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エロゴイル1

「リンとアスタがワーウルフに捕まっている?」


「はい」


 メアが緊張した面持ちで告げる。

 更に場の空気が重くなる。


 ワーウルフ達がこの集落に向かっている。

 それも、二人の少年ゴブリンを連れて。


 二人の名前はアスタとリン。

 二人ともダイダリアンの友人で、アスタの方はサリーの弟だそうだ。


「アスタ、リン」

「生きて……いたのか」


 サリーの心情は複雑なものだ。

 弟が生きていて嬉しい気持ちと、ワーウルフに捕らえられた絶望感、二つの気持ちが混じり合う。


「ここで待ってなさい! すぐ弟さん達を取り戻してくるから!」


 友人の弟の危機にじっとしていられず、突撃体勢に入るハイエルフ。


「策はあるのか?」


 サリーがリーゼに問いかける。


「ないわよそんなの! ワーウルフなんて私の相手じゃないわ」


 ああ、だと思ったよ。

 正直俺もガチンコ勝負でワーウルフに負けるとは微塵も思っていない。

 でも彼等の命を確実に助けるとなると話はかわってくる。


 どうにか近づいて、まず最初にゴブリンの少年達を保護する必要がある。


 できたら遠距離魔法でワーウルフだけを狙撃したいが、五感の鋭い彼等が相手だと先に気づかれる可能性が高い。 

 その時ゴブリン少年達を魔法攻撃の盾にでもされたら目も当てられない。

 

 俺のバリアも対象にある程度近づかないと使えないしな。


 その旨をリーゼに伝えると……


「じゃあどうしろっていうのよ! このままだと集落に来ちゃうわよ!」



 う~む、そうなんだよな

 不意打ちが使えないからこうなると面倒な相手だ。


「集落にきた時にどうにか交渉でもしてみる?」

「交渉の通じる相手じゃないだろ、それに何を交換条件にするつもりだ。あいつらは俺達を見下してるからいいように利用されて殺されるのがオチだぞ」


 周りでは相談するゴブリン達の声が聞こえる。


(ん? 交渉?) 


 奴らにとってゴブリン少年達よりも価値のあるものを提示できればいいんだよな。

 その後高確率で裏切る可能性が高いが、一時的にでもゴブリン達から気を逸らすことができればいい。

 とすると……


「おいリーゼ、一つ思いついたぞ。とてもシンプルな案だけどこれなら多分どうにかなる……かもしれない」

「本当に?」

「ああ! ただこれはお前の協力が必要なんだ、嫌な役になるが、引き受けてくれるか?」

「当たり前じゃない! サリーの弟のためだもの!」


 よし! 協力を取り付けられた、でも後々高確率で殴られそうなので言質をとっておこう。


「それがお前にとって屈辱的なことでも我慢できるか?」

「愚問よ!」

「わかった、言質はとったからな、後で俺を殴るなよ。絶対だぞ! 忘れるなよ!」

「しつこい! いいからとっととその策を話しなさい!」

「ああ、その策とは……」










 ここは集落から東に七百メートルの地点。

 ワーウルフは集落へと着実に近づいていた。


「もうそろそろ着くはずだぜ」

「はぁ、ようやくか」

「ん? なんだ? 前に何かいるぞ? 魔物? いや違うな」

「おい、前に隠れている奴出てこい!」


 夜暗い森の中でも、森のハンターと呼ばれる彼等ワーウルフから逃げるのは不可能だ。


「こ、こんばんわ」

「てめえガーゴイルか」

「は、はい」


 ガサガサ、ガサガサと音がして、茂みの奥から出てきたのは、翼を失くしたガーゴイル。

 そして……


「その横にいるローブをかぶった奴は何だ?」


「こ、こいつは、その私の奴隷です」


「スンスン、おいおい、こいつもしかして」

 

 ワーウルフの一人の鼻がヒクヒクと動く。

 そして口元が綻んでいく。


「どうした?」


 ローブの中に隠された匂いを察知したワーウルフに喜悦の表情が浮かぶ。

 

