表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/180

出発準備

本日二話目です、ご注意ください

「突然だけど俺、明日の朝リドムドーラに出発するから」


「……は?」


「え?」


 クライフ拘束の報を受けた日の夕方。


 城に戻ってきたギンとルミナリアに俺は告げる。

 丁度廊下で会った二人に、俺は自分の部屋に来てもらい詳しい話をすることにした。

 街に外出していた二人は昼に城であった重大な出来事を知らない。

 案の定というか、俺の発言に二人はキョトンとした顔を見せる。


「だから当分の間、城を留守にする」


「な、何言ってんだ兄ちゃん?」


「どうしてそんな、急に……」


「ええと、実はな……」


 俺はクライフの身に何が起きたのか、そしてリドムドーラ行きを決意した経緯を二人に説明していく。


 先日、ベリアとの会談に向かったクライフ。

 その目的は最強の一角、イモータルフォーである魔王ベリアの協力を得るためだ。


 これまでどの魔王の派閥にも入らず中立の立場をとってきたクライフだが、ランヌが死んだことで情勢は変化した。

 現状でイモータルフォーの後ろ盾がない魔王はクライフだけ。

 このままでは孤立化してしまい、近いうちに他の魔王の攻勢に耐えられず、国を守り切れない可能性が高い。

 そこでクライフはベリアの協力を得るために傘下に入ることにした。

 そして今日、クライフとリドムドーラに向かったグリフォンのナイカさんが戻ってきた。

 その報を聞いて、会談に向かったクライフが戻ってきたのだと喜んだ俺だが、それはぬか喜びに終わる。


 城に戻ってきたのはクライフに同行していた補佐役のエルフたちだけ。

 クライフの姿はなかったのだ。

 そして戻ってきた者の話により、クライフがベリアに拘束されたことが判明する。


 ベリアの配下に掛けられた呪い、その犯人としてクライフが疑われている。

 クライフは全力で否定したそうだがベリア側は納得せず、疑いが晴れるまでリドムドーラに滞在することになった。


「……てわけだ」


「……まじかよ、おい」


「そんなことになっているなんて……」


 沈痛な顔を浮かべる二人。


 ギンはともかくルミナリアはクライフと面識がある。

 話を聞いてより強い不安を感じているようだ。


「くれぐれもこのことは内密にな」


「ああ」


「わかってます」


 いくらギンでもわざわざ触れ回ったりしないだろうが、念を押しておく。


「その……アルベルトさん。報せを聞いたリーゼお姉ちゃんの様子は?」


「ああ、報を受けた時は落ち込んでいたが、今は持ち直しているから大丈夫だ。さっきまでは皆でどうクライフを助けるか考えていたしな」


「そう、ですか」


 ほんの少しだけルミナリアの顔が和らぐ。

 俺は話を続けていく。


「んで、それを知った俺はベリアとクライフの関係を修復させるためにリドムドーラに向かうことにした」


「だ、大丈夫なんですか? 相手はイモータルフォーですよ。危険度で言えばあの変異種よりも……」


「なに、まだ交戦すると決まったわけじゃない。それに……もし戦うことになったとしても俺の強さは知ってるだろ?」


「……で、ですが」


 俺はルミナリアの頭にポンと手を置く。


「翼が失くてもそう簡単にやられはしない、世界最強レベルの相手だとしてもな。友であるクライフは俺が絶対に助けるつもりだ……絶対に!」


「アルベルトさんて普段文句多いですけど、なんだかんだでこういう時は結構……」


「なんだよボソボソと……」


「いっ、いえ……すいません、なんでもないです。ただ、アルベルトさんが行っても、呪いの術者が誰なのかを証明しないとクライフ様の無実は晴れないのでは?」


「……それについては問題ないわ」


 二人と会話をしていると、部屋のドアが開く。

 リーゼがラザファムと一緒に部屋に姿を見せる。


「皆、ここにいたのか」


「金髪兄ちゃん」


「……お父さん」


 ラザファムの気配を感じた俺はすぐルミナリアの頭から手をどける。

 見られたら何を言われるかわからんからな。


