海中戦1
ちょいと短めですが
今週いけたらもう一話upします
変異種討伐のため、ルミナリアとともに海中へ。
俺は水龍の姿と化したルミナリアの背に乗って移動中だ。
海面を泳いでいるため、月明かりに照らされた彼女の姿が上から見える。
水龍形態の彼女は蛇に近いフォルムで、細く尾が長い。
頭から尾の先まで含めて、大体五メートルくらいだろうか。
ラザファムの龍形態に比べても大分シャープな印象を受ける。
背には青の鱗が生え、頭からは金色の触覚のようなものが左右に二本伸びている。
「美しいな、ルミナリアの体」
「とっ、唐突になんですか! ……セクハラですよ。あまりにもストレートな」
突然の俺の台詞にブルブルとルミナリアが震えて反応する。
背に乗った俺にダイレクトに振動が伝わってくる。
お願いだから、ここで振り落とそうとしないでね?
海底まで一直線に落ちていくから……。
「そういうのじゃなくて、ほら……芸術、美術的な意味でっつうか、一晩中見ていたくなるような流線形のボディがとても魅力的だと思います」
「……アルベルトさん、お口チャックで」
素直な感想を伝えただけなのに……。
人型の時ならともかく今のルミナリアは龍形態だ、不純な感情なんかない。
ルミナリアの龍の姿は気品、優雅さを感じる。
ラザファムの最初の印象が酷かったこともあり、余計にそう感じるのかもしれないけど。
ラザファムの龍形態みたいに威圧感バリバリの印象はない。
あいつは別の意味でもバリバリしていたが……。
「本当誤解だってば! ほら、前に周囲が怖がるから龍型になるのを避けてるとか言っていたからよ、もう少しゴツいものかと思ったんだけど……、頭の金色の触覚? もアクセントになっていい感じだぜ!」
「だ、だからっ! も、もういいですからっ……わかりましたから!」
ごにょごにょと呟くルミナリア。
もしかしたら照れているのかもしれないが、龍の姿だと判断できない。
とりあえず誤解は解けたが、妙な空気になったので、少し強引に話を変えることにする。
「そういや俺、重くないか?」
「いえ、これぐらいなら問題ないですよ」
俺が上に乗っかっていても、影響なく泳ぐルミナリア。
「そろそろ潜りますよ。振り落とされないようにしてくださいね」
「わかった」
俺はルミナリアの首に両手を回す。
こんなところで落とされたら、洒落にならない。
浮かない俺は海底まで落ちていくことになる。
水中に潜っても話せるように『水中会話』の魔法をかけておく。
戦闘時に意思疎通ができないのはさすがに困るからな。
ルミナリアは模擬戦で見たお得意の水流操作を使い、水の流れを味方にして、器用に体をうねらせて海中をスイスイと進んでいく。
ところで、この非常時に少し不謹慎かもしれないが、俺は海中探索に少しだけワクワクしていた。
だが、いざ潜ってみると真っ暗な海で視覚がほとんど役に立たない。
どこをどう移動しているのかもわからない。
なるほど……ルミナリアも話していたがこれは方向感覚を失くすわ。
準備せずに海中を一人旅なんかしたら遭難するな。
たぶん元の場所には戻ってこれないだろう。
おかげでまぁ……退屈だ。
街からマリンパレスまで半日かかるという話だから、到着にはまだまだ時間がかかる。
辺りは真っ暗だが……ふと、リーゼに渡された光魔石があるのを思い出す。
せっかくだし、退屈しのぎにちょっと使ってみようか。
たくさんあるしな、一つくらいならいいだろ。
そんな軽い気持ちが沸き起こり、防水魔法が付与された袋から光魔石を取り出して光らせる。
「アルベルトさん! 灯を消してください!」
「……うえ?」
せっかく使ったのに、ルミナリアが慌てて灯りを消すように言う。
直後、猛スピードで何かが接近してくる気配がした。
「あ、あれ、なんか近づい……うおおおおっ!」
ゴツンッと頭に何かがぶつかり、その衝撃で少し後ろにのけぞる。
な、なんだ今の? 先の尖ったものがぶつかってきた感触だったが……。
