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変異種3

本日三話目


「私が水龍になってアルベルトさんの足になったら、魔王級(変異種)相手でも戦えますか?」


 ラザファムは水中で呼吸ができない。

 俺も海中では自由に動けない……てか浮かないからな。

 そこで海中で自在に移動できるルミナリアに水龍の姿になってもらい、俺がその背に乗って変異種のところに直接乗り込み、海中戦を仕掛ける。


「……いけるかもな。だが……」


 俺はいいとしても、ルミナリアは大丈夫か?

 変異種に近づけば当然、クラーケン通常種の数も増えるだろうし魔物の守りも固くなる。

 その中を突っ切って行くのは相当の覚悟がいる。


「待てルミナリア! 危険過ぎる! 死んでもおかしくないぞ!」


「危険なのは十分にわかってるよお父さん。ついさっき変異種に痛い目を見たばかりだし、私一人じゃ絶対に無理だって理解してる」


「だったら!」


 ラザファムが娘の行為を必死に止めようとする。

 さっきだって危ない目を見たんだから、当然だよな……。


「死ににいくつもりはないよ。さっきお父さん言ったよね、アルベルトさんの地力は変異種よりも間違いなく上だって……」


「し、しかしな……」


「ルミナリアちゃん、待ちなさい」


「お姉ちゃん……」


「私はこの国の姫として、兄様の妹として、この街を守りたいと思ってる……だけど二人に全部を背負わせるつもりはないわよ、あなたたちだけでそこまでする必要はないわ」


「……だけど代案がありますか? たぶんそれしか方法がないのでは?」 


「……も、もっとみんなで考えれば」


「時間があれば良案も浮かぶかもしれません、クライフ様も戻ってくるでしょう……ですが、時間に比例して変異種の脅威は確実に増します。倒す手段があるのなら後の被害を最小限に抑えるために、相手の戦力が整わない今、こちらから攻めるべきだと思います……」


 ルミナリアの反論にリーゼの口が閉じる。

 リーゼの口が何度か開きかけるも、言葉は出てこない。

 厳しい言葉ではあるが、事実ではある。


「……ルミナリア、勇敢と無謀は違うぞ」


「わかってる。さっき交戦した限り、変異種は龍化したとしても私の勝てる相手じゃないことは……だからこその提案」


 ラザファム、リーゼ、ルミナリアの口論が続く。

 だがルミナリアが折れる気配はない。


「リーゼ嬢も言ったがどうしてお前がそこまでする必要がある? それが自己犠牲の正義感なんかだとしたら、俺は絶対に認めない」


「正義感なんかじゃないよお父さん、犠牲になるつもりもないしね。お父さんが認めたアルベルトさんの強さは私も知っているから……純粋に最善策だと考え上での判断だよ」


「……」


「それに、これは私にしかできないことだと思う……だからあとで後悔したくないんだ」


「……頑固だな、お前は」


「頑固なのはお母さん譲りだよ」


「……まったく」


 ラザファムが大きなため息を吐く。


「こう言ってはなんだが、俺にとっては街の住人の命よりもお前のほうが大事なんだ、わかっているか?」


「……うん」


 固い決意を秘めた娘の様子を見て、数秒考えたあとしぶしぶと認めるラザファム。


「……危なくなったら絶対に撤退すると、無謀な真似はしないと約束しろ」


「お父さん、うん!」


 ルミナリアが頷く。


「絶対だぞ! すべてを捨てて逃げるんだぞ!」


 すべてだと俺が捨てられる中に含まれているんだけど?