「リーゼお姉ちゃん……犯人の心当たりがあるんですか?」


「心当たりもなにも、今回は犯人自ら出頭するからね」


 リーゼがギロリと俺を睨みつける。


「ど、どういうことですか?」


「……」


 リーゼの回答に困惑するルミナリア。

 一方、ギンは今のでなんとなく察しがついたらしい。


「なぁ兄ちゃん、もしかしてとは思うんだけどよ」


 ギンがマイボディをスッと指さし俺はそれに頷く。


「……ま、まさか?」


「ああ、ご想像通り犯人は俺だ」


 その言葉を聞いて、大きく口を開けるルミナリア。


「ああもうっ! ……さっきちょっとだけ格好いいと思った自分が恥ずかしいっ!」


「兄ちゃん……それを先に言ってくれねえか? 後出しで話をひっくり返すのは兄ちゃんの悪い癖だぜ」


 結構ギンも似たようなところがあると思うが……。

 今のルミナリアの反応、ちょっとだけリーゼっぽかったな。


「ルミナリアちゃん、基本は周りを巻き込む側なのよアイツは、それを忘れちゃ駄目なの……」


「……お姉ちゃん」


「しかもこっちがソレを忘れて、安堵しかけたタイミングに事件を起こすから余計タチが悪いのよ」


 し、失敬な女だな……まぁ否定はしねえけど。

 頭を抱えて嘆くルミナリアをリーゼがよしよしと慰めている。


 続けて俺がベリアに呪いをかけた経緯についてルミナリアとギンに説明していく。


 俺が呪いをかけたのはベリアの配下ではなくベリア本人だということ。

 呪いをかけた理由は俺の背中に呪いをかけられた復讐、そして解呪させる交渉材料を得るためだったこと。

 だというのに、それを今日まで忘れていたこと。

 などなど……一応の説明を終えたのち二人が口を開く。


「なるほど、大体の事情はわかりました」


「ああ、色々と突っ込みたい箇所はあるがな……それで、兄ちゃんはベリアにどんな呪いをかけたんだ?」


 ギンが俺に質問する。

 ルミナリアもギンに同調するように頷く。

 まぁ普通はそこが気になるよな。

 敢えてそのあたりはボカシて説明したんだけど、情報収集が趣味のギンだしな。


「それは……ちょっと言えないな」


「……ふむ、言えない内容なのか」


 強いてバレないように言うなら軽量化やダイエットの呪い……だろうか。

 まぁ下手なヒントを与えて真相に辿り着かれても困るし、黙っておこう。


「きっと、俺なんかが受けたらイチコロなんだろうが……」


 いや……このメンバーでギンと俺は間違いなく無傷で済むな。

 他のメンバーについては回答を避けておく。


「ギン、今回に関してはあまり詮索しないほうがいいぞ。ベリアに命を狙われたくないだろ?」


 実際ベリアがそこまでするかはわからんが、ギンに危機感を与えおく。

 俺がベリアにパ〇パンの呪いをかけてしまったこと。

 このことは俺とリーゼだけの秘密にしておいたほうがいい。

 一緒にいたラザファムにも呪いの内容までは伝えていないのだ。

 秘密を共有する者は少なくしないとベリアとの交渉もできない。


「好奇心は身を滅ぼすぜ……マジでやめとけ」


「そういうことよ、やめときなさい」


「姫さんもか……」


 俺とリーゼの雰囲気から本気で言っているのがギンに伝わったようだ。


「わかった。追求しねえ。あのイモータルフォーのネタとなれば、もの凄く聞きたい衝動に駆られるがな」


「わたしも聞きません」


「ああ……それがいい」


 納得する二人。

 俺もわざわざ言いたくはない。

 ギンはともかく、もしルミナリアに知られたら冷たい目で見られること間違いなしだ。

 清純系な雰囲気の女の子に蔑まれるとちょっとこう……くるものがある。


「まぁ真龍の称号を持つラザファムなら聞いても自己防衛できるだろうが」


「……聞かんぞ」


「そう……この中でお前だけは聞く資格がある。聞いて一蓮托生となり俺の力になってくれるんじゃないかと密かに期待している」


「き、聞かないと言っているだろうが……やめろよ、絶対に」


「……」


「本当に勘弁してくれ……聞かなくても万が一の場合はちゃんと力を貸すから……せっかく家族仲良く暮らせるかもしれないという希望が見えた矢先に、どでかい火種を持ち込むのは勘弁してくれ」


