられませんね。


 下手なこと考えないほうがよさそうだ。

 つうか、どこ行っても俺の居場所完全にばれるし。


「け、結局こうなるのか……」


「せ、せっかくうまくいきそうな感じだったのにぃ……どうして、なんでいつもいつも……もおおおおおおおおぉっ!」


 額を押さえるクライフ。

 リーゼの叫び声が会議室に木霊する。


 今回の騒動はこうして色んな爪痕を残して終結した。


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