 まぁ、捨てられても俺なら大丈夫だと考えているのかもしれないが。


「アルベルト……あんたはそれで本当にいいの?」


「リーゼ?」


「あんたと兄様の本来の約束は私の身を守ること、防衛戦ならまだしも海中の変異種に攻勢をかけることは、さすがに約束の外の話だと思う」


「まぁ、言われてみればそうだな」


 普段適当でいい加減な俺だが、今回は勢いに任せて引き受ける案件ではない。

 俺は先日のアークデーモンの件など、言われた分は仕事をしているし、あまりアテにされ過ぎるのも困る。

 これまでの生き様のせいだろうか、人にいいように利用されるのは大嫌いだ。


「俺は誰かの思い通りに動く、都合のいい男じゃない」


「……それは百も承知だけど、おそろしいほどの気分屋だし」


「そ、そうですか」


 真剣な顔のリーゼ。

 しかし、なんつうかコイツは……本当馬鹿正直というか。


「……話の流れ的に何も言わなければ俺はすんなり突入したかもしれないのに」


「貸し借りを作るのはまだしも、ここでなし崩し的にアンタの強さに甘えるのは違うでしょ。茶化さないでよ」


「……そうだな。なら俺も正直に答えようかリーゼ。今回は得体の知れない変異種が相手、翼を失くしてから経験のない海中戦、正直気乗りはしないな」


 薄情に聞こえるかもしれないが俺は間違っていないはずだ。


「……そうよね、うん、それが当然だと思うわ」


 彼女は兄の代行として街を守らねばならない。

 だが、街の人々を護るためとはいえ、俺とルミナリアだけに大きな負担を背負わせる。

 そんな人任せな考えを許容できる女性ではない。


「うん、変異種と戦えなんて無茶な頼みだもんね……ごめん、忘れて」


「……」


 そう言って、「気にしないで」とぎこちなく笑うリーゼ。


 そんな彼女を見ていると……俺は。


「……で、いいのか?」


「え?」


「代案ないんだろ? いいのか? このまま話を終わりにして……リーゼ、お前には借りがあったな? ゴブリンの集落、ワーウルフの件で奴隷服を着せた件、トリスの騒動の件、酔っぱらったルミナリアをお前のベッドに連れ込んだ件、他にも色々とな……いいのか? 今俺に対してそういう交渉材料を使わなくて? どうだこうだと手段を選んでる場合じゃないんだろ?」


「だ、だってっ、そんなの交渉材料ですら……」


 ……んなのわかってるよ。


 助けるための強引な理由付けだ、察しろ。

 しかし俺……本当碌なことしてねえな。


「いいんだよ。だからでけえ貸しだ」


 文句を言いながらも、助けてあげようと思う自分は甘いのかもしれない。

 それに自分よりも弱いルミナリアが覚悟を決めてるのに、俺だけ黙って現状を見ているわけにもいかないだろう。


 クライフと約束したのはリーゼの安全だけだが、クライフも俺のために頑張ってくれているかもしれない。

 ルミナリアも言ったが、他の誰かがやればいいことならやる気はない。

 これは俺にしかできないことだ。


 このままではギンの故郷にも影響が出るだろう。

 俺がやらなかったから滅んだってのはちょっと後味も悪い。

 それにメリットもないわけではない……変異種を倒して魔王であるクライフに大きな貸しを作っておくのは後々の損にならないはずだ。


「ま、この街にも親しくなったやつらがたくさん……たくさ……うん、まぁ少しはいるからな」


「兄ちゃん、友人は数じゃねえぞ、質だ……」


「ギン……そうだな」


 だけど質、質かぁ……。

 質についても若干気にならなくはないが、考えないでおこう。


「……い、いいの?」


「だから貸しだっての。タダじゃないから気にするな」


 こんな形でルミナリアと海に行くことになるとは思わなかったが……まぁいい。

 苦手な海中戦……だけど相手はベリアやナゼンハイムじゃない。

 ラザファムのような真龍でもない。

 危険だろうが倒せない相手ではないはず。


「ありがと、本当に……」


「礼はいいから早く約束しとけ……気分屋なんだろ? 俺は?」


「うんっ、おねがい……変異種を倒して」


「おう、任せとけ!」


 ギュッと手を握るリーゼに微笑みかける。


「そうと決まったら、ルミナリアは体を休ませておけ」


「……え?」


「大きな怪我はないみたいだけど、大分魔力が減っている。魔力回復ポーションを飲んで、少し寝ろ」


「……は、はいっ! わかりました」


 時間がないからって、焦っては駄目だ。

 ルミナリアが途中で動けなくなったら俺も海中に取り残されることになるしな。


「……ところで、変異種が今どこにいるか、詳細な場所を誰か知ってるのか?」


「「「……」」」



 ……おいおい。


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