別行動4
二話同時更新、二話目です
クライフに続いてリーゼまでがリドムドーラの城へ。
巨人の話が本当なら兄妹一緒に城にいるってことになる。
ベリアにコルルに……リーゼってばドンピシャで魔王と遭遇しすぎだろ。
どういう経緯でリーゼが城に連れていかれたのか。
どんな意図があってコルルはリーゼを誘拐したのか。
俺たちはこの街で目立つような真似はしていないはずだ……たぶん。
故意なのか、偶然なのか、それとも……。
少しでも詳しい話を聞こうと巨人に問いかけるも、彼はそれ以上の情報を知らなかった。
立場上詳しいことを言えないってわけでもなさそうだ。
「もし姉さんだとしたら捕物に偶然巻き込まれた可能性もあるな。綺麗な姉さんだったし、あの手の連中が狙っても不思議じゃない」
リーゼはかなりの美少女だし有り得るだろうな。
変装した彼女は尚更強そうには見えないし、抵抗されるとは思うまい。
「介抱するために城に連れて行かれたとかじゃないか? 巻き込まれたまま放置するわけにもいかないだろうしな。それなら、心配せずとも時間が経てば解放されるはずだぞ」
「……だと、いいんだがな」
戸惑った表情の俺たちを安心させるように巨人が言う。
事態を客観的に見れば、巨人のように考えるのかもしれない。
だが裏事情を知る俺たちにしてみれば事はそう単純じゃないのだ。
巨人は何かわかったら連絡すると言って去っていった。
結構義理堅い性格なのかもしれない。
メーテルさんへの礼なのかもわからんが。
「アルベルトさん、三十分時間を貰えますか? 大急ぎで姫様に関する情報を集めます」
「……頼む」
諜報員の本領発揮とばかりにメーテルさんが外に出て行った。
家で一人、強い焦りを感じながらもジッと帰りを待つ。
「…………くそが」
部屋でポツリと呟く。
胸に湧き上がってくる後悔の念。
別行動することに不安がなかったわけじゃないが、たった半日でこんな事態に陥るとは。
情けないことに誘惑の残滓があった俺は家の外に出るわけにいかなかった。
必然、リーゼに準備を任せることになる。
(あの時強引にリーゼを引き止めるべきだったか?)
いや、今更そんなことを言っても結果は変わりはしない。
そんな初めてのお使いに出した我が子を見守る母親のような真似をすれば、リーゼの性格なら反発したような気もするしな。
大体、リーゼの実力ならコルルとピンポイントで遭遇しなければ問題なかったのだから。
時間はゆっくりと過ぎていく。
一縷の望みをかけて待つも残念ながらリーゼがひょっこりと帰ってくることはなかった。
三十分してメーテルさんが息を切らせながら帰ってくる。
戻ってきた彼女から聞いた話は攫われたのがリーゼだと裏付けるような内容ばかり。
「例の店付近を歩く姫様の目撃証言がいくつか得られました」
「……そうか、もうほぼ確定と見たほうがいいな」
「はい、それと……姫様は魔王コルルの睡眠魔法で眠らされたようです」
「睡眠魔法?」
サキュバスクイーン、魔王コルルの睡眠魔法か。
リーゼでも抵抗できないかもしれないな。
「店からは他にも眠ったまま連れ去られる男たちの姿があり、姫様を見た者は外傷などはなく眠っていた様子だったと話していました。姫様とコルルが交戦していたという話は聞きませんでした」
少しだけ安心した。
連れ去られたのは不幸だがリーゼに怪我が無さそうなのはよかった。
交戦しても魔王コルルには勝てないだろう。
城での誘惑の一瞬、コルルから感じた魔力はリーゼを明らかに上回っていた。
同性のリーゼに誘惑は通じないが、両者の力量には単純に開きがある。
「ジャンドさんの話通り、捕物に巻き込まれた可能性は高いです。ですが……」
「城でリーゼの正体がコルルにバレちまっていたらどうなるか、だな?」
「はい」
リーゼは一応変装しているが服とカツラを脱がされたら一発でばれる。
つい先日、リーゼはベリアに温泉で顔を見られているわけだしな。
メーテルさんと相談を始める。
クライフがコルルに魅了されていたら?
