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旅路5

 リドムドーラへの旅路、四日目。


「……ん、ん~~!」


 朝、陽の光で目覚める俺。

 今日はいつもよりすっきりとした気分で目覚めた。

 起きてすぐ思い出すのは昨夜のことだ。


 温泉の発見という幸運のおかげで、とても充実した夜を過ごすことができた。

 温泉による体力の回復に加えて、ナイカさんと二人でお酒も飲めた。

 ちょっと悪酔いしてしまった気もするけど……まぁ、偶にはいいだろう。


 見知らぬ人には迷惑をかけてしまったが、もう会うこともあるまい。

 さらば、見知らぬ人。


 朝食を食べながら移動経路を確認をする俺たち。


「いよいよリドムドーラ入りするわよ。心構えをしておいてね」


「ああ」


 俺はリーゼに頷く。


 今日の午前中はナイカさんに乗って空を移動。

 午後はナイカさんから降りて四、五時間ほど歩きリドムドーラに到着する予定。

 予定通りにいけば夕方までには着くはずだ。


 地面に広げられた地図を見る。

 リドムドーラの街は山間、谷に位置する場所に存在する。

 昨夜は山の反対側から来たのと暗かったせいで気づかなかったが、温泉からは細い道が西に延びていた。


 地図と方向を照らし合わせるに、道はリドムドーラへと続いているのかもしれない。

 もしそうなら、徒歩でも道に迷う心配は無さそうだ。

 道なりに進むのは敵に発見されるリスクも高まるが、事前の変装に加えて、ミラージュリングを装備すれば問題ない。


 俺とリーゼだけなら存在を完全に隠すことができる。

 無理して道なき道を進んで遭難するほうが怖い。

 空と違い地上だと方向がわかりにくいからな。

 ファラ山脈でラザファムが点滅していたような、方向確認の目印はここにはない。




 朝食を食べ終わり、ナイカさんの背に乗って移動を開始。


 順調に三時間ほど飛び続け地上へと降り、予定通りに空の旅が終わる。

 温泉から続く道はやはりリドムドーラに続いていそうだ。

 道上に降りた俺たちはナイカさんの身体に括り付けてある荷物を手早く降ろしていく。

 勿論、降りる前に周囲に誰もいないか視覚や俺の魔力感知で確認済だ。


 にしても……まだ街まで距離があるとはいえ、周辺の人気の無さ。

 東側(メナルド方面)から、陸路を使ってリドムドーラに来る人は元々少ないのかもしれない。


 考えてみれば、俺たちが通ってきた東側は元魔王ランヌの領土だった。

 故にまだベリアの手が入っていない。

 ランヌとベリアの戦争が終結してまだ二か月だ。

 そのため道なども整備されておらず、人が少ないと考えれば納得もできる。

 ここまで運よく敵に遭遇していないのもそういった要因があるのだろう。


 人が来ないなら警戒網も多少は薄くなるだろうしな。

 だが……さすがに、この先はうまくいかないはず。

 サキュバスたちが上空を飛んでいるだろう。


 さて……。


「ここまでお疲れさん、ナイカさん」


「いえ、これも仕事ですから」


「それでもだよ……助かった」


「ええ、本当に……」


 俺とリーゼはナイカさんにお礼を言う。

 この先は徒歩移動、ナイカさんとはお別れだ。

 休憩を適宜挟んだとはいえ、かなりの強行軍だったが、ナイカさんの頑張りのおかげで無事にリドムドーラに着けそうだ。


「姫様、どうか無事で」


「兄様は必ず連れて帰るから安心して。あなたも帰りは気をつけてね……」


「はい」


 別れの挨拶を終え、ナイカさんは飛び去っていった。

 本当にありがとう……ナイカさん。


 ナイカさんと別れたあと。


「さて、ここからはアンタにも変装してもらうわよ、いいわね?」


「ああ」


 リーゼの言葉に素直に頷く。

 街の侵入前に面倒事を起こしたくないしな。


 俺は過去にベリアと一戦交えてる。