 かなり必死な様子のラザファム。

 やめろよと言われると無性にやりたくなるが、我慢しておく。


「そ、それにだ……力を貸すとしても、お前だけでなく俺までリドムドーラに出かけたら誰がこの街を守るというのだ?」


 ラザファムの言う通り、変異種を討伐したとはいえ、主戦力である俺とラザファムの両方が街を留守にするというのはよろしくない。


「どうしてもというなら同行するが、相手がイモータルフォーとはいえ、お前なら単独でも戦えない相手じゃないだろう」


「……まぁな」


「それでは、リドムドーラに行くのはアルベルトさん一人ですか?」


「ああ……そうなるかな」


 できればラザファムが一緒だと心強かったんだけどな。

 ベリアと戦うことになっても二人ならたぶん勝てる。


 だが、リドムドーラとメナルドはグリフォンの移動速度で片道四日と距離がある。

 ラザファムなら大体半分の時間で往復できるが、それでも往復で五日は見る必要がある。

 すぐ行って帰れるならいいが、その間街を無防備にするのはまずい。

 今回の移動はグリフォンにお任せするしかないだろう。


「わたしも行くわよ!」


「リーゼ?」


「兄様が心配だしね、こういう時にじっとしてるのは性に合わないわ!」


 そういや、お前はそういう性格だよな。

 俺もそういうところがあるけど。


「だがこの街のことはいいのか? クライフに加えて、お前までいないとなると……」


「復興作業もひと段落したしね、半月くらいなら空けても問題ないわ」


「そうか」


 まぁ彼女がいいのであれば否定する理由もない。

 一人旅だとやっぱり寂しいしな。

 となると、この城に来た時以来のリーゼと二人旅か。


「それに、あんた一人で向こうに行ったら何をしでかすかわかったもんじゃないわ」


「し、信頼されてねえな」


「勢いで突っ込んでいくのが目に見えているからね」


「あのな、俺だって考えてないわけじゃないぞ」


「明日出発だっていうのに、街のこと、魔王コルルのことをアンタどれだけ知ってる? 事前情報無しでいくつもり?」


「おいおい……俺を試してんのか?」


 俺は記憶を呼び起こす。

 魔王コルルもだが、リドムドーラについては結構詳しく聞いたはずだ。

 少し前にクライフと話したのも覚えている。

 ギンからも少し話を聞いたな。


 リドムドーラはサキュバスクイーンであるコルルが統治する街。

 眠らない街だとかなんとか。それと確か……。


「世界随一の風俗街だろ! 勿論知ってるっての!」


「「「「……」」」」


「な、なんだてめえら、その反応は? どうしようもない奴を見るような顔をしやがって……」


 女性陣のジト目が俺を貫く。


「あれ? 俺、間違えたか? 風俗街で間違いないよな?」


「そ、それは合ってるけど、なんていうか……ま、まぁいいわ、他はないの? もうちょっとあるでしょ」


「お前……あんま舐めんなよ。ええと風俗じゃないやつだろ、風俗ではないやつ……風俗以外、ノット風俗、ええと、ええと……風俗風俗」


「れ、連呼するんじゃないわよ!」


「……ア、アルベルトさん」


 頬を真っ赤にするリーゼとルミナリア。

 最近リーゼを赤面させてばっかりだな俺。


 こういう照れた表情を見て、可愛いと思う自分の業はなかなか深いと思う。

 おかげさまでイジるのがやめられないんだけど……。


「お、お姉ちゃん、アルベルトさんをよろしくお願いします」


「同行は英断だと思うぞリーゼ嬢、ひどいぞ……これは」


「……はぁ」


 リーゼが大きくため息を吐いていた。

 だが、ここでまさかの味方が出現する。


「いや姫さん、男なんてそんなもんだぜ……隠しているか、オープンか、大体はそのどちらかだ」


「ギ、ギン?」


「風俗街って聞くと女性側はちょっと思うところもあるかもしれないが、女性の活躍で、男性の活力が満ち溢れる街だと思えば悪くないだろ?」


「……」


 さすがギンだ、良いことを言うぜ。


「リーゼ、ギンの言う通り、その……だからあれだ」


「なによ」


「風俗街ではなく、一種のパワースポットだと考えればいい」


 魔力が集まる場所でなく、性欲が集まる場所になっただけだ。

 ちょっと名詞が変わっただけ、似たようなもんだ。


「ぜ、ぜったいちがうから……ギン、お願いだからこれ以上話をややこしくしないで」


「あ、はい」


 リーゼに睨まれ沈黙するギン。仲間は一瞬で消えてしまう。


「アルベルトさんも……本来の目的を忘れないように、いいですね?」


「さ、さすがにわかってるって……」


 そして俺もルミナリアに叱責される。

 さすがにそこまで不謹慎な真似はしないさ、たぶん。


「そうだった……あんたがソッチに興味ないわけがなかったわ。少し前も、あんたルミナリアちゃんに似た娘を風……んぐっ!」


「……馬鹿っ、黙れっ!」


「ん~っ! んんっ!」


 危険な発言をしようとしたリーゼの口を大急ぎで塞ぐ。

 手元で唸りながら暴れるリーゼ。

 まったく……いけない口だ。


「……ルミナリアに似た娘を……なんだ?」


 その様子を見て、ラザファムは訝し気な顔を見せる。


「なんでもねえよ、気にすんな」


「そ、そうだよ……お父さん」


 愛娘に対するドストレートなセクハラ発言が知れたら、ラザファムがどんな反応するか容易に想像できる。

 城に出る前にラザファムと喧嘩して体力を使いたくねえからな。

 ルミナリアと二人でラザファムを誤魔化す。


 そんな感じで慌ただしい空気になりつつも、出発の準備を進めていく。


 翌朝、俺とリーゼはみんなに見送られてリドムドーラに発って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