そのせいで、もし俺の正体が向こう側に伝わっていたら?
リーゼの正体がバレたとしたらベリアたちはどう動く? ……等々。
それぞれのパターンに応じてどう動くべきか、作戦立案と破棄の繰り返し。
リーゼの状況、クライフの状況、会談での呪いの出来事、コルル、ベリアの思惑。
不確定なことが多すぎて頭が痛くなってくる。
「ああもうっ……めんどくせえなオイ!」
「……ア、アルベルトさん?」
バンとテーブルに手を叩きつける俺を見てメーテルさんが驚く。
駄目だ……頭の中がゴチャゴチャして考えがまとまらない。
一度思考を中断して、真っ白になろう。
深呼吸をして落ち着きを取り戻したあと、現状を整理するように振り返ってみる。
(今、俺が絶対にやるべきことは何だ?)
呪いの解除、クライフ、リーゼの救出、ベリアとの交渉。
この全てを完璧にこなそうとするから、こんがらがってわかんなくなる。
うまく立ち回ろうと慎重に動こうとして結果このざまなのだ。
情けないことに俺たちは完全に後手後手に回ってしまっている。
(……なんか、俺らしくねえよな)
受け身っつうか、なんつうか。
今もそうだ、俺が参謀の真似事なんかしてどうする?
いつもの俺ならどうしてた?
その場のごり押……リアルタイムな生きた情報を元に的確な判断で行動していたはず。
真偽のわかんねえ情報を考えすぎるな。
魔王相手だからって慣れないことをするもんじゃない。
このままだと、余計なことを考え過ぎて大失敗しそうな気がする。
失敗するにしても前向きに失敗しようぜ。
考えれば絶対に良い案が浮かぶというものでもないし……もっとシンプルになれ。
冷静になって、最初に頭に浮かんできたのはリーゼとクライフのこと。
最優先すべきは城であの二人に会って合流すること、状況を見て救出することだ。
他のことはそのあとで考える。
二人を呪いの件に巻き込んでしまった俺は彼らに対し、多少なりとも責任を取らなければならない。
交渉の場でうまく進めるためにはベリア、コルルと交戦せずに済むにこしたことはないが、それはあくまで合流後の話。
呪いを解くうえで友好的にと、できるだけ派手に動くのを躊躇していたが、今の状況でそんな甘いことを考えていたら足元を掬われるかもしれない。
魔王がなんだってんだ!
遭遇したらそん時はそん時だ、対抗できる力はある!
いや、まぁ……それでも逃げる時は逃げるけどな。
もし全部失敗したら、その時はラザファムさんに助けてもらおう。
山脈での借りを返してもらう、嫌とは言わせない。
「よっしゃ!」
気合を入れるように頬をパンと叩く。
やることを決めたら不思議と気持ちがスッキリしてきた。
呪いのことは残念な結果になるかもだが、まぁ……そん時はそん時だ。
リーゼとクライフの身に比べればなんてことない。
大切な友人の身と比較するまでもない。
うん……なんてこと、ない……ないったらない。
はは、余裕、よゆ、う……コルルのボケナスがよおおおおぉ!
……ち、また心に乱れが生じてしまった。鎮めねば。
「メーテルさん……俺はこれから城に向かう。ぼちぼちベリアが外に出る時間だしな」
「昨日と今日では中の状況は違うかもしれませんよ?」
「わかってるさ」
リーゼがクライフの妹だとバレているなら、侵入者に対する城の警戒度も上がっている可能性も高い。
今日は魔王ベリアがいるかもしれない。
「ま、一応俺なりに考えはあるさ」
「……」
「とにかく、こうなった以上は時間をかけるのは悪手だ」
「……アルベルトさん。わかりました。それではこちらを……」
メーテルさんが神妙な顔で頷き手元から紙を渡してくる。
「これは?」
「昼間、姫様と調べた街の脱出ルートに関する情報をまとめたものです……使うことになるかはわかりませんが……念のために」
俺はメーテルさんから紙を受け取る。
「クライフ様を、姫様を……よろしくお願いします」
「任せとけ。今回でケリをつけるからよ」
打ち合わせを終えたあと、メーテルさんに見送られ家を出る。
俺は城へと移動を開始した。