 姿を見られたら大きな騒動になるだろう。

 翼のないガーゴイルというだけで警戒するに十分な情報のはず。

 ミラージュリングを発動させるだけでなく、より慎重になるべきだ。


 リーゼは朝のうちに変装の着替えを完了している。

 ここ数日被っていた黒のカツラ、白のフード付きローブを纏っている。

 清楚な印象の魔法使いといった姿だ。


 変装発言のあと、ごそごそとリーゼが荷袋を漁りだす。

 袋からガチャガチャと金属同士がぶつかるような音が聞こえてくる。


「……よい、しょっ」


 リーゼの細い腕がソレを一つずつ引っ張り出していく。

 ゴトッ、ゴトッと重量感のあるソレが地面に並べられていく。


「これ……お前、正気か?」


「正気よ、失礼ね」


 つい正直な気持ちを告げてしまう。

 少し待ち、彼女が取り出したものが出揃う。

 袋から出てきたのは黒鋼のフルプレートメイル、全身鎧というやつだ。

 いや、なんか移動中も金属音が聞こえてきた時点で妙な予感はあったけども。

 鎧は一塊にすると袋に入らないので、小手、銅、ヘルム、足具他と、それぞれのパーツはバラバラに収納されていたようだ。


「こんなの入れてりゃ荷物も多くなるわ」


「でもこれなら完璧でしょ? 絶対にガーゴイルだって気づかれないわよ。運んでくれたナイカさんには悪かったけどね」


「そりゃあ、確かにそうだけど……」


 全身を隠しちまえば種族なんてわからんわな。

 これを装備すれば皮膚も見えない。

 これはこれである意味目立つ気もするけど……ま、ガーゴイルの姿でいるよりは大分マシか。

 しかも鎧だけじゃなく、かなり大きな剣まで用意してある。

 俺はそれを軽く持ち上げてみる。


「剣なんて一度も使ったことねえけどな」


「いいのよ、飾りよ飾り」


 さらりと言うリーゼさん。

 こんな超重量の剣が飾りって……。

 まぁでも、こんな立派な鎧着て武器がないのもおかしいか。


「アンタなら重量があっても問題ないでしょ」


「……まぁな」


 俺は生まれて初めてのフルプレートメイルを苦労しながらも身につけていく。

 フルプレートどころか、鎧を装備するのも初めてだからな。

 俺の場合、防御力って意味じゃ鎧なんて必要ないし。

 身体強化魔法での上昇分に比べれば、鎧の防御力なんて微々たるものだ。


 足具もあるので、ゴブリンの集落で作ってもらった靴は脱いで袋にしまうことにする。

 すまんなダイダリアン。

 鎧を装備するのは今回の旅だけだから……。


「サイズはどう? ちょっと動いてみて」


「ああ……」


 俺はピョンピョンと軽く飛び跳ねてみる。

 一先ず動きを制限される感じはしない。

 鎧に慣れていないせいで、動きに多少の違和感はあるが……。

 それと、兜のせいで視野もちょっと狭く感じる。

 でもまぁ魔力感知を使えば周辺の地形は把握できるし、その辺の問題は解決するだろう。


「そういや、俺がローブ姿じゃ駄目なのか?」


「最初はそう思ったんだけどね、アンタの顔がさ」


「お、俺の顔に文句があるってのか! ちっと自分が可愛いからって言ってくれんじゃねえか」


「そ、そうじゃなくてっ……アンタの場合、ローブに仮面までつけないと正体を隠せないでしょ」


「ああ……」


 確かにそれなら全身鎧のほうがマシか。

 ローブに仮面をつけるとか「私は怪しいものですよ」って周りに言ってるようなもんだ。




 移動準備を終えた俺たちはリドムドーラに向かって山道を歩いていく。


 背中に大剣、そして大きな荷袋を背負って歩く俺。

 袋は俺の身体の半分ぐらいのサイズがある。

 さすがに女のリーゼに持たせるわけにもいかない。

 ハイエルフの彼女なら持てないことはないだろうが、見栄えの問題もある。


 それにしても……。


「……ふふ」


「どうしたのよ? 突然笑いだして」


 リーゼが俺を訝し気な目で見ていた。

 おっと、自然と笑みが零れてしまったようだ。