「あっ、ちょっとダメです!」


 間もなく、全身を隠していたローブが取り払われる。 

 ローブの中から現れたのは手枷をつけたエルフの少女。


「うぉ! 女だ!! エルフだ!」

「まじかよ!」

「しかも上物じゃねえか!」


 無理もない、見た目だけなら最高級の美少女だからな。

 しかも今は身なり奴隷っぽくするためボロボロの布二枚だけしか着けていない。

 V字型に足の付け根で交差する形で体に巻いただけだから、露出が凄い。

 おかげで胸の谷間もくっきり、スラリとした綺麗な足も付け根ギリギリまで見えている、大事な所だけが隠れている状態だ。


 エ、エロい。


「…………」


 夜だからわかりにくいが、よく見れば彼女の肌は真赤だ。

 肌をさらけ出すことで生まれた羞恥心と闘っているのだろう。


 何故こんなことになっているのか、時は二十分前に遡る。




「馬鹿じゃないの! 何で私がそんな格好しなきゃいけないのよ! あんたが見たいだけじゃない!」


 策を話したら、リーゼさんはお怒りだ。


「ああ俺もふざけた案だと思う。でも確実にワーウルフから彼等を引き離すならこれくらいやらないとダメだ。」


「だ、だからってこれは、い……やよ」



 俺の提案した策とも言えない策の流れはこんな感じ。


 ①俺が奴隷に扮したリーゼを連れて森を歩く

 ②ワーウルフに俺とリーゼが発見される

 ③ワーウルフが俺からリーゼを奪おうとする。

 ④ワーウルフ達にリーゼを返せと俺ダダをこねる→当然ワーウルフ断る

 ⑤ならせめてゴブリンを寄越せという。

 ⑥ゴブリンとエルフで交換成立

 ⑦ゴブリンとワーウルフを離した所でリーゼが反撃開始。


 何故翼のないガーゴイルがエルフの奴隷を連れてこんな森を歩いているのか、不審な点しか見つからないが。

 不審に思っても所詮は翼のないガーゴイル、ぱっと見戦闘力もなく弱そうに見えるから、そこまで大きな警戒はしないだろう。

 

 さすがに全部うまくはいかないだろうが、一時的にでも油断してくれればそれで十分だ。

 その隙にゴブリン達を保護すればいいのだから。


 今回バウムは連れてこなかった。

 更に怪しさが増すからな、すまん。



「すまんがこの役はお前にしかできない、自衛手段のないメアじゃ無理だ。」


「で、でもぉ」


「リーゼ……」


 策が策なのでサリーも頼みにくいようだ。

 しょうがない任せろ、俺が押しきってやる!


「サリー! リーゼなら絶対にわかってくれるから大丈夫だ! 彼女(リーゼ)がこんな非常事態でも自分の都合を優先する女だと思ってんのか? リーゼを馬鹿にするな! ここで疑うことは友への侮辱になるぞ!」


「え……あ、え?」


 突如熱く語りだした俺を呆然と見つめるリーゼさん。

 

 奴に考える隙を与えてはならない。

 彼女防御力は低そうだからな。


「なぁリーゼ聞いてくれ、これは黙っていようと思ってたけど、俺、実は出会った時お前に嫉妬してた。」


「え、え?」


「だってそうだろう! お前は女神かと見間違う程美しいエルフ、だってのに俺は翼をなくした不細工なガーゴイル、ああ、何で世界はこんなに不公平なんだって! 本当にこんな事を考える自分が嫌になるよ!」


「…………」


「でもな! 今はもう嫉妬なんかしてない! 何故かわかるか?」


「な、なによ」


「お前が俺のことを嫌いじゃないって言ってくれたからだ。こんな俺でも認めてくれる人はいるんだってわかったからだ。お前は闇の中に捕われていた俺の心を引っ張り上げてくれたんだ。こんな子がいるなら世の中捨てたもんじゃないって思ったよ。だから今度はゴブリンの少年たちを救ってくれ!!」

 

 自分でも何言ってるかわかんねえけど、勢いだけはあるはずだ。

 何がだからなんだかよくわからんしな。


「お前しかいないんだ! リーゼ! ゴブリンの少年達を助けるにはお前の力が必要だ、手を……貸してくれるな」


「…………」


 よし黙った、もう一押しだ。


「なぁミド、ダイダリアンが帰ってきた時の気持ちをこのお姉さんに聞かせてあげてくれないか?」


「あぁぁもう! わかったわよ!」


 よしリーゼの了解を得た、これで作戦を開始できる。


 



 ……てなわけで、現在に至る。

 

 いくぞワーウルフ、俺達の演技力を見せてやる!!

 さあ勝負!! 


 不安要素はリーゼさんの忍耐力だけだ。






 








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