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街、初日夜1

本日一話目

 大ジャンプして壁を乗り越えたあと。


「はぁっ、……し、ししっ、ししし死ぬかと思った」


 地に膝をつきゼ~ハ~呼吸しながら胸を抑えるリーゼ。

 恐怖のせいか、彼女の身体が小刻みに震えている。


「し、ししっ、心臓がバクバク言ってるわ」


「……だ、大丈夫か?」


「大丈夫か、ですって? 大丈夫のわけないでしょ! あの高さで頭から落ちたら普通死ぬんだからねっ!」


「わ、わりぃ」


 俺は素直に謝っておく。

 少し力の調整をミスったのは事実だしな。

 慣れない装備のせいで失敗した。


 うーむ、もっとスムーズにいける思ったんだけどな。


「あ、あんたは失敗しても無傷で済むから、今そうやって平然としていられるのよ! いい加減、自分の身体を基準にして考えるのやめなさいよ!」


 激しくお怒りのリーゼさんに、いつも通りお説教される俺。

 リーゼの気持ちが落ち着くのに十分ほどの時間を要した。




 アクシデントもあったが、移動を開始する。 


 この街は綺麗な円形をしており、円を四つに等分割するように、東西、南北に大きな通りがある。

 街を十字に走る大通りは丁度街の中央で交差する。


 この街は中央、北東、北西、南東、南西の五つに区画分けされている。

 メインストリートが走り、人の集まる繁華街がある中央区画。

 魔王コルルの住むリドムドーラ城がある北西区画。

 統括ギルドや雑貨屋、魔法屋など、一般的な店舗が並ぶ北東区画。

 この街の一番の特色でもある風俗街がある南西区画。

 そして最後に、街の住人たちが暮らす南東区画だ。


 俺たちは南東側の壁を乗り越え、住居区画の外縁におり、ここから中央にある繁華街に繋がる大通りを目指して歩く。


「ちょっとすえた嫌な臭いがするな」


「我慢するしかないわよ。この手の街にこういう場所はつきものだしね」


「活気ある栄えた場所の裏側には……か」


 灰色の石造りの建物に挟まれた灯の少ない暗い路地。

 この辺りはスラム街的な場所ってことか。 


 街の中央部に比べて、街の端部の外壁側は人気が少ない。

 魔力感知で周囲を探ると物陰や建物の中に人がいる。

 下を観察するように窓際に立っていたりと……よろしくない気配だ。

 危険な薬を売ったり、強盗などの犯罪を企んだりする連中もいるのかもしれない。


「アンタなら暴漢に絡まれても問題ないだろうけど、よそ見して、はぐれたりしないように気をつけてね」


「子供かよ俺は……」


「あんたメナルド城に来た時のこと忘れてない? いつの間にかいなくなってて、兄様とお風呂に入ってたし」


 ああ、そんなこともあったな。


「まぁ了解だ。一応、もし俺がはぐれた場合は動かずに魔力を高めてくれ。迷子になっても魔力感知で絶対にお前のことを探しだすから」


「わかった……けど、なんだろう。その台詞は私が迷子になったみたいに聞こえるのが引っかかるわね」


 そんなやり取りをしながら俺たちは暗い路地を進んでいく。

 ここはお世辞にも治安がいいとは言えない場所だが、指輪のおかげで俺たちの存在は彼らに認識されないから、俺たちの移動に影響はない。

 無駄に絡まれる心配もない。

 ああ、本当に便利だな……指輪。

 最初の巨人がイレギュラーだっただけだな。


 裏路地は区画整理されておらず、入り組んでいて経路が複雑だ。

 ちょっとした迷路になっている。


 歩いているうちに方向感覚が狂いかけてくるが、俺たちは苦労しながらも道を進んでいく。

 何度も行き止まりに突き当たったりもした。

 その度に壁と家をぶち壊して最短距離を駆け抜けてやろうかと思った。


 くそ、正門からいければもっと楽に事が進んだのに……。


 気づけば歩き始めて二時間ほど経過しており、日は完全に暮れていた。

 そしてようやく、人々の声が聞こえてくる場所まで来た。

 そろそろ街の中心部が見えてくるはず。


 ゴールが見えると疲労感も感じなくなる。

 どんな光景が見られるのか、ワクワクしながら歩いていく。

 裏路地から大通りへ出ると、景色が一気に開ける。


「……う、お。なんだこれ」


 眼前の光景に圧倒される俺。

 目に飛び込んできたのは凄まじくカラフルな光景だった。