ルミナリアの指示に従い、遅まきながら光魔石を海底に投げ捨てる。
「……と、突然のことで吃驚したぜ」
「今のはマダツですね。光に反応して猛スピードで突進してくる習性を持つ魔物です。頭は細く尖った形状で、皮膚から肉まで貫通して死亡する例もある危険な生物ですよ」
「成程……まったく、あぶねえところだったぜ」
「……あ、危ないというか、さっき普通に直撃しませんでした?」
したよ……俺だったからいいようなものだ。
常人だったら大けがしているぞ。
「と、とにかく……このあたりではマダツが生息しているので、灯をつけないでくださいね。今みたいなことになりますから、わかりましたね?」
「わ、わかった」
仕方ない、退屈ではあるが大人しくしているとしよう。
下手に魔物を呼び寄せて無駄な体力を使いたくないしな。
「灯をつけずとも、もっと深い場所まで潜れば面白い光景が見えてくるはずですよ」
「???」
彼女の言葉の意味がわかるのは、それから四時間が経過した頃だった。
特にやることもなく、ルミナリアの背で目を閉じて体を休めていると……。
「アルベルトさん。ほら……見てください」
ルミナリアの呼びかけで目を開く。
「……え? あか、るい?」
さっきまで暗いところにいたはずなのに。
ここは海中、深度五百メートル。
なのになぜ、灯が存在する?
「光源はなんだ? 蛍……ではないよな?」
「……フラッシュバスですよ」
フラッシュバス……その名の通り、発光器官を備えている魚だそうだ。
そういや、リーゼと二人旅をしていたとき、焼き魚にして食べたことがあるな。
こうして生きて泳いでいる姿を見るのは初めてだ。
所々でフラッシュバスが動き回り、辺りを泳ぐ様々な魚たちを映し出す。
フラッシュバスがスポットライトみたいな役割を果たして、ちょっとした劇を見ているみたいだ。
「……綺麗ですよね」
「ああ」
海にもこんな幻想的な光景が広がっているとは……。
その光景を少し得意気に話すルミナリア。
いい雰囲気を壊してしまいそうなので「光っているのを見るとお前さんの親父を思い出す」とは言わないでおいた。
他にも、ルミナリアは道中で面白そうな光景があれば教えてくれた。
俺が退屈しないようにと……彼女の気遣いは素直にありがたかった。
俺たちは目的地のマリンパレスへと着実に近づいていく。
極力急ぎつつも、無茶な移動で疲労しないように適宜休憩をとりながら……。
そうして、メナルドを出てから十二時間が経過した。
海底にいるとわからないが、地上はお昼の時間だ。
半日、海中を移動しているが魔物との大きな交戦はない。
途中でオクトパスとか、サーペントといった魔物は見たが、水龍形態のルミナリアに襲い掛かってくることはなかった。
マダツについては俺が呼び寄せたようなものなのでノーカウントで……。
魔力感知の苦手な彼女だが、海底では知覚範囲が格段に広がり索敵能力が向上する。
魔力感知を使わず、どう索敵しているのかルミナリアに聞いてみると、水龍お得意の水流操作の応用で、自分を中心にして周囲に微弱な波を送りこみ、波に触れた物質の抵抗などから、生物の大きさや形、地形などを大よそ把握できるとか。
索敵範囲も自身の周囲一キロメートルまでとかなり広い。
この能力を使って好戦的な魔物の近くを極力避けて通っているそうだ。
わざわざ避けずとも水龍であるルミナリアに勝負を挑む命知らずな魔物は多くないが、変異種戦の前に体力を消耗したくない。
途中にはクラーケン通常種の反応もあったそうだが交戦を避けた。
ゴブリンたちが使う、遠距離でコンタクトがとれる念話のように、通常種と変異種がなんらかの形で繋がっている可能性もある。
マリンパレスに行くまでは俺たちの存在を変異種に感づかれたくないからな。
「ここまでは順調だな」
「はい……ですが、ここから先はそううまくはいかないと思います。ギンさんに教わった座標通りなら、もうすぐマリンパレスが見えてくる頃です」
決戦の時は近い。