「いや、この恰好してると、自分が傭兵っぽいなと思ってな」


「あんた元々傭兵でしょ、ギルドで仕事してたじゃない」


「いや、そうだけど……ギルドでは討伐系の依頼なんてほとんど受けてないしさ。傭兵っぽいことは全然してなかったんだよ」


 メナルドのギルドでは、貝拾いばっかり受注してたしな。


「だからこうやって鎧を身につけて歩くのが、いつもと違って新鮮で、ちょっとだけ楽しく感じるというか」


「ああ……女の子が新しい服を着て歩く喜びみたいな感覚?」


「あ~そんな感じかもな」


 なんか成りきっているみたいでちょっと面白くなる。

 コスプレというやつだろうか。


 試しに背中の剣を抜いてみる。

 刀身部分だけで一メートル半はある無骨な黒剣。

 飾りなので実際使うかはわからんが、歩いてて暇なので扱い方を少し覚えておく。


 と言っても正しい剣の扱いなんてよくわからん、だから適当だ。

 こんなん一朝一夕で身につくものでもないしな。

 それっぽく格好いい感じに見えればいいのだ。


 薙ぎ払ったり、振り上げたり、剣を動かすとその度に草葉が舞う。


「どうよリーゼ。俺の剣さばきは?」


「……零点ね、失格よ」


 後ろを離れて歩くリーゼが辛口で採点する……手厳しいな。


「初心者なんだから多少は甘く見てほしいところなんだが」


「いや、そういう問題じゃなくてね。それ両手持ち用の大剣なの……片手で振り回したりするものじゃないの」


「なるほど」


「うん、だからペン回しみたいにクルクル回すのやめなさいよ、危ないし凄まじく目立つから……」


 二人でそんな会話をしながらリドムドーラへと進んでいく。

 歩き始めて一時間ほどした頃。

 上空から誰かが近づいてくる気配を感じた。


「リーゼ」


「……ん、わかってる」


 背中に小さい翼を生やした種族、サキュバスだ。

 街近隣の上空を巡回飛行中なのだろう。


 ミラージュリングのおかげでサキュバスの少女は俺たちに気づかない。

 堂々と道の中央を歩いていても問題はないが、ちょっだけドキドキする。

 俺はサキュバスに視線を送る。


 ろ、露出すげえな、肌面積が多すぎる……けしからん。

 ほとんど下着みたいな服、淫魔と呼ばれるに相応しい姿だ。


 彼女は異性の性欲をコントロールして操る能力『誘惑(テンプテーション)』を持つ種族だ。その能力を活かすためにあんな煽情的な恰好をしているらしい。

 サキュバスが俺たちの真上を通過する。


(黒のTバックか……)


 真下からものすげえ際どいアングルで見てしまう。

 ちょっといけない事をしている気分になる。


 だがまぁ、自分からあんな恰好しているわけだしな。

 だから俺は悪くない。

 そう、これっぽっちも悪くない。


「その指輪、悪用するんじゃないわよ……」


 今もサキュバスを見上げる俺を見て、冷めた目でリーゼが言う。

 まぁこれがあれば色々悪用も可能だろう。

 例えば堂々と風呂場にも侵入できるだろうしな。だけど……。


「そんなモラルのない陰湿な真似は好きじゃない」


「き、昨日の今日で、どの口が言うのか」


 そんな会話をしながらリドムドーラへ。


 街に近づくにつれて、他の道とも合流し道幅も少しずつ広くなってくる。

 チラホラと同じように街へ歩く旅人の姿が見え始める。

 ミラージュリングは対象にぶつかったりすると認識阻害効果が解けるので、接触しないよう距離には注意しながら移動する。


 時折、上空を飛ぶサキュバスに遭遇しながらも、隠れたりせず堂々と俺たちは歩いていく。

 そうして五時間ほど歩き、雲が赤みがかった頃。


 リドムドーラの街が見えてきた。


着きました。

とりあえず、一区切りです。


それでは、皆様良いお年を。

来年もよろしくお願いします。

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