 いや、街の造り自体はとても普通だ。

 石や煉瓦造りのどこにでもある建物が並んでいる。


 メナルドやファラの街の様子と大きく異なるのは装飾だろう。

 建物の壁や大通りの脇など、街の至るところに設置された光魔石の光源。

 光源には薄い透明なフィルムのようなものを被せてあり、多様な色の光が街を照らしている。


 陽が暮れる前に空から見た街の様子と全然違う。


「……こ、こりゃすげえわ」


「ふふ、驚くわよね、私も最初来た時はそんな感じだったわ」


 口を半開きにして、街の雰囲気に驚く俺にリーゼが説明してくれる。


「この街は昼と夜でガラリと雰囲気が変わるわ。夜、この街に光が灯らない時間はない。だから眠らない街って呼ばれているの」


「へぇ……しかしまぁ、なんつうか派手だなあ。でも、これだとどこに何があるかわかんなくなりそうだが」


「そんなことはないわよ。光の色ごとに建物が分類されているのよ、食事処は緑、宿屋は青……みたいな感じでね。こうしておけば目的の場所を探しやすいでしょ」


「な、なるほど」


「私は詳しくはないけど、色のイメージが人に心理的影響を与えることもあるそうだしね、その辺も考えてキチンと街は設計されているみたいよ」


 リーゼ曰く、光源配置の専門家もいるそうだ。

 街の光景は派手だが、目が痛くならない。

 汚く見えないというか……色の組み合わせがうまくはまっている。


 リドムドーラの街、雑多といえば雑多だが……結構好みの雰囲気だな。

 ここにいると心が高揚するというか。

 観光街として一度は行きたい街とされてるのもわかる。

 まぁ、住民としてこの街にずっと暮らすとなると悩むがな。


「さて……と。まずは予定通り、これから泊まる宿を探すわよ」


「あいよ」


 ここは街の中央からやや東側に位置する場所。

 大通りを西へと歩きながら街の光景を観察する。


 風俗街のせいか、道を歩く人はやはり男が多い。

 男が全体の八割、女が二割……ってところかな。

 大体は男同士で来ているグループが多い。

 互いに肩を組んだりして、楽しそうに談笑している。

 既にお酒を飲んで出来上がっている者もいる。


 どいつもこいつも活力に溢れた目をしていやがるぜ。

 にしても時折、彼らの視線がこちらに飛んでくるな。


「見られてるわね」


「そりゃこの街を女連れで歩けば仕方ねえだろ」


「まぁ……ね」


 でもまぁ、俺たち以外にも女連れの姿はある。

 多少存在が浮く程度、問題ないだろう。


 見てる奴らも絡んでくるわけじゃない。

 そのへんは俺の恰好も相まっているのだろうがな。

 こんなどでかい大剣を背負っていれば完全に武闘派のパワーファイターだしな。

 ガーゴイルの姿時と違って、侮られる心配もない。

 普通に歩けば絡まれないだろう。


 男たちと視線が合うと、自然と逸らされる。

 ふはは、いつもと違ってちょっとだけ気分がいいな。


「アルベルト、キョロキョロしないで、普通にして」


「あ、はい」


 リーゼに注意される俺。

 いかんいかん、お忍びであることを忘れないようにせねば。


「いつも通りの俺でいないとな」


「そうじゃなくて、普通にして」


「おい、それはどういう意味だ……」 


 そんな問答をしながらも宿を探す俺たち。


 チョイスの仕方だが、あまり安い宿は治安も悪いため避ける。

 逆に高級過ぎても顔を隠したこの恰好では入れない可能性が高いし、怪しまれる。

 結局、中の上程度のランク、一般的水準の稼ぎの者が泊まる宿に泊まることにした。

 場所は街の中央区画の南西寄り、繁華街の大通りから二つ道を奥に入った建物だ。

 この場所なら各方面にアクセスしやすいし、立地や安全性など総合的に考えて無難なところだろう。


 宿で借りる部屋は二つ、リーゼとは別々だ。

 男女別々……これまで二人で旅もしてるんだから今更な気もするがな。


 まぁプライベートな時間も大事か。

 宿に大きな荷物を置いて、外へと出る。


「それじゃあ早速ご飯を食べに行こうか」


「ああ、いい加減腹も減ったしな」


「それと、ついでに情報収集もしたいところだしね」


「……情報収集か」


「それも踏まえて酒場に行くわよ、既に行く店は決まっているわ」


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