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そのガーゴイルは地上でも危険です ~翼を失くした最強ガーゴイルの放浪記~   作者: 大地の怒り
リドムドーラの街編

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魔王8

今回の話は一つだけ、大分昔ですが読者様からいただいた小ネタが面白かったので使わせていただいております。

 ベリアがアルベルトの言伝を聞き、指定された森へと向かっている頃。

 リーゼとキヌレの二人は。

 

「ど、どうなっているの? さっきから夜になったり、夕方になったり……月が出たり」


「おそらく、月はベリア様が作り出した『血染めの月』です」


「血染めの月?」


 キヌレの腕に抱えられながら、リーゼが尋ねる。


「はい、吸血鬼真祖だけが使える超強力な行動阻害系スキルです。おそらくガーゴイルを確実に逃がさないようにするために」


「でも……二人とも既にいないし、月も消えたわ」


 戦闘音を聞きつけ、二人は戦いが発生したと思われる場所に向かった。

 たどり着いたそこは広範囲に渡り、戦いの跡が色濃く残っていた。

 建物や地面がドロドロに溶解しており、所々赤い地面から、離れた空まで熱波が伝わってくる。

 二人の攻防で一帯に充満した濃密な魔力に、少し気分が悪くなるリーゼ。


「も、もしかしたら、既に戦いは終わって……」


「たぶん、可能性は低いと思うわ」


 酷い惨状……それでも、あの二人が戦ったにしては被害が少ない。

 それに、さっきの月を飲み込んだ黒い重力の渦はアルベルトの魔法だと思う。

 大体、相手が魔王ベリアとはいえ、あのアルベルトが捕縛されて一方的にやられる展開なんて想像できない。

 きっとまだどこかにいるはず。


(どうにか二人がぶつかるより、先に見つけたかったんだけど……)


 今はとにかく動くしかない。

 懸命に捜索を続けていると……配下のサキュバスの一人から、アルベルトたちに関する情報を得る。


「それで……侵入者に呼び出されて、ベリア様は一人で東の森へ」


 サキュバスに事情を詳しく聞く。

 東の森、私たちがこの街に来た時に通った森だ。

 誘拐されたコルルについても話を聞けた。

 コルルはベリアが奪い返し気絶はしているけど無事らしい。

 これなら、まだ二人の戦いを止めることはできるかもしれない。


「急ぎましょう!」


「ええっ!」






 リドムドーラ郊外にある東の森。


「……さて、どうなるか」


 吹きすさぶ強風が木々を揺らし、空を枯れ葉が舞う。

 これから始まるのは世界の歴史が変わる話……というのは少し言い過ぎかもしれないが、とにかく重大な話だ。

 俺は手頃なサイズの椅子を土魔法で二つ作成し、対談の準備を万全にしてベリアを待つ。

 

「……来たか」

 

 上空からベリアの魔力反応、指定した通り一人のようだ。

 姿が視認できる距離まで来たので、俺は椅子から立ち上がる。


「待っていたぞ、ベリア」


「……」


 俺は空のベリアに話しかける。


「さぁ、そこにもう一つ椅子を用意したから座ってくれ。いつまでも見下ろしてないでさ、お前のためにわざわざ作ったんだ。戦いで疲れたろう……地上に降りてゆっくり羽を休めるといい」

 

 戦った本人が言うセリフではない気もするが、まぁいい。

 自分に都合の悪いことを考えるのは精神衛生上よくない。

 俺は手を広げ歓迎の意志を示す。

 

「…………」

 

 だが、俺の声にベリアは答えない。

 空でずっと沈黙を保ったまま。

 強風で俺の声が彼女に届かなかったのか?

 

「おい、聞こえなかったのか……ほら、そこに座れよ」


「……」


「不満か? まぁこんな場所じゃ茶も出せないし、質素な椅子だがそこは我慢してくれると嬉しいな」

 

 風で動く髪に隠れてベリアの表情がよく見えない。

 黙ってないで、なんか言って欲しいんだけど。

 無言だとちょっと不安になるじゃんかよ。


「そう、よ……」


「なに?」


「考えてみればそんなに難しいことじゃなかった。私に呪いをかけられる実力者で、私に直近で恨みを持っていて……なぜもっと早く気づかなったのか」

 

 ベリアが俯いていた顔をあげる。


「よくもふざけた真似をしてくれたなっ! ガーゴイル!」


「うおっ!」

 

 お怒りのベリア。

 夜闇の中、ベリアの両目が爛々と赤く光っている。

 確か吸血鬼は感情が高ぶると、目が赤く光るんだっけ?

 キッと鋭い視線で俺を睨みつけてくる。


 ベリア……すげえ怒ってるな。

 これ、脱毛の呪いが想像以上に精神的ダメージを与えていたパターンか?

 

「え~と、あの……は、話を」


「お、お前のせいで、わたしがどれだけ……うぅ」


「……」

 

 つうか、いつのまにかガーゴイルだってバレてるし。

 

「し、心配すんな……ほら、まだお前がパ〇パン予備軍だって言いふらしたりはしてないから、まだ間に合うから」


「っ!」

 

 台詞の直後、俺の隣からドゴンと大きな衝撃音。

 せっかく用意した椅子がベリアの火球で粉々に粉砕される。

 

(あ、これまずいぞ)

 

 話し合いは無用、貴様は絶対に殺す。

 パラパラと舞い上がる土が貴様の数秒後の未来だと言わんばかりだ。

 

「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと話せ!」


「あ、はい」

 

 でも話を聞いてくれるんかい。

 ベリアはギリギリのところで理性で抑え込んでいる感じ。

 でも、どうにか話し合いに入ることはできた。第一段階はクリアだ。



「一応名乗っておこうか、二か月前は俺が精神支配を受けてる状態だったから、こうして直接会話したことはなかったしな。俺はガーゴイルのアルベルトという、まぁ……俺の名前なんて忘れてくれてもかまわないけど」


「誰が、貴様の名前を忘れるか」

 

 おもいっきり顔を顰めてベリアが言う。

 

「戦いが終わって、ランヌの城から姿を消した貴様を配下たちに探させた。だけど詳細な足取りは掴めなかった。どこで何をしているのか気になっていたけど、まさか単身この城に乗り込んでくるとは、こんなに早く再会するなんて」


「そうだな……俺も思ってなかったよ」

 

 背中の呪いの件がなければ、こうして会うこともなかった。

 

「ここまで色々あったが、最初にはっきりさせとくぞ。何度も言ったが戦いたくないというのは俺の紛れもない本心だ」


「……」


「俺はお前の敵じゃないつもりだ。だけど、お前がその気なら俺も全力で迎え撃つしかない。だが……それは俺にとって好ましい未来じゃない。とにかく、これでも俺は平和的解決を望んでいるんだ」


「……平和的解決、ね」


「ああ」

 

 当然だが、俺の言葉に半信半疑のベリア。


「お前は街に被害が及ばないよう、力をセーブして戦っていたがそれは俺も同じだ。言いたいことはわかるよな?」


「…………」

 

 こうして戦うのも二回目だ。お互い力量は十分承知している。

 ピンポイントで対象を燃やす環境に優しい炎攻撃だったり、行動阻害系の攻撃だったりと。

 ベリアも俺も派手な広範囲攻撃魔法をほとんど使っちゃいない。

 コルルの時のような異空間ではなく、街中でドンパチすれば住民に大量の死者がでる。

 それを配慮してわざわざ場所まで移したんだ。

 俺の方も街にいる知り合いが巻き込まれるかもしれないって懸念があったからだけど。

 

「…………」


 考え込むベリア。

 俺の思考を探るように、鋭い視線が俺を射抜く。

 

「ベリア、こうして対峙している今も、俺はお前を恨んでいるわけじゃない」


「なに?」

 

 予想外に思ったのか、ベリアの目が大きく開く。

 

「まったく思うところがないわけじゃねえがな。お前のせいで翼を失い、あれからかなり苦労した。だが、だからこそ得ることのできた繋がりもあったしな」

 

 旅の道中、気の合う奴らと出会うことができた。

 俺に翼があればゴブリンのダイダリアンや、スライムのバウムと会うこともなかった。

 ゴブリンの集落に行くこともなくリーゼと会うこともなかった。


「結果はどうあれランヌの精神支配から解放してくれたのはお前だベリア、お前が来なかったら、俺はいつまでランヌに隷属していたかわからない。その点は割と本気で感謝している」

 

 まぁ、背中の呪いが発覚した時は衝動的に復讐したけどな。

 それはそれだ……済んだこと。


「……」


 ベリアは真剣に俺の話の真偽について考えている。

 

「一つ……聞く」


「なんだ?」


「私に恨みを持っていない、戦いを望んでいないと言いながらも、貴様は私が城に戻った時コルルに襲いかかっていた。かなり攻撃的な雰囲気だった。ただ彼女を捕まえればいいという風には見えなかった……それはどう説明するつもり?」


「あれはコルルに誘惑(テンプテーション)をかけられてな。魅了されておかしくなっていたんだ」


「それは……さすがに信じられない。貴様の実力は紛れもなくイモータルフォークラス。こう言ってはコルルに悪いけど実力差を考えれば魅了にかかるわけがない」

 

 俺の発言を信じてくれないベリア。

 

「貴様が発情期のオークのように興奮状態だったというなら話は別だけど」


「いや……そうだけど」


「ここに来て、ふざけるのも大概にしろ」

 

 彼女の顔に怒気が浮かぶ。マジなんだけど。

 できれば誤解を解きたいところなんだが。

 いかんせん、今はそれを証明する証拠がない。

 コルルも気絶しているしな。


 まぁ……いい、これについては一先ず置いておこう。

 今の時点ではどうしようもない。


「なるほど……言い分はわかった。納得はしていないけど」

 

 俺の話を振り返り、考えるベリア。


 さて……交渉はここからだ。

 

「本題に移って単刀直入に言おう。俺がお前に会いたかったのは翼の呪い『血の誓い』を解いてほしかったからだ。術者のお前なら解けるんだろ?」


「解けるけど、絶対無理」


「い、いや……もう少し考えろよ。駆け引きしようぜ」


「解かない、解けるわけがない、危険過ぎる……あれだけ城で暴れて、私が留守にしたわずか数時間で魔王の一人を完全無力化するような輩を強化するような真似はできない」

 

 はっきりと一刀両断される。

 まぁ予想通りではあるけどな。

 

「城に侵入して、コルルを捕まえたのは人質にして呪いの解除を交渉するため?」


「あれは結果的にそういう流れになっただけだ。コルルに対しても俺から積極的に仕掛けたわけじゃないぞ」


 それに、ベリアの発言には間違いがある。

 侵入における第一目標はクライフとリーゼに会うことだった。

 呪いについては、その次程度に考えていた。

 実際には俺、クライフ、ベリア、リーゼ、コルル……色々と各自の思惑、行動がこんがらがった結果、今みたいな状況になってしまったわけだが、情報の不十分なベリアが理解できるわけがないか。

 まぁ、今それをベリアに伝えるとまたややこしい話になるので、まずはお互いの直接的な問題である呪いの件からだ。


 ベリアの反応を見て、俺の知るすべてを話すタイミングを窺う。

 

「暴れたら危険人物と警戒されて今みたいな状況になるとわかっていた……だから最初は友好的に事を進めたかった」


「……」

 

 だが、現実はどうにも思い描いた通りにいかない。

 大分強引な手段をとることになっちまった。

 

「お前が俺の呪いを解くのなら、俺もお前にかけた呪いを解こうじゃないか」


「……まさかと思うけど」

 

 呪いの話をした瞬間、ベリアの視線が鋭さを増した。

 

「こ、交換条件にするために、私に……呪いをかけた?」


「そうだけど、それ以外になにがあるってんだ?」

 

 ベリアが目を大きく開き、口をあける。

 

「貴様……大馬鹿なんじゃないのっ!」


「うるせえ! 実際、効果てきめんだったみたいじゃねえかっ!」

 

 ありえない、と声を上げるベリア。

 

「ま、まさか、それで本気で私が頷くと思っているの?」


「勿論だとも」


 とりあえず、強気な感じでベリアに言ってみる。

 これでベリアが頷くとは思っていないが交渉事は最初が大事だ。

 絶対に舐められちゃいけない。

 最初にデカイ要求をしておいて、相手に合わせて下げていく……基本てやつだぜ。


 とりあえず、押せるだけ押してみよう。

 プッシュプッシュだ。


 正直にぶっちゃけると、一先ず停戦できれば程度に思っている。

 その後、落ちついた空気になったら、クライフたちの件をゆっくりと切り出す。

 俺が敵という認識をまずベリアから外す。

 そうすれば俺とクライフたちの協力関係をベリアが知っても、ベリアが彼らに危害を加える可能性は低くなるだろう。


「も、勿論って……何故、そんなに自信満々なのか理解できない。駄目に決まっているわ」


「本当に駄目か?」


 俺は再度ベリアに問う。

 まだ呪い開始からタイムリミットの三ヶ月は経過してない。

 呪いは完了しておらず、今ならまだ再生も間に合うはずだ……たぶん。


「まだ引き返せるぞ、本当に後悔しないか? 失ったものは戻ってこないかもしれないぞ」


「……だ、だだ、駄目に決まっている、決まっているのよ」

 

 俺はジッとベリアの顔を見る。

 プッシュプッシュするが、頭をぶんぶんと振るベリア。

 

「別にいいじゃねえか、まずお互いの呪いをリセットして……その後のことは後で考えようぜ。それにもし俺が暴れても、お前ならまた俺の翼を奪えるんじゃねえか? 一度できたんだから二度目もきっとできるさ」


「適当なことをほざくな。あの時、私が貴様の翼を奪うのにどれだけ苦労したと思っている? それに私はイモータルフォー……民の王だ。そんな私一人の個人的事情で彼ら全員を危険にさらすわけにはいかない」


「あ? 個人的事情で危険に晒すわけにはいかない? はっ、笑わせんな。それで王とかちゃんちゃらおかしいぜ!」


「なんですって!」


「自己犠牲……外からは美しく見える生き方かもしれねえが、自分一人すら幸せにできねえやつが、他の皆を守ることができるわけねえんだよ、もっと優しくしてやれよ、自分を………………俺を」

 

 なんか会話がヒートアップしてきた。

 元々、俺と彼女では性格や生き方、考え方がかなり違うのだろう。

 どっちかといえば、俺は今を重視する刹那的な生き方をするし。

 と、なんか話がずれてきているな。

 

「だ、大体……私と貴様の呪いの内容が対等のわけがないわ」


「……」


 まぁベリアの言葉は正しいと思う。

 言ってみれば、俺の脱毛の呪いは嫌がらせに近い。

 対して彼女の呪いは生命に関わるものだ。


「そ、それに、そもそも……貴様が私に呪いをかけたのを誰が信じる?」


「あ? どういうことだ?」


「イモータルフォーが、私が……っだって、貴様がどれだけ周囲に言っても荒唐無稽すぎて戯言扱いされるだけ、信憑性がない」


「どうかな? 俺の実力をよく知ってるコルルあたりは信じてくれると思うぜ」


「か、構わないわ。あの子なら個性ですの一言で済ませてくれるわ……きっと」

 

 顔を赤くしながらベリアが言う。

 まぁ実際にコルルならそんな気はするけどな。

 

「そ、そうよ……落ち着いて考えればなんてことない呪いじゃない。大したことない問題よ……万が一でも個性、個性で済むのよ」


 なかなか意志は固そうだ。

 どうにか自分を納得させようと、無理をしている感じもするが。

 やれやれ……やはりこのままじゃ説得はできないか。


「まぁ俺が触れ回っても、信じてくれないってのは確かだと思うよ」


「ふん、そういうことよ」


 せめて俺が同じイモータルフォーなら違ったんだろうけど。

 世界に俺の言葉を納得させるだけの知名度がない。


「だから好きに触れ回ればいいわ、貴様の言は確かな真実、だけどそれを他者が真実としてとるかは別問題、ただ頭の可哀想なガーゴイルとして認識されるだけね」


 頭の可哀そうなガーゴイルか。

 おれが転じて弱気な態度を示したせいか。

 失ってもいい覚悟を決めたのか、ベリアは余裕が出てきたようだ。


「ベリア……」


「なに?」


「ごめんな、本当にごめんなベリア」


「な、なぜ謝る?」


 突然の不可思議な俺の行動に戸惑うベリア。

 俺は彼女に謝る。

 俺は鎧の下に手を伸ばし、隠していた物を取り出す。



「……記録って、本当大事だよな」


「ま、まさか……その石、は」


 ギンにメナルドで教えてもらい、存在を知った石。

 これは音を録音する石、畜音石だ。

 メナルドにいる我が友ギン。

 傍にいなくてもお前が教えてくれた知識は俺を助けてくれる。

 

「ほら……これって大事な話し合いだろ。録音しとかないとさ、あの時お前はこう言った、いや言ってない、とかあとで揉めそうだしさ。こじらせたら面倒じゃん」


「……」


「だから決してわざとじゃないんだよ、親切だったんだよ、気を利かせただけなんだよ、話を誘導したつもりもないんだよ、お前が勝手に口が滑ったんだよ……でも」

 

 ベリアの表情が停止する。

 そして、口を魚のようにパクパクさせはじめる。

 

「ごめんな……だからもう一度だけ冷静によく考えてくれないか?」


「き、きっ……」


 いけ、プッシュ、プッシュだ。



「き、貴様あああああっ!!!!」



 ベリアの表情が怒り一色に染まる。

 でもちょっと、やりすぎて崖から落としたかもしれない。





「石を渡せっ!」


「ま、待て、落ち着けって!」


 石を奪おうと飛び掛かってくるベリア。

 ちょっと攻め過ぎたらしい。

 俺は全力疾走して森を走る。

 ベリアは鬼気迫る顔で空から追撃してくる。


「ち、ちゃんと、後で話し合いが終わったら、返すって!」


「今渡せっ! 今ならまだ許してあげるわっ!」


 そう言いながらも背後からビュン、ビュンと飛んでくる火魔法。

 どう見ても許す気ねえだろ。


「お、落ち着け……お、王たるものが、こんな激情に任せて動いていいのかっ!」


「うるさいっ! 都合のいい時だけ、立場を引き合いに出すなっ!」


 俺の言葉に聞く耳持たないベリア。

 怒りで周囲を考える余裕が無くなってきているのか?

 イモータルフォーともあろうものが余裕をなくしている。



(待てよ……イモータルフォーだと?)



「イモータルフォー……いも~とぉるふぉ~……陰毛取るよ……なんちゃって」


「こ、ここっ、殺してやるわっ!」


「げ、ボソボソ声なのに聞こえてたっ!」


 ベリアの魔力が一気に開放された。

 火魔法の弾幕で後ろ一面が赤に染まる。


 くそが、山火事になろうがおかまいなしかよ。


「ごぶあっ」


 身体に着弾、ついに全身鎧が限界を迎え、破壊される。

 もう正体がバレてるからどうでもいいけどよ。

 衝撃でゴロゴロと地面を転がっていくマイボディ。

 転がっている最中も、ボゴン、ボゴンと一瞬も止まることなく降り続く魔法攻撃。


(な、なんか……ムカついてきたぞ)


 黙って攻撃を耐え続ける俺。

 なんでこうして、やられっ放しになってんだっけか?

 なんで俺がこんなにベリアに気を遣わなきゃいけねえんだ?

 俺がここまで戦わないように、争わないように……どんだけ抑えてきたか。

 こいつは俺の気持ちを理解してくれていない。


「こ、の……人が黙ってりゃ、好き放題しやがって。さっきから被害者面してんじゃねえぞ! 糞アマが!」


「っ!」


 全力の『水弾(ウォーターボール)』で数百の火弾を一つ残らず迎撃する。

 こっちも、出し惜しみせず魔力を全開放。

 ソッチがそのつもりなら俺だってやってやんよ。

 仕掛けてきたのはそっちの方だ。

 俺はあんま我慢強い方じゃねえんだよ。


「俺だってあれから大変だったんだ! 行く先々で翼のことで馬鹿にされて……元々、お互い様じゃねえか! てめえが俺に呪いをかけなきゃ、こんなことにはならなかったんだよ!」


「む、無茶を言うな! 私が、呪いを掛けなければランヌはあの時、倒せなかったかもしれない! 貴様は自由にならなかった! 大体、さっき貴様は私がランヌを倒したことを感謝しているって言っていただろう!」


「知るか! それはそれだ! 人の気持ちはそう単純なもんじゃねえんだよ!」


 感情が爆発し、お互いに激情を叩きつける。

 別れて二か月の間、積もり積もった鬱憤。

 自分でも滅茶苦茶なことを言っている自覚はあるが、抑えがきかない。


「これで熱くなった頭を冷やせボケが! 『大渦潮(メイルストローム)』」


「うるさい! その石ごと灰になれ! 『燎原の火(ワイルドファイア)』」


 瞬間、生じた大魔法の激突で大気が震える。

 水と火、相容れることのない二つは俺たちを象徴しているかのよう。

 大地が激しく揺れ、目視できる範囲の木はすべて倒れていく。

 見通しがよくなった森の一角。

 空と陸でやりとりされる高レベル魔法の応酬。


「てめぇを倒したあと、この畜音石をダビング(コピー)して世界中にバラまいてやるぜ! 一家に一つプレゼントしてやる!」


「な、なんてゲスな男だ! このガラクタガーゴイルが! その前にこの場で貴様を土(原料)に戻してやる!」


 熱くなった俺たちは止まらない。

 地形が変動しようが、なんだろうが知ったことかと。

 お互いにがむしゃらに撃ちまくる。


「うおおおおおおおおっ!」


「あああああああああっ!」


 魔法戦だけでは決着がつかないと判断してか。

 俺たちは近距離戦闘へ。

 互いの身体目掛けて突撃し、二人の拳が交錯する。


 その……直前。



「ふ、二人ともっ! そこまでえええええええええええええええっ!」



 耳に入ってくる大きな声。


 それは俺のよく知る少女の声だった。


リドムドーラ編一通り、最後のチェックを残して書けましたので

明日か明後日にも次話投稿します。


新作の初級魔法の方も未読の方は是非是非。

下のリンクから飛べますので